【総受け,男前受け,冷血】

 ***71***

ロスの言った言葉を気にしたまま、2,3日が過ぎていた。
その後も変わらず指1本の魔術訓練は続いていたが、特に目ぼしい成果は無い。ただロスが言うように、ロスを『信用している』自分というのを自覚していた。
彼はどう足掻いても王国側の人間で、仮に国が転覆しようものならその瞬間まで王に尽くすだろうことが短い付き合いでも分かる。それだけでなく、私欲の為に誰かを犠牲にするようなプライドの無い男でもなく、確固たる自分の正義を持ち自信に満ちた青年だと思っていた。

『信用』に時間の長さは重要ではないのかもしれない。
そんなことを思いながら街へ出掛けるために回廊を歩いていると、久しぶりに待ち伏せを受け、思わず小さな笑みを浮かべていた。

遠目にも目立つ巨体に歩み寄って、
「残念だったな、ゼレル」
開口一番にそう声を掛けた。
「ご予定がおありですか?」
ギエンの言葉を聞いて目に見えてしょげるゼレルの肩を軽く叩く。
「いや、お前がもう2,3日早ければ、お前と寝てやったのにって話」
さらりと言った言葉に驚き、
「…!」
通り過ぎようとするギエンの腕を掴んで引き留める。
「冗談ですよね?それとも酔っぱらってます?」
強引に視線を合わせて問い直せば、蒼い瞳が面白がるように笑った。
「ふっ。お前とは身体の相性はいいだろ?あの時は無性にお前とやりたかったんだが、今はもう落ち着いてるからな。用済みだ」
方笑いで言った台詞に、さっきよりも激しく落ち込むゼレルだ。
「あぁ…私はなんてことを…。仕事なんて放り投げて会いに来るべきでした」
仮にも副隊長だと言うのに、責任感の無い言葉を放ってその場にしゃがみ込む。
その大げさな動作に声を立てて笑い、ゼレルを振り返りもせず、歩を進めるのを慌てて追いかけ横に並ぶ。
「予定は無いんですよね。せめて一緒にお出かけさせてください」
「今日の俺は機嫌がいいからな。いいぜ」
流し目を送ったギエンが快諾し、それから瞳に柔らかな笑みを乗せてゼレルを見遣る。
「お前、ホント、飽きない奴だな。いい加減、俺の尻を追っかけてねぇで同じ年頃の女性と付き合え。その方が余程、意義がある」
珍しい穏やかな笑みのまま言ったギエンの台詞に、ゼレルが気をよくするという事は無く、
「…」
むしろ、その新緑を思わせる爽やかな瞳に真剣な色を浮かべ押し黙った。
僅かに浮かぶのは怒りの感情だ。
「本気で言ってます?」
声のトーンを下げたゼレルの問いに、ギエンが一瞬驚きの表情をした後、すんなりと頷く。
「俺からしたらお前はただのガキだ。前も言ったが、俺がお前を好きになる事は無い。お前はさっさと諦めて、他に好きな奴を作った方が、」
「ギエン殿」
腕を強い力で引っ張られ、言葉を止める。
人気が無いとはいえ、人が通らない訳でもない回廊で、辺りを憚ることなくゼレルの瞳が真っすぐにギエンを見下ろしていた。
間近に見つめたまま、
「私がその程度の感情で貴殿と寝るとでも?」
平然と、むしろ鬼気迫る勢いで問う。
「それっぽっちの好奇心で、男と寝れるとでも思ってるんですか?私は男に興味は無い。貴殿に興味があるんです。理解してます?」
ずいっと顔を近づけ、両腕を強い力で掴む。
二の腕に痛みが走り、ギエンが眉間に皺を寄せていた。
「私の想いをその程度の物だと判断するのは止めて頂きたい」
痛みで呻いたギエンに気が付いて、ようやく掴んでいた手の力を抜く。それでも逃がすまいとするかのように、腕は掴んだままで、
「っ…!」
「いつになったら、…ギエン殿は私の言葉を信じて下さるんですか」
止める間もなく、大きな手が背中に回りギエンを強く抱き締めていた。

