【総受,クーデレ,冷血,無表情,呪われ】

 ***21***

ジラクが町に戻ってきたのはその日の昼過ぎであったが、家族会議さながら兄弟から説教を受けていた。
謝罪を口にするジラクはいつも同様の無表情で、悪びれた様子も感じさせないものであったが、詫びの品の如く、大量のフルーツをテーブルに広げる。
料理はほとんどしないジラクだが、刃物の扱いは巧みで、小さな果物から大きな果物、特殊な形の物まで手慣れた動作で果物ナイフを入れていた。
皿に盛られていくフルーツに目を奪われるザキやミラとは違い、ラーズルの怒りは留まるところを知らず、
「無断でいなくなるなんて心配するに決まってるでしょう!二度としないで下さい」
堪忍袋の緒が切れたかのようにまくし立てていた。日頃の温和さはどこにいったのかという勢いで、
「大体、なぜいつも何も言ってくれないんですか!」
テーブルを叩く勢いで詰問する。
その言葉には、さすがのジラクも気圧されたように手を止める。フルーツの皮を剝いていたナイフをテーブルに置き、視線を上げた。
「心配するとは思わなかった…」
「はぁ?馬鹿な事を言ってんなよ!」
ジラクの率直な感想は、ザキの呆れた声で全否定されていた。
「何考えてんだよ」
責めるようなきつい口調で返される荒っぽい態度にも関わらず、
「…ん」
ジラクは妙な反応を返して、ザキの視線から逃れるように俯き加減になり、悪いと小さく呟いていた。
「…」
口元に手の甲を当て、誰とも視線が合わないようにテーブルの角を見つめるジラクの反応にドキリとさせられる兄弟たちだ。
日頃は冷たく感じる金色が日中の陽射しを浴びて輝く。透明感を感じさせるその瞳は、ただひたすら美しく、ジラクの挙動に魅入っていた。

彼らの視線に気が付くこともなく、ジラクが置いたナイフに再び手を伸ばす。その拍子に金髪がさらりと流れ落ち、瞳に掛かる。
顔を斜めに傾ける仕草はジラクの癖でもあり、剥き出しの片耳ピアスが揺れ合って、僅かな金属音を鳴らす。
その情景は非常に繊細なもので、見る者を訳も分からず動揺させるほど華やかな色気を漂わせていた。
「まぁ、…分かればいい」
冷淡な空気を持つジラクからは想像も付かないほど凄まじい落差を見せ付けられ、ザキが見てはいけないモノを見てしまったように視線を泳がせる。
「そう、ですね」
ラーズルに至っては怒っていたことすら忘れてしまったようにすっかりと大人しくなってしまった。
「本当に悪かったと思ってる」
皮を剥き終わった赤い果肉を皿に乗せて、静かに謝罪した。
ラーズルとザキの前に皿を置き、
「ミラも…、機嫌を直せ」
頬を赤くしたまま目も合わせない彼に小さな声で言いながら、皿を押し出す。
「…!別に、怒ってなんか…」
ここ数日の無視はさすがに鈍感な相手でも伝わっていると気が付き、慌てて言葉を返せば視線が合って、
「っ…!」
余りにも美しい金の瞳に、バッと視線を逸らせていた。
その態度が余計にジラクを勘違いさせたのは言うまでも無い。

「…」
無言のまま、痛いほどの視線が送られて、
「俺、サーベルと出かけてくる!」
渡されたフルーツには手も付けず、その場から逃げるように去るミラだ。
「…あいつ、何怒ってんの?」
食べやすいサイズにカットされたフルーツを素手で掴み取って口に放り込むザキが不思議そうに呟く。
「さぁ?」
答えるラーズルにも理由はさっぱりで、二人が視線を送る先はジラクだが、当の本人も小首を傾げたままであった。
「また兄貴がミラに、ひでぇこと言ったんじゃねぇの?」
「何で俺が」
「兄貴は空気読まねぇだろ。サーベルとのこともいい加減、認めてやれよ」
果汁で濡れた指を舐めながら何気なく放つ言葉に、ラーズルが肘鉄を食らわせる。
「…」
口を滑らせたとザキが気が付いた時には遅く、
「認めるって何が?何でサーベルの名前がそこに出てくる?」
追及するジラクの目は先程までとは異なり、刺すような鋭さで見つめていた。
「いや…」
言い逃れを許さないかのように瞬きせず見つめる瞳の強さに、ザキが言い訳を考える余裕もなくなり、
「ザキ」
強い口調で名前を呼ばれ、
「ミラはサーベルと付き合ってるだろ。知らねぇのは兄貴だけだ」
どうでもいいかと投げやりな気持ちで暴露する。
「…」
無言のジラクから強い批判を感じ取り、
「俺のせいじゃねぇだろーが!ミラだってもう16だし、別に恋人がいたっていいだろうが!」
大したことじゃねぇし、と付け加え、文句を言おうとしたジラクの唇にフルーツの欠片を押し当て黙らせた。
「ンむ…、ぅ、…」
仕方なく口を開いて受け取るジラクだ。咀嚼するほど甘い味が口内に広がり、混乱した頭が冷静さを取り戻す。

ハラハラと見守るラーズルとは対照的に、ザキは開き直っていて、
「落ち着いたかよ。ミラだってガキじゃねぇんだからサーベルと出かけるのくらい好きにさせろよ」
むしろそんな助言をしていた。
ザキの言葉はごもっともな話で、傍から見れば束縛が強すぎるだろう。
ジラクにそんな自覚は全くないが、反論できない程度には刺さっていた。
「ミラがサーベルと…」
俄かには信じられない内容を口内で復唱し、舌に残る甘い味を追う。
だからといってミラが何に怒っているのかはさっぱり分からないが、再度、話し合う必要性を感じていた。


そうして、その夜、早速ミラの部屋を訪れるジラクであったが、彼を大いに驚かせていた。
それもその筈で、シヴァラーサ家の兄弟として迎え入れられてから、ジラクが部屋に来たのは初めてのことで何事かと思うくらいだ。
無表情のまま話があると切り出されれば、無下に追い返すこともできなくなり、室内へと迎え入れる。
座る所も無いミラの部屋を見回したジラクがベッドに腰掛けて、単刀直入に、何を怒っているんだと聞いた。
「しつこいな!別にって言ってるじゃん!」
ジラクの無神経さに苛立ち、思わず声を荒げていた。
避けてる理由なんて些細な事だ。ジラクからすれば記憶にすら残っていない、意識すらしていない小さなことで、そのことが余計に馬鹿にされたような気がして、瞬間的に怒りが頂点に達していた。
「兄貴には関係ないし!」
「サーベルとのことか?」
まるで見当違いのことを言うジラクを無視しようとすれば、
「あいつはやめろ。昔から色恋にだらしがない」
唐突に、そんな言葉でミラの怒りを煽った。
「何…?!」
「ザキに聞いたが、付き合ってるんだって?」
ジラクが自分で気が付く訳がないのだ。
「っ…もういいから、さっさと出てってよ。俺やることがあるから!」
告げ口したなとザキを恨み、我が物顔でベッドに腰掛けるジラクの腕を掴み取る。
後でザキに文句を言おうと腸が煮えくり返る思いでいると、
「良くない。サーベルは平気で人を弄ぶような奴だぞ。あいつの誑しは町の人なら全員知ってる」
掴み取った腕を逆に引き寄せられ、間近にある金の目が、嫌な想いをする前にやめろと忠告した。
「っ…!」
瞬間的な苛立ちは抑えようがなく、
「誑しは、…兄貴だろッ!俺にキスした癖にっ!」
肩を強く叩きながら、怒鳴っていた。
ハッとして慌てたところで言った言葉は取り消せず、
「俺が?いつ」
相手の耳にもしっかりと届いた後で、誤魔化すことも出来なくなる。
「…こないだ。兄貴が寝ぼけて…」
素直に答えれば、相手は特に驚きを浮かべることもなく、それは悪かったなと軽い口調で呟いた。それから、
「仕方が無いだろ。寝ぼけてたんなら」
あろうことかそんな言葉を吐き、それよりもと話を続けようとする始末で、
「兄貴!」
胸を突いて、ジラクの言葉を押し止めていた。

悲しいやら腹立たしいやら、よくわからなくなっていた。

今までずっと大切に取ってきた想いを滅茶苦茶にされ、挙句、当の本人は記憶にすらない。
「兄貴にとってはどうでもよくても!俺は初めてだった!
返せよ!俺の初めてを返せっ!」
涼しい顔をしたまま、よくわかっていないジラクの胸を両拳で叩く。

ミラの剣幕に物怖じもせず、両手首を掴み取ったジラクがした行為は更にミラを驚愕させるもので、強い力で引き寄せると同時にミラの唇にキスを返していた。
「ッ…ン?!ンン…??!」
目を見開くミラの驚きを他所に、胸倉を掴み、後頭部へと手を回したジラクが平然と舌を差し入れて深い口づけをする。
ジラクの中では、舌を入れないキスは存在しない。キスといえば当然の如く舌を絡めるもので、そして日常的に交わされる挨拶のようなものだった。

ジラクの冷静さとは逆にミラは大混乱に陥っていた。
柔らかな唇の感触に、そして熱い舌に脳が蕩けて、怒りも悲しみも何もかもがぐちゃ混ぜになる。冷めた気配とはまるで正反対の情熱的なキスは相手が誰なのか分からなくなるほど凄まじいギャップで、身体は否応なしに反応していた。
「…っ、…ぁ…」
唇が離れる頃にはすっかりと大人しくなっていて、
「これでいいか?」
素っ頓狂な言葉をぼんやりと聞く。

「いい…わけ」
ない。
惚けた頭で見つめる先には、何が不満なんだと言わんばかりのジラクがいて、ジラクの考えがさっぱり分からないミラだ。
大体、なぜこんなに慣れているのかも謎で、同性に対する抵抗感すら無いのかと思うと、ジラクの貞操観念に頭が痛くなる。
「初めては、大事な人と、…するもので、…」
「…。1回目も2回目も、同じことだ」
「なら、初めてを奪われてみなよ!そうすれば兄貴でも分かるよッ!」
全く話の通じないジラクに声を荒げれば、
「俺は気にしない。覚えてないしな」
あっさりと答え、ミラの反論を封じた。

その言葉は、邪な妄想を抱かせるに十分で、
「…」
我知らず、ミラの頬が勝手に赤くなっていった。

そんな行為とは無縁のように思えるジラクの身体が途端に淫らなモノに見え、あの日の敏感な身体を思い出す。
触るだけで反応する身体は確かに未経験のモノではないように思えて、そんな馬鹿なと慌てて否定するも、一度、捕らわれた考えからは中々抜け出せない。
唐突にジラクの過去が気になり出して、
「…もう、いいよ。怒ってない」
視界からとにかくジラクを追い出そうと急く。
「本当に怒ってないか?」
上目遣いに見つめてくる瞳に感じたことのない欲を覚え、妙な気分になっていた。
コクコクと頷きを返し、冷たいジラクの腕を引く。
「サーベルのことだが…」
立ち上がりながら、まだその話を続けようとするジラクの背中を押しながらドアへと向かい、
「その話はまた今度ね」
爆音を立てる心臓を必死に宥めながら、何か言いたげに名前を呟くジラクを無事に追い出すことに成功し、ホッとしていた。
それから既視感のある自分の状態を見下ろして、呆れた溜息を吐き出す。


少なくとも、ジラクの過去を誰かから聞いたことはなかった。
ただ、ジラクの何かが大きく歪んでいるのは確かだ。
一体、何があったんだろうと思い、それがジラクの無表情と関係があるのかと思うとモヤモヤとして、取り留めの無くなる考えに頭を横に振って追い払った。


唇に触れながらキスを思い出す。
2回目のキスは優しい花の香りが残るもので、ジラクの冷たい体温とは裏腹に、彼の内の熱を強く感じるものであった。



2023.05.28
コメントありがとうございます(*´꒳`*)💛
更新、よろこんでもらえて嬉しいです(..>᎑<..)!!進捗のんびり気味で、中々BとLに至らないですが(笑)、楽しみにして貰えると凄く励みになります〜(#^.^#)!
ジラクは無意識にエロばら撒きタイプなので、関わる人全員が不幸(報われない恋的意味)になるといいです( *´艸`)笑〜♪
世界はビビるくらい総受け推奨で行く予定です(*´꒳`*)ノ。ギエンも相当、度を越してる感はありますが(笑)、ジラクも相当度を超す予定です(*´ч`*)総受けサイコ〜💛

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 ***22***

世間一般が抱くジラクの印象は、無表情であり無口、そして冷淡というものであるが、ジラク本人が意図的に演じている訳ではない。
その必要が無いから喋らない、笑わないだけで、周囲からどう見られているかなど気にしてはいなかった。

だからか、
「サーベル。顔を貸せ」
昼過ぎに酒場に来たと同時にサーベルを呼びつける姿は、居合わせた人たちを動揺させていた。
「…」
サーベルを名指しで誘うジラクに兄弟たちも目を丸くする。それに対し、サーベルは平然としていて、咄嗟に袖を掴んだミラの指を外しながら席を立った。
「兄貴!」
制止の声を視線一つで黙らせるジラクは、整い過ぎた容貌のせいか立っているだけで威圧感のある存在で、見下ろす金の瞳は極寒の中にいるように冷たい光を宿す。
ジラクにそんな意図は無いにも関わらず、その強い眼差しにミラが押し黙ったのは言うまでも無かった。

「ザキ兄が余計なことを言うから…!」
「いずれ、バレるだろ。お前らのためだよ」
カウンター席に行く二人を見ながら小声で愚痴るミラに、ザキが返す言葉は適当なもので、本当は全然違ったが、
「ジラクがあんなに感情を表すのは珍しいですね」
「なんだろ」
ラーズルの発した言葉で流される。
「そんなに怒ること?」
「兄貴は潔癖なイメージだよな。サーベルみたいに女にだらしがないタイプは嫌いなんじゃね?」
「サーベルはだらしがなくないじゃん!」
擁護しながら、ジラクのどこが潔癖なんだと心の中で反論するミラだ。
先日の手慣れたキスを思い出して苛々していると、
「ミラが羨ましい」
ぽつりと呟くラーズルの言葉に度肝を抜かれた。
「…僕も恋人を作れば、あんな風に構って貰えるんでしょうか」
「えぇ?!」
うっとりとした表情でジラクの背中を見つめる姿は、妄想の世界に浸っているようで、
「お前、ほんと重症な。あの冷血漢によくそんな感情を抱けるよ」
ザキの呆れた返答にも上の空で頷いていた。
「ホント理解できない。何考えてるかも分からないし」
ミラが同意して、周囲の視線を集めるジラクに目を向ける。

