【総受,クーデレ,冷血,無表情,呪われ】

 ***1***

小さな町にも関わらず、知らぬ者がいないほど有名な町があった。
年中観光客が訪れ、その町の奥にある豪邸を見て帰る。
中には、敷地を囲う柵がない事をいい事にその家の裏手に行き、覗く者までいる始末で、それ程、この家に住む主は名を馳せた人物であった。

『大陸一の封魔士』
この家の主の呼び名であると共に、『無感情で血も涙もない冷血漢』といった不名誉な噂がいくつも飛び交う。
世にも珍しい金髪・金瞳という美しい相貌に反し、彼の冷たい眼差しと不遜な態度は多くの人々の反感を買う。
大層な呼び名に対し、実際は廃業状態であることも噂を助長していた。

その不穏な噂以上に。
彼の見目は美しく整っていて、多くの者が不穏な噂を知りながらも、その姿を一目見たくて訪れる。
そうして彼を見た瞬間に、不可抗力ながら見惚れるのであった。

******************************

軽快な音を立てて、酒場の扉が開く。
この小さな町にある唯一の酒場は、誰もが顔なじみの酒場であった。
そんな中、落ち着きのない様子の観光客が幾人か居て、目当ての人物がやってくるのを待ち侘びていた。扉が開く度に何度も入口を振り返る。
そうして待ち詫びた集団がやってきた時、一斉にざわめきが大きくなっていた。

「シヴァラーサ家だ」
「兄弟全員いるぞ」
ざわめく酒場に女性陣の瞳が輝きを増す。
興奮した面持ちで入り口を振り返り、一際目立つ集団に目を瞠る。

酒場に飛び込むようにして一番最初に入ってきたのは活発そうな少年で、希望に満ちた茶色の瞳が生き生きと輝く。
そのすぐ後ろを鋭い目付きをした男が無言で入ってくる。はしゃぐ少年の頭を叩いて、落ち着けと文句を零していた。
「痛いなーザキ兄。何もぶたなくても」
頬を膨らませて振り返る少年にとっては義理の兄である。
「ミラ、お前が朝からうるせーからだよ」
頭を叩いたザキが目を細めて見下ろす。
そんな二人の痴話喧嘩を穏やかな微笑みのまま見詰めるのはラーズルという青年で、義兄弟の中で一番の年長者だ。
セピア色の髪がサラリと揺れて二人を見守るように優しい表情を浮かべていた。

全く血が繋がっていない彼らだが、それぞれ個性的な面々で、ミラは少年ながら将来はイケメンに育つであろうことが予想され、続くザキは目つきが悪いが野性的な魅力を放っていた。次男のラーズルは落ち着いた雰囲気と共に、その優しさ溢れる微笑が女性たちに人気で、三者三様の魅力があり、シヴァラーサ家の血を引いていなくても一目置かれるような存在だった。

黄色い声を発する彼女たちの視線が集まる中、最後に入ってきた人物を見て、酒場に一瞬の静寂が生まれる。
眩いほどの金髪に、目も覚める金の瞳、そして抜けるように白い肌の持ち主は言わずと知れた豪邸の主、ジラク・シヴァース・ラーサという男で、代々有名な封魔士を輩出してきたシヴァラーサ家の現当主であった。
その類稀なる美貌と、世にも珍しい金髪金目は常に人々の噂の的だった。

彼が酒場に入っただけで世界は気配を変え、喧騒も消え失せる。
その金髪の鮮やかさに、酒場特有の空気は一気に浄化され室内が明るく輝くようだった。

勿論それは錯覚に過ぎないが、当の本人は、呆けたように見つめる人々の視線など気にもせず、テーブルについてオーダーを頼んでいた。


ジラクがこうして酒場に毎日のように来ることには理由がある。
シヴァラーサ家の専属の守祭が持つ『神秘の石』という特殊な加工石があったが、それが14年前に勃発した魔物との大きな戦争により失われてしまい、その情報を求めていた。
これだけ小さな町だ。
唯一の酒場は最も交流の盛んな場所で、多くの観光客や行商人が流れ込んでくる。

『笑わずのジラク』
そう称されるように、そういった事情が無ければ好き好んで人が集まる場所には来ない。
ジラクという男はそういう人間なのである。
常軌を逸した美貌に反し、その表情は氷のように冷めた無表情で笑み一つ浮かべることのない男であった。

周囲とは隔離した独特の雰囲気を漂わせる彼らに、
「ジラクだろう?」
物怖じしない口調で一人の男が声を掛ける。

その行為は相当の勇気を有するもので、ジラクの性格を知っている者たちはその行為に仰天する。
彼に声を掛けても大概は無視されるか、冷たい一瞥を浴びせられるからだ。
ジラクに関する悪い噂は大陸中に広く知れ渡っていた。悪い噂がそれほど蔓延っているにも関わらず、ジラクを見たがる者が多いのは一重にその世にも珍しい金髪、金目という特徴と、その恐ろしいまでの美貌にある。

ジラクは背の高い男を一瞥して、冷たく凍えるような声を発した。
「そうだが、有意義な情報以外は断る」
暗に興味本位で話しかけるなと言う意味だったが、相手の男はニヤリと笑い小声で、
「神秘の石を探してるとか」
そう囁いた。
ジラクの目的を知っていて、尚且つ求めている答えをちらつかせる。

兄弟たちが目を瞠っていたが、ジラクは至って冷静に視線を投げて先を促すだけで、
「別室で話したい。正統なシヴァラーサ家の貴方だけで」
兄弟たちを見下すような目をして言うセリフを咎めるでもなく、
「いいだろう」
そう言って酒場にある奥部屋を顎で指す男に大人しく従った。


「悪かったねー!どうせ血がつながってないよーだ!」
残されたミラが不満一杯の顔で文句を言って、去っていく二人の後ろ姿に舌を出す。
「怒んなよ。だから子供なんだよ、お前は」
ザキはそんなミラを横目に見て自分を見てくる女の子に愛想を振りまくように手を振っていた。
それに答えるように黄色い声が一斉に上がる。

「神秘の石なんてガセじゃねーの。あんな怪しい奴にジラクさんもよく付き合うわ」
ザキの後ろから割り込む声が言って、空いた椅子に腰かけミラの隣に座る。
色素の薄い茶髪は珍しい髪色でその容貌も整った男前の顔だ。背が高く、町でも噂の色男の登場にミラの目が輝く。
古くからシヴァラーサ家とも交流がある男で、サーベルと呼ばれた彼はミラの恋人だ。
「俺も疑問だな。神秘の石は残りあと2つだろ」
サーベルの本音にザキが同意する。
魔物を倒す事を職業とする封魔士、それを補助する立場にあるのが守祭という存在で、その守祭が自身の血を混ぜ長年をかけて、作り上げるものが神秘の石といわれる。力のある守祭であればあるほど、年月が経てば経つほど、神秘の石は力を増すと言われている。
石の材質は守祭の派閥により異なるが、どの守祭も見目が綺麗なものを使い、シヴァラーサ家も同じく、美しく希少な七色に輝く石を使っていた。

「神秘の石は兄貴の呪いを解くのに必要とか。それを優先する兄貴の気持ちも分かるけどさ」
ミラが呟く。
「情報屋だからってよくこんな辺鄙な町まで来るよ」
そう言うザキの言葉を聞いてサーベルは警戒するように奥部屋に視線を投げた。
「シヴァラーサ家は金があるからな。さすがに騙されるってことは無いと思うけどな」
答えながらもどこか不安げな表情で、その不安が伝染したように一瞬の静寂が生じる。
「ま、兄貴がどうしようがどうでもいいし、気にする必要ないだろ」
ザキの言葉に、
「そうだね!」
ミラが賛同して、注文した料理に手を伸ばした。

兄弟といえど、すなわち仲がいい訳ではない。
特にザキとミラはジラクのことを兄弟として敬ってもいなければ、好意を抱いている訳でもなかった。


彼らを繋ぐのは絆ではなく、あくまでも『シヴァラーサ家』の『兄弟』という形ばかりのものであった。




    


 ***2***

「お前、魔物だろ?」
奥部屋は秘密の話や情事の場として利用される事が多い。
ジラクはそんな部屋でテーブルを挟んで褐色の肌の男と向かい合っていた。
「…」
話し終わった後になってからされた突然の投げ掛けに、男が口角を上げて笑みを浮かべる。

魔物には特有の気配がある。
かなり高度な擬態能力で隠していた筈だったが、それを簡単に見破られたことへの好奇心からの笑みだ。
「知りながらこんな場所で二人っきりになるとは、随分と無防備な封魔士だな。守祭なら大騒ぎになってる。それとも、殺されない自信でもあるのか?」
男の物騒な問い掛けに、ジラクの冷めた瞳は一切の変化もなく、
「人が西大陸の上位魔物に勝てると本気で思ってるのは、守祭くらいだ」
あろうことかそんな言葉を返した。
興味も無さそうに傍らに置かれた料理に手を付け、無色透明の酒を喉の奥へと流し込む。
「黒龍石が変わった人間に固執してるという噂を聞いたが、確かに変わった男だな。父親を魔物との大戦で亡くしたにも関わらず、魔物が憎くないのか?」

彼の口から飛び出てきた名前に、ジラクの瞳が男を見る。
質問には答えずに、
「黒龍石にはもう長いこと会ってない。彼が俺に固執してるという噂は何かの間違いだ」
断言したジラクに、男がさも可笑しそうに笑った。
「魔物の気配をそれだけさせておいて、関わっていないとは面白いことを言う。
何故、俺が封魔士であるお前に情報を与えるかと言うとだな、黒龍石を西大陸の支配者という地位から叩き落としたいからだ。何でもアレの思い通りに事が運ぶのが気に食わない」
「西大陸の権力争いなぞどうでもいい」
続く男の言葉をばっさりと断ち切って、
「情報の対価は金か?それとも黒龍石のことか?」
相手に訊ねれば、予想外なことに相手はニヤリと笑みを浮かべて、ジラクの唇を求めた。

そんな時ですら、ジラクは無表情のままで、その神秘的な金の瞳が相手を探るように見詰めていた。
普通の人間ならたじろぐほどの強い眼差しだ。

そのまま近づいてくる唇を見てもジラクは拒絶一つしなかった。

「対価がこれでは安過ぎるんじゃないのか?」
唇に触れるだけのキスは人間だろうと魔物だろうと変わらない。
離れていく相手を見て尋ね返すジラクは自分の価値には無頓着で、
「大陸一の封魔士のキスが?」
そう言う男の言葉に、
「それは俺じゃなくて父だ。俺は封魔士業をしていない」
どうでもいい肩書だと吐き捨てた。
「世間は違う。お前が大陸一の封魔士だと思ってるし、そうであって欲しいと願ってるだろう?」
封魔士を目指す人にとっては最高の言葉でも、
「関係ない話だな」
ジラクにとっては心底どうでもいい事だった。

欲の無い、自分にすら無関心のジラクを見つめて男は笑い声を上げる。
それを冷ややかに見るジラクだった。


******************************


「信用できるの?その情報」
棘の混じる声でそう聞くのはミラだ。
そもそもあの男の態度が気に入らず、全く信用する気すらない。
「俺も同感。隣町のママラにあったなら、どうして今まで気付かなかったんだ?」
指についたソースを舐め取りながらザキも賛同する。
「さぁな。石職人の手に渡ったらしいから、倉庫に仕舞われたままだったんだろう。行く価値はある」
「ジラクがそう思うなら僕はいいと思うよ」
夕食の席でいつもジラクの隣に座る少年は、フワフワの巻き毛をした少年で、ジラク自らが兄弟として迎え入れた末の弟である。
ミラよりも年下の彼が天使のような笑みを浮かべてジラクに絶対の信頼を寄せていた。