周囲を全く気にすることも無く、突然そんな行動に出たゼレルに驚かされる。
それから、決闘の後に恥も無く傅いたゼレルを思い出していた。

「…」
拒絶するのも馬鹿らしくなって、小さく息を吐く。
幼い子をあやすようにゼレルの背中を軽くさすり、
「お前はそういう奴だったな。悪かった」
相手の想いを踏みにじった言動を自覚し、素直に謝罪する。

初めて会った時とは違い、ゼレルに対してそれなりの好意は抱いていた。
少しくらいは甘やかしてやるかという気持ちになる程度には、気を許しているとも言えた。
襟越しに当たる熱い吐息を感じながら、大型犬をあやしている気持ちになっていると、
「私は気にしないですよ。貴殿が他の者を好きになろうと、どんなに他の者と寝ようと…」
珍しく拗ねた口調で小さくぼやいて、ギエンを解放する。

爽やかな緑の瞳に、いつもの色を浮かべ、
「私が愛しているのはギエン殿だけです。それだけは真実ですから」
恥じらいも無く言い切った。

若者特有の強さが、ギエンの心を捉える。
それが眩しく感じて、無意識に微笑みを返していた。
「好きにしろ。俺はとことんお前を利用する」
「えぇ、そうして下さい」
手袋を嵌めた手を取り、甲に口付けを落とす。
ゼレルの予想とは違い、ギエンはされるがままだ。

振り払われなかった手を見下ろした後、
「今日は本当に機嫌がいいですね」
すっかりといつもの調子のゼレルが訊ねれば、ギエンが声を立てて笑った。
「いつもの俺は悪党みたいじゃねぇか」
「そうですね、いつもの貴殿は毛を逆立てた獣みたいですよ。触れようものなら噛み付いてくるでしょう?」
ギエンの言葉に笑って、ゼレルが冗談を返す。
「お前はそんな獣が好きなんだろ?」
「えぇ、ギエン殿がね」
強調され、先程の言葉をまだ根に持っていると知り、再度笑っていた。


隣でコロコロと表情を変えるギエンに視線を送りながら、今日のギエンはいつになく穏やかで、不思議になるゼレルだ。
これが他の者が言う『昔のギエン』なんだろうかと思い、当時の彼を知る者たちに嫉妬する。
それでも、
「お前、贈り物のセンスが良さそうだからな、俺の買い物に付き合え」
鮮やかな蒼い瞳が今この瞬間に映すのは自分だけだと思うと、そんな嫉妬さえどうでもよくなっていた。

どんなギエンであろうと、愛おしい想いに変わりはない。
隣に並ぶギエンの存在を噛み締めて、今日の行く先をシミュレーションし、どうやってギエンの心を射止めようかと思考を巡らせるのだった。


2021.12.17
少しのんびりモードで(笑)。偶にはゆったり回もどうですかね(^^♪
訪問、拍手ありがとうございます!励みになってます(笑)。これはそろそろ更新しろ合図かな?とか思ったりもします(´艸`*)笑

中々鬼畜なコメントもありがとうございます(*'V’*)ブフッ!!
ギエンには色々我慢して貰って、色々やらかしたいです(笑)!今一番は、見せつけHかなー(笑)ギエンは絶対嫌がるけど、身体はアレって言うね(笑)ハハハ!


そろそろセインの方も更新しなきゃなーと思いつつ、ストーリーを大幅に変更するか悩み中〜…(;^ω^)ウーン笑。

応援する!
    