実際のところ、ジラクは何をしていようが目立ち、人の興味を引く。
それが例え普通に食事を取っているだけの姿であっても、目をやらずにはいられないほど人々の関心を刺激する男で、サーベルと密談するように酒場の隅で話し合う姿は特に、好奇心を掻き立てられるものであった。

小声でやりとりする二人の会話内容までは聞こえてはいないが、店主がチラチラと視線を向ける程度には不穏な空気を垂れ流し、事実、ジラクの口調は喧嘩腰の物言いであった。
サーベルがどんなに言葉を連ねても信じることはせず、『遊びたいだけなら他の奴にしろ』と言う。
ミラに恋愛感情を抱いていないことが滲み出ているのかと思うほど信用度は低く、ジラクの中での評価がどれだけ低いんだと苛立ちを覚えるくらいであった。
最初は丁寧に返していたサーベルだったが、元来、穏やかな性格でもない。

数日前の光景を思い出して、なおさら苛立ちは強まり、
「ジラクさんに言われたくないですよ」
ふいに、
「!」
ジラクの首筋に触れた。
「今日は、ハイネックじゃないんですね」
動きを止めたジラクを煽るように口角を上げて問うサーベルは、鋭い目付きをしていて獰猛な顔を覗かせる。唐突に本性を現した相手に動揺したジラクは、表情こそ変わらないままであったが、言葉には如実にあらわれていて、
「お前に、…関係ないだろ…」
返答は弱く、途切れ途切れのものであった。
「相手が誰だか気になるなぁ」
焦らすように首筋から鎖骨まで指を滑らせるサーベルに、ジラクが視線を揺らして小さく息を飲む。滅多に感情を表さない筈の男が見せるその態度は苛立ちを深めるものでしかなく、
「相手が一人とは限らないか」
あながち間違いでもない煽りをした。
「っ…!」
途端、サーベルから性的な目で見られている錯覚がして相手の手を叩き落とす。
肌に残る感触に総毛立ち、誰のものか分からない手に全身をまさぐられるようであった。

フィローゼントの彼らがどうこうというよりも。
過去の誰か、だ。
背筋が唐突に震え出し、幻影に囚われる。
それは永遠に封印しておきたい感覚のモノで、過去の夢を見たときと同じように、開けてはいけない箱だと分かる。

「お前には一切、関係ない話だ」
恐れを振り払うように強い口調で返せば、サーベルが苛立ちの宿る笑みを浮かべた。
「ミラのこともね。ジラクさんにとやかく言われる筋合いは無いですよ」
「…!お、前…」
そこで、ようやく誘導されたことに気が付き、反論が出来なくなっていた。

兄弟だから、弟だからといって、サーベルを一方的に責める立場には無い。
ミラは保護対象の年齢でもなく、本人たちが良しとしている事柄をいきなり兄面して、しゃしゃり出るのもおかしな話だろう。
そしてサーベルが言うように、自分自身は誰とも分からない相手と寝ておきながら、最近では大人しい相手の行動を憶測で責めるのは矛盾した行動で、
「…」
すっかりと静かになってしまったジラクに、分かればいいとサーベルが偽物の笑みを返していた。
更にタイミングの悪いことに、
「あー…、ジラク。話し中に悪いですが、…お客さんが来てる」
店主が入口に視線をやりながら、二人の険悪な空気に割って入った。
扉を振り返ったジラクが小さな声で名前を呟く。そこから僅かな驚きを感じ取るサーベルだ。
訪ねてきた男は筋肉質の優男で、半袖にジーパンというラフな出で立ちであった。長めの前髪で黒目を隠し、内気な性格が滲み出る。おどおどした態度に反し、視線の先は真っすぐにジラクを見つめていて、呟かれた名前から、訪ねてきた男が隣町の石職人だとすぐに分かった。

「話してる傍から男の客ですか。あいつも相手の一人?」
意図的に嘲って、ジラクの視線を独占する男から自分に注意を向けさせる。期待通り、ジラクの目に批判の色が宿っていた。
「俺がお前に言いたいのは、ミラを裏切るなということだけだ」
吐き捨てるように言って、シセの元へと向かう。

「ちっ…」
思わず、らしくもなく舌打ちを漏らしていた。

シセと並ぶと背が高い筈のジラクが一回り小柄に見える。シセは職人らしい体躯の持ち主で筋肉質の身体は並の男より逞しく、それでいて照れた気配でジラクと言葉を交わす姿は恋すら知らない純朴な青年のようであった。
入口で立ったまま言葉を交わしたあと、ジラクが一度、兄弟たちを振り返り、そのまま酒場を出ていく。

「何だよ、あれ」
ミラの元へと戻ってきたサーベルは、彼らが去って行った扉を険しい目で見つめていた。
「神秘の石の持ち主だな」
ザキが我関せずの態度で答えながら、料理にフォークを突き刺す。
「ジラクにわざわざ会いに来るなんて、物好きな方ですね」
「おま…、仮にも好きな相手に対して、その言葉…」
「そうでしょう?普通は第一印象が最悪で近づかないのに。余計な虫は払わないと」
言うと同時に立ち上がり、
「家に戻りますね。ジラクの為に来客の準備をしなきゃ」
裏の思惑が見え透く笑みで彼らに言った。
彼らの後を追いかけるように会計を済ませ、足早に去って行く。

ラーズルの徹底した態度は感心すらさせられるもので、
「ホント、理解出来ねぇな」
「うん」
ザキとミラが呆気に取られたまま見送る中、サーベルは険しい表情を浮かべていた。


2023.06.04
く…。もう6月ですか…(^-^;うわぁー…
梅雨の時期だからそろそろ雨の描写を入れたい〜💛雨と言ったら憂鬱。土砂降りの雨の中、濡れ鼠で憂鬱ど真ん中のジラクを書きたいー(笑)。構想はある!あるが、本編か番外か(;;⚆⌓⚆)。しかし、今じゃない(笑)。そして、そうこう言ってる間に旬を過ぎて書き忘れるのです(笑)ハハハ
いつも訪問、拍手ありがとうございます(*^-^*)ノ


拍手する💛
    


 ***23***

シセが会いに来たことは、ジラクの心境に僅かな変化を齎していた。
大した用でもなく、まるで気軽に会いに来る友人のような朗らかな笑みで、ジラクの冷淡さを受け入れる。友人という友人が存在しないジラクにとって、特別な目的もない訪問客は新鮮で、戸惑いさえ覚えさせるものであった。
また来ると言った彼に何か懐かしいような思いがして、ふと昔を思い出す。

黒龍石と初めて会った時、彼には何の思惑もなかった。魔物も人も無関係に、生きてきた年数も関係なしに対等であった。彼が深い傷を負っていたことも警戒心を鈍らせた原因の一つで、気が付いた頃には友人のように気兼ねのない相手となっていた。

彼の燃えるような赤い瞳を思い出し、今頃どうしているのだろうと想いを馳せる。
呪いを掛けた張本人を気に掛けるとは奇妙なもので、どうしても彼を憎むことは出来なかった。もし違う立場で彼と出会っていれば。
そう考えずにはいられず、空に浮かぶ赤い天体を眺める。

最後に会ったのは大戦の時で、なぜ彼がここにという混乱ばかりであった。
それから先のことはよく覚えていないが、その時ですら彼からは敵意を感じなかったことは覚えている。

一体、何の目的でこんな呪いを。
その疑問はいくら考えたところで解けず、
「…」
赤さを増す星を見て、もうそんな時間かと気が付く。
窓を閉めてベッドへと潜り込めば、僅か数分後には寝息を立てていた。
そうなると余程のことがない限り、ジラクが目覚めることは無い。


夜も深まる頃、背中の刻印が脈動するかの如く赤さを増す。
呼応するように部屋全体が赤い紋章に包まれ、
「まだ諦めないか」
白銀の髪を持つ男が何もない空間に突如として現れていた。
寝息を立てるジラクの頬に触れ、愛おしそうに赤い瞳を和らげる。手慣れた仕草でシャツを捲り、背中に触れると同時に、その手を拒絶するように火花が走った。
「守祭か…。小賢しい真似を。こんなことでジラクを取り戻せるとでも思ってるのか」
口角を上げ、余裕の笑みを浮かべながら呟く。
二度目に触れる時は火花など物ともせず、
「ぅ…ッ、…ぁ」
小さく呻き声を洩らすジラクの背中に手のひらを乗せていた。
口内で呪いを唱えながら覆い被さり、易々と下着の中へ手を差し入れる。柔らかな臀部を撫でていた手は迷うことなく、ジラクのモノへと伸び、
「…ン、…」
簡単に彼の熱を呼び覚ましていた。

背中に当てた手から熱が伝わるようにジラクの身体が体温を取り戻していく。白い肌に柔らかな赤みが宿ると共に、
「っぁ…、ぅ…」
眠ったままのジラクが甘い声を洩らしていた。腰を浮かせた体勢で男の手をしどけなく濡らし、肌に触れるだけで震える淫らな身体は更なる欲情を煽り立てる。
無抵抗の身体は為すがままで、
「また俺の色に染め直すだけだ」
「んァ…、っ…」
男の呟きに答えるように緩く身体を開く。
秘められた場所を押し開く指に抵抗もなく、ピンク色のそこはまるで男を受け入れるためだけにあるかのように宛がわれたモノを容易に飲み込んでいった。
「ぅ、…ぁ、ァ…」
抱かれ慣れた身体は挿入しただけで、びくびくと震えながら甘い熱を吐き出す。
「…?」
淫らな刺激に閉じられていた瞼がゆっくりと開いていくも、その金の瞳はぼんやりとしたままで、
「ァ…、っ…?」
与えられる快感に甘く乱されていた。

日頃は冷徹な色を浮かべる瞳も、弱く潤み快楽を滲ませる。
淫らな顔を覗かせるジラクは、目が覚めていても意識は覚醒しておらず、
「ぁ、ッ…ンう…、っぁ…?」
太ももを開き、腰を掲げて男を受け入れる体勢をしていることすら自覚していなかった。
快楽に流されるまま甘い声を上げ、中を浅ましく締め付ける。そうして、日頃の無表情からは想像も付かないほど恍惚とした表情で男の吐き出したモノを受け入れていた。

腹が満たされ、全身に血が巡る。その高揚感と多幸感に身体を痙攣させ、
「っ…?…は、…ンッぁ…?」
蕩けた表情で乱れた呼吸を繰り返していた。
何が起こっているのか理解できないように唇を薄く開き、ぼんやりとした目は室内を淡く照らす赤い紋章を見つめる。
一息ついた男がジラクの身体を仰向けにして、
「早く覚醒しろ。ジラク」
じれったい感情で、濡れた唇にキスをした。
繋がりが深ければ深いほど、背中の刻印は濃く色づき、魔物の色へと染まっていく。
「ん…、っ、…」
快楽に溺れた身体に再び火が灯るのは容易なことで、どこもかしこも敏感な身体は、まだ足らないと男を強請っていた。
ぼんやりとした金の瞳は未だ夢の中で、
「ふ、…っぁ…?」
乱れながらも目の前の男は映さない。


明け方まで行われる行為は、呪いを確立させるための秘められた儀式でもあり、半覚醒状態のジラクが昼過ぎまで寝入るのも無理はないほど、激しい行為でもあった。
ジラクの体内へと注げば注ぐほど、呪いは強く、互いの結束が深まる。反面、男はジラクの出したモノを結晶化させ、飲み込んだ。
それと共に室内を浄化して情事の痕跡を丸ごと消し去る。

乱れたジラクの服装を正せば、まるで何も無かったかのようにいつも通りで、
「また来る。お前が誰と寝ようと、俺だけのモノだ。早く俺を求めろ」
耳元でそう囁く頃には、ジラクの瞳は静かに閉じられていて穏やかな寝息を立てていた。
背中の刻印だけが気配を強く変え、魔物の気を濃厚に漂わせる。



そうして、翌朝のジラクは何も気が付くことなく、目覚めていた。
ただ、いつも以上に淫らな夢を見た気がして、
「…っ」
立ち上がった拍子に体の中の疼きに目を瞠る。
ぶわっと広がるように電流が全身を駆け巡って、身体中の感覚が研ぎ澄まされたように過敏になっていた。
「ぅ…、?」
服が肌に擦れるだけで身体が甘く痺れ、指先が快楽で震える。
自分の身体の状態に訳が分からず、
「あー…、くそ…」
耳元を赤く染め、思わず悪態をついていた。
朝からこんな状態とは情けないやら悔しいやらで、意識すればするほど身体は勝手に昂っていく。
早く着替えて顔でも洗えばすっきりする筈だと、窓枠に手を付いて呻いていると、
「兄貴!もう昼だよ!いつまで寝てんの!」
怒声と共にミラの軽快な声が室内に響き渡り、
「う、ぁッ…!」
突然のことにジラクがらしくもなく、驚きの声を上げていた。

「あ…、ごめ…」
既に起きていたジラクを見て、ミラが慌てて謝罪する。
ジラクが驚きの声をあげたことに動揺しながらも、視線は吸い寄せられるように剥き出しの太ももに行き、更に激しい動揺に襲われていた。
そんな動揺も、窓に両手をついたまま背を向けるジラクへの疑問に塗り替わる。
いつまでたってもこちらを向かないジラクを不思議そうに見た後、
「昼ごはん、…出来てるよ」
諦めの声で言って、逃げるように部屋から出ていった。

ミラが出ていったことに安堵して、小さく溜息を洩らすジラクだ。
今の驚きで僅かに熱が落ち着いたのを確認してシャツを脱ぎ、肌が擦れない服装を探し始める。その男らしい背中には赤い刻印がより鮮やかな色で広がっていた。そのことに気が付く訳もなく。