白い指が彼の口元へと伸び、
「テーラ。ソースが付いてる」
茶色い液体を拭い取る。それをそのまま自らの口元へ運び、舐め取った。
「…」
ジラクがテーラに甘いことは全員が知っていた。

唯一、ジラクに選ばれた兄弟、それがテーラだ。

「ママラだが、明日にでも行ってこようかと思ってる」
ジラクの言葉に被さるように、ラーズルが名乗り出ようとした所で、
「ザキ。荷物持ちで一緒に来い」
ジラクが言った台詞を聞いて、言葉を飲み込んだ。
「はぁ!?何でだよ!兄貴となんか冗談じゃねぇ!」
全面拒否のザキの言葉も右から左に素通りで、
「お前が一番、食費掛かるだろう?ママラはお前の好きなフルーツも多いし、特産物も多い。どうせアレコレ欲しいって言うだろうが。穀潰しなんだから食材くらい運べ」
ぐうの音も出ないくらい盛大な正論を吐かれ、唇を震わせて怒りに震えていた。

穀潰しは兄貴も同じだろうが、と言いたい所だが、ジラクは過去の成果物やらその特殊な家柄故の名誉金やらで働かなくても金が入ってくる地位だ。

ミラの、お気の毒様、という嫌味を聞いてザキが歯軋りをする。
「く…」
ザキの苦悶の顔はジラクにとっては何の意味も為さないのか、そのままテーラに、
「お前はミラといい子に留守番を頼んだぞ」
頭を撫でてそう言った。
「僕も行きたいな〜」
ザキの心とは裏腹にテーラの暢気な声が言う。

神秘の石だろうが何だろうが、それはジラクの都合だ。
元々いい感情を抱いていないザキだけに更に腸が煮えくり返りそうだった。

そうして迎えた翌日、歩いて数時間の距離の田舎道を先に行くジラクの背中を睨みつけながら、ザキがぶつぶつと文句を零す。
「兄貴だけで行けよ…なんで俺が…。大体、勝手なんだよ…」
一日経っても収まらない苛立ち交じりの苦情に、
「何が不満なんだ」
些か聞き苦しくなったのか、ジラクがついに言葉を返す。
それを苛立ちの勢いで、
「全部に決まってんだろうが!俺は守祭様のために兄弟になっただけだ。あの人の為じゃなきゃ誰が…っ!」
ハッキリと言ってから、さすがに言い過ぎたと僅かながら後悔する。

前を向いたままのジラクの反応は分からない。
だが、
「俺もそうだという事を忘れるな。ザキ」
氷のように冷たい美声は、全く揺ぎなく、
「家族は要らないって言った筈だ」
初めて会った時に告げられた言葉と同じ台詞を吐いた。

前を行く背中からは絶対の拒絶が立ち込め、いつも以上の鉄壁さで踏み入ることを許さなかった。
それからは黙々と歩き続ける。
ママラに着くまでの間、ずっと重い沈黙が続くのだった。


2022.11.26
とりあえず、立ち上げてみました…(^-^;
これに関しては人物が多いので新たな試みとして相関図作成(笑)。
随時修正追加するかもです…(;^ω^)

web拍手
    


 ***3***

ちょっとした丘を抜けた辺りから民家が見えてくる。
町の人々が向こうからやってくる二人に気が付いてざわつき出していた。

この世界で金髪は浄化の色と言われ、非常に希少な色である。
金にも様々な色合いがあるが、ジラクの髪色は陽の光に負けないほどの鮮やかな金色で、その髪質は金糸のように繊細だ。
髪色だけでなく瞳まで金色のその風貌は、世界でもただ一人の特徴で、
「ジラクさんだ」
やってきた人物が誰なのかすぐに判断できるほどだ。

とはいえ、隣町だ。
ジラクが訪問することはそれほど珍しいことでもなく、彼を初めて見た人々のような大きな騒動には発展しない。
「ジラクさん、今日はどういった御用で」
慌てて出てくるのは町長で、ゴマをするように両手を擦り合わせる。それから後ろに立つ鋭い目つきの男に気が付いて、軽い会釈をした。
「石職人がいると思うが、彼に会いたい」
「シセですね!…宝石をお買い求めでしょうか?彼はつい先日、由緒ある大会で賞を取ったばかりですよ!すぐにお呼びしますね」
勘違いした彼が目を輝かせて、率先して場のセッティングをした。

案内されたのは町の中央にある洒落た喫茶店で、石造りのその店舗は町の中ではかなり大きな店舗であった。
席に着き、飲み物を注文する。目的の人物がやってきたのは、それから僅か数分後のことだ。

慌てた様子でやってきた男は正に職人風の男で、シャツ一枚に汚れた前掛けをそのままに、額には汗を浮かべていた。その後ろに勝気そうな長い黒髪の少女がいる。

促されるまま席に着く二人に対して目的を話せば、二人は困った顔をしてジラクを見詰めていた。
「まさか、これがシヴァラーサ家の神秘の石とは知らず…」
「私の婚約石なの。それに、シセが初めて石職人として認められた作品でもあるの。
もう御当主は封魔士業はしていないのでしょう?なら…」
懇願の眼差しで言う彼女の台詞を、
「マリア!」
シセの呼び声が押し止めた。
「そう言うことは言うものじゃないよ」
優男風の彼が珍しく窘めるのを聞いて、彼女が申し訳なさそうに俯く。
「ごめんなさい。封魔士業をしてなくても大切な物には変わりないのに…」
二人のやり取りに、ザキは隣で静かに飲み物を飲むジラクを横目に見る。

彼女の胸元には彫り加工された七色の石が輝いていた。
あれほど探し求めていた神秘の石を見つけても、冷静沈着なままのジラクにもやもやとした苛立ちを感じていた。
不満を露わにするザキに対し、シセはビクビクとした様子でジラクを窺い、返答を待つ。

ジラクにまつわる良くない噂は、当然、シセの耳にも届いていた。
冷血漢で人を虫けらのようにしか思っていない。無感情で横柄な現当主は我儘放題に育った放蕩息子だとまで言われている。
勿論、そこには封魔士業の依頼をして断られたことによる腹いせも含まれていたが、そんなことは知る由もないシセだ。

偏見や見かけで判断している訳ではないが、あまりにも悪い噂が多く、会うのが怖いというのは事実だった。

そんな不安も、
「彫ってしまった物は仕方ない。必要な時だけ貸して貰ってもいいか?」
そう言ったジラクの言葉で吹き飛んだ。
「それで…いいんですか?」
勿論、シセとしては大歓迎な申し出だ。
だが、人の物だという感覚が拭えず、何となく後ろめたい思いにさせられる。
「婚約石なんだろ?」
そう言う彼の顔には何の感情も浮かんではいなかった。
神秘の石に加工をしてしまった事を怒るでもなく、淡々としている彼を見てシセは衝撃を受けていた。

ジラクという人物への見方が180度変わる。

彼の冷たい態度には悪意がなく、ただひたすら静かであった。
『彼』という人間に対する好奇心が膨れ上がり、不思議なほど無関心な姿に疑問を抱く。
そうして、彼の生き方は凄く勿体ない気がしていた。

これだけ整った容貌なのだから、感情を素直に表現すれば人々の印象も変わるだろうに。
大陸中に蔓延る悪い噂を残念に思っていた。

数十分程度、他愛無い会話をしたあと、二人がお辞儀をして去って行く。
緊張した面持ちだったシセがすっかりリラックスした体で別れの挨拶をするのを不思議な気持ちで眺めるザキだ。
それから、再び二人きりの空間に取り残されたことに気が付いて、どんよりと溜息をついた。

会話がなく、気まずい沈黙が続く。
カップの中身が無くなるのはまだかとさり気なく観察しながら、落ち着きなく貧乏ゆすりをしていた。
大概、ジラクに率先して話掛けるのは、ラーズルかテーラだ。
二人がいないと共通の話題もなく、ついには沈黙に耐えられなくなって、
「…兄貴にかけられた呪いって何なんだ?」
今更の質問をしていた。

シヴァラーサ家に入ってから、随分と経つ。
だが、誰もこの話題には触れなかった。

「さあな。俺も良く知らない。呪いなんて無いのかもしれない」
ジラクの他人事のような口調にザキは呆れる。
「でもその為に神秘の石を集めてるんだろ?その力で呪いを解くんだろ?」
「…大戦で失われた父の物を取り戻したいだけだ」
窓から差し込む陽の光に照らされた金の瞳がキラリと光った。
何故かドキリとして、ジラクの顔を見詰める。

14年前の大戦の話は、人々の間では禁忌に等しい話になっていて、あまり話題に昇らない。
なぜなら多くの守祭と封魔士、そして当時、大陸一の封魔士と呼ばれていたシヴァラーサ家の前当主が魔物と全面戦争になった際、大敗北を喫した忌まわしき過去だからだ。

あの時に何があったのかを知る者は少なく、守祭ですら口を噤み多くは語らなかった。
ただ、その大戦で百人以上はいたシヴァラーサ家の専属守祭はその場を去り、僅か数名が残るだけとなっていた。
それからというもの、守祭総本家とシヴァラーサ家の折り合いは非常に悪く、祝いの席への招待もなければ、記念日に顔を見せに来ることすらなかった。

誰も口にはしないが、シヴァラーサ家で何かがあったのだと推測していた。
それがジラクの呪いと関係しているのかどうかすらわからない。

一緒に住み、家族として生活しているにも関わらず、知らないことが多すぎた。
「…」
一先ず、収穫らしい収穫があったのはいいことだと思い直し、ようやく家に帰れると勇む。
外を眺めるジラクを心の片隅で気にしながら、重たい沈黙から解放される喜びを噛みしめるのだった。


22.12.01
今日はすったもんだで大変な一日でした…(^-^;
気晴らしにこちらを上げておきます(笑)。
ツンデレ?は死語っぽい?クーデレも死語っぽい???
澄まし受け?は今の時代、何ていうでしょうね?(;'∀')まんま、お澄まし受け?(笑)
まぁジラクが澄まし受けかというと、ちょっと違うような…(;^ω^)?

さりりさん、こんばんは〜(*^-^*)♡
喜んで貰えてホント良かったです(..>᎑<..)ノ♡
もしかしたらお忙しかったりで訪問されてないかもしれないと思いましたが、変わらず通って頂けてて光栄です(笑)
他の作品も萌えて下さり、本当ありがとうございます(*´꒳`*)!
ジラクは長丁場になりそうなので、今後も癒されてくれると嬉しいです(笑)。更新もサクサク進めるよう頑張りたいとは思ってます(^^)o
さりりさんも一気に冷えてきたのでお体に気を付けてお過ごし下さい〜♡

    


 ***4***

かつてのシヴァラーサ家は人の出入りも多く、立派な厨房があり調理師もいた。
今となってはそこも乱雑に物が置かれた倉庫で、それとは別に一般的なキッチンが作られていた。

ジラクとザキが無言のまま帰宅したとき、キッチンでは騒がしい話し声がして、誘われるようにそちらに向かう。
ジラクの帰宅に気が付いたラーズルがすぐに明るい表情になって、
「おかえりなさい。ジラク」
まるで仕事帰りの夫を労う妻のように甲斐甲斐しくジラクの荷物を受け取り、流しで手を洗うジラクに清潔な手拭きを差し出す。
たった今焼きあがったばかりのハート型のクッキーを一つ手に取って、
「丁度おやつを作ってたところです。味見してください」
ジラクの口元へと差し出していた。
「ザキ。手は洗面所で洗って下さい」
二人の脇を通り過ぎて流しで手を洗う彼には文句を言い、ジラクをキラキラした目で見つめる。
その極端な態度はさすがのラーズルとでもいうべきか、彼のそんな態度に兄弟たちは既に慣れ切ってしまって誰一人文句をいうことも無かった。
「どうですか?」
口を開いて受け取ったジラクに、感想を窺うラーズルはどこからどう見てもジラクにホの字であったが、
「あぁ」
無表情で答えるジラクは、彼の熱の籠った眼差しには気が付いてすらいない。