 ***72***

ここ数日、ギエンの機嫌がいいことはパシェも気が付いていた。
いや、機嫌がいいというよりは以前より雰囲気が柔らかくなったというのが正しい。きっかけは考えるまでもなく、
「パシェ。ちょっと出掛けてくるな」
ハバード・ハンにあるんだろう。

あれ以来、ギエンは特に用事がある訳でもなく、気ままにハバードが寝泊まりする簡易宿所に行くようになっていた。かといって泊るでもなく、『ちょっと出掛けてくる』という言葉の通り、まるで庭に出るような気軽さで出掛けていた。
今日も薄着のまま、上着も持たずに部屋を出る。
「いってらっしゃいませ」
パシェの言葉に扉の前で振り返るギエンの姿はいつも通り凛々しく男前で、それでいてやけに魅了される表情を浮かべていた。

クロノコが置いて行かれた事を不満そうにしてテーブルの上で潰れる。柔らかな胴体をぺたりと冷たいテーブルに付け、ギエンが戻ってくるのを待ちわびるように扉を見つめていた。
その頭を優しく撫でながら、
「ギエン様が元気そうで何よりですね。ポプもそうでしょう?」
パシェの柔らかな言葉に、ポプが同意するように一声鳴いた。

テーブルの上を片付け、いつギエンが戻ってきてもいいように寝台を整えるのだった。


一方、ギエンは真っすぐにハバードの元へと向かっていた。
片手には小さな紙袋を持っている。渡した時のハバードの顔を想像しただけで、何となくしてやったりな気分になるギエンだ。

安い木の扉を叩けば、ギエンの訪問に慣れたハバードがすんなりと迎え入れる。
「この間の礼」
短い言葉と共に持参した紙袋を手渡せば、ハバードが意外そうに目を開いた後、
「お前、意外にまめだな」
嬉しそうに呟いた。

ロゴの入った高級そうな黒いリボンを解いた後、箱の中身を見た瞬間にハバードが浮かべた表情は、ギエンの予想とは違うもので、
「お前…」
苦笑混じりのはにかんだ笑みに、どう反応をすべきか迷っていた。
「…」
逆に気恥ずかしい思いをさせられるギエンだ。
こんな筈では無かったんだが、と心の中でぼやいて、気まずそうに髪の毛を軽くかきあげる。
それから、
「お前の髭が無い顔を見てみたくてな」
本音を口にしていた。
顎髭を手で摩ったハバードが口元に笑みを浮かべて言葉を返す。
「髭が俺のチャームポイントなのに、髭剃りの贈り物って嫌味以外の何でもないよな?」
ロゴ入りの高級ブランドのひげ剃りは、シンプルな造りでありながら洗練されたデザインで、鈍い光を放つ高級感のある代物だ。手で取って鋭利な刃の部分に指を滑らせながら、ハバードが言った言葉に、ギエンが笑い声を上げる。
「剃ってやるよ。また伸ばせばいいだろ?」
簡単に言って、ハバードの背中を押した。
「おま、…本気か?」
苦笑しながら僅かに焦るハバードを見て、更に笑いを深めたギエンが一段高くなった床にハバードを強引に座らせる。
それから大きめのタオルを胸元から肩に向けて掛け、
「お前もさすがに髭を剃られるとあっては、焦るか?」
ふふっと愉快そうに笑った。
「当たり前だろう?髭を整えるのも簡単じゃないぞ」
「一回でいいからやらせろ。昔の面影を見たいんだよ」
強引なギエンの言葉の中に潜む甘えに、ハバードが考え込むようにギエンを見つめる。それから諦めたように苦笑して了承した。
「本当に一回だけだ。髭は男の勲章だからな」
「馬鹿らしい固定観念捨てろ」
笑いながら一蹴したギエンが、まるで我が家のように慣れた手つきで火を起こし、水を温め始める。

「お前の髭剃りじゃ…、不安しかない」
ぽつりと呟くハバードの台詞に、
「確かに他人の髭は剃った事ねぇな。初挑戦だ」
衝撃的な言葉を吐き、余計に不安を煽った。その不安を読み取ったように、
「安心しろ。店主曰く、安全な刃で余程じゃない限り大怪我しねぇって言ってたぞ」
肩を叩いて言う。沈黙を返すハバードに、続けて言った。
「俺に刃物の扱いの心配はいらねぇから安心しろ」
座るハバードの背後に回ったギエンが膝立ちして、ハバードの顎をそっと上向かせる。作り上げたホットタオルを顔に被せて、黒い瞳を覆い隠した。