大罪は密かにゆっくりと。
そして確実に、進行しているのであった。


2023.06.11
ようやく黒龍石、登場ということで(*^-^*)ノ
ジラクが気が付いていないだけで、ずっと会ってます(*´꒳`*)むふ…💛
黒龍石、何故名前が黒龍石なんだっていう…。まぁ当時の私に聞いてください状態なんですが、基本、人名はカタカナで統一してる私ですが、当時の私は石を名前に入れるのに嵌ってて、翡翠石とか、黒曜石とか、まぁ十代とか二十代あるあるな感じで、黒龍石になってるという(^-^;。
名前をこの機会に変えてもよかったんだけど、メインキャラの名前を変えるのはなぁと思い、そのまま生かしてます(笑)。ついでに設定を付加すると、上級魔物なので本体は太古の最上級魔物『黒龍』の力を宿した人型魔物、という感じで(適当)。
どうでもいい話ですが(笑)、翡翠石はさらに昔、私が構想練ってたオリキャラで、朧げだけど、確か第三皇子で、光の力と闇の力を宿してるんだけど、そのまま闇落ちする話だったと思います(笑)。←どうでもいい(笑)
拍手する💛
    


 ***24***

「…お前らか」
フィローゼントを名乗る彼らがジラクに接触したのはそれから2日後のことで、ジラクを見た彼らが示した反応は驚きであった。
そこは町外れの道端で、兄弟と一緒でないことは幸いであったが、
「香りが強まった気がしますね」
ジラクの周りをぐるりと回ったゼネが不思議そうに呟くのを、うんざりした思いで聞き流す。
それをおくびにも出さず、
「お前らが言ってたことだが、考えが変わった。仲間になってもいい」
以前から思っていた計画を実行に移すことにする。
どうせ嫌だと突っ撥ねたところで、引き下がるような彼らでもない。ここは大人しく従った振りをした方が事が上手くいくだろうという思惑があったが、その言葉を素直に信じる彼らでもなく、
「言っただろう?俺らは言葉なんてものは信用しない。血の結束しか信じてないんでな」
香りを嗅ぐようにジラクの首筋に鼻を寄せ、笑みの含む声でそう言った。
特に驚くような言葉でもない。
「やりたいならそう言え。別に構わない」
ネセスを真っすぐに見つめたまま言葉を返すジラクに躊躇いは無く、動揺も何も浮かんではいなかった。ミラに言ったように、一度も二度も大差ない。
そして、彼らの言う血の結束に飲み込まれない自信もあった。

もし。
夢が、夢でないのなら。
そして相手が本当に黒龍石であるなら。

あの渇きよりも強固なモノは存在しないだろう。
本当に。
何を考えているんだと、ここにいない彼を批判した所で何の意味もない。
「どういう風の吹き回しだ?」
ジラクの耳朶に触れながら、ピアスを揺らす。ぐるりと背後へ回って、あの時と同じように首筋にキスをした。
「お前らと一緒だ。この世界にうんざりしてる」
その手を払うこともなく受け入れたジラクが、嘘とは思えない台詞を冷めた声で口にした。
「俺は人々に受け入れられていない。どこに行っても異邦人だ。だからお前らの描く世界転覆とやらに興味が湧いたといえば納得するか?」
「ふぅん?そうは言っても、お前には兄弟がいるだろう?」
ネセスの追及に、まさかと否定する。
「兄弟とは仲が悪いし、どうでもいい」
「…」
真意を探るように見つめてくる彼に対し、視線を返すジラクの瞳は一切の揺らぎも宿さず、それは本心からの言葉のようであった。
「邪魔するようなら殺せと命じられてもですか?」
「あぁ」
意地の悪いゼネの質問にすら平然と答え、見つめてくる男の手を取って、忠義を示すように口づけた。
ひんやりとしたジラクの手に、ゼネの意識が向く。白い肌は白磁で出来た置物のように染み一つ無く、形のいい爪は清潔感溢れる綺麗なものだ。産毛すら生えていない肌は本当に人間なのか疑わしい美しさで、その艷やかな肌を味わいたい衝動に囚われていた。
触れる手を辿り、するりと手首の奥まで指を滑らせれば、
「…!」
ビクッと小さく反応しながらも、ジラクは無表情のまま拒絶もせず、
「こんな所じゃ、話もできない。場所を移そう」
自ら彼らを誘った。
「…」
二人は顔を見合わせる。
ジラクの言葉を鵜呑するほど愚かではなかったが、フィローゼントの血の力を信じている彼らにとっては、どちらでも構わないというのが本音だ。
むしろ、むりやり仲間に引き入れるよりはこちらの方が遥かに楽だろう。
気が付いたときには既に抜け出せない状態にしてしまえばいいと高を括っていた。 

「そうだな。タナハに宿を取ってる。ゆっくりと俺らの計画でも話そうか」
タナハはジラクの住む町から2つ隣の街でこの町よりも遥かに大きな街だ。取り締まりが厳しくなるほど大きすぎず、かと言って小さすぎず、企みには持ってこいの規模だろう。
「5番街、緑の屋根だ。宿番14にいるから人目がつかない時間帯にでも来い。お前と一緒じゃ目立って悪巧みも出来ない」
ふと周囲を見回して、辺りに誰もいないことを確認したネセスが、自身の金髪を棚上げして言った。
さすがに目立つ行為は避けたいらしく、こんな往来で長話をする気も無いようで、無言を返すジラクを気にもせず彼らは背を向けて、去って行った。

途端に、肩に担ぐ食材の重みをずしりと感じるジラクだ。
彼らに関して知らないことが多すぎる以上、内側から探るのが一番の筈だと頭の中で再度確認するも、答えなど当然出ては来ず、
「…」
後ろ姿を見送りながら静かな溜息を吐いていた。

ジラクの心境は酷く荒んだもので、実際、意味が分からないというのが本音だ。
神がもしこの世に存在するなら、彼の怒りを買うほどの罪を犯しただろうかと思う。それほど面倒ごとばかりで、うんざりしていた。

ただ静かに暮らしたい。
望みはそれだけだ。

それが、一体いつからこうなってしまったのかと思う。


先日、兄弟から黙っていなくなるなと釘を刺されたことを考えて、目立ちにくい時間帯とは夜のことかと思いつつ、荷物を置いたら行くかと思考を巡らせるのであった。


****************************


街中の金髪は目立つが、フードを目深に被れば緩和される。それに加え、その日のジラクは守祭の衣装ではなく、カジュアルな格好の出で立ちで、丁度フードを被るファッションスタイルが流行っていたこともあり、似たような服装の人も多くいた。
背の高さとスタイルの良さは人の目を引くが、俯き加減に歩けば特異な瞳は目立たず、上手く群衆の中に溶け込む。
そうして目的の宿番へと辿り着けば、ノックの音で扉を開いた相手はまだ陽が明るい時分に現れたジラクに驚きの表情を浮かべた後、人の目が無いことを確認して中へと招き入れた。
「人の目が付かない時間に来いと…」
「夜は逆に目立つ」
ネセスの言葉を奪って否定すれば、ジラクの格好を上から下まで眺めた相手が、まぁそうだなと呟く。
「そういう格好も新鮮でいいですね」
被っていたフードを脱ぐジラクに、ゼネが笑みを浮かべて言った。腹の底で何を考えているのか分からない緑の瞳が、何の含みもなく笑う。
それはただの感想のようで、意外に思っていると、
「脱がしたくなる服装だ」
続く言葉に、こういう男だったと落胆した。
「まさか、下は素肌じゃないですよね?」
ジラクの鎖骨に視線をやり、胸の前で閉まるファスナーに触れる。
「馬鹿なことを」
手を払いのけるジラクを愉快そうに笑って、座るように促した。
室内は簡易的な作りの安価な宿ではなく、来客の間と寝室が別作りとなっていて、浴室から何までフルセットのハイグレード宿だ。
相手の資産力がそこから垣間見え、ちらりとネセスに視線を投げる。
実は自分が知らないだけで、かなり名の知れた組織なのかと疑問を抱き、少しでも正体を見極めようとソファに腰を下ろせば、以前ジラクがした時と同じように、目の前に紅茶が入ったカップが置かれた。
「色々と気になるか?」
さり気なく周囲を見回すジラクの視線を見逃さないネセスが口角を上げて問う。相手の思惑など端から分かり切っている態度でゼネの淹れた紅茶を嗅ぎ、
「まず。三大魔物の封印を解く」
「!」
唐突に衝撃の言葉を口にした。

三大魔物。
それは東大陸に存在する封印された強大魔物の3匹で、当時あまりに強すぎて討伐しきれなかった魔物のことを言う。数十人もの守祭が力を合わせ、殺すことは出来ずとも何とか封印はできたという話で、今でも厳重な警戒体制が敷かれている。

「目的が分からない。そんなことをすれば…」
「何百人と死ぬだろう。人が死ねば死ぬほどセンセーショナルなニュースとなる」
笑みのまま人の死を語るネセスはやはり危険人物で、今すぐ彼らを葬るべきかとらしくもない正義感を抱く。
組織の大きさは分からない。
だが、彼らがトップなのは確かな筈で、
「何を目指してる?過去のフィローゼントの統治じゃないのか?」
ジラクの質問に、ネセスが笑みを深めた。
「我々がその三大魔物を制することが出来れば、見る目も変わるだろう?守祭と封魔士では封じることしかできなかった魔物を御することが出来る、我々の力を誇示する絶好のチャンスだ。百人、千人など些細な犠牲だろう?」
「人の関心が大きければ大きいほど、物事は早く進みますからね。ちまちま慈善活動などしていては、百年あっても我々の夢には届かない」
ネセスの言葉を否定するでもなくゼネが同意した。
彼らにとっては普通の会話のようで、何の憐憫もなければ、躊躇いもない。
「少なくとも昔のフィローゼントは善行の上に成り立ってた筈だ」
ジラクの問い掛けを鼻で笑って、ソファにふんぞり返った。まるで一国の主のように足を組み、ジラクを強い目で見つめる。
「そうして人々から忘れ去られた存在が俺らだろう?魔物との関係を良好にしてやった恩を愚民どもは忘れ、時が過ぎれば異質な者として迫害し、記憶の片隅へと追いやった。
善行に何の意味がある?」
「だから、貴方も『うんざり』しているんでしょう?愚民に担がされ、大戦に出向き、得たものはなんですか?」
「っ!」
「肉親の死と、勝手な失望という白い目だけじゃないですか」
相手の心を抉るにはどうしたらいいのかを心得ているように、ゼネが緑の目を細め、囁くように言った。
全てが全て、悪意のある視線ではないだろう。
だが、ゼネの言葉を全否定できるほど良いイメージも想像できず、口を開いては再び閉じるしか出来なくなっていた。
「…なら初めから封印など解かず、」
「守祭の落ち度だ。封印しきれない、彼らの力不足を明確にするためだ」
犠牲を出さない方法を提案しようとしたジラクの言葉を先読みし、第二の目的を告げる。
「封印を解かねばインパクトに欠けるだろう?」
ネセスの表情から彼の本気度が窺えるというもので、封印を解くことは絶対条件だと知った。人の死が出るような計画に賛同する訳がない。その前に彼らをどうにかしなければという焦りと、先の見えなさにカップを握る指先に力が入る。
「…警備された所を狙うのは簡単じゃない」
内心の動揺を誤魔化すように絞り出した質問に、ネセスは笑って同意した。
「そうだな。その辺は十全な計画を練ってからだな」
ジラクの葛藤を読み取ったように笑みを深め、
「さて、ジラク。ここまで聞いて、お前はどうする?」
ティーカップをテーブルに置き、手のひらを上にして招くように指先でジェスチャーをする。疑問形のそれは、意思を尊重するものではなく、決まり切った強制的なものだ。
相手の意図を知り、立ち上がったジラクが着ていた服のファスナーを下ろせば、
「兄弟の命と、名も知らん愚民の命。考えるまでも無いか」
ジラクの反抗心を見抜いたネセスが野蛮な笑みで言った。
「兄弟はどうでもいいと言った筈だ」
動揺も見せずにそう返したジラクはいつもの無表情のまま、ソファに座るネセスの上へと跨る。その態度は本当にどうでもいいかのように見え、ジラクという男の真意を読み取らせないものであった。

ネセスが着る上着の紐を解き、シャツのボタンを外す。
白い指はまるで娼館に従事する者かの如く、しなやかで誘うようなじれったさを持ち、そして見つめてくるネセスに見せ付けるかのようにフードの付いた上着を開け、身体のラインを露わにした。
中に着るのは黒のノースリーブで、脱ぎかけの上着と剥き出しの白い片肩が男の劣情をそそる。タイトな黒のシャツは引き締まった腰が強調され、その色気に思わず喉が鳴るネセスだ。
目の前の身体に手を伸ばせば、ジラクが答えるように身を寄せ、
「…ン」
彼にキスをした。
舌を絡めるジラクのキスはかなりのテクニシャンで、相手をその気にさせるに十分だ。ネセスの手が背中に回り、服を捲る。チラ見えする美しい紋章は二人の絡み合いを見つめるゼネの欲情を煽り立て、
「っ…!」
「本当にエロい身体ですね」
歩み寄ると共に、ネセスとキスを続けるジラクの首筋を背後から撫でた。

ふわりと華やかな香りが鼻腔をくすぐる。
それは箍を外させる合図で、
「…」
急激に凶暴な欲情が湧き上がり白い肌を滅茶苦茶に穢したくなっていた。


2023.06.18
ジラクのエロターンやってまいりました(*^-^*)???!身体で敵を堕とす!最高です💛ウソウソ(笑)
訪問、拍手ありがとうございますm(_ _"m)!
コメントも沢山いただいて有頂天です(..>᎑<..)💛うわん💛ホントありがとう💛

▶ジラクの奪い合いを楽しみにして下さり、嬉しい限りです(*´꒳`*)ウゥ💛三つ巴カナ??
個人的にミノが結構好きなので、ミノをそこそこ美味しいポジにしたいですが、どこまで絡めるかはまだ未定です(笑)。総受け最高('q'*)♪

▶攻めが受けに溺れるシチュは美味しいですよね💛溺れすぎて狂うシーンが書きたいくらいですが(笑)、端役じゃないと叶わないので、中々盛り込むのが難しい所です。ゼネは若干、無自覚ながら片足突っ込み気味ですかね(*^q^*)。性欲>理性的、な(笑)。

▶全キーワードがツボみたいで嬉しいです〜!!
出会えて良かったと言って下さりありがとうございます(´;▽;`)。頑張って書き書きした甲斐がありますφ(.. *💛これからも頑張ります(笑)!
破滅エンドはどこまで実現させるかはちょいと悩み中でございます(^-^;。私の描く破滅エンドは万人受けしないと思うので悩ましい感じですね(笑)

▶年下攻めも最高ですが、年上攻めもサイコーですよね(*'q'*)!
守祭は全員年上、総本家もその内、絡む予定ですのでまた読みに来てください〜(..>᎑<..)💛
総受けは人物多すぎがネックですが飽きないでいて下さると嬉しいです…(^-^;!!