口内で噛み砕いて飲み込む。
視線が集まる中、ジラクが放った感想はそれだけだった。

喜怒哀楽が乏しいだけでなく言葉数も少ないのがジラクという男で、彼の心を把握するにはかなりの慣れを要する。それでも、2つ目にも手が伸びるところを見て、美味しいのだと伝わっていた。

3つ目が食べ終わった頃、無言のままミラの元へと歩み寄る。
「え?」
目の前に迫るジラクの存在に間抜けな声が出るミラだ。
身長差15cmは大きく、体格差もあるジラクの身体はミラよりも一回り以上も立派で、棚に押し付けられる形で迫られれば、すっぽりと身体が隠れてしまう。
目前に迫る白い鎖骨を見て何事かと焦る彼をそっちのけに、ジラクが棚の一番上から大皿を取った。

「あぁ、皿ね、…皿」
クッキーを大皿に移し替えるジラクの片隅で、ただの勘違いだったと妙な安堵を洩らしていた。無駄に焦らされ心臓が馬鹿みたいに爆音を立てる。
「?」
そんなミラの挙動を一瞥して、勘違いしたジラクが一つを掴み取って差し出した。
先ほどのラーズルと同じように、ミラの唇に押し付けて、
「食べたいんだろ?」
有無を言わせない冷めた声音でそう訊く。
その瞳は、見る者を凍らせるほど冷徹な金色で優しさの欠片もない。
「っうぐ!」
無理矢理押し込むようにされれば口を開かざるを得ず、半ば強引に食べさせられていた。
口いっぱいにして咀嚼しながら、
「さっき味見したって!」
文句を返せば、ジラクが無表情のままミラの顎を掴み、唇に付く食べかすを親指で拭い取った。
「…」
恋人がするようなその仕草もジラクに深い意図など勿論ない。

もしこれが彼氏であれば相当の俺様彼氏で、一部始終を目撃していたザキはドン引き状態であった。
ミラと目が合って白々しく肩を竦めてニヤける。
ザキに揶揄われ、瞬時に顔を赤くしたミラがジラクを突き飛ばすように押し退けていた。

それでもジラクの身体はそんなに軟ではなく、小柄なミラが強めに押した所で、大してびくともせずに終わる。それが尚更ミラを苛立たせたが、そんなことはジラクにとってはどうでもいい事柄で、
「夕飯まで書斎にいる」
要は邪魔をするなという意味だが、そう言って背を向けて去って行った。

「あ」
声を掛ける隙すら無い背中にラーズルが残念そうに眉を下げて、
「折角、ジラクの好きなレモンを入れたんですが…」
「うま!美味いじゃん!うまっ!」
ザキがひょいひょいと摘まんで口に放り込んでいく様を恨めしそうに眺める。
それからふと、ザキが思い出したようにそういえばと口にして、神秘の石が見つかった件を話し、二人が驚きの声を上げていた。
「ジラクは本当に何も言わない」
ラーズルの嘆きも当然のことで、ジラクは自分のことだけでなく、大事なことも何一つ言わない男だった。


******************************


書斎とは、つまり亡き前当主の部屋を指す。
大きな仕事用デスクが部屋の中央に置かれ、周囲は魔物に関する専門書で埋め尽くされていた。

机の上は散らかっており、前当主が出ていった当時のまま一切片付いていない状態であった。

実際、ジラクは書斎を使う訳ではない。
中央に鎮座する立派なデスクも、そこに並べられた大量の専門書も。
ただの思い出の品々に過ぎず、いってみれば部屋の装飾品のようなものだった。

ジラクはというと、近くにあるソファに横たわって虚空を見つめたまま、ぼんやりと考え事をしていた。
守祭の多くが大戦の時のことを語らないのと同じように、ジラクもその時のことは語らない。

というよりも、彼は当時のことをよく覚えていなかった。
あの時のことを考えると、酷い頭痛と吐き気に襲われて、頭の中がかき混ぜられるような錯覚に陥る。
何かとてつもなく恐ろしいものが身体の奥にある気がして、すぐに考えを中断せざるを得なくなっていた。


そして、その日も。
「──ッ…」
得体の知れない何かが胸に宿り、その衝撃に身震いする。身体の芯から全身へと広がっていく痛みと疼きに呻き、それに耐えるように瞳を眇めた。

丁度、その時、扉が静かに開く。
宣言したにも関わらず書斎に無断で入ってくるような人物はジラクが知る限り二人しかおらず、
「…大丈夫?」
天使のように愛くるしい外見の少年が眉根を下げてそう訊ねた。

兄弟たちから『唯一ジラク自身が選んだ兄弟』と揶揄される少年だ。
「…テーラ」
ソファの上でぐったりした有様のジラクが僅かに腕をあげる。
それに答えるように彼が駆け寄って、
「大丈夫だよ。僕がいるよ」
ジラクの白い手を取って、優しく両手で包み込んだ。

仄かに白い光が溢れ、ジラクの手を包み込む。
「ジラク。安心して」
白い手に額を付け、祈るように呟く。柔らかな巻き毛がさらりと手の甲に触れ、不思議と異常な何かが落ち着いてくるジラクだ。
僅かに乱れていた呼吸が静かになり、
「一緒に昼寝でもするか?」
テーラを引き寄せるようにスペースを作れば、彼が天使の如く穢れない笑みで大きく頷いた。
小柄な身体を抱き寄せるようにして、テーラを包み込む。

暖かな温もりは、ジラクの冷たい身体に丁度よく、得体の知れない何かが恐れを成したように遠ざかっていった。
「…」
静かな呼吸を繰り返すジラクをちらりと上目遣いに見たテーラが不安な表情をしたのは一瞬のことで、すぐにジラクの胸に頬を付けて彼に抱きつく。
日頃は無血な彼もテーラにだけは甘く、彼の行為に対して文句を言ったり冷たい態度を取ったりはしなかった。



2022.12.08
闇渦巻いているのがジラクです(*´꒳`*)ノ
常に闇落ちギリギリで生きてます(;;⚆⌓⚆)という妄想(笑)。

拍手、訪問ありがとうございますm(_ _"m)!!更新、一応、頑張ってます(笑)。色々更新中な気がするので、色々サクサク進むよう頑張りますね(^^)/!!

さりりさん、こんばんは〜!またしてもコメント嬉しいです!(*'-'*)♡
完結のお祝いも大変嬉しいです!ギエンは割とあっさり目に完結してみました!(笑)日常っぽい感じのさらっとした形が似合うのかなと勝手に思ったりしてます!(^^)!
ぶっちゃけますと、ルギルが一番ギエンに尽くしてる気がします(*^-^*)♡でも報われない、そこがイイ!(^^)!the鬼畜!♡(笑)
イメージ変わって嬉しいです☆彡!(^^)!
ゾリドとゼレルは全く盲点でしたが、番外候補で考えてみますね〜(*^-^*)ありがとうございます♡

ジラクに対するコメントもありがとうございます(*'-'*)ポッ♡ツンデレ繊細は可愛いですよね!!特に強制的なHシーンが萌えます(笑)←コラ!
好きなようにして下さいのお言葉に安心しました(笑♡)。イメージを壊すとアレかな?とか気になっていたので、よかったです!ご丁寧にコメントまでありがとうございます(#^.^#)!
ジラクも大人年齢なのでそこそこ年相応の男前らしさを持ちながら、繊細クールを維持していこうかと思います(この二つは両立できるのか…???!笑)
また読みに来て下さると嬉しいで〜す(*´꒳`*)ノ♡

    


 ***5***

神秘の石が見つかったといえど、それに対してジラクが何らかのアクションを起こすでもなければ、兄弟に対し何かを共有するといったこともないまま数日が経っていた。

ジラクの日常は非常にまったりとしたもので、来訪者が無ければ平和そのものだ。
行動自体が定常化しており、ほぼ似たような一日を過ごすことも多かった。
変化を望まず、能動的な活動もしない。いうなれば一日中空を眺めて過ごすような、そんな日常を良しとする性格は、一般的な考えで言えばかなり変わっている。
兄弟がいなければ、ジラクの生活はもっと空虚なものになっていただろう。

笑み一つ浮かべない冷血な無表情は、生物本来の『生きる』というレールにすら乗っていないかのように達観したもので、その無関心さは自分の生死さえどうでもいいかのように冷めた気配を持つ。

どんな暴言を吐かれようと平然としているジラクに、人々は血も涙も無い男だと噂するが、実際は人並みに感情を持ち、それが表情には出ないだけだった。
だが、そのことを理解している人は少ない。

そんなジラクの複雑さを一番、理解しているのはサーベルといえるだろう。
年の近さ故か、他の人ならしないであろう暴挙も平然とやらかす彼は、ジラクの感情の機微を把握しているかのように距離感を掴むのが巧みであった。

そうしてその日も。
広いベッドの上でぐちゃぐちゃになった布団に赤子のように包まる人物を見て、苦い笑いを浮かべていた。

朝のジラクはとにかく酷い。
着崩れた服からは肩がはみ出し、その白い肌を晒す。シーツの上に散らばる金髪に、子どものような無垢さで閉じられた瞳は年齢以上に幼く見え、無防備この上ない。

そして事実、朝のジラクは非常に無防備であった。
「ジラクさん」
ベッドに腰掛けて声を掛けても起きる気配はまるでなく、頬に手をかけて軽く叩いてもそれは同じで、
「…ん」
ジラクにそんな事しようという人物はまず稀有であったが、サーベルは違った。
据え膳は間違いなく食う性質であり、そのことに罪悪感など微塵も感じない生粋の誑しで、むしろ朝からムラムラさせるジラクが悪いとすら思うくらいであった。

顔の横に手をついて、睡眠を貪るジラクに覆い被さるように薄く開いた唇にキスをする。
何もこういう行為は初めてのことでもなく、相手が軽いキス程度じゃ目覚めないことを知っていた。

顎に手を掛け深く口づける。
「ふ…ッ。ン…」
柔らかな唇は弾力があり、その口内はジラクの冷たい気配に反して、蕩けそうなほど熱い。素直な舌は絡めれば絡めるほど反応を返し、剥き出しの肩を小さく震わせる。
ジラクと初めてキスをした者ならば、その第一印象とのギャップに驚くだろう。荒れ一つ無い唇はふっくらとしていて熟した果実のように艶があり、その柔らかで滑らかな唇は一度触れると癖になる。
濡れた舌は健康的なピンク色で、血が通った生きた人間だと実感させた。

誘うように絡まってくる甘い舌を思う存分に堪能していると、
「っ…、んぅ…、…ぁ」
色っぽい声を漏らすジラクを見て、そろそろ起きる頃かと察知した。

当然ながら、バレたら何を言われるか分かったものじゃない。

スッと離れてジラクの濡れて光る唇を指の腹で拭った。
丁度そのタイミングで、瞳がゆっくりと開いていく。

いつもの鋭い視線ではなく、寝ぼけ眼の蕩けた瞳はサーベルの心を逸らせるもので、必然的に目を奪われる。
神秘的な金の瞳が潤んで何ともいえない輝きを放ち、宝石以上の美しさを持っていた。

寝起きのジラクは知る人ぞ知る眼福だ。
普段の男らしくもあり、それでいて整った美貌は冷たいながらも目の保養ではあるが、寝起きの表情は格別の魅力があった。

「おはようございます。ジラクさん」
素知らぬ顔で交わす朝の挨拶に、
「…また泊まったのか」
寝ぼけ気味の掠れ声が訊ねる。
「お前が来るのはどうせミラの…、っ」
事だろ?
そう言おうとして、何かに気付いたように口元に手を持っていった。