数分後、タオルをずらし目だけを隠した状態で、箱の中から髭剃り用のクリームを取り出す。手に乗せればじんわりと温かく溶け、簡単に濃密な泡が出来上がっていく。それをまんべんなくハバードの顎に乗せて、
「ハバード。マジで剃るけどいいのか?」
最後に念押しすれば、
「見たいんだろ?」
何のためらいもなく返答がきて、ギエンが僅かに驚きの表情をしていた。それから小さく笑みを浮かべ、刃を顎のてっぺんから頬に向かって滑らせていく。
人の髭を剃るのは初めてのことだ。濃密な泡と共に、毛が剃がれていく感触は何とも言えない爽快感をもたらし、ギエンを予想外に興奮させていた。
上等品らしく、その切れ味は流石としかいいようがない。刃を滑らせた場所からハバードの素肌が顔を覗かせる。
一度刃を濡れタオルで拭った後、今度は首筋に手を添え更にハバードを上向かせた。
無防備な剥き出しの首筋に刃を当て、顎下から耳元へと滑らせていく。口ではあれほど不安を口にしていたハバードが、静かにされるがままで、そればかりか柔らかな首筋を平気で晒したことに、ハバードの信頼を見た気がして僅かに動揺していた。

黙々と髭を剃り始めて、15分ほど経った頃、
「ふぅ…」
ギエンが詰めていた息を抜くように大きく息を吐いた。
胸の前に掛けたタオルをどかした後、ハバードのつるつるになった顎を手で摩り、
「綺麗に剃れたぞ。俺は才能があるな」
その仕上がりに感心したように呟いた。目元を隠すタオルを取って、今度は保湿クリームを手に塗り込み始める。
顎を触るハバードの手を払い除け、優しく塗り広げていった。
「いい香りだ…。これどこのだ?」
「ハロミルドのだな。今男性陣には人気の匂いらしい。奥深い香りがして、お前の匂いにちょっと似てるよな」
そう言った後、オイル塗れの手の甲を嗅ぐ。
ハバードの首筋に両手を添え、上から覗き込むように髭の無い顎を見つめた。
「お前の素肌が見えるなんて新鮮」
「馬鹿言って…」
言葉を返そうとして、何気ない動作でされた行為にハバードの動きが止まる。

ギエンの唇がハバードの唇と重なり、それはすぐに離れていった。
「ははっ!こないだの仕返しな」
呆然とするハバードを可笑しそうに笑ったギエンが、
「お前の珍しく呆けた面が見れて気分がいい」
満面の笑みで言うのを、黙って聞いているハバードでもなく。

「っ…!」
ギエンの後頭部を強引に引き寄せ、キスを返していた。
突然のことに逃げようとするギエンを捕らえたまま、体制を変えて更に深くしていく。
「…ンぅ、…ぁ!」
二度目のキスは一度目と同様にギエンを大いに混乱させていた。
ハバードの柔らかい唇が信じられず、熱く弾力のある舌が絡まってくる度に頭の芯が痺れ、思考が奪われていく。

ギエンの抗う力が弱くなる頃には、すっかりと甘く蕩けた表情を浮かべていた。

「ァ…、っ…」
鼻に掛かった声と共に唇が離れていく。
それと同時に、
「…お前、本当に俺のキスが好きだよな」
放たれた言葉を聞いて、ギエンの意識が瞬間的に覚醒した。いつの間にか床に押し倒されるような格好になっていて、自分の無防備さに驚く。
「…てめぇ…!不意打ちは止めろ」
すぐに厚い胸板を腕で押し返し、目の前の男と距離を取ろうとするも、
「先にしたのはそっちだろ?」
僅かに息を乱すハバードが勝ち誇った笑みを浮かべ、ギエンの顔を覗き込んだ。