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 ***25***

ネセスとゼネの出会いは幼少期に遡る。
その頃は血脈に対しなんのこだわりも持ってはいなかった。ゼネは実際、自分がその血を受け継いでいるのかもしらない。
彼はいつでも平凡な少年だった。特に優秀な成績を残している訳でもなく、性格もどこにでもいる普通の少年で、ネセスのような強さも持ってはいなかった。
一方、ネセスは幼い頃から大人びた言動をしていて、その主義主張はブレが無い。そしてその言葉は不思議と説得力があり、子どもの頃からカリスマ的存在であった。そうしたこともあり、ゼネが彼を崇拝するようになるのも、そう遅くはなかった。彼の為なら命を捨ててもいいと思えるほど信奉しており、ネセスに対する信頼は厚い。
組織を作り、活動を本格化させる頃には絶対的な存在になっていて、彼が犯せと言えばそのとおりにし、殺せと言われれば命令に従うのも厭わないほどであった。

二人の間にあるのは絶対の絆だ。
何があろうと互いを裏切ることはしない。

ネセスも、同じくらい自分のことを信頼しているだろうという確信はあったが、
「…っ…」
ジラクの肌に触れる彼の指に、胸がざわついていた。

男と寝る趣味などない。女だろうと男だろうと、これはフィローゼントの繋がりを深める儀式の一つで、何の感情も伴わないただの行為だ。ジラクは捻り潰そうと思えば容易に出来るちっぽけな人間で、ネセスと比べるまでもない。
そうであるのに。
目の前で為すがままの身体が跳ねるのを見て、注意を引くようにズボンのボタンに触れていた。

少しずつ、白い肌を露わにしていく。
捲られたタイトなシャツはジラクの胸筋に引っ掛かり、重力で落ちることなく美しい肉体を強調していた。
ネセスを見下ろす顔は上気しながらも高圧的な表情で、反面、筋肉で盛り上がる胸には乙女のように甘いピンク色の突起があり、ネセスを妖艶に誘う。
瞳の冷たさに相反する淫らな肉体美は劣情を酷く刺激するもので、その身体を、そして美しい瞳をどこまでも乱れさせたくなるものであった。

その強烈な誘惑に抗えるものはそう多くはいない。
「誑かすのが上手いな」
「何を言って…、」
跨って膝立ちするジラクの鎖骨に唇を寄せたネセスが、焦らすように背骨をなぞる。
その気がない、むしろ認識としては敵ですらある男の手でさえ、ジラクの身体は簡単に反応を示し、
「っ…」
敏感な部分に舌が触れただけで洩れそうになった声を押し殺していた。

背中を小さく震わせる様は、流美な模様を描く紋章も相俟って、鮮烈なまでにゼネの心を魅了する。染み一つない肌はきめ細やかで、唇を付ければ吸い付くような滑らかさを持つ。光り輝くと表現するのが相応しいジラクの肌は、今まで抱いたどんな体よりも美しく、そして病みつきになる触り心地であった。
触れる度に反応する身体が嗜虐心を煽り、軽く吸うだけで痕が残る白い肌に支配欲が満たされる。
脇腹を摩りながら下着に触れれば、既に熱を持ち硬くなっていて、声も挙げない男の淫らさにじとりと汗をかく。じりじりと焦がれるような熱を覚え、珍しく、早く抱きたいという焦燥を感じていた。
指先で下半身の形をなぞるだけで大きく背を反らせ、くぐもった声を挙げる。性欲を感じさせない冷徹な表情が、今どんな顔を浮かべているのか見たくなって、更に刺激を与えれば今度は明確に息を乱した。

快楽に弱い男が、上も下も刺激すればどうなるのかは疾うに分かり切ったことで、
「ぅ、…っぁ…」
余裕ぶる表情は甘く揺らぎ、金の瞳は与えられる快楽に潤んでいった。舌先で胸の突起を転がされるだけで瞳を細め、ゼネの緩い動きで簡単に昂る下半身は僅かな刺激で震え、下着を濡らす。
「ッ…!」
「相当、やり慣れてますよね?」
嫉妬の入り混じったような低い声と共に一際、強い刺激を与えられ、
「っ、…んぁ…、ア…」
押し殺せない甘い声を挙げながら、ビクビクと全身を震わせて果てていた。

そうなると、まるで塞き止めていた川が一気に崩壊するのと同じように、途端にジラクの表情は退廃的な淫らさに満たされる。先程までは冷たい色を浮かべていた瞳は甘く蕩け、急激に淫蕩さを宿す。光を反射する金の瞳は、美しくもありながら人を破滅に誘う禁断の果実の如く妖しい色合いで、見る者を狂わす魔性の瞳であった。

見つめるネセスの目の前で、淫らな存在に変貌したジラクに目を瞠る。
「…、ゼネ」
ネセスのらしくもなく熱の宿る声を意外に思いながら、ゼネが後ろの秘部にジェルと共に指を入れれば、男慣れした身体は容易に熱を取り戻し、甘い吐息を洩らしていた。
「っ、…は…」
「トロトロですね」
無意識に唇を舐めるゼネだ。
下着を下ろせば淫らに濡れていて、日頃は性欲を感じさせない男の持つ欲情を見て、彼も『男である』と実感させられていた。そのことに異様な興奮を覚え、片手で欲望を握る。
「っ…!」
前を刺激しながら中を押し広げれば簡単に指3本を飲み込み、誘うように淫らに太ももを開いていた。

ソファの背もたれに両手を乗せたジラクが、試すようにネセスと見つめ合う。
濡れた音が響く中、強烈な色気を放つジラクに対し、欲情は抑えようがなく、
「っ、んぅ…、…ァ」
後頭部に手を置き引き寄せたネセスが唇を塞いでいた。
「ふ…」
ゼネの目前で音を立て濃厚なキスをする二人に妙な苛立ちを覚えて、十分に解れた後ろに自身のモノを宛がう。
キスに夢中になるネセスに、
「先に入れますよ」
一応の許可を取れば、キスの合間から承諾の声が返ってきて、よくわからない苛立ちのまま容赦なくねじ込んだ。
「ンァっ…?!…ゼ、ネッ…、っぅ…ァ!」
驚き名前を呼ぶジラクの凛とした声が耳に心地よく、熱く蠢く中はまるで自分のために存在しているかのように最高の締め付け具合で、
「くっ…、う」
気を抜けば、入れただけでイキそうになるほどの運命を感じていた。
キスどころでは無くなったジラクが、甘い声を挙げて背を弓なりに反らせる。そのことに優越感を覚え、ゆっくりと引き抜き、次いで一気に奥まで突き立てていた。やり慣れた身体は淫乱で、どんな抱き方をしても過敏な反応で乱れる。
日頃は静かで低い声が熱を宿して乱れ、呼吸を逸らせていた。腰に手を添えながら小刻みに揺すり、背中で踊る紋章をぼんやりと眺める。まるで足を踏み入れたら抜け出すことが出来ない怠惰の世界へ落ちていくように、その赤い紋章の美しさに目を奪われ、彼の肢体に心を丸ごと絡めとられていた。

淫らな声を挙げる度に、金髪が揺れて左耳のピアスが金属質の小さな音を立てる。
耳を赤く染めるジラクの後ろ姿に、顔を見たい、真正面から抱きたいというしょうもない欲求が高まっていた。

「随分と性急だなァ?どうした、ゼネ」
「ん、っぅ…ァ」
ネセスに跨ったまま背を反らし快楽に震えるジラクの首筋に手を回しながら、いつもと違う彼に問う。
鋭い眼差しは、こんな時でも冷静なままで、
「…別に」
ゼネの回答に笑みを浮かべていた。
「ミイラ取りがミイラになるなよ。男に溺れて計画を駄目にすることほど愚かなこともない」
「何を言ってるんですか」
「ンッ、っぁ…ァう…!」
ごりごりと前立腺を刺激しながら前を解放してやれば、ドクドクと熱いモノを吐き出しながら、ジラクの身体から力が抜けていく。ネセスに凭れる身体の筋肉美は非常に凛々しくも甘く淫らな色気を宿し、ゼネの目を楽しませる。甘い声で果てるジラクの美声に耳が癒され、無意識に筋肉質の脇腹を撫でていた。
痙攣する彼の中へと熱を吐き出して、
「ふー…、身体は最高ですよ。癖になる」
何の関心も無い態度で嘯き、引き抜く。
白濁としたモノが溢れ出て太ももを滴り落ちていくのを見て、貪欲な欲望を自覚していた。
「そうだな」
短い相槌を返すネセスに何もかもばれている気がするゼネだ。いや、これはただの肉欲だと思い直す。
今まで、男など腐るほど抱いてきた。逆らう奴には暴力と恥辱で、そして、血の結束で強制的に団結力を高めてきた。女だろうとそれは同じだったが、その行為は欲望が伴うものでもなく、従わない者への脅迫に過ぎない。
これほど整った容貌の、そして美しい肉体を持つ相手は初めてのことで、そのことへの純粋な欲情だと決めつける。

「まだまだ余裕だよな?」
浅い呼吸を繰り返すジラクの首筋にキスマークを残し、ネセスが揶揄る。
身体を引き起こして、快楽で蕩けた瞳と見つめ合い、胸筋から腹筋の割れ目、そして臍まで指先で辿ってから、
「自分から跨ったんだ。お前の決意、見せてみろ」
ニヤリと獰猛な笑みで、その先の行為を強要した。
「っ…!」
「俺らと世界転覆をしたいんだろう?」

ジラク自身が言った言葉だ。
ふわりと花の香りが強くなり、それは媚薬のように身体を熱くさせ、思考回路を鈍くさせる。
実行しなければという意識に動かされ、ネセスの肩に両手を置いた。ゆっくりと腰を落としていく過程で、 背後から伸びてきたゼネの手がジラクの胸に触れ、
「っぅ…っ!」
硬く尖るモノを摘む。綺麗な形のそれを指先で転がしながら、
「物足らないでしょう?」
欲の混ざった声で笑って囁いた。
「うる、さ…、…ン、ァ…」
浅ましい身体はゼネの指で容易に乱れ、ネセスのそり立つモノを渇望する。
熱の宿る金の瞳は揺らぎ、秀麗な美貌は淫らに溺れていた。

腰を支えるネセスの手に力が籠る。
「ンっぁ、…ぅ…」
ゆっくりと中へと入っていく度に、ほんのりと染まったジラクの身体はビクビク震え、更なる劣情を煽っていた。

稀有な金髪と金の瞳は、日常の中では清廉な気配を抱き、情事の最中は妖しく淫らな煌めきを宿す。
その表情と肉体美は見る者を魅了し、誰が抱いても彼との行為に運命を感じさせるほど身体は敏感で、男の欲情を際限なく煽るものであった。
ジラクを一度でも抱けば、その欲から抜け出すことは出来ない。


部屋中を満たす花の香りが淫靡な気配をより濃厚にして、互いの存在が密に混ざり合う。
明るい陽射しが差し込む中、淫らに爛れたその行為は、それから数時間と続くのであった。


2023.06.25
いつも訪問、拍手ありがとうございます(*ノωノ)💛
ゼネとネセスはソファ萌えですね(笑)。ソファで致すのが大好き(*´꒳`*)エ?

コメントもありがとうございます(..>᎑<..)!うれち!
ジラクは騎乗位なんて余裕だと思います☆彡(笑)。エロシーン飛ばそうかと思いましたが、あまり書いてない気がするので、ここらで入れておきました♪
ジラクの身体にメロメロにならん男は男じゃないです('w'*)。そんくらいエロボディです(*´꒳`*)むふ♪
あとギャップ…💛ギャップ萌え最高(* '-' *)!