「甘い…」
その言葉にギクっとするサーベルだ。
朝食に出ていたフルーツを思い出す。甘い独特な味がするマニラの実を思い出して視線を宙に泳がすサーベルを、ジラクがじっと見つめていた。
とはいえ、さすがにそんな可能性は思いつきもせず、短い沈黙のあとに気のせいかと呟いた。
「ミラと市場に行くんですけど、いいですか?」
内心の安堵を隠すように素早く話題を切り替えて、本題に入れば、
「…変な所に連れて行くなよ。それでなくてもミラは絡まれやすい」
同意しながら忠告するジラクは意外なことに、しっかりと兄業が染み付いていた。
当人たちには、伝わりにくい想いだ。ジラクの言い回しの問題もあるだろう。
思わずそんなジラクに苦笑を返す。

勿体ないなと思っていると、サーベルの存在を気にもせず服を脱ぎ始めたジラクが、目の前で白い肌を晒していた。
「…」
その背中には真っ赤な紋章が大きく描かれ、美しい肌を汚す。
ジラクの呪いの証ともいえる刻印は何度見ても見慣れるということはなく、目を背けたくなるような想いにさせられるものだった。

呪いなど存在しないと否定するのは容易いが、この背中を見れば誰もが黙るだろう。
それだけ特異なモノで、幾何学的に描かれたそれは、まるで『誰かの所有物』かのような証だった。

背中一杯に広がる赤い紋章にサーベルが眉間を寄せる。
「聞いてるのか」
そうして、ついついジラクの白い肌を吸い寄せられるように見つめていたサーベルはジラクの話が続いていたことにようやく気が付いた。
鋭い瞳を向ける相手に、
「聞いてますよ。町の外に連れて行かなきゃいいんでしょ?」
さも聞いていたかのように返して、肩を竦める。

ジラクが言う言葉は大体いつも同じだ。
「こっそり連れ出してないだろうな?」
サーベルの台詞を全く信用してないジラクは冷たく言う。
「信用ないですね」
思わず苦笑すれば、当たり前だろうと返され、冷めた視線を向ける始末だ。
「お前の過去が信用できない」
サーベルのわざとらしいため息を見咎めて、文句をいうように視線を止める。
昔は女誑しであったサーベルの性格を知っているからこその苦言だったが、サーベルにとってはそんなジラクの態度ですら微笑ましいものだった。
あまり感情を表さないジラクのこういう態度は可愛らしいもので、一種の優越感を抱く。

「お前、二度と俺に黙ってミラを連れ回すなよ」
苦言を吐きながら部屋のドアを出る。
部屋を出た先にある二階の回廊は大人の男二人が並んで歩いても余裕があるほどの広さがあり、1階と2階は吹き抜けとなっていて、全居室が回廊で繋がる構造となっていた。屋敷の中央には1階に繋がる大階段があり、下階に行くにはそこを通るしかない。

歩きながら続くジラクの苦言に適当に相槌を打ちながら、下階に行くために横並びで階段を下りる。
意外にも、サーベルが相手の時は言うほど無口ではないジラクだ。そのことを互いに意識はしていないが、兄弟とは違う関係性であるのは間違いがなく、
「サーベル!真面目に聞け」
腕を掴んで視線を合わせるジラクに、
「ちゃんと聞いてますよ」
掴まれた腕を振りほどくように二の腕を掴んで向き合う。
「ミラを無断で変な所に連れ回したりしませんから安心して下さい」
「お前いつも、」
サーベルを僅かに見上げる格好になりながら苦情を続けるジラクが、はたと互いの距離の近さに驚き、
「っ…」
咄嗟に掴まれた片腕を振り払って、身体の前でガードしていた。
「ッ危な…!」
弾みでふらつく身体をサーベルが抱きかかえるように支える。
「突然、暴れないでくださいよ!落ちますよ」
一瞬の事態に心拍数が上がるサーベルに対し、ジラクは動きを止めたまま固まっていた。
思わず取り乱した自分を恥じるように白い肌に朱が走る。俯いたジラクの動きに合わせて金髪がサラリと流れ、伏し目がちの顔に色気の宿る陰影を作っていた。
「…悪い」
謝罪を口にする顔はいつもと同様の無表情ではあるが、金色の瞳が僅かに揺れ、睫毛が小さく震える。

ジラクが時折見せるこういう隙は非常に心臓に悪いもので、触れる肌を急に意識するサーベルだ。
焦りで跳ね上がった心臓が、今度は別の意味で激しく鼓動する。
唐突に、強い劣情に揺さぶられていた。

今、キスをしたらどんな反応を示すだろう。
怒りか、それとも動揺か。
何となく後者な気がして、
「…」
緊張から喉が鳴る。

そんな空気を破るように、
「あっ!兄貴!今起こしに行こうと…」
ミラの明るい声が突如として下階から掛かり、二人の呪縛を解いた。

ジラクの肩がビクっと震え、まるで魂が入れ替わったかのように、いつもの冷静な顔へと戻る。
さり気なくサーベルの腕から逃れ、
「こいつと市場に行くんだろ。変な所に行くなよ」
そう言いながら、階段を降りていった。

すっかりといつもの鉄仮面になったジラクの背中を見つめながら、やれやれと肩を竦めるサーベルだ。
「分かってるよ!サーベル!行こッ!」
駆け寄るようにやってきたミラが、サーベルの腕を引っ張って引き離すように強引に連れて行く。
「門限は守れ」
「何度も言わなくても分かってるって!」
ジラクの言葉に大きな声で返事して、慌ただしく屋敷の出口へと向かう。

早くジラクと引き離したい。

ミラはサーベルの腕を引っ張りながらも、二人の間を流れる妙な雰囲気に気が付いていた。
ジラクの対応が自分たちとサーベルでは微妙に違うことも知っていて、サーベルがジラクを見る目つきがそうさせるのか気になって、隣を歩く彼を見上げる。

視線に気が付き、どうしたと訊くサーベルの様子にホッと胸を撫でおろした。
気のせい。
ざわつく心をそう納得させて、先ほどの光景は見なかったことにするミラなのであった。


2022.12.20
たまたまーなんですけどね、ジラクも朝が弱いタイプです(*^-^*)。たまたまータイミング的にネタ被りになってもうた…!
ちなみに私は刻印は大大大好物です(*´꒳`*)1キャラ1つは刻印持ちの筈…(*´꒳`*)
白森王も洩れなく持ってるし、ギエンも傷跡(噛み跡?)が刻印みたいなものだし、逆に刻印が無いキャラの方が珍しい気がします(*´꒳`*)はぁ〜♡刻印、最高(*´꒳`*)♡
今年のクリスマスはネタ決まってます〜♪干支はどうしようかなー。毎年何か上げてた筈なんだけど、来年うさぎだよね〜?うーん。うさぎっぽい干支ねぇ〜…(;;⚆⌓⚆)難しいわぃ…。うさぎっぽい干支ってなんだ…。小説だな…。

    


 ***6***

露店が立ち並ぶエリアをこの町では市場と呼んでいて、ここに来れば一通りの物を買い揃えることが出来る数少ない食材売り場だ。

サーベルと市場に出掛けていたミラが唐突に足を止めて、ザキに頼まれていた果物の買い忘れを叫んだ。
ザキとはしょっちゅう口喧嘩しながらも、傍から見れば十分に仲が良い兄弟で、サーベルがミラの叫びに振り返って、口を開くよりも先に、
「ちょっと買ってくるから待ってて!」
返答も待たずに来た道を引き返して行った。
足早に去る後ろ姿を見て、中途半端に開いた口はそのまま苦笑に変わる。

気を使ってくれたのであろうことは伝わっていた。
ミラのそういう所は好感の持てる性格で、端に避けて戻ってくるのを待つ事にした。

ミラとは知り合って2年になる。
最初にシヴァラーサ家にやってきた頃、中々義兄弟に馴染めずにいたのを見て同情し、声をかけたのが始まりだ。
少年だった彼が自分に憧れの感情を抱かれていることは当初から知っていた。
そのまま弟的感覚で接する内に、気が付いた時には名目上は恋人同士という形になっていて、そのこと自体を不都合だと感じたことはないが、
「…」
ジラクの冷めた美貌を思い出し、密かに溜息を洩らす。
手を出すにも出せず、かといって、ジラクに恋人同士だと言うことも出来ず、にっちもさっちもいかなくなっていた。

本当はずっと昔から。
それこそジラクに初めて会った時から長いこと彼に好意を寄せていたが、そんな感情はジラクに伝えた所で何の意味もないものだと割り切っていた。
度々、シヴァラーサ家に寝泊まりしては、ミラと付き合うことで誤魔化している恋心を揺り起こされ、大きく膨れ上がる。
今朝のジラクの、あの柔らかな唇と熱い舌の感触をありありと思い出して、一人で悶々としていた。
指通りの良い金髪に、白い彼の頬に触れたくて、慌てて妄想を振り払う。
早く戻ってこないかと腕組をして、煩悩を払うように深く溜息を吐いた。

一方、ミラはというと果物屋の前で唸りながら迷っていた。
「ザキの果物?」
そんな彼に後ろから高い声が掛かる。声だけで相手が誰かすぐに分かるミラだ。
振り返る先には腰丈まである長い茶色髪の美女がいて、柔らかな笑みを浮かべていた。
「サラ」
彼女は町一の美女で、どこにいても目立つ。
繊細な髪は風に揺れ、華奢な身体は男の庇護欲をそそるもので、小柄なミラですら彼女に対しては男としてのプライドがくすぐられた。
「ザキも自分で買えばいいのにね」
指先を口元に持っていってクスっと笑う。
「まぁ、サーベルも便乗してるから」
今朝もザキと一緒に果物をつまんでいたサーベルの様子を思い出して苦笑すれば、
「そっか。サーベルも果物好きだもんね。毎日食べないと気になるのかな」
首を傾げながら同調する姿は、可憐な花のように可愛らしい。

こんな美女があの粗暴なザキの彼女とは到底信じられない。
美人であるのに棘が無く、誰にでも優しい。口調は柔らかで、町一の美女と言われるのも納得の聖女のような存在だ。
どこぞの誰かとは偉い違いである。
顔だけならピカ一の男であるのに、対比するようにあの冷たい態度だ。
黙って立っていれば格好いいのにと兄を思い出し、脳裏に過る金色を振り払うように頭を振った。

ミラは初対面の時からジラクに苦手意識を持っていた。
どう接すればいいのか分からないというのが正直な所で、ジラクという男の得体が知れない。
薄情な気配に加え、性格は男らしく粗暴な態度でどちらかといえば乱暴な口調だ。その癖、ふいに気遣いのような態度を見せる時もあり、自分が嫌われているのか好かれているのかすら分からない。

そして一番、苦手なところはジラクが時折醸す独特な雰囲気にあった。
特に女性らしい仕草でも女々しい態度でもないのに、わざとなのかと思うほど煽情的な仕草で、唐突に厭らしい気持ちにさせる。それは彼が自身の指を舐める時や、入浴後に晒す肌の白さにあって、そういう姿を見ないように意図的に接していた。

ジラクの見た目は決して女性的ではない。身長は180センチを越し、体格も軍歴が無い割に朝の運動のせいか、引き締まった綺麗な身体をしていた。
白い肌に浮き出る鎖骨、喉仏はどこからどう見ても男のモノだが、どんな時でも彼からは汗の匂いはせず、まるで童話の世界のように花の香りがして、高貴な女性を前にしているかのような気分になる。
「…」
サーベルもそうなのかと朝の二人を思い出し、憂鬱になっていると、
「放して!」
唐突にサラの嫌がる声で思考を中断させられた。
振り返るミラの目には大柄の男が二人、サラの手首を掴んで強引に誘いをかけていた。
「行かないって言ってるでしょ!」
観光客だろう。サラが誰の彼女かも知らず、下心が丸見えの下賤な笑いで顔を近づける。
サラの細い腕では男の手を振り解けず、
「やめろよ!嫌がってるだろ!」
ミラが自分よりも二回りも三回りも大きな男に食ってかかった。
体格差をものともしないミラの勇気も男にとっては笑いの元で、
「やめろよ〜だってよ。可愛い顔してナイト気取りか?どっちが姫様か分からねぇなァ!?」
からかって真似をした彼らが大口を開けて大笑いする。ミラも標的にするかのように顎を持ち上げ、
「生意気な口は殴って黙らせるか」
ぎらついた目でそう脅した。
「ミラ!」
サラが悲鳴にも似た声を上げる。