髭の無いその顔は年齢以上に若々しく見え、いつもの太々しさが僅かに緩和される。貫禄溢れる髭の威力を実感し、まるで昔のハバードのようだと見惚れていると、
「何だ、ようやく俺の魅力に気が付いたか?」
更に茶化して笑った。
「自惚れんな!んな訳ねぇだろうが!年寄りくせぇお前の顔が、若返ったみたいでびっくりしただけだ」
「ギエン。大人の魅力って言えよ」
呆れたように言う低い声にすら惑わされ、後頭部にかかるハバードの手を意識する。その手がやけに熱く感じ、相手の胸に置いたままの手から鼓動が聞こえてきそうで、心拍数が跳ねあがっていた。
そんなギエンの動揺に気が付いたかのように笑って、
「そんなに好きなら、もう一度してやろうか?」
ハバードがからかいの言葉を投げた。
「っ…、くそ野郎…。まじで止めろ。これ以上はヤバイ」
横を向いて近づく唇を避け、手の甲で口元をガードする。
「やばいって何がだ」
笑って問うハバードに、
「お前のキスが巧過ぎて洒落になんねぇから、本当によせ」
弱った台詞を吐いていた。

ギエンの珍しい反応に驚きの顔をして、思案するようにじっと静かに見下ろす。
「…俺のキスを巧いって言ったのはお前が初めてだが」
真顔でさらりと言ったハバードの言葉に、
「っ…ハバード!」
何故か恥の上塗りをされた気分になって、ギエンの耳元が褐色の肌でも分かるほど赤く染まった。
「いちいちうるっせぇな!いい加減、どけ!」
口元を守ったまま怒鳴り、片手で胸を押せば、
「…面白い」
更に体重を乗せたハバードが悪だくみを思いついたような邪悪な笑みで覆い被さった。
「ッ…!」
胸を押し返すギエンの片手を捕らえ、そのまま体勢の利を活かして床に押さえつける。がっちりと顔の横で固定され、
「お、…い」
ギエンが焦りの声を上げる。
「で?どうする?」
間近にある黒い瞳に捕食の色が浮かび、その強い眼差しに絡めとられる。それでいて、手のひらにキスを落とすハバードの行為は、まるで大事な壊れ物を扱うように柔らかで優しさに満ちていた。
そのギャップが尚更、ギエンを動揺させ、
「…!」
まるでキスしているような気分にさせられていた。

「…ハバード」
名前を呼ぶ声に、甘さが混じる。

美しい蒼い瞳が緩むのも、一瞬のことで、
「っ…ぅぐッ!」
次の瞬間にはハバードの腹に膝蹴りを食らわせていた。
素早い動作で身を起こしたギエンが、自分を恥じるように視線を逸らせ距離を置く。
「…っあぶね…、流されそうだったぜ。お前マジでテクニシャンだよな…」
「ギエンが流されやすいだけだろう?あともう少しで面白いものでも見られるかと思ったが、残念だ」
腹を蹴られたにも関わらずハバードは面白そうに笑うばかりで、余裕の顔だ。

髭を剃られたというのに全くダメージも受けておらず、そればかりか逆に『してやられた』気分になる。
「っち。お前、マジで食えねえ奴」
ギエンの呟きもハバードの笑みを深めただけで、益々負けた気にさせられていた。

それでも。
やけに生き生きとした表情を見せるハバードに魅せられていた。
さっぱりと綺麗になってしまった顎を摩った後、夕飯の支度をするハバードの背中を思わず見つめ、そんな自分の行動にハッとしたように視線を逸らせるギエンだった。


2021.12.23
ラブラブ過ぎる…(#^q^#)。
余は満足ナリ…💕

拍手・訪問ありがとうございます!ラブラブにて完結!(笑)
嘘です><;ごめんなさい(笑)

suiさん、こんにちは!コメントをありがとうございます💕
拍手小説の方も読んで貰えて凄くうれしいです(*'V’*)💕意外に拍手文を読んでる人は少ないと思ってます(笑)。気に入って頂けるとせっせと書いた甲斐があるのでホント嬉しいです💕
あっちが甘々ですからね、本篇も負けじと甘々に仕立てたい( *´艸`)

応援する!
    