    


 ***26***

家に戻ってきたジラクは情事の気配を悟らせないもので、兄弟の誰一人として、いつもと違うことに気付かせることは無かった。
フード姿自体、珍しくもなく身体に残る痕さえ見られなければ、いつも通りの冷静さだ。金の瞳には余韻も無ければ動揺もなく、冷たい光が宿る。
そうして、何事もなかったかのように兄弟たちと夕食を済ませ、自室に閉じ篭っていた。

実際、ジラクは情事に関し、何も感じていなかった。終わったことをどうこう考えるより先を考えた方が遥かに建設的で、どうしたら彼らを止められるかと思考を巡らせていた。
ネセスの決意は考えるまでもなく固く、いつかは実行に移すだろう。失敗に終われば願っても無い事態だが、シヴァラーサ家が関わっているとなると、また面倒な事態になる。その前に彼らの証拠を見つけて、しかるべき所で対処して貰うのが理想だ。
ふと、ラグナスの顔が思い浮かび、
「…」
唇に手の甲を当てる。
彼なら拒絶しないだろうことは分かっていた。こちらの言葉を聞き入れ、嘘だと決めつけるようなことはしない。
それに、あれだけの資産家で知名度があれば事実を知った所で危険に晒されるということも無く、仮に危険が降りかかっても、自ら対処するだろう。
短い付き合いだが、ラグナスのことはそれだけ信頼足り得る男だと思っていた。

ただ。
自分が下手に行動すればネセスに悟られる可能性もゼロではなく、彼に会いに行くのを躊躇う理由はそこだ。ネセスはそこまで間抜けではない。
もしも。
万が一にでも、兄弟に危険が迫るようなことがあれば。

途端、
「ッ…!」
首筋を寒気が走り、頭の中で『やめろ』という叫び声が木霊した。
「ぅ…!っく…」
ズキリと頭が猛烈に痛くなって、こめかみを押さえながら小さく呻き声を洩らす。
締め付けられるような強い痛みに、いつもなら直ぐに考えることを放棄していただろう。その時のジラクは堪えるように歯を噛みしめ、両手を書斎デスクに置き、拳を固く握りしめていた。
過去から逃げては駄目だと痛みに立ち向かう。

視界が歪み、吐き気を催しながら、手のひらが真っ赤に染まっていく幻に囚われる。
叫び声と怒声が響き渡る中、悲しみも躊躇いもないまま、ただ機械的に。
本当に機械的に、彼の身体を貫いた。
溢れ出た鮮血が腕から肘へと伝わり、地面へと流れ落ちていく。その出血量は誰が見ても致命傷で、そこでようやく自我を取り戻していた。
大丈夫だと抱き締められ、優しい声が名前を呼ぶ。
「っ…」
あの時の熱い感触が手に蘇り、既にここにはいない筈の存在を感じて息を止めていた。


いつでもそうだったように。
幻影がふわりと現れ、『愛してる』という言葉と共に後ろから抱き締められ、熱い唇が耳朶に触れた。
何度も何度も。
数えきれないほど囁かれた言葉は、呪縛のように体の奥深くまで根付いていて、その声音も熱も、そして身体に触れる手の温もりも容易に思い出せるほどであった。

いない筈の亡霊を求め、自身の肩に手を置く。


ズキズキと痛む頭に目を瞑り、そうだったと過去を思い出していた。
父親を殺せと命じた黒龍石の言葉に抗うこともできず、なぜそうしたのかも分からないが、自分の手で最愛の父の胸を貫いていた。
「っ、…」
頭痛が、胸痛へと変わる。
罪人だと罵られても致し方ない。ネセスとの違いは、善悪の意識があるかどうかだけで、やっていることは大差ないのではと思い、それでも、
「…」
黒龍石を恨むことはできなかった。
それが呪い故なのか、自身の感情故なのかは分からない。

憎むべきは西大陸の王だと言ったミノの言葉を思い出して、その通りだと自嘲する。
「何が、望みなんだ」
乱れた呼吸を落ち着かせながら、一向に姿を現わさない彼に問い掛けた所で答えなど返ってくる訳もなく。
「っ…!」
代わりのように鳴った乱暴なノック音に息を止めていた。
「兄貴。ちょっといいか」
ドア越しから聞こえる声で相手がザキだと知り、緊張していた身体から力を抜く。

唐突に現実へと引き戻された気がして、ぐらつく頭のままドアを開けば、
「金くれ」
前置きも無く、そんな言葉を言った。
目の前にある野性的な顔は悪びれもせず、むしろ睨みつけるような眼光の鋭さで、思わず呆気に取られて言葉を失う。
「は?」
無表情のまま返されたジラクの返答を気にもせず部屋へと入り、
「金だよ、金。遊ぶ金が足らねぇ」
書斎デスクの傍に置かれた椅子にどっかりと座り、再度の催促をした。

ザキが金銭を要求すること自体は珍しくもないが、日頃から自由になる金額は与えていて、それは生活に困るような額でもない筈だ。
「足らないなら、自分で稼げ。大体、何にそんなに…」
「兄貴。このド田舎のどこで稼げっていうんだよ。酒場のスタッフでもしろってか?俺は無理矢理シヴァラーサ家に連れてこられたんだぞ。そのくらい補償しろよ」
「…」
「ちょっと遠出するだけでも金が掛かる。シヴァラーサ家を出ていってもいいなら、別の所に住んで働くけどな、ここに住んでくれっていうのが守祭様との約束だし、兄弟になった条件だ。足らねぇ分は兄貴がどうにかしろよ」
一度は、ザキの言葉の通りに金銭を用意しようとしたジラクだったが、その言い草にデスクへと向かっていた足は止まり、ザキの目の前で向かい合う。
「…お前、金が降って湧いてくるとでも思ってるのか。俺が死んだら、どうやって生活するんだ?」
ジラクから飛び出た真っ当な言葉にザキが驚き顔を浮かべ、次いで片笑いをした。
「兄貴がそんな生活感のある言葉を言うなんて、どうしたんだよ」
ジラクの着ているフード付きのトレーナーに手を伸ばし、
「自分は豪遊しておいてよく言うぜ。俺には金も出せねぇってか?」
裾を引っ張って、自身の方へと引き寄せた。
「この服だって着てるの初めて見たし、こないだのハイネックだって今まで見たことねぇ。自分は好き勝手にあれこれ買っておいて、俺には小遣い程度かよ」
ザキのとんでもない勘違いに面食らい、裾を掴む彼の手を外す。
「この服は貰いものだ。毎年、記念日やら何やらで俺宛の荷物が届くだろ。こないだのハイネックもそうだ。封魔士なら中着としてよく着るシャツで、贈り物としては一番、よく貰う。別に俺が豪遊して、」
「…冗談だよな?」
腕を掴まれてジラクの言葉が途中で止まる。
驚くザキが理解できず、続く言葉を待てば、
「誰からかも分からねぇ奴の贈り物を着てるとか言わねぇよな?」
ジラクにとってはどうでもいいことで、尚更、ザキの驚きが理解できずにいた。
「服は服だ」
「いや…。服だけじゃねぇよな。贈り物って…」
強い目で問い、ジラクの誤魔化しを許さないかのように両腕を掴み、逃げることすら阻む。
「…そうだな。食べ物とかも、…ある」
「兄貴っ!」
「何でそんなに神経質になってるんだ。食べ物は未開封だし、日用品は使っても問題ないだろ。よく分からない物は処分してるし、」
「マジで言ってんのかよ!」
手首を強い力で掴まれ、痛いくらいであった。
そのくらい真剣なザキの怒りが理解できなくて、自分一人で贈り物を使っていると思っているせいかと見当違いな回答に辿り着く。
「お前だって風呂場の石鹸使ったり、贈答品のフルーツ食べたりしてるだろ。俺一人で使ってる訳じゃないぞ」
「せっけ、…、」
言いかけて呆れたように盛大に溜息を付いていた。
妙に香りの良い石鹸や、やけに肌触りの良いタオルが唐突に投入されることがあったが、そういうことかと悟る。大体、男に服を贈る時点で何を考えてるんだという話で、気持ちの悪い下心が見え見えであった。
日用品ならラーズルは嬉々として喜びそうだが、得体の知れない奴からの贈り物を平気で身に付けているのかと思うと、ジラクの危機感の無さに恐怖すら覚えるというもので、彼の無頓着ぶりに戦慄していた。

シヴァラーサ家に入って一番最初に驚いたのは、尋常じゃない量の贈り物の数々だ。
ジラクが一々気にしないのも納得の量ではあったが、あれほどの悪名高いシヴァラーサ家の当主になぜこんなに贈り物が届くのかと疑問になったことをよく覚えている。
今となっては風物詩のように見慣れた光景で気にも留めていなかったが、よもやそれを使っていたとは思いもせず、
「…知ってる奴からの贈り物なら構わねぇけど、そうじゃねぇよ。よく分かんねぇ奴のモノを使うなって言ってんだよ」
苦言を呈すれば、ジラクが不思議そうに小首を傾げた。
金髪がさらりと流れ、ピアスが揺れる。

その内、見ず知らずの人物から貰ったアクセサリーすら身に付けそうで、そんなことが出来ないように既に何かを身に付けさせておいた方がいいのではと思いつく。
自分が贈った物をジラクが身に付けていると知ったら、贈り主はよくわからない欲に満たされそうだと、戦々恐々として、ジラクの片耳ピアスを見つめる。

無言になったジラクに手を伸ばし、首元まで留められていたファスナーを一気に引き下ろして、
「ッ…!」
「よく分かんねぇ奴の贈り物なんか着てねぇで脱げ」
無理矢理にでも脱がそうとすれば、珍しくもジラクが過剰な反応で広がる首元を片手で押さえていた。
「…?」
その反応はザキに疑問を抱かせるに十分で、逃がさぬように片手でジラクの腕を握ったまま見つめ合う。
「何?」
「…何を着ようが俺の勝手だろ。脱がすな」
鏡を見ずとも、キスマークが首筋に残っているだろうことくらい把握しているジラクだ。ザキに見られたところで相手が推測できるわけでもないが、それでも隠せるなら隠し通したい。

キスマークを見たときのサーベルの態度を思い出し、恐らくザキも同じ反応をするだろうと予測していた。

「そういうのが、よく分かんねぇ奴を助長すんだよ。トラブルにでもなったらどうする気だよ!いいから脱げっ!」
トレーナーの隙間からするりと入り込んだ手が腰に置かれ、
「っ…!」
「まさか、このシャツも贈り物じゃねぇよな?!」
容赦なく裾を捲る。
「ザキ!別にいいだろ!」
声を荒げるジラクに対し、
「…」
ザキは何かに気が付いたように無言になっていた。


2023.07.02
ジラク、ピンチ(*^-^*)ザキに見られちゃったなァ…💛
いつも訪問して下さりありがとうございます(^^)!

コメントもありがとうございます!!
同志!すごい嬉しいです(笑)!そのお気持ち、ホントよくわかります( '-' ;)。
総受けだとサンドイッチ(??!攻めつつ受ける)みたいなパターンがちょいちょいあったり、特に男前受けだとリバ多いですよねー(^-^;。あと最近ホントよく見かける気がします(笑)。男前受けの場合、攻めが最後にリバで受けになって、ようやく至高の愛、みたいな感覚がある(?)のか、割と最後でひっくり返る気がします…💔好きな受けキャラだと正直、ショックでか過ぎますよね…><💦
まぁ私も元々は攻めっぽい受けが好きなので、攻めっぽいギリギリラインは大好きなんですが、リバになると拒否反応が(笑)。
あと至上主義もホント共感しかないです(*´꒳`*)!
同世界観で2カプとか(ヾノ・∀・`)ナイナイ(笑)。私の小説でカップルが出る時は、ほぼ100パー浮気させる時です(笑)。←浮気NGの方ごめんなさい(;^ω^)笑
ぜひぜひ、これからも安心して読みに来て下さると嬉しいです(*'-'*)ポッ💛
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 ***27***

ザキの行動には躊躇いが無く、腰に置いた手が更に上へと摩るように脇腹を撫でていき、そのまま裾を指に引っ掛けた状態でタイトなシャツを捲り上げていた。
「──ッ…、ぅ…、」
つい数時間前まで情事に耽っていた身体は撫でられるだけでビクビクと震え、掴まれた腕を振る解くように力が入っていた。
抗う間もなく胸元の手前までたくし上げられ、赤い痕が残る白い身体がザキの目前に晒される。無言でそれを見つめていたザキだったが、
「どういうことか説明しろよ。まさか女じゃねぇよな?」
低い声音で問う言葉は鋭い刃のような詰問で、冷静なままの怒気が余計に相手の怒りの度合いを知らしめるものであった。
ザキが怒る理由は分からずとも、その勢いに気圧され、首元を押さえていた手を放す。どちらにしろ見られた以上、隠したところで何の意味も無い。
「手を放せ」
片手で乱されたシャツを正しながら、ザキに言えば、
「やだね。兄貴、逃げんだろ」
「…!」
更に強く手首を掴まれ、凄まれる。
図星といえば図星で、なんと言い訳したものかと考えを巡らせていた。

視線を反らすジラクに対し、ザキの目はジラクの瞳からキスマークの残る首筋へと移り、鎖骨へと流れていった。
身体に残る濃厚な情事の痕を見て、相手が男だろうことは容易に推測できる。
ジラクのそんな一面を見ても、それほど衝撃は受けてはいなかった。これほど整った容貌だ。性格はどうであれ、見てくれだけは逸品だ。男に好意を寄せられようと不思議でもない。
ただ、ジラクがそれをすんなり受け入れるとは思えず、つい先日のことが脳裏に過っていた。様子がおかしかったジラクを思い出し、突然のハイネックはそういう理由かと至る。

そうして、相手とはあの時からかと知り、原因を探っていた。


一向に手を放す気がないザキに、ジラクが外していた視線を合わせる。
それから観念したように腕に入っていた力を抜き、諦めの息をゆっくりと吐き出した。

知られたところで困るような恥も無ければ、秘密もない。
中途半端に誤魔化したところで、これから先、何度と同じようなことになり、嘘に嘘を重ねたところで結局ばれるのは一緒だ。

あの日の出来事を淡々と、まるで他人事のように語り出す。
本当のことを聞いたザキが彼らに関わらないようになればいい、そんな思いもあったが、話し終わった後の表情を見て、彼らと会った時に怒りを抑えるのは難しいかもしれないと思っていた。

ギリギリと歯ぎしりをして、怒り露わに眉根を寄せるザキは悪っぽい風情ながら正義感の塊で、間違ったことや卑怯なことは許せない性質だ。
無理矢理の形で体の関係を結んだことに嫌悪を示し、彼らが為そうとしている反社な行動に不快感を示していた。
「お前が怒った所で何の力にもならないから、関わるな。邪魔なだけだ。自分でどうにかする」
「兄貴!」
その言葉がザキの怒りを余計に煽ることは分かっていた。睨みつける彼の黒い瞳を見つめ返しながら、それでもその言葉を言わざるを得ない。

巻き込みたくない。
そう思いながら、結局、巻き込んでしまったことに悔恨しながら、
「このことはお前しか知らないから、誰にも言うなよ」
そう忠告すれば、怒りを落ち着かせるように大きく息を吸い込んで、盛大な溜息を付いていた。
「…、分かったよ」
髪を乱暴にかき混ぜながら、言いたいことは山ほどある顔で無理矢理の同意を吐き出す。
それから僅かな間、無言になって、
「…身体は、大丈夫なのか?」
上目遣いに見つめ、気遣いの言葉を掛ける。
ジラクが男慣れしてることなど知る由もないザキの言葉は真剣な心配であったが、ジラクにとっては大した事柄でもなく、
「殴られた訳じゃないし、別にどうってことない」
その言葉の通り、精神的に傷ついたとかの感情は一切なく、ただ快楽の感覚が残るだけだ。