唐突に、表情を一変させる男たちだ。
「ミラ?」
「おい。ミラってもしかして、シヴァラーサ家の…」
「例の…」
そう言って、彼らは恐れをなしたようにミラの顔をまじまじと見つめる。
勿論、彼らが恐れるのはミラではない。その後ろにあるジラクの存在だ。
「おい。行こうぜ」
「っち。興ざめだな。こんな町」
先ほどまでの威勢はどうしたのかという勢いで掴んでいた手を離して、去っていく。
ミラはそんな男らの背中を歯がゆい思いで見つめるしか出来なかった。

いつだってそうだ。ジラク・シヴァース・ラーサの弟、その名称が付いて回る。
人々の頭にはジラクがいて、それしかない。どんなに凄んだところで女性一人守れず、ここにはいないジラクに助けられる羽目になり、強い虚しさを抱く。

それでも、
「ミラ。ありがとう。格好良かった!」
安堵の宿る嬉しそうな笑みで礼を言われ、ジラクの名が役に立つならいいかと思い直していた。
サラの優しさに救われるミラだ。
美人なだけでなく、こんなに心の美しい女性がザキの彼女だなんて勿体ないとつくづく思うのであった。


2023.01.17
あれれ…1カ月ぶりくらいになってしまうんですね…💦正月挟んだからかな?💦
そろそろこの話も専用の拍手ページを作成しようと思いつつ、中々準備の時間無く共有の拍手ページ使ってます(笑)スミマセン。
そろそろ…そろそろ、作成します…(^-^;

ジラクは当時に公開してた内容より暗くなるかもしれない…(笑)。その分、BとLのシーンを極力増やしたいなーとは思うけど…、 ジラクってそういうキャラだっけ?という感じではあります…(;^ω^)。当時の時点でも、100話超えててもふつーに恋愛関係に発展してなかったよね…。発展してはいるんだけど、恋愛ではないというか…(-_-;)ウーン…💔。
ジラクは恋愛未経験者なんよ…。どうしようかなとは思ってます(;;⚆⌓⚆)。あと補完して書いたら300話いきそうだと書いたけど、むしろ整頓したら30〜50話くらいで追いつくかもしれない…(*^-^*)!色々端折る計画でいますが、…( '-' ;)…ウーン…悩む(笑)

    


 ***7***

サーベルと別れたあと屋敷へ戻ってきたミラは、ジラクの顔を見ずに済んだことにホッとしていた。
郵便受けから取り出した大量の封筒をテーブルの上へと置く。それを必要、不要で仕分けながら、ジラクの所在を考える。
リビングにいないということは、自室か書斎だろう。

ジラクは何一つ悪くないが、顔を見れば八つ当たりしてしまいそうな気分に陥っていると、リビングの扉が音を立てて開く。ドキっとして振り返るミラの視界には気張った格好のザキがいて、
「ミラ。帰ってきたのか。なぁ、これからデートだけど、この格好変じゃね?」
両手を広げて見せびらかしていた。

市場で会ったサラの姿を思い出し、
「白を入れた方がいいんじゃないの?」
やんわりとアドバイスをすれば、ザキが表情を歪める。

黒髪に黒目という容姿のザキは黒を好み、服も黒系一色で白い物は基本的には身に付けない。
ザキの鋭い雰囲気と良く似合い確かに様になってはいるが、サラの清楚な雰囲気とは真逆過ぎて、ザキのセンスには常に疑問を抱いているミラだ。

意見を求めておきながら否定的なのはどういうことかと僅かに苛立ちを抱く。
「俺は白が苦手なんだって。サラにも着るなって言ってんだけど、あいつ嫌味のように白ばっか着てくんだよな」
それは個人の好みだから仕方ないとは言えず、
「白は兄貴の色って感じだしね」
同意を示せば、眉間の皺を深くしていた。
「…兄貴の話はしてねぇだろうが」
「そうだけど、兄貴はいつも白じゃん。サラと並んだら似合いそう」
思わず零れた本音にザキがずかずかと歩み寄り、唐突にミラの襟ぐらを掴み上げた。
「ミラ。ふざけたことを抜かすなよ。あんな白Tに作業着みたいなズボンの奴と同じレベルで語んじゃねぇ」
凄むザキに対し、怯むミラでもない。
「変な対抗心だね。サラが兄貴に取られるって嫉妬でもしてんの?」
腕力では敵わないが口論で負ける気はせず、市場の出来事もあって苛立っているのも事実だった。
「っ…!」
ミラの反論に驚くザキを見て、自分と同じ目に遭えばいいのにと思う。ザキのような見た目なら、あんな風に自尊心を傷つけられることも無いだろう。
醜い感情が頭をもたげ自分自身を傷つける。

「年下が生意気な事を言ってんじゃねぇよ。サラが兄貴を選ぶ訳ねぇだろ!」
酷く下らない言葉のように鼻で笑って、ザキが掴んでいた襟を強い力で払うように離す。
「…」
ザキの否定を、心の中でそうかなと疑問になっていた。
ジラクは確かに女性と接点がない。というよりは町の人々と全くと言っていいほど接点がない。

白い肌に、金髪金瞳を思い出す。
ジラクの容貌を脳裏に思い浮かべることは容易なことで、あの特有の澄み切った気配は誰にも持ち得ないモノだ。
サラが、というよりはジラクがその気になれば堕とせない女性などいないのではと思っていた。

「ミラは女心を何にも分かってねぇな」
思考を読んだようにザキが言う。
「兄貴はあくまでも観賞用。付き合う男じゃねぇんだよ」
随分な言いようのザキの言葉よりも彼の背後で開く扉に気が付いた。
「大体、何考えてんのかも分かんねぇし、男として機能してんのかも分かんねぇ」
「あ…」
止める暇もなく暴言は続き、
「女が兄貴の顔に見惚れることはあっても、中身に惹かれる可能性なんてこれっぽっちも考えらんねぇな!」
ズバズバと言って勝ち誇ったように口角を上げた。
背後に視線を向けるミラに気が付いて、バッと振り返れば、
「俺のことか?」
冷ややかな声が上から落ちてくる。
見上げる先は表情一つ変えていないジラクで、今更違うとは否定できないザキだ。
「事実を言って、何が悪い」
開き直って問えばそのままスルーされ、テーブルの上に置かれた封筒を手にしていた。
「ミザリア国からの…」
印がされた封蝋を剥がし中身を読み始めるジラクを見て、完全に無視された格好になったザキが舌打ちをして部屋を出ていく。

激しい音を立てて閉まる扉を見つめていたミラは、ザキのことがさすがに気の毒になると同時にかなりの暴言ですら完無視のジラクに驚きすら抱いていた。
一体、どんな言葉ならジラクの表情を変えることが出来るのだろう。


明日、いきなり自分がいなくなったとしても、ジラクは表情一つ変えずにいつも通りの日々を過ごす気がして、市場での出来事を思い出す。
手が届く所にいる存在が、まるで透明な壁の向こう側にいるかのように思え、視線を外す。

無言で立ち去る間にも、ジラクから声が掛かるということは無かった。


***************************



日常の中で起こる些細な変化は気が付きにくい。
特にそれが静かにゆっくりと進行する変化であればあるほど、気付く者はいない。
「…」
テーラの静かな瞳が背中を向けるジラクの姿をじっと見つめていた。
普通の人なら気が付かないような事も、テーラは気が付くことができる。それは類稀なる守祭としての才能が為せる能力であり、ジラクの体内を流れる人ならざる変化を読み取っていた。

ぽすっと背中にテーラが抱きつく。
昼食を作っていたジラクが衝撃に動きを止め、小さな身体を振り返った。
「どうした?」
「ううん」
広い背中に甘えながらジラクの匂いを嗅ぐ。
「…」
ジラクの体温はその冷たい気配と同じで、手指は常に冷たく、暖かな気候のこの町でもひんやりとしていた。
身体を捩じったジラクが、抱きつくテーラの唇にプチトマトを押し付ける。
口を開くテーラの髪を撫でて、頬を掠めるように軽く触れた。
ジラクからの分かりにくい愛情表現に、頭をぐりぐりと背中に擦り付けて、
「大好き」
静かな、されど熱い声でジラクに囁く。
「…」
返ってくるのは無言だが、特にそれは気まずいものでもない。
ザクザクと、キャベツを切る音とジラクの鼓動がテーラの耳に心地よく響き、一つのことを決意していた。

テーラにとってのジラクは神にも等しい絶対的な存在で、養子として引き取られる前から大好きな存在だった。
だからこそ、ジラクのためなら何でもする覚悟を持っていた。

他の誰にも出来ず自分だけがジラクのために出来る、それだけの素質がテーラにはあった。
その道が例えジラクと離れることになったとしても、ジラクを救えるのは自分しかいないと思っていた。


テーラはまだ、15歳だ。
未来は希望に溢れ、やろうと思えば何でも出来る無敵の年齢であり、そして世間を知らない純粋な少年だった。
「僕、総本家に行く」
「!」
ジラクの肩が驚きで大きく震える。

総本家とは、全大陸に散らばる守祭を統括する中核組織であり、封魔士への依頼や指示もそこから全大陸へと伝達されるほど権威のある存在で、いわば全守祭にとって憧れの場所だ。
見習い守祭の多くが地方の各守所で訓練を積み、高みを目指すのが一般ルートだが、中にはテーラのように直々に総本家へと招かれることもあった。

経験の無いテーラの口からその単語が出てくるだけで、どこかのタイミングで声が掛かったのだろうことは推測が付く。
単身乗り込んだところで門前払いを食らうのが関の山で、総本家とはそれほど敷居の高い組織だったが、テーラは元々その潜在能力を買われて、シヴァラーサ家の専属守祭に引き取られていた子だった。
「…」
守祭として才能を生かせるなら、彼の将来のためにもそうすべきだろう。
仮にそこがシヴァラーサ家と確執のある場所だとしても、テーラがそうしたいのなら認めるのが大人というもので、
「…分かった」
言いたい言葉を飲み込んだジラクが静かに了承する。
そのまま何も無かったように止まっていた手を動かし始めた。

疑問も否定もなく受け入れるジラクに、テーラが何度も小さく謝罪した。
そうさせる、それだけの覚悟をさせた何かがあるのだと思いながら、それが何なのかは分からないジラクだ。

謝罪の言葉が脳裏にこびり付き、罪悪感を抱く。
それがかつての自分のようで、一体何の謝罪だろうと記憶を辿ろうとして、酷く後味の悪い何かを口にしたように胸がざわつき、思い出すことを諦めた。

過去の記憶は生活に不要なものだ。
なぜ生きているのかと不思議に思うくらいで、生きる目的などとっくに失っていた。

父の遺品を集め、それをどうしたいかも分からない。
没落するシヴァラーサ家を立て直したい想いもなく、家族を持ったところで何の意味があるのかもわからない。
父は死んだというのに。

鋭い痛みが体の中枢を駆け巡る。それと共に、空腹とは違う耐えがたい渇望を感じ、身体の芯が熱を宿す。
「…」
最近では、特に身体の異常が顕著になっていた。
多くの人が口にするように、呪いは真実なのだろうと実感すると共に、それが世界にとって良くないものであることは自覚していた。

記憶はない。だが、呪いが事実だとすれば掛けたであろう男は推測できていた。彼がなぜそんなことを望むのかは分からずにいるが、当の男はいつまで経っても姿を現さず、問い詰めることも殺すこともできない。


背中にテーラの温もりを感じながら、いつかテーラも自分に刃を向けるのだろうと諦めの想いで、静かに息を吐く。
いずれ兄弟たちも全員去って行く筈だ。

敵意を向けられるのは慣れたもので今更それに怖気づくということもなく、ただ世界の片隅で一人の男が死ぬだけだと心のどこかで割り切っていた。


2023.01.21
さくさくーっとね、進むように努力してます〜(^^)/
本当は白森王をメイン更新に据えて、ジラクはサクサクと再掲っぽくバンバン更新予定だったんだけど、計画崩れです〜(笑)
まぁぼちぼち…色々進めていきます('q')…
    


 ***8***

テーラの行動は早かった。
まるで何かに急かされるように翌日には荷物を纏め、町の人々には碌な挨拶もせず飛び出るように専属守祭の元へと向かって行った。
涙を溜めて背を向けたテーラに対し、見送るジラクはいつもの無表情だ。それが薄情にも見え、ジラクらしくもあった。
兄弟たちが励ますように声を掛け、少年の背を見送る。

それからのジラクはというと、意外なことに自室に引き籠るような日々が続き、言葉には無くとも落ち込んでいるのが容易に分かる状態で兄弟たちを驚かせた。
町の人々ですら、全く見かけなくなったジラクに心配の声をあげるくらいで、テーラが如何に大きな存在だったかを知らしめる。


そうしてジラクが引き籠ってから3週間ほどが経った頃、一つの大きな変化が生じていた。


室内を明るく照らす太陽の差し込みが眩しくて昼過ぎにようやく起き出したジラクは、まず酷い空腹に喘いでいた。
その直後、強い頭痛と倦怠感に襲われ、テーラがいなくなった喪失感に苛まれて呻く。
「っ…」
じっとした状態でその苦痛をやり過ごした後、冷静を取り戻した頭でぼんやりと『今後のこと』を考えていた。
のそりと起き上がり、気合を入れるように着替え始めれば様々なことが遠のいていく。


兄弟がいるであろう酒場へと向かい、扉を開いた途端、
「…!ジラクさん!」
その声に全員が会話を止めて、入口を振り返っていた。
何事かと僅かに目を開くジラクに対し、彼の姿を見た人々の顔に浮かぶのは安堵の表情で、
「お変わりなくて良かったです」
近くのカウンターに腰掛けていた青年が唐突に声を掛ける。
ビクっと肩を震わせたジラクの反応は珍しいもので、
「あ、驚かせてすみません」
謝罪する青年が顔を赤らめてジラクを見つめていた。
「ずっと引き籠っていると聞いていたので、また町に来なくなっちゃうんじゃないかと…」
彼の言葉が終わるよりも早く、ザキがやってきて足を止めていたジラクの腕を強く引く。
「だから大した事じゃないって言っただろ。飯も食ってるし、どいつもこいつも心配し過ぎなんだよ」
ジラクの代わりに答え、彼が口を開くよりも先に自分たちのテーブルへと連れていった。
「?」
強引なザキに返す言葉も無くなるジラクだ。

集まっていた視線が少しずつ外れ、各々の会話に戻っていくのを見て、
「何事なんだ」
静かに問えば、ミラがちらりと視線を投げ、次いでラーズルを見る。
「ジラクが町の人々に愛されてて安心しました」
柔和な笑みでそんな言葉を返すラーズルはいつも通りどこかずれていて、意味が分からないジラクが説明を求めるようにザキを見れば、鋭い視線のまま睨み返されていた。

実際、ジラクが不在の期間は大騒ぎになっていた。
まずテーラがいなくなったことを知った町人たちはそれを大いに嘆いていたが、その嘆き以上に、ジラクの不在が齎す衝撃の方が大きく、彼が姿を現さなくなって2週間も経つ頃には兄弟が道を歩く度にジラクの状況を聞かれるという有様になっていた。

小さな町では、シヴァラーサ家の存在は切っても切れないほど密なもので、前当主の時代から親交のある家柄も多い。ジラクに対する不満を吐き出しながらも心のどこかでは常に気になる存在で、それは老若男女問わず家柄がそうさせる立ち位置であった。

「『また』ってどういう意味だよ」
「…別にいいだろ」
「よくねぇ!」
ザキが何故そんなにムキになるのかも分からず、運ばれてきた水に口を付ける。
再度、口を開こうとして喉の奥を流れていく水の冷たさに言葉を止めた。

腹の底から湧き出る渇望が息を吹き返し、その熱はジラクの自制心を焼く。
自分の身体だけに、あまり良くない状態だと自覚していた。
強まる違和感は日に日に増し、テーラが居なくなってから加速した気がするジラクだ。
ザキの小言は右から左へと流れ、
「兄弟なのに、兄貴のことを何も知らないっておかしいだろ!」
そんな言葉ですら今は気にかける余裕もなく、沈黙を返す。

口を開くと自制ができなくなりそうで、視線を合わせることすら躊躇っていた。
余裕の無いジラクを煽るように、
「昔は引き籠ってたもんな」
「!」
代わりに答えた張りのある声が耳に届き、唐突に冷水を浴びせられたように頭が覚醒していた。

「っ…、サー、ベル」
ジラクが顔を上げる先には珍しい髪色を持つサーベルがいて、視線が合うと同時に久しぶりに見るジラクに安堵の笑みを返す。
その表情は無性にやるせない想いを呼び起こし、同じ髪色の父親を思い出していた。


永遠に続くと思われた平和を破壊したのは誰だろう。
あの時に、──していれば。


朧げな仮定が脳裏を過り、ずきりと頭が痛くなって傍らに立つ男の腕を無意識に掴む。
触れれば触れるだけ彼の甘い気配が濃厚になって、体内を流れる脈々とした力強いエネルギーを感じ取り、猛烈にそれを欲していた。生きる力ともいうべきエネルギーの流れは、本来人間が感知できる類のものではない筈だ。

いよいよ人間味を無くしていく自分を感じながらも、強い欲求が抗うことを拒絶する。
「…は…、…っ」
小さく浅い息を吐き、どうにかしてサーベルという存在を頭から消そうと努めるも、念じれば念じるほど掴んだ腕からは強い命の源が流れ込み、周囲の音が消えていった。

そこにあるのは、『サーベルを食したい』という想いだけだ。


強い欲望に中枢を犯され、ついには視線を交えたまま誘うように唇を舌で舐める。
「!…ジ、ラ…」
「ッ…!ちょっと、来い!話がある」
居てもいられなくなって、唐突にジラクが席を立つ。


一瞬の表情に気が付いたのは、サーベルだけではない。
「兄貴!」
ミラが呼びかける声も無視して、サーベルの肩に腕を回して強引に通路奥へと連れていく。
「…え?!」
強引に引っ張られながら驚きの声を上げるサーベルを、呆気に取られたまま見送る兄弟たちだった。


一方のジラクはサーベルを薄暗い通路へと連れていきながらも、一体何をしているのかと擦り切れそうな自制心で自分に問う。

奥部屋と洗面所に繋がる通路は飲食エリアとは暖簾で仕切られており、通路奥は見えないようになっていた。
奥部屋へと進むほど人目に付かなくなる構造で、酒場の喧騒からは隔離されたような独特の気配となる空間は静かで、別世界のようになる。

その静けさが、ジラクの理性をより狂わせ現実感を持てなくさせる。
薄暗い通路の一画でようやく足を止めたジラクが振り返ると同時に、
「文句を言うな」
大人しく引っ張られていたサーベルの襟首を引き寄せ、
「う…!む…っ!?」
強引にキスをした。

驚いたサーベルが押し退けようとするも、強い力で後頭部を引き寄せられて失敗に終わる。
恋人同士がするような熱烈なキスに頭が全く付いていけないサーベルはただ為すがままで、胸倉を掴んだまま深い口づけをするジラクに、今まで抱いていたイメージがぐるりと覆されていた。

ジラクといえば女性関係も無く、そういう経験も無く、色恋にも疎い。
当然、彼がするであろうキスは軽いキスで舌を入れるなどあり得ないものであった。

その純潔なイメージをぶち壊し、
「は…っ、う…、ン」
舌を絡ませ食らいつくような深いキスは非常に貪欲で巧みであった。

サーベル自身が経験豊かな方だ。
ジラクのするキスが手慣れたものであることはすぐに分かり、頭の中で相手は誰だと詰問する。
自分の後ろにいる見えない相手に対抗心が芽生え、
「っ…!」
ジラクの腰を引き寄せ、負けじと応える。

柔らかな舌が合わさり、濡れた音が通路に響いていた。
「…、ァ…」
息が乱れるほど長いキスが続いたあと、ようやくジラクが理性を取り戻していく。
サーベルの首に両手を回した状態で、夢の中にいるようにゆったりと金の瞳が瞬きを繰り返す。次第に何をしているのか現実感が出てきて、
「ん…、待、て、…」
濡れた唇を舐めるサーベルを押し止めるように甘い声で制止して、両腕を突っ撥ねた。
視線を合わせるサーベルの目はすっかりと男の目で、
「なんですか?」
問う声は熱を孕んでいた。

「も…う、十分だ…」
身体中を熱い血が駆け巡っていた。気が狂いそうなほどの渇望は癒え、かぁっとジラクの白い肌がほんのりと桃色に染まっていく。
目元を染めて欲を宿す金の瞳にサーベルが誤解するのも当然の表情で、
「ジラクさんも男だったんですね」
サーベルのそんな言葉に、
「何を言ってるんだ。どう見ても俺は男だろうが」
呼吸を整えながら濡れた唇を手の甲で拭った。
「…一種の病だと思え。サーベルは気にしないだろ?」
肩を押して抜け出そうとするジラクに対し、
「何で?俺が誰彼構わずキスする男だとでも?」
逃す気などさらさらないサーベルが壁に肘を置き、腰に置いていた手をシャツの中へと滑らせる。
「ッ…!」
びくっと反応するジラクの初心な表情は先ほどのキスとは正反対の動揺を浮かべ、欲を宿す瞳に目を奪われる。

世にも珍しい金の瞳は、この世界でただ一人だ。
ただの黄色でもなく光を四方に反射するような神々しさは、他に類を見ないほど美しいもので、どんな宝石であろうとジラクの瞳の美しさには敵わない。

その目が、甘い欲を宿したままサーベルを見つめる。

「煽ったんなら、最後まで責任取って下さいよ」
まるで理性を乗っ取られたかのように場所も考えずにジラクのシャツを捲れば、
「っ…サーベル!」
強い力で肩を叩かれ、思いっきり突き飛ばされていた。

ジラクが大きく一呼吸をする。
「もう十分だと言っただろ。場所を考えろ」
唐突に、用済みだと言わんばかりにいつもと同様の冷静さに戻ったジラクが冷めた目で伝える。その変わり身の早さに驚くと同時に、
「あ、ここにいたんだ。サーベル」
二人を探しにきたミラが薄暗い通路の奥から駆け寄ってきて、二人の距離感にホッとしたように言った。
「兄貴も、…大丈夫?」
サーベルの隣に立つジラクを見上げ、すぐに肩を揺らした。
真っすぐに突き刺さる金の瞳と目が合って、全てを見透かされている気がしたからだ。

僅かな照明の中ですら光を宿す金色の瞳は、その冷めた美貌との相乗効果でこの世の存在とは思えない恐怖を与える。
上から見下ろす美しすぎる瞳に、ミラが言葉を失う中、
「大したことじゃない」
連れ出した理由も何もなく、視線を逸らしたジラクが脇を通り過ぎていった。


訳の分からない威圧感に場が支配される。
ジラクの背中が遠ざかっていくにつれ、ようやく息を止めていたことに気が付くミラだ。
圧倒的な気配に何もかもが支配されている気がして、サーベルの服を掴む。