平然と何の痛みを感じさせない顔で答えるジラクに、複雑な表情を浮かべたザキが、そうかと短い相槌を打つ。

掴んでいた手を解放して、言葉を探すように視線を泳がす。
その場を離れるジラクの挙動を探りながら、もし、キスマークに気が付かなければ、ジラクが自分から言うことは一生無かっただろうと思い、もどかしさを感じていた。
どうしたら兄弟として心の内へ踏み込むことが出来るのかと考えていると、
「ん…」
唐突に、ジラクが紙っぺらを目前に差し出す。
シヴァラーサ家の印と、ジラクの達筆な署名が書かれたそこには金額が記載されていて、
「…」
「金が欲しかったんだろ」
凛としたジラクの冷たい声を聞き、当初の目的を思い出す。
すっかりとそんな気分でもなくなったが、差し出された物を受け取れば、
「…」
気のせいか、ジラクが儚げな微笑を浮かべた気がして吸い寄せられたようにその顔を見つめていた。
そのまま、手の届かない遠くの場所へ行ってしまいそうな気配で、覚えのない感情を抱く。

様々な感情が同時に湧き上がり、特に強く感じる思いは歯がゆさであった。
今まで抱いていたジラクへの反抗心が、別の何かに取って代わる。それは頼られないことへの反発でもあり、不甲斐ない自分への苛立ちでもあった。

兄弟なのに相手のことは何一つ分からず、感情すら読み取らせないジラクに家族の意味を考える。

実際、それが何なのかはザキもよくわかっていなかった。
両親に捨てられ、物心が付く頃には施設に預けられ生きてきた生活だ。親代わりは守祭であり、一緒に暮らす子どもたちは兄弟というよりは只の同胞であり、すぐに里子に出され居なくなる存在だった。
何かの絆を作る期間もなく、過ぎ去っていった過去の人で顔も覚えていない。
ザキにとって守祭が特別な存在であることもそうした理由があり、ただ、それが『家族』かと言ったら違う。
守祭にとっては数多くいる子どもの内の一人であり、更に言えばザキは養い手が中々見つからず長く施設にいることを疎く思う者もいたくらいだ。
彼らの主な役割は魔物を討伐することであり慈善活動ではないことからも、ザキにきつく当たる者もいて、全ての守祭が善人でもなかった。

そういった生き方をしてきたこともあり、家族、兄弟というモノに特別な思い入れはあれど、それが何なのかは答えられないザキだ。
ジラクが特殊な環境で育った故に家族観が世間一般とずれているのと同じように、ザキも家族や兄弟を求めながらも接し方は分からず、こういう時にどうすればいいのか戸惑う。
ただ、喧嘩をしたり悩みを打ち明けたり、一緒に食事を取ったりするのが『家族』だろうと理想の家族像を思い描く。

そうして、初めて会った時に『家族は要らない』と告げたジラクを思い出して、忘れかけた反発心が蘇る。
一体、何なら要るんだと自分が兄弟になった意味を考え、
「…、用も済んだし戻るわ」
隠されたジラクの首元を見つめ、考えることを放棄していた。
「あぁ」
短い相槌を返すジラクはいつもと同じで、本当に助けなど要らないのだろう。


身体に残るキスマークを思い返しながら、行き場のない感情を持て余すのであった。


2023.07.09
今週は更新頑張った気がする…!(*´꒳`*)ノ
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 ***28***


翌日になっても、ザキの気が晴れるということはなく、まだ寝ているジラクを頭のどこかで気にしていた。
サーベルと会話しながら朝食を取るミラを見て、何も知らなくて平和そうだと勝手に羨む。そうして、サーベルとフルーツの奪い合いも終わった頃、
「そろそろ出かける時間だから、ジラクさんを起こしてくるよ」
そう言って席を立つサーベルを、
「いや、俺が行く」
条件反射で止めていた。

朝からサーベルが家にやってくることは珍しくもない。そしてその流れでジラクを起こしに行くのも見慣れた光景の一つではあるが、昨日のジラクを知っているだけに、そしてジラクの寝相の悪さを知っているだけに、さすがにまずいんじゃないかと思っていた。

ザキの言葉を聞いて驚き顔を浮かべるのはサーベルだけでなく、ミラは当然のこと、ラーズルまで食事の手を止めていた。
「どうしたんですか?ザキがそんなことを言うなんて、何か変なモノでも食べました?」
慌てた声でそう訊ねるラーズルは本気でザキの発言を心配していて、意外な所でラーズルの兄弟愛を知る羽目になる。
「サーベルに任せなよ。兄貴はマジで起きないから大変だよ」
ミラがいつもの苦労を思い出したように愚痴り、傍らに立つサーベルを信頼の眼差しで見上げていた。
「…」
対するサーベルは、射るような目付で真っすぐにザキを見つめ、真意を探るように瞬き一つしない。獰猛さを隠しもせず、
「何で?」
唐突に名乗り出た理由を訊いた。
「今まで、そんな事を言ったこともないよな。どういう心境の変化?」
元々、ザキとサーベルの仲はいいとは言えない。何がとか特別な理由もなく、ただ初めて知り合った時から互いに気に食わない存在で、それはザキが歳を重ねるにつれ、酷くなっていた。
サーベルの追及に隙を見せたら負けのようなものだ。相手の琥珀に近い薄茶の瞳を睨みつけるように見つめ返す。
「兄弟のことを部外者が口出すなよ」
「兄弟、ねぇ…」
鼻で笑って言葉を繰り返したサーベルの物言いは、血の繋がりも無いのにかと馬鹿にされたようなもので、
「てめぇ、喧嘩売ってんのかよ!」
ザキが怒るのも無理はなかった。
「無理に起こさなくてもいいんじゃない?俺とサーベルが付き合ってるのはもう知ってるんだし」
ミラが助け舟を出して場を和ませようとするも、何の効果も無く、
「いいよ。俺がさくっと起こしてくるから」
有無を言わせない態度でザキを一瞥後、その場を離れる。
「っ!」
それ以上、引き止めるのも怪しいだろう。リビングを出ていくサーベルを見送ることしかできなくなって、大丈夫かと心配を募らせるのであった。


一方のサーベルは突然のザキの行動に疑念を宿していた。
二人は決して仲が良い兄弟とは言えず会話も碌にしないような間柄だが、ザキの面倒見の良さは時に驚くほどで、口ではジラクの文句を零しながらも、気を遣う性格だということは知っていた。
何かを隠していると直感が訴えかける。

その疑惑は、いつもの如く寝入るジラクを見てすぐに確信に変わっていた。
上掛けを抱き締めるようにして横向きに寝るジラクの肩は剥き出し状態で、そればかりか羽織っただけのガウンはまるで用を為さず、全身が露わになっていた。ジラクの下着姿は珍しくもないが、身体に残る赤い痕を見て目の色を変えるサーベルだ。

引き締まった肉体が魅せる淫らさに息を呑み、そもそも隠す気すら無いのかと神経を疑う。
苦笑を浮かべたまま、ジラクに覆い被さるようにして仰向けにすれば、キスマークの全容も分かるというもので、その身体には胸から太ももに至るまで色濃く印を残していた。

ザキが隠したがるのも納得の一場面で、もしかして情事の相手は彼かと勘ぐる。
珍しい行動の理由は、このキスマークのことを知っていたからだろう。

苛立ちと劣情がない交ぜになり、理性を奪う。
両手を掴み頭上でひとまとめにすれば、シルクのガウンがするりと肌から滑り落ち、誘うようにジラクが小さく身じろいだ。
バレた所で知るものかと投げやりな心境になって、唇にキスを落とす。
どのくらいの深さで目を覚ますかくらい経験上、知っていたが、もはや目覚めた所で止める気も更々なく、
「…ン…」
むしろその時の反応を見ることが目的になっていた。

もし相手がザキならこれほど腹立たしいこともないだろう。
ジラクを手に入れるつもりなど毛頭もなく、今まで苦労して押し殺してきた感情は何だったのかと思い、少なくとも情事の相手がいるということは1ミリも無いと思っていた可能性もゼロではないことを意味する。特にそれが、絶対にあり得ないと高を括っていた兄弟とあっては、ずっと我慢してきた自分が馬鹿馬鹿しくもなるものだ。

舌を絡めながら反応する身体に触れれば、くぐもった声を洩らし、甘んじて受け入れていた。
男のモノとは思えないほど滑らかな肌はひんやりとしていて、命を感じさせない。それでいて筋肉の付いた身体は躍動感があり、身じろぐ度に引き締まった身体を強調していた。
「…っん、…う」
浅く、深くキスを続ければ、ジラクの声音が色を変える。そろそろだろうというサーベルの予想通り、閉じられていた瞼が緩く開いていった。

ぼんやりとした瞳のジラクはしばらく為すがままで、
「んァ…。ッ…っぅ…」
自分が何をされているのか理解できず、金の瞳が快楽に潤む。
静かにジラクの様子を観察するサーベルだ。捕えた両手を強く掴み、後戻りできない状況を再確認する。そうして、未だ覚醒しきっていないジラクの脇腹を片手で撫で上げ、親指で尖る乳首を転がせば、
「ッ…、ンうッ!?」
唐突に現状を把握したジラクが目を見開き、暴れ出した。
そんな抵抗も上から抑えつけてしまえば、何てことない。軍歴もあるサーベルからすれば、この体制は間違いなく自分に利があり、ましてや両手を頭上で固定されたジラクに振り解ける訳がなかった。
「んっぁ、サーベ、ッ…!…っ!」
キスの合間に批判の声をあげるジラクの珍しくも焦った声に満足して、貪るようにキスを続ける。口を開かせ歯列をなぞり、逃れようとする熱い舌を強制的に絡めて喉の奥をくすぐれば、身体は素直にビクビクと震え、キス一つで驚くほど感じていることが手に取るように分かった。
それでも抵抗を試みる腕を体重で抑えつけ、更に深くキスをしながら胸を刺激すれば、驚きで肩を震わせる。完全に立ち上がった乳首は刺激に弱く、一撫でする度に抵抗は緩くなり、乱れた吐息が耳をくすぐった。

まるで。
自分に気があるかのように。

触れるだけで反応する敏感な身体は淫らな熱を持ち、淡い期待を抱かせる。そんな訳がないのに、熱い舌が欲情を過熱させ、更なる感情の昂りを齎していた。
手に入れられるモノなら。とっくにそうしてる。
ずっと前から、ただひたすら感情を押し殺し、悟られないように接してきたサーベルだ。
兄弟よりもジラクを理解している自負があり、そして誰よりも深く愛している自信もあった。

手に入れたい。
身体も、心も。何もかも。
背中の呪いなど気にもならないほど、彼の全てを手に入れたい。

そんな想いが通じた訳ではないが、ジラクが陥落するのはサーベルが思うよりも早く、
「…ッ、…ンぅ!」
唐突に仰け反りながら、絡めた舌を震わせていた。

その感度の良さに目を瞠るサーベルだ。
まさかキスと胸の刺激だけで果てるとは思いもせず、唇を解いたサーベルは呼吸を乱すジラクを食い入るように見下ろしていた。

「…っは、…っ、…、お、前…」
唸るような低い声で息の合間に言葉を発するジラクは無理矢理いかされたことに相当、腹を立てていたが、その感情とは裏腹に、表情は甘く目を眇める様は非常に煽情的なものであった。怒りと快楽に目元を染め、息を乱しながら相手の暴挙に文句を零す。
「…っ、…何、考えて…、」
「キスだけでいっちゃうなんて、随分と乱れてるなぁ。まさか相手はザキじゃないよな?」
素知らぬ顔のサーベルが白々しい笑みを浮かべて問えば、更に煽る目でサーベルを睨み、
「ぅっ…ッぁ!」
淫らに上を向く乳首を弾かれて、瞳を揺らがせた。
「ッ…ふ」
見られることを拒絶するように顔を背け、上半身を捩らせる。そんな動作ですら引き締まった身体は美しく、そして非常に艶めかしくも男を誘うもので、
「や、めろ…、ッ…ぅ」
甘い吐息で繰り出される拒絶が尚更、見る者を欲情させるものであった。
「キスマークの相手、誰?」
追及の手を緩めないサーベルは容赦がなく、ビクビク震えるジラクに欲情の目を向けながらも、がっちりと両手は拘束したままで、ジラクの身体を逃さないように上半身に体重を乗せる。
「お前にッ、…関係、無いって、…」
「もう一度、イかせてやろうか?」
「な…、ん、…!」
「こんなエロい顔して兄弟に合わせる顔、無くなるよな?」
顔を近づけて脅しを掛けるサーベルにジラクが面食らったのは一瞬で、
「っ痛…!」
ゴツンという激しい音と共に頭突きを食らわせていた。
「いい加減にしろっ!何でそんなに気になる?」
ジラクの反撃を受け、サーベルが痛みに呻いたのは僅かな時間であった。拘束の手を緩めることも無く、
「さぁ?独占欲かな」
疑問にさらりと答える。その回答の軽さは冗談を言っているのかと思うほどで、言葉の意味を探るようにジラクが無言になる。近づく唇に反応が遅れたのもそのせいで、
「っんう…!?」
抗う間もなく、何度目か知れぬキスをされていた。