二人の間に何があったのかを訊くのは怖い。
それでも、
「何?どういうこと?」
呆然とするサーベルに訊けば、彼も首を傾げ、
「いや、…よくわかんね」
小さく呟き、
「まじで何を考えてんのか…全然分かんねぇ」
再度、同じ言葉を繰り返すのであった。


対するジラクは自己嫌悪に陥っていた。
世界を呪いたい気分にもなっていたが、それも数瞬のことで、何かを考えたところで何も変えることは出来ないのだから考えるだけ無駄だと割り切る。


『生きろ』と。
朧げな記憶の中で誰かが告げた。

その言葉の通り、生きるしかない。
それしか残っていないのだと、心を封印する。


少しずつ、そして確実に。
世界の均衡が軋みを立て、崩れていく。その中心にいるとは思いもしないのであった。


2023.02.05
一応、ハッピーエンド目指してます(^-^;なんか暗い気がしますが、ハッピーエンドを…(^-^;めざ…?
あ。いつも拍手ありがとうございますm(_ _"m)ペコリン。
前にギエンでちょっと面白いことを考えてるとちらっとお伝えしたんですが、ちょっと無しになりそうです(笑)。
ギエンの色んな闇落ちみたい(*´꒳`*)!という欲望を叶えるために(?)、ルート分岐的なものを考えてたんですが、うーん…、何気に闇落ち苦手な方多そうなのと、ルート分岐ストーリーは本編ではなくあくまで遊びなので、需要ないかもな、という点と、あと結構時間掛かりそうなので断念方向です…(;^ω^)。

色々ちょっと中途半端が多すぎるので、ホントちょっと…ごめんなさい状態ですが、雑食気味にあちこち更新スタンスがしばらく続く気がします…(-人-;)お許しを〜…(笑)

拍手
    


 ***9***

ジラクが多くを語らないのはいつも通りだが、その日はいつもとは異なる姿で出掛ける準備をしているのを見て、さすがに行先を訊ねるラーズルだ。
ジラクから返ってきた言葉は、まるで庭先に行くように軽いもので、
「ミザリア国に行ってくる」
突然の爆弾宣言だった。
隣町ならいざ知らず、それが他国とあっては驚かざるを得ない。
「ま、待ってください。ジラク。少しは説明してください」
玄関で靴を履いて出るだけの状態の彼の服を引いて追及すれば、特に感情の籠らない目を向ける。
「成婚パーティが開かれるとかで、断れない内容だったから行ってくる」
「…一人でですか?」
突然のことにそんな言葉を返せば何を馬鹿なことをと言わん勢いで、金の瞳が意図を問うように真っすぐにラーズルを見つめた。
その視線の強さは、見る者をドキッとさせるもので、
「1週間程度で戻る」
疑問は山ほどあったが、どれも口にする暇もなく、あっという間の早さで玄関の扉が閉まっていた。

他の兄弟がそのことを知ったのは夕食の時間になってからだ。
ジラクは秘密主義ではないが、あまりにも何一つ共有しないその勝手さに彼らの不満は爆発寸前であった。
慣れているラーズルですら僅かな苛立ちを感じるのだから、『兄弟』というものに思い入れのあるザキやミラは尚更だろう。
帰ってきたらきっちり問い詰めると意気込んでいた。

「それにしても、ミザリアかぁ。大国じゃん」
「あそこは有名な封魔士のマストーラがいる国だよな。確かシヴァラーサ家を物凄く敵視してるとか」
「それを言ったら、どこに行っても同じでしょう?シヴァラーサ家を敵視していない封魔士なんているんですか?」
ジラク以外は関心もなさそうなラーズルが冷静な言葉を返す。
「封魔士だけじゃないでしょう?シヴァラーサ家の味方を探す方が難しい」
次期当主候補として連れてこられた筈の彼が、巷で噂されている陰口を何の抵抗もなく他人事のように言い、あぁジラクが心配ですと呟いた。
「…」
ザキとミラが顔を見合わせる。
「兄貴の図太さには誰も敵わねぇだろ」
心配するだけ無駄だと言えば、僅かに表情を曇らせるミラだ。

先日の。
ジラクが一瞬、見せた表情が気になっていた。

サーベルとは何か秘密の共有があるのではと疑いもしたが、当のサーベルは全くそんな素振りもなく、その後のジラクに対しても至っていつも通りであった。

あの表情はなんだったんだろうと思う。
酷く胸がざわつき、理由もなく何かをしなければと急き立てられる。
「成婚パーティじゃ参加者、多そうだね。兄貴、作法とかあるのかなぁ…」
口を付いて出るのは、ラーズルと同じく心配の声で、
「お前、馬鹿にし過ぎだろ。いくら兄貴が…」
否定しようとしたザキの言葉も途中で止まってしまった。
シヴァラーサ家が封魔士として正式に活動していたのは14年も前だ。ジラクの年齢でいえば当時15歳ということになる。
「いや、どうだろうな…。ちょっと不安になってきたわ」
「やだよ〜。また1カ月後とかに言われるんでしょ?シヴァラーサ家の当主は見せかけだけのポンコツってさ〜。お前らが兄貴の何を知ってるって言うんだよ…」
「ふふ」
唐突にラーズルが笑いを零して、食事中であることを思い出し、失礼と口元を手で覆う。
「いいじゃないですか。ジラクのことを知っているのは僕らだけだとでも思えば。噂なんて、どうせ何一つ本当のことは無いのだから」
「そうか?大体当たってるじゃんか。無表情も冷血漢も、人でなしも、ほぼ事実だろ」
「…そうですか?」
特に気にした風もなく言って、黙々と食事を進める。

ラーズルはザキやミラとは違い、それなりの期間をジラクと共にしてきた。どんな相手であろうと過ごす時間の長さは大きな意味を持つ。
たとえ口数が少ない相手でもなんとなく把握できる部分が出来てくるのが通常で、二人には見えていないジラクの優しさのようなものも理解していた。
ジラクの良さに気が付いているのは自分一人でも十分だ。


初めて会った時のジラクを思い出し、小さく笑う。
ザキやミラは文句をいうが、あれでも優しくなった方だ。
それこそ、会ったばかりの当初は話しかけても無視されるのが普通であった。
手に触れようものなら弾かれ、珍しく視線を返したと思えば鋭い眼差しで見つめてくるだけで、言葉も失う。

そんな中でもジラクの元を去らずに残り続けたのは、ただひたすらジラクの日常が痛々しかったからだった。
ジラクが冷酷に振舞えば振舞うほどに、傷ついた心の内を感じ取る。
当時、専属守祭から聞いた話では、しばらく塞ぎこんでいたジラクが先代の死から5年目にしてようやく自我を取り戻したという。その機会に養子を取ることにして、初めて迎え入れた兄弟とのことだった。
聞いても詳細は教えてくれなかったが、その時のジラクはとにかく虚空を見つめていることが多く、食事には2時間ほど掛かるという有様で、誰もが語りたがらない大戦がいかにジラクの心に傷を負わせたかは容易に分かるものであった。

大戦では多くの守祭や封魔士が死んだという。
シヴァラーサ家への期待が絶大だっただけに、成果もなく犠牲を出しただけに終わった大戦は、大陸中に大きな嘆きを生んだ。
その失望感がそのままシヴァラーサ家に、そして当主として残されたジラクに対する批判へと塗り替わる。
父を失い、当時15歳という若さで責任の矢面に立たされるということは想像を絶する心労だった筈だ。

その時にジラクと出会っていれば、少しは支えになることができたのではないかと常に思っていた。
笑み一つ浮かべることの無いジラクの無表情を思い出す。

いつか、ジラクの笑みを見れる日が来ればいいと祈る。
そして反面、そんな日は永遠にやってこない気がしていた。


********************************


ザキやミラの心配は杞憂に終わっていた。
いくらジラクが世間から隔離されたような隠逸生活を送っていると言っても、作法はしっかりと身についていて、まずミザリア国に着いて一番最初にしたことは正装を揃えることであった。
実際、ミザリア国に行くのは初めてのことでもない。

ジラクほど目立つ容姿の場合、町から一歩外へと出れば大騒ぎになる。それは大国だろうが小国だろうが同じことで、他国に行く時のジラクは守祭のような衣装を着用し目深に被ったフードで金髪を隠していた。それでもその容姿は目立ち、彼と相対すればすぐに正体が分かるというものだった。

首都に入る頃には既にミザリア入りしていることが噂になっていて、店に入ると同時に正体がばれていた。
それから2時間もした頃、王城からは迎えの衛兵が寄越され、街が混乱し騒ぎになるといけないといった理由でそのまま王城の客室へと案内される。

ジラク・シヴァース・ラーサという男はそれだけ影響力のある人物で、本人の意思など無関係に大陸中の注目を浴びる存在であった。
「…」
ジラクにとって、こういう扱いは慣れた待遇ではあるが、それでもまるで隔離されるように客室に閉じ込められる状況に辟易とする。文句をいうつもりも無いが、最初から招待などしなければいいのにというのが本音であった。

封魔士業をする訳でもないシヴァラーサ家を招待して何の意味があるのかと思い、恐らくそれは償いだろうと思っていた。
多くの国が未だにシヴァラーサ家を丁重に扱う。

当時、シヴァラーサ家の功績は他を圧倒するレベルで、どんな魔物であろうとシヴァラーサ家に依頼すれば間違いないとすら言われていた。
人々が囃し立て、無謀にも西の大陸に挑んだことが全ての始まりではあったが、多くの命が失われた結果の一因にシヴァラーサ家の名が挙がったことに一種の罪悪感を抱いているのは確かだ。

ミザリア国の王に会うのも初めてのことではなかった。
会う度に皺が深くなる厳格な顔は苦渋に満ち、彼の気苦労を窺わせる。
そして、つい先ほどのことだ。

わざわざ客室へ単身でやってきてジラクに短い挨拶をした後、『すまない』と謝罪した。

それは会う度にされる謝罪で、その度に何のことか分からないジラクだ。
酷く苦しい表情で謝罪を口にする彼に、毎回、返す言葉が無く視線を返すしか出来なくなる。

対話という対話は無かった。
謝罪だけ残し、去っていく。

何がそうさせるのか、分からない。
「俺が、──と、…」
そう呟きかけて、
「ッ…、…ぅ…!」
強い頭痛に息が止まる。

一瞬、頭に浮かんだ単語に霞が掛かり、心臓がドクっと大きく鼓動した途端に何のことだったか分からなくなっていた。
「…、ふ…、ッ…、…」
心臓の上を右手で抑えつけ、荒い呼吸を繰り返す。

何なんだと自分の身体に問いかけて、落ち着かせるように脳裏に父の姿を描けば、ゆったりと荒立つ身体が静かになって、頭痛が遠のいていった。
「は、…っ…、」
頭を強く振って、気分を切り替える。


「…」
大きく深呼吸をして、息をゆっくりと吐き出した。


明日は今日以上に好奇な視線に晒されるだろう。
娘の成婚パーティとのことで、多くの国から人が招かれている筈だ。

面倒なことにならなければいいと思いながら、窓から見える景色を眺める。
視界には燦々と輝く美しい街の灯りが見え、賑わいが聞こえるかのように暖かな空気に満ちていた。

まるで自分の世界とは別世界だと感じ、妙な気分になる。
窓に触れ、灯りの上に手のひらを重ねるも、窓からは冷たい感覚が返ってくるだけで、その当たり前のことに僅かに失望していた。

「…」
しばらくの間、ぼんやりと街灯りを見つめたまま立ち尽くしていた。


2023.02.12
やばいー。もう9話だ〜(;^ω^)!全然BとLじゃないー(;^ω^)!!!?
そろそろ、…色々動き始めるはず…?(^-^;??
因みにこの話のメインCPは何となく推測付きますかね?(笑)
ただメインだから=引っ付くかは別問題ですが(*^-^*)ハハ💛

過去作とかにも拍手ありがとうございます(*´꒳`*)楽しんで貰えたら嬉しいです〜!
そろそろシンの2月を書きたいと思いつつ…もう下旬になりそうだが大丈夫かぁ〜?(^-^;

拍手
    


 ***10***


世の中に出回る噂がなんであれ、目前に現れる真実はいつでも衝撃的なものだ。

王女の成婚パーティだけあって、方々からは大勢の著名人が呼ばれていた。煌びやかな照明の下で音楽隊が演奏する中、豪華に着飾った女性たちが美を競い合うように続々と入場する。
テーブルには色鮮やかな花々が置かれ、盛大な装飾が施された豪華絢爛なその場は華やかな談笑で賑わっていた。

ジラクが入場したとき、まず奏者が彼に気付いて手を止める。
それは本当に無意識のことで、照明の明るさにも負けない金髪に息を呑み、頭の中が一瞬で空っぽになっていた。彼につられるように演奏が途切れ、何事かと静寂が生まれる。
そうして入口を振り返って、ジラクの登場に多くの人が目を奪われていた。
白を基調とした立襟の上着は肩から袖まで金のラインが走り、袖口には洒落た金ボタンがついていた。ウエスト部分は黒ベルトで留められていて引き締まった印象を与える。ズボンは金の刺繍が施された白ズボンで、本来的には着こなすのが難しい類の色であったが、容姿と相俟って非常によく似合う格好であった。
スタイルの良さが際立つその姿は遠目から見ても目立つもので、誰もが、静寂を生んだ人物がかの有名なシヴァース・ラーサ・ジラクだと気が付く。

僅かな間、見惚れていた奏者が思い出したように慌ててぎこちない演奏を再開する中、人々の視線を集めたままのジラクは給仕から飲み物を受け取り、傍観者を気取るように壁に寄りかかった。
その行為一つで煩わしい視線から逃れられるなら苦労はしないだろう。刺さる視線は減ることもなく、そのまま、
「ジラク・シヴァース・ラーサだろ?ようやく大陸一と名高い封魔士に会える訳だな」
珍しい人物を逃さないと言わんばかりに早々に目の前まで来た男が右手を差し出して訊ねる。それから、
「…!」
視線を合わせた途端に目を見開いた。

初対面の人がジラクに会ったときに返す反応は大体、決まり切っている。
まず、視線を合わせた途端に数秒間は固まる。どんなにジラクの悪い噂を耳にしていようと、その気高さを感じさせる金の瞳は目を奪う強さがあり、真っすぐに見つめてくる瞳の美しさに、そして彼の端正な容貌に言葉を失う。

雪のように白い肌に金の瞳は非常に冷たい印象と共にどこまでも澄み切った独特の気配を持ち、すっとした鼻筋に適度に厚みのある唇は淡いピンク色で、思わず触れたくなる柔らかそうな唇だ。
その容貌に相応しい輝きを持つ金髪は、彼の動きに合わせて目に掛かり、陰のある色気を漂わせていた。
彼の醸しだす圧倒的な存在感は思わず膝を付き崇めたくなるほどで、噂など些細なことだと思わせるだけの力があった。

固まる相手に対し、ジラクが無言のまま差し出された手を軽く握り返す。
触れる手の冷たさに、男がハッとしたように手を引っ込め、言葉を考えるようにジラクをじっと見つめていた。
口を開き、あー、と小さく呻いたあとに閉じる。
高圧的に声をかけておきながら、今更その態度を後悔して、ぎこちない小さな笑みを浮かべた。
「知ってると思うが、俺はボロラ国第二王子のガラルシアだ。歳も近いしずっと会ってみたいと思っていた。中々会う機会がなくてようやくだが…」
途中で自分の言っている台詞がまるで口説き文句のようだと気が付き、言葉を止める。
ジラクの微動だにしない視線の鋭さに動揺して、白銀の入り混じる赤褐色の髪を掻いた。ボロラ国王族の特徴的容姿は知らぬ者がいないほど有名な特徴でもあったが、
「生憎、知らないですが、わざわざ声を掛けた理由は何ですか?」
ジラクの返しは人を拒む言葉で、目の前の相手に興味はないと主張するものであった。 暗に話しかけるなと示す態度を見ても怯むような相手でもなく、
「封魔士として名を馳せるシヴァラーサ家が気になるのは当然だろうが。生意気な男だな」
ズボンのポケットに両手を突っ込んで、王族らしい自信のある笑みを浮かべた。
去るでもなくその場に留まり続ける相手だ。
「…」
無言を返すジラクに、
「休養はもう十分しただろ。そろそろ活動を始めてもいい頃だ」
お馴染の言葉を言って、ジラクをうんざりさせた。

その気が無いジラクに、封魔士業の再開を勧める。
多くの人が問い掛ける質問は彼に対する期待を意味するが、ジラクにとってはただの押し付けであり迷惑でしかない。

それでもジラクの表情は無表情のままで、
「封魔士業はしないです」
静かにそう答えた。
予想外の言葉でもないが、大げさに溜息をついてガラルシアが乾いた笑いを零す。そうして、
「世に出るのが怖いのか。名ばかりが先行して、何もないもんな」
意図的に嘲りの言葉で煽るも、ジラクの瞳には一切の揺れも生じず、ただ静かに視線を返すだけであった。
「…っち」
「ガラルシア王子。そういう態度は品格を疑うな」
二人の会話に割り込むように横から第三者が口を挟む。視線を向ける先には、褐色肌に黒髪の男が余裕の笑みを湛えて立っていた。
外套を身に付けた男の格好は軍人風の姿で、ガラルシアと同様、仕立ての良さが分かる上等品をまとい身分の高さが窺える。30代後半の鍛え抜いた肉体の持ち主で、服の上からでも体格の良さが分かる長身の男だ。
「…」
さすがのジラクもガラルシアは知らなくても彼のことは知っていた。
ミザリア大国きっての資産家、ラグナス・サラフィー・アザールだ。
「時期が来れば、いずれ開業する。その気がない内はそっとしておくものだぞ」
ガラルシアを窘めて、唐突にジラクの耳朶で光る銀のピアスに触れた。
「…!」
途端、相手の手を払うジラクの反応はいつもの無感情に反し激しい拒絶の仕草で、
「突然、相手の耳に触る行為も品格を疑う行為では?」
そう問う表情には身分の差に屈しない強さがあった。それを見たラグナスが僅かに驚きを浮かべたあと愉快そうに片笑いをする。
「失礼。随分と不似合いな気がしてな」
「似合うかどうかは貴方に関係ないでしょう?」
間髪入れず返された言葉に頷いて再度、謝罪を口にする。ジラクの態度に気を悪くした様子もなく、
「しばらく滞在するんだろう?その間、付き合え」
手に持つグラスを振って誘う態度は、相手が断ることを想定しておらず、
「何の冗談ですか」
ジラクの返しに小さく笑って、胸ポケットからハンカチと共に何かを取り出した。
照明に翳されるまん丸のそれは見覚えのある輝きを放つもので、
「返してやらんこともない」
手を僅かに上げたジラクを見て確信を得たように笑みを深めた。
「性質が悪いですね。いつの間にそんな物を手に入れたんです?」
彼の手に収まる七色の石を見て、ガラルシアが呆れた溜息を洩らす。ちらりとジラクを見て、次いで新しい玩具を見つけたように愉しそうな表情のラグナスを見た。
「俺は石のコレクターだからな。価値のある物を買い集めてる。シヴァラーサ家のモノが紛れ込んだのは偶々だ」
本当かどうか分からない嘘くさい笑みで言って、視線を向けるジラクから隠すように再び胸ポケットに仕舞った。
「その気になっただろう?」
「…返して下さるなら」
彼の胸元に仕舞われたモノから気を逸らすようにジラクが手に持つ酒を一口で飲み干す。

洒落た小さなグラスに入った無色透明の酒は量でいえば微々たる量だ。元々酒に強いジラクはこれしきで酔うようなこともなく、いつもの無表情のままだった。
給仕が目敏くやってきて、新しい飲み物を差し出す。お盆に乗るのは何種類かの飲み物で、その中からジラクが次に取ったのは赤色の果実酒であった。
「まだ御用ですか?」
それを片手に、去る気配の無い彼らに問えば、
「マストーラを知ってるだろ?彼が模擬戦をやりたがってたぞ」
ジラクの態度に不機嫌な顔をしつつ、ガラルシアがそう告げる。
知っていて当然かのように言われた名前も、ジラクが知っている訳もなく、
「…」
じっとガラルシアの顔を見つめていた。
無表情のその強い眼差しは端的に言えば非難の言葉と同義であったが、ガラルシアからすればその金色はどんなに悪態を付こうが目を奪われるほど美しく、無意識に見つめ合う格好となる。
「マストーラは今年25歳の若手だな。2〜3年ほど前から急激に脚光を浴びてかなりの実力者とされている。ほら、あの男がそうだ。封魔士の能力だけでなく性格も見目も良く、金持ちのパトロンが何人も付いてるようだ」
見つめ合う二人の呪縛を解くようにラグナスが指を差しながら説明すれば、自然と彼らの視線は指先の方へと向いた。

視線の先には、長い髪を後頭部で一結びにした美青年がいた。
艶やかな黒髪に緑の目をした男は確かに目を引く整った容貌で、パトロンと思しき老年の紳士らが周囲を取り巻いていた。
人の良い笑みで談笑していた彼が、視線を寄越すジラクに気が付いて、周りの紳士らに会釈してその場を抜け出す。
ジラクが視線を逸らす頃には既に遅く、彼がこちらに向かってきていた。
「…」
「ラグナス様とガラルシア王子じゃないですか!僕に声を掛けて下さいよ。お二人にお会いしたかったんですから」
軽快な口調で言いながらさり気なくガラルシアの肩に触れる。自分の顔に自信があるマストーラは、そうやって下から上目遣いに男を見れば簡単に手玉にとれることを良く知っていた。
事実、マストーラほどの美青年からそのような態度を取られて、不快になる者の方が珍しい。
「相変わらず元気だな。益々美貌に磨きが掛かったか?」
ラグナスの冗談交じりの言葉を否定しながらも、満更でもなさそうに笑って、片目に掛かる長い前髪を淑やかな仕草で払った。
それから今更気が付いたようにジラクを見て、
「あぁ。かの有名なシヴァラーサ家ですね。初めまして」
ガラルシアの腕に手を掛けたまま、左手を差し出す。
口元は笑みを浮かべるも瞳は探るような目つきをしていて、敵意が露わなそれは清々しいほどだ。
握手を返せば、相手は掴んだ手を離す気も無く、
「模擬戦。やりましょうよ」
ぎゅっと力を込めて、
「大陸一と名高い家柄の実力、見てみたいです」
周囲を気にもせず明るい声でそう誘った。


2023.03.02
いつも訪問・拍手ありがとうございます(*^-^*)ノ
短編でシンの2月をそろそろ書かねば、みたいな話をしたかと思うんですが、あれは季節ごと1回に変更しそうです(笑)
そこまで手が回らない(笑)!むしろそれすらおじゃんになるかもです( 'w' ;)まぁ元々新年祝いの短編だし、短編として楽しんでいただければ幸い…💛

そう、個人的に最近、目論見中なのがサイトをWordpressへ移行するか否かで、悩み中です('_')。今更Wordpress?って感じだけど前から機能が気になってたのとFC2が提供始めたのでチャレンジしやすいのと、やっぱり管理が楽なのかなーとか思ったり…?
そんなでちょこちょこ、もしかしたら色々URLの訂正や移動が入るかもです( '-' ;)。
多分やっても一気には移動しないので影響ないかなーとは思いますが、一応お知らせ(^^)/

拍手する💛
    


*** 11〜 ***