実際、サーベルとのキスはかなりクるもので、ネセスやゼネに無理矢理されるキスとは雲泥の差だ。
それは、空腹時にサーベルから強い生命力を感じるのと同様の渇望で、熱い舌は蕩けそうなほど柔らかく、触れる度に快楽を呼び起こして身体が勝手に反応する。
「っぁ…、ァ…」
「キスがそんなに好き?」
「うッ…、く!」
忘れかけた抵抗をするジラクに、
「キスマークの相手はザキじゃないな…」
「当たり前だろ!」
当然のことを言って、ジラクの怒りを煽った。
「お前の知らない奴だ。もういいだろ、放せ」
掴まれた手を振り解こうと暴れるジラクに、溜息を付きながら今度はすんなりと解放する。
そろそろ、他の兄弟に怪しまれる頃だ。ジラクを起こしに行って長居する訳にもいかないだろう。頭の中で時間の計算をし、乗っかっていた身体から下りれば、ジラクがようやく解放されたことにひっそりとした安堵の息を吐いていた。
「ザキは知ってるんだ?」
「っ、は…、何。どうでも…、ぅっ…」
固定されていた手首を振りながらジラクが身を起こせば、昂る身体に背筋が粟立って淫らな顔を覗かせる。それを誤魔化すように脱げたガウンを羽織って身体を隠した。
片膝を立てたジラクが前髪をかき乱し、額に拳を当てる。斜め角度でサーベルを見上げるその挑発的な目は珍しい態度で、
「…本当に最低だな。ミラと付き合ってるんじゃないのか」
低い声音の言葉は、軽蔑が入り混じるものであった。
「はぁ?ジラクさんに言われたくねぇなァ。付き合ってもいねぇのに最初にキスしてきたのはどっちだよ」
ばっさりとやり返され、言葉に詰まる。
「っ…、ミラに、…」
「知られちゃ困るのはお互い様だよな?」
秘密の共有をするかのように、伸びてきた手がするりとジラクのピアスから耳朶に触れる。
素早い動作でそれを弾き落とせば、
「じゃあ、俺は先に戻ります。抜くなり何なり好きにどうぞ」
いつもの敬語に戻って、女たらしの営業スマイルを浮かべて言った。
「サーベルッ…!」
白い肌に朱が走る。手で口元を覆い、金の瞳が獣のような鋭さでサーベルを見る。その射るような鋭さも甘い気配を漂わせる今となっては、ただ相手の劣情を煽るだけで、
「ッ…本当に最低だな」
非難の言葉も、勝ち誇った笑みを返されるだけで終わっていた。
言葉もなくサーベルが部屋から出ていく。
返す文句も思いつかず、何故か猛烈に負けた気分になって、扉が閉まる様を見送るしかできなくなるジラクであった。


2023.07.17
三連休、記憶喪失です( ^)o(^ )!
拍手ありがとうございます!コメントもありがとう〜(..>᎑<..)!!
ジラクの萌えポイント共有できて嬉しいです〜💛お揃いピアス最高です(*´꒳`*)ノ。
ジラクはそういうことしなそうなキャラなのに、お揃いを付けちゃう所が正に受け属性(*'-'*)笑!あと片耳が好きです!一つはペア、もう一つは形見ですね〜。元々シェアしてたものが今、両方、ジラクの耳に付いてる状態( ^)o(^ )。なので人に触られるのは嫌い。でも、気を許した相手には触らせちゃう。ついでにジラクは耳が性感帯です(*´꒳`*)スキ!この受け属性め(笑)!

拍手する💛
    


 ***29***

ジラクという男は基本的に何があっても悟られるようなことはしない。
サーベルとミラが出掛けたあと、リビングにやってきたジラクは完全にいつも通りで、ザキが意外に思うくらいであった。
皿に乗る果物を摘み、ラーズルに飲み物を頼む。カップを片手に腰掛ける様はいつもの冷徹さで、襟の立ったシャツで首元を隠していること以外は見慣れた姿だ。
ザキの心中は穏やかではなく、静かに紅茶を啜る様を食い入るように見つめてしまう。
彼らの思惑など露知らず、
「サーベルは起こすのが上手いですよね。何か秘訣でもあるんでしょうか」
ラーズルが何気なく発した言葉に、
「あいつの話はするな」
ジラクが冷たい視線を向け、珍しく反発していた。
「…」
「また喧嘩ですか?」
言葉の通り、ジラクがサーベルと喧嘩することは珍しくなかった。何故か唐突に勃発し、いつの間にか解消しているというのが常で、最初の頃は不思議に思っていたラーズルもそれが何度目かになると気にならなくなっていた。ただジラクが怒りの感情を表に出す相手は限られていて、それが羨ましく、何がジラクを駆り立てるのだろうと思っていた。
それに対し、ザキは二人の間に何かあったなと感づいていた。ジラクの寝相の酷さだ。サーベルがキスマークに気が付かない訳がない。ただの推測だったが、彼なら見て見ぬふりなどせずに追及するだろうと思っていた。
「あいつの存在が腹立つ。ミラも何であいつなんだか…」
愚痴のように零すジラクは珍しく、今回ばかりは許す気もないのか、持っていたカップを苛立ちを感じさせる雑な仕草でテーブルに置いた。
何と答えるべきか困る二人だ。存在が腹立つとは随分な言い草だと半笑いで視線を交わす。
そんな二人には目もくれず考え込むように唇に触れていたジラクだったが、唐突に立ち上がって出掛けてくると告げ、リビングを出ていった。

「なんだろうな…」
ザキの呟きにラーズルが頷き、ジラクの飲みかけのカップに口づける。それを一息で飲み干して、
「今日もジラクが元気なら何よりです」
そんな感想を洩らした。
呆気に取られつつも、昔の無気力なジラクが如何に酷いものだったか耳にする機会もある訳で、当時を知っている身からすれば文句を零す姿すら有難いのかもしれないと思い直す。
サーベルとのやり取りが気になりつつも、全く普段通りの彼を思い出して、わざわざ二人の間に首を突っ込むのも阿保らしいと記憶から消去するザキだ。


*******************************



屋敷を出た後、ジラクは首都に来ていた。
以前の彼に比べるとかなり前向きに努力していて、向かった先はシヴァラーサ家専属守祭の所であったが、会ったミノから早々に嫌味を言われていた。それは以前にも言われた言葉で、男遊びをするなら封魔士をしろと言ったような言葉であったが、朝からサーベルに続き、ミノにまで不快な思いをさせられて苛立ちも高まっていた。とはいえ、それは表情に出ることもなく、その場を後にしていた。

住み慣れた小さな町とは違い、首都は店舗も多ければ封魔士向けの専門店もあるくらいで、取り扱いの商品数も段違いだ。
折角、首都まで来たのだからと街中を徒歩で移動するジラクであったが、その容貌は否が応でも目立ち、彼が道を歩けばすれ違った人々が振り返るほどであった。
特に目的のある散策でも無かったが、本当に偶然にも、ショーウィンドウを眺める見慣れた姿を目撃して何気なく歩み寄る。
「サラ」
後ろから声を掛ければ、華奢な背中は突然のことに大きく震え、信じられないように振り返った。
驚きを宿す可憐な表情は男なら誰もが庇護欲を掻き立てるほど繊細なもので、ジラクも例外ではなく、
「…驚かせて悪かった」
滅多にない柔らかな口調で謝罪を口にした。

サラが食い入るように見つめていたアクセサリーに目をやり、洒落た店の看板、それから彼女に視線を戻す。
どうしたらいいのか分からず両手を組んだままジラクを見上げている彼女に店に入らないのかと訊けば、目元を染めて大きく頷いた。
「もうじき、ザキの誕生日だから、プレゼント、何がいいかなと思って」
「…そうか」
誕生日かと小さく呟く。

兄弟の誕生日を祝ったことがないジラクだ。というよりも初めて聞いたくらいで、他の兄弟も特にそういった言葉を口にしたことはない。食事が豪華な時がたまにあったりもするが、ジラク自身が誕生日というものに特別な思い入れはない。
封魔士は魔物を殺す職業だ。祝わないことは父親の信念であり、そういった習慣自体がなかった。当然、ジラクにも根付かず、記念日には贈り物が山のように届きはするが、それを嬉しいと感じたこともなく、祝うということがいまいちよく分からない。
ただ嬉しそうなサラを見て、誘われるように後を付いて店内に入る。

このブランドはジラクがザキに土産で買ったシルバーアクセサリーと同じブランドで、サラがここを選んだのは偶然なのか、それともザキがこのブランドを好きなのかが気になっていた。
そんなことを思っていると、
「ザキ、こないだ喜んでたよ。ジラクさんにネックレス貰ったって。凄い嬉しそうだったから…、私も同じブランドあげようかと思って…」
まるで自分のことのように満面の笑みを浮かべたサラが言う。
心を読んだかのようなその言葉に、
「付けてるのを見たこと無いが…そうなのか?」
仏頂面のザキを思い描き、とても喜んでいるようには思えないが、と付け加えた。
ジラクの言葉にサラが破顔して、ザキは照れ屋だからとフォローする。笑みの似合う清楚な美貌は邪気がなく、ジラクの荒んだ心を癒すもので、何となく不思議な気持ちになっていた。

「それでね、ジラクさんのと被らないように腕輪にしようと思うんだけど、同じシンボルのとか…どうかな?」
商品棚を忙しなく見た後、ジラクを見上げる。
予想外にも視線が合って、動揺したサラが唐突に身体を反転させると同時に、
「きゃっ…!」
「!」
床の出っ張りに躓いて、ジラクに支えられていた。
「大丈夫か?」
低く冷静な声がサラの耳元に響き、顔が真っ赤に染まる。
「ご、ごめんなさ…、びっくりして…!」
「?」
慌ててジラクから離れるサラだ。赤くなった顔を両手で隠して謝罪したあと、乱れた髪をわたわたと直す。
涼しい顔をしているジラクを見て余計に羞恥に襲われ、床に視線を落としていた。

ジラクの容貌は凄まじい破壊力で、見る者を圧倒する。大陸でも一人しかいない金の瞳はどこまでも澄んだ色で、心の奥底まで見通すような強さを持ち、特にサラのようにまだ年若い女性の場合、その目でじっと見つめられれば、耐えられずに視線を逸らすことがほとんどだ。
「…ザキなら、…何でも喜ぶと思う」
サラの態度を誤解したジラクが呟くように答え、踵を返す。折角の買い物も無愛想な自分と居たら居心地が悪いものとなるだろう。
それはジラクなりの誠意であったが、
「あ…」
サラにとっては唐突に突き放された気分となる素振りであった。
振り返ることなく別の商品棚へと向かう背中を見て、邪魔をする訳にもいかないと思い、伸ばしかけた手を引っ込める。
そもそも、何で一緒に店に入ってきたんだろうとジラクの消えた棚の向こうを見送り、忘れかけていたザキのプレゼント選びに意識を戻す。
彼が見せてくれたシンボルを思い出しながら、商品を眺めていると、
「田舎の子ってホント最悪だよね。何を勘違いしてんだか」
「わざと転ぶとか、あざと過ぎ」
若い女性たちの陰口が耳に届き、なんだろうと視線を向けると共に、彼女たちと目が合っていた。
「っ!」
「うわぁ…、白いワンピースとかダサッ…!清楚ですって演出?」
クスクスと聞こえよがしに囁き、視線をちらちらとサラに投げてよこす。温厚なサラとはいえど、あからさまな陰口にカッと頬が染まるも相手にするだけ無駄なことで、努めて冷静に無視を続ければ彼女たちの態度はエスカレートするばかりで、
「釣り合ってない自覚、持てばいいのに」
「自分のこと可愛いって勘違いしてるんでしょ」
悪口はとどまるところを知らない。

こんなに露骨な陰口を叩かれる理由はただ一つで、ついさっきまで隣にいたジラクの存在に他ならない。
金髪に金の目は誰が見ても相手がシヴァラーサ家の当主であることを示し、それに加え、あの容貌はとにかく目を引く。彼に連れがいれば当然の如く、その相手にも目が行き、それが知り合いであるだけでも嫉妬の対象となるほどで、特に相手が女性の時には顕著であった。
「あんたなんて全然、似合ってないから」
ついにはサラの元まで来て、彼女の華奢な肩を手のひらで突き飛ばす。
「…いた…っ!」
簡単によろめくサラの姿は彼女たちを余計に苛立たせ、
「ぶりっこしてんな!可愛くもない癖に!」
上から下まで決め込んだ派手な出で立ちの二人組が、サラを睨みつけて言った。
美醜で言うなら、彼女たちも十分に可愛い部類に入る。ヒールのある靴で背丈もあり、街を歩けば目を引くだろう。だが、サラはそれを上回る美貌の持ち主であった。にも関わらず、美人を鼻にかけた雰囲気も無く、それでいて醸す可憐な気配は男の庇護欲をそそる。それが尚更、彼女たちの嫉妬心を強くしていて、
「田舎臭い髪型でさぁ、」
サラの髪を鷲掴もうとしたところで、
「…!」
ハッとしたように息を呑んだ。
「サラ。一人にして悪かったな」
低く静かな声は、ドキっとするほどの美声で、
「大丈夫か?」
二人組の手から守るように、あっという間の早さで彼女の身体を抱きこんだ。

ジラクの身長は優に180センチを超える。
小柄なサラはすっぽりとジラクの腕の中へと収まり、
「彼女に何か用でも?」
射るような目でそう問うジラクの冷たさに、醜い嫉妬を露わにしていた二人組が途端に青ざめていた。
ジラクは遠目に眺める分には目の保養になるいい男だが、相対した時に、特に冷めた目をしている時の威圧感は尋常ではなく、
「っ!」
彼女たちは声なき悲鳴を上げて、逃げるように店内から飛び出ていった。

「…」
サラの心臓が爆音を立てる。彼女たちのことなど頭の中から完全に消えるほど動揺して、目を大きく見開いたままジラクの胸に頬を当てる。
何が起こったのか理解できないままでいると、ジラクがするりと抱き寄せていた肩から手を外し、サラの目を間近で覗き込んだ。
「…!」
それは息が止まるほどの衝撃で、
「サラ?」
ジラクの優しげな声が、耳を木霊していた。ふわりといい香りが漂って、口をパクパクとさせながら声にならない言葉を発する。ジラクの秀麗な美貌には慣れていても、優しさには免疫などない。
今にも卒倒しそうなサラを見て、小首を傾げたジラクが、あぁ、と小さく呟き、
「怖かったんだな。もう大丈夫だ」
ポンと頭を軽く撫でる。完全に小動物扱いであったが、コクコクと頷くサラは心の中で歓喜していた。

ジラクを無駄に心配させたようで、それからはサラの行く所に付いて回っていた。
結局、特に目ぼしい物も無く何も買わずに店を後にすれば、ジラクが唐突にサラを呼び止めて、
「やるよ」
サラの手のひらに、小さな箱を乗せる。
驚きつつ箱を開けば、中から出てきたのはショーウィンドウに飾られていた女性物のネックレスで、
「ザキのこと、これからも頼む。あいつ、サラと付き合ってから明るくなった気がするから」
そう告げるジラクに、胸が締め付けられていた。

ジラクは町の人々の中でも一際、頼りになる大人の男だ。
物心が着いた頃から、あの町にいて、彼のいない町は想像できないほど身近な存在であった。
冷静沈着で男らしく、反面、どこか憂いを帯びた彼は色々な噂もあったが、それでも、いざとなったら必ず町を守ってくれると信じていた。

どんな噂を聞いてもサラの中にあるのは彼の力になりたいという想いで、それは愛情とも庇護欲ともいえる深い親愛で、ただただ、ジラクが愛おしいというものであった。
「ありがとう。大切にするね」
感情はそのまま表情に現れ、邪気のない満面の笑みを浮かべるサラに、ジラクが小さく頷く。
そのまま歩き出すジラクの横に並べば、彼が小さな子どもにするように手を差し出して、
「…」
素直にその手を繋いでいた。

昔から憧れの存在であったジラクとこうしていることが夢のようで、自然と頬が綻ぶ。
ジラクに恋愛感情など無いことは十分に分かっていた。甘えるように安心して手を繋げることができて、ニコニコとサラが無邪気な笑みを見せる。

笑顔の力とは思いもしない効果を発揮するもので、それはジラクにとって心安らぐ美しいものであり、朝から続く憂鬱な苛立ちを吹き飛ばす、力のある笑顔であった。


2023.07.29
拍手・訪問ありがとうございます(..>᎑<..)!
サーベルを散々、女誑しと貶すジラクですが、ジラクも無自覚に相当酷いです(*^-^*)ニコー!
サラとジラクの組み合わせは意外かもしれない(笑)。ジラクにとっては昔から懐いてくる幼女って感じで今でもそのイメージ。テーラポジションかな…?そして、サラが成長していることに気が付いてないんだなー(*´꒳`*)
ジラク→サラは庇護欲で、サラ→ジラクも不思議なことに庇護欲なのだ(^^)/
個人的にはサラの見てる目の前で無理矢理、ピーされちゃうジラクとか美味しい…(*^q^*)。むっちゃ嫌がって、見るなって言いながらイかされちゃうの最高に好きなシチュだわ〜(°ω°*)鬼畜過ぎ…(笑)
まぁサラが壊れちゃうんで、無しですね(笑)
似たようなシーンは今後あるかもだけど、ジラクのプライドもあるので見せ付け相手は男ですね(*´꒳`*)ニコー!

    


 ***30***

曲がりなりにも、自分がしっかりしなければという使命感は持っていた。
全てがどうでもよかった一時とは違い、最近では明確な意思の上で行動していて、根底にあるのは兄弟のためにという想いであった。
行きたくもない守祭の元へ通い、フィローゼントの情報集めに奔走し、そして招待されれば公の場にも顔を出す。今までのジラクからは考えられないような進歩で、相当『頑張っている』行動であったが、誰かがその苦労を労う訳もなく、
「っ…」
定期的にやってくる背中の疼きは、ジラクの精神を蝕んでいた。

褒められたくて、認められたくてやっている訳でもない。
結果的には自分のための行動でしかないが、背中で暴れる魔の力に胎の内から身体を塗り替えられるようで、寝ていた身を丸め、上掛けに包まる。

ミノの荒治療は、回を重ねる毎にその威力を認識させられていた。
それに反発するかの如く魔の力は激しく体内を巡り、抑えつけられた力はより一層、力を増す。ある意味、逆効果なのではと思うほど黒龍石の気配はより濃厚に漂い、背中が燃えるようであった。
荒い呼吸を繰り返しながら拳を握りしめ、兄弟の姿を脳裏に描く。

今すぐに全てを捨ててしまいたい衝動に駆られていた。
誰もいない、誰も知らない場所でひっそりと静かに過ごしたいと思いながら、その余りにも馬鹿らしい願望を自嘲していた。
一層のこと開き直ってしまえばいいのではないかと考え、そんなことは誰も認めないだろうと分かり切った回答に辿り着き、そもそもなぜ自分はそうまでして『人間側』であろうとしているのかと根底を考え直す。

強いていうなら生まれた瞬間が人だったからに過ぎない。
魔物の何が問題で殺さなければならないのかという疑問は昔から抱く疑問の一つで、理由を挙げるとすればそれは害獣と同じ理論だ。ただ作物を荒らすから、人を食い殺すから、害があるからという単純な理由が最初にあり、そして自らのコントロール下に置くことができないという恐怖が根源にある。

さらに言うなら、彼らの血が文明を動かすエネルギー源となっているからだ。
どんな魔物であろうと殺して捌いてしまえば、隅から隅まで材料になる。猛毒種を除けば、角も牙も肉も臓器も、何から何まで再利用され、あらゆる場面で活用されていた。
彼らの頑強な皮は有名ブランドの材質になり、獰猛な面はどんな猛獣よりも映える富裕層のインテリアとなる。
骨は丈夫で、武器や鎧の素材としても重宝され、目玉ですら家畜のエサとして利用されていた。


自分が何者になろうとしているのかは分からずにいたが、それが『人非ざる者』になりつつあることだけは確かで、同じように解体されるのかと思うとゾクゾクと背筋が震え、そのおぞましさに息を止める。

自分の血は、まだちゃんと、赤いままなのかと。
本当は疾うの昔に、別モノに成り代わってしまったのではないかと思うと唐突に黒龍石の存在を体内に感じて、ふと、そういえばと大戦のことを思い出していた。

あの時に。
血に塗れた視界の中、確かに彼と混ざりあったような気がして、
「ッ…!」
本当にこの身体は自分のモノなのかとありもしない疑念を抱く。
まるで虚構の世界にいるかのようで、真実は何一つ分からず、自分の恐れすら本当のモノなのか分からなくなっていた。

これだけの葛藤を抱きながらも。
ジラクの思考は夜が更けていくと共に霞が掛かっていき、
「…」
上掛けをきつく握りしめていた手のひらは緩やかに開いていく。それと共に瞳は静かに閉じられ、痛みに震えていた身体もゆったりとした呼吸と共に深い眠りの中へと落ちていった。
安らかな寝息が闇夜に溶けていく。
そうなると、小鳥が囀る朝の気配までジラクが覚醒するということはなく、一瞬でも意識を取り戻すことはなかった。


*******************************


「あ、兄貴。おはよ…。って時間でもないけど」
起こされない日にジラクが自力で起きる時間は大体が昼過ぎで、リビングにやってきたジラクはスッキリした目に寝癖一つない姿であった。寝起きとは思えない清々しさは目を瞠るものがあるが、頭の中はぼんやりとしたままで、特に最近はそれが酷く、誰かが意識の向こう側で『目を覚ませ』と告げてくるようであった。
自分のいる場所が夢なのか現実なのか曖昧になり、無意識にミラの頭を撫でる。
「っ…!?」
突然の行動はミラを大いに驚かせ、その手を勢いよく払い除けていたが、当の本人は気にすることもなく目の前に置かれた林檎を手に取って歯を当てた。
「?」
その姿に、疑問を抱くミラだ。
林檎に齧り付く様を食い入るように見つめ、首を傾げる。 

ジラクの八重歯が。
以前より鋭くなっている気がして、
「!」
そんな訳がないと自分の考えを慌てて否定した。


シャリシャリと林檎を噛み砕く瑞々しい音が二人っきりの静かな場に響く。
整った容貌は何をしていても目を引くもので、伏し目がちに食べる姿は神秘的ですらあった。
思わず見つめるミラに、芯だけ残して綺麗に食し終わったジラクが視線を合わす。
目が合ったことに驚くミラに、出かけてくると静かに告げて返答も待たずに背を向けた。
「あ。うん。いってらっしゃい」
見送りながら、二度目の疑問を抱いていた。

僅かに見える首元の赤い紋章に、前からあの位置にあったっけと不安を覚える。
今まで真剣に考えたことも無かった恐怖が目に見えて迫ってきている気がして、居てもいられなくなっていた。


一方、ミラと別れたあとのジラクはボロラ国に来ていた。
首都から特急を乗り継げばそれほど遠くなく、4,5時間もあれば辿り着く。ボロラは大陸でも比較的小さな国土の新興国だが、環境は豊かで水が多く、インフラ整備のされた綺麗な国であった。

いつも通り白のフード付き外套で容姿を隠すジラクであったが、元々、封魔士の輩出が盛んなボロラでは特に素性ばれが早く、ターミナルに着いたと同時に係員に呼び止められ、入国審査が終わる頃にはどういう訳か王族の迎えがやってきていた。
それからは押し問答だ。
その足で町へ帰る予定だったジラクに対し、彼らは宿を用意するの一点張りで、彼ほどの重要人物をお持て成しもなく帰らせる訳にはいかないと意固地になっていた。
ひっそりと入国し、南地区の境界線辺りまで行きたかったジラクだが、その計画を断念せざるを得ない。これだけ目立つようではどの道、フィローゼントの彼らに悟られることなく探ることは難しいと判断して、彼らの提案に了承していた。
入国の目的を訊かれ、封魔士のレベルを見に来たと出まかせを言えば、対応した男が目を輝かせていた。
この国での封魔士といえば、守祭よりも人気が高い職業で色々な場面で優遇される。素質が絶対主義の守祭は敬遠され、どちらかといえば技術革新で守祭の力を補えばいいという議論が活発に行われていた。それが実現可能かどうかは別問題であったが、魔物により相性があることは確かであり、様々な実験がされていた。
そうしたこともあり、ジラクの来訪は彼らにとって喜ばしいことであって拒絶する理由は何一つない。

半ば無理矢理のように連れられた先は王城の一角で、
「事前に連絡をくれれば、もっといい部屋を用意できたんだがな」
対応したボロラ国の第二王子、ガラルシアが参ったように頭を搔きながら苦言を吐いた。
「俺は王城に泊まりたい訳じゃ」
「その目立つ容姿で何言ってんだ。シヴァラーサ家の当主に何かあったら社会問題だろーが。ボロラの警備が問題視されるぞ」
「…」
無言になるのを見て、
「自分の価値くらい把握しろ」
何の気なしに予想外の言葉を放ち、密かにジラクを驚かせていた。

喉元まで出かかった言葉を無理やり飲み込んで、設備の説明をする彼の後を付いて回る。
何度も来訪があると思っているのか、どうでもいい情報まで付け加えながら、
「封魔士業をやる気になったのなら喜ばしいな。後日にでも時間があれば施設を案内する」
浮足立った口調で言って、ジラクの肩を叩いた。
「こないだ、マストーラと模擬戦しただろ?あの後、あいつプッツンしちゃって、連日のように模擬戦入れまくってた。相当、実戦訓練もしてたからまた再戦を申し込まれるかもな」
「その勢いで、三大魔物も討伐すればいいのに」
思わず零れた本音に、ガラルシアが大きな声で笑った。
「封魔士復帰の第一戦としてどうだ。丁度いいだろ?」
「なぜ俺が」
「…なんだろーな。マストーラは人脈もあるし、いい守祭を集めることも出来る。物資も支援もきっと多く集まるだろう。だけどな、討伐するには何かが足らない。
あれほどの魔物だ。シヴァラーサ家なら分かるが…」
「それは過大評価ですね」
封じられている魔物が何なのかは良く知らないでいた。
大戦の後のことであり、忘れ去られた記憶の間に起こった出来事はどうしても思い出せない。
内容を聞くことはあっても見たことも無い魔物を判断することは出来ず、それがどんな脅威かすら分からずにいた。
ただ三大魔物はいずれも巨大な体躯の魔物で広範囲攻撃を得意とし、甚大な被害が出たという。
それほど強大な魔物の封印を解こうなど自殺行為に等しいが、フィローゼントが何を考えているかなど分かるはずもなく、御せるという自信もどこからくるのかと不思議であった。
「いや、お前なら、」
「その過大評価が大戦を招いたんでしょう?」
ジラクの言葉にガラルシアが困惑の表情を見せる。
静かな顔で見つめる金の瞳は何の感情も無く、肉親を喪った怒りすら宿ってはいない。
「西大陸は魔物の領域だ。西大陸の王が怒るのも無理はない」
「だからって人が殺されていい理由にならないだろう!」
「理由?」
腕を掴むガラルシアの手を払いのけて復唱するジラクは冷えた声で、
「魔物は殺すのに?」
感情を見せないまま問い返した。
「っ!」
人への恨みがある訳でも、魔物への憐憫がある訳でもない。静かな表情で返す疑問は正論中の正論で、ただ、それは認める訳にはいかない正論であった。
「…お前の考えは分かったよ。そんなだから呪われてると言われるんだ」
それ以上の討論を諦めたガラルシアが大きなため息交じりに呟く。
「…」
「服を用意させる。その恰好じゃ暑いだろ?準備が出来たら街を案内するから飯でも食いに行こう」
断ろうとしたところで、
「これは命令な」
強引に決められていた。
時刻は丁度、夕食時で彼にも都合があっただろうに、わざわざ時間を割くと言っている男の誠意を無下にする訳にもいかず、同意を返す。
ガラルシアが安堵の笑みを浮かべたことが理解できないジラクだ。

部屋の入口で別れた後、室内の内装を何気なく眺めていると直ぐに仕えの者がやってきて、身軽そうな服を何着か置いていった。
ジラクの格好は長袖で素材もしっかりとした物であったが、ガラルシアが言うようにここでは厚着に当たる。気温も5度ほど高く、じっとりとした暑さを感じる気候で風も少ない地域であった。
用意されたシャツはひんやりとした薄い生地で感心するほど肌ざわりがよく、ズボンも同様の薄手で確かに過ごしやすい素材だったが、目立つことに変わりはない。
時間を置いて再びやってきたガラルシアがジラクを見て、密かに口角を上げていた。
「行こうぜ」
ジラクも目立つが、ガラルシアの容姿も特徴的ですぐにこの国の王子だと分かる。それでも全く気にしていない様子はラグナスと出掛けたときのような気楽さがあった。
彼ほどの身分であれば護衛が周囲を固めていて、素性を知られたところで大騒ぎにはならない。
しばらく滞在すれば彼も飽きるだろうと軽く見て、大人しく彼の接待を受け入れることにするジラクであった。


2023.08.06
訪問・拍手いつもありがとうございますm(_ _"m)💦
闇落ち感まっしぐら…。ジラクが気が付かない内に変調が始まっているのです(*´꒳`*)。獣化させちゃうゾ〜(笑)。
個人的に首の後ろの紋章は結構好き。シャツだと隠せない💛でも自分では見えない(笑)。

拍手する💛
    


*** 31〜 ***