 ***73***

翌日、ハバードが髭を剃った事は大騒動になっていた。訓練生の間でも大きな噂話となり、ミガッドもハバードの髭が無い顔を見て大層、驚いた一人だ。どういう心境の変化かと思い、咄嗟に何故かギエンの顔が浮かんでいた。

もっともそんなことはギエンの知る所でもなく、まだハバードが仕事に出るよりも前の時間に、
「落ち着いていらっしゃいますね」
「まぁな」
ロスが言った言葉に、機嫌が良さそうに頷いていた。
「何があったのか知りませんけど、今日こそ出来そうですね」
封じたギエンの指を摘まんだままのロスが、簡単に言う。
以前ならそれを否定するギエンだが、今日は確かに出来そうな気がしていた。

「僕の手を握って」
他人が聞いたら甘い睦言のようだろう。実際は、ただの魔術訓練に過ぎない。
ギエンが集中するように瞳を閉じる。
ロスの視線が、ギエンの指先へと移り、その変化を見逃すまいと瞬き一つせず見つめていた。

触れるギエンの手は暖かい。ベギールクの元で仕事をした翌日は冷え切った手をしていることもあったが、今日はいつになく穏やかな気配を感じていた。
骨格のしっかりとした長い指は男のモノでありながら、綺麗な形をしている。手のひらに広がる深い傷跡が見ているだけで痛々しく、それだけで今までの苦労が見えてくるようだった。
それを感じさせないギエンの精神力は大したもので、常人ならとうの昔にくじけてしまってもおかしくはない。過去の栄光が余計にギエンを苦しめた筈だが、それにも関わらず、瞳を閉じて集中するギエンは気位が高く昔と何ら変わってはいなかった。

ギエンの長い人差し指が小さく震え、幾度か動きを止める。
そうして、
「っ…!」
「ギエン殿!」
ぎゅっと、ロスの手を握っていた。
「ロス、見たか?」
ギエンの驚きの顔と、ロスの自信に満ちた笑みが互いを見つめ合う。
「今のを忘れない内にもう一度やりましょう」
早口で言った後、再度、術を掛けるロスは成果が出たことが嬉しくて、冷静を保とうとしながら、それが滲み出ていた。

そうこうして気が付いた頃には1時間ほどが経過しており、唐突のノックの音で、ギエンの集中も中断させられる。
「…もうそんな時間ですか」
ロスの小さな呟きと共に指の縛りが解放され、ギエンが感触を確かめるように二度、三度と手を開き直していた。
「そういえば、もうじき建国記念祭ですね」
室内に入ってきたパシェが紅茶を淹れ直す合間に、いつもなら訓練が終わるとすぐに席を立つロスが、その日は珍しくそんな世間話をし始めた。
「建国…、そういえばそんな祭りがあったな」
短く答えるギエンはさほど興味が無さそうに、紅茶の香りを嗅いでいた。
「僕はいつもはハバード様と一緒に祝い席に出てるんですが、今年はどうやら婚約者の方と予定が入っているみたいで、…もし」
「ハバードが?珍しいな。あいつもいよいよ逃げられなくなったか」
ロスの言葉に被さるように、ギエンが笑い声をあげた。
「興味ねぇって言ってたけど、案外、乗り気だよな」
「…そう、ですね」
誘い言葉を途中で遮られ、ロスが戸惑ったようにギエンを見つめたまま、口を噤む。
その視線に気が付いたギエンが、
「何だ、ハバードに捨てられてしょげてるのか?」
ニヤっと片笑いを浮かべ、ロスに揶揄の言葉を投げた。
「えぇ、まぁ…」
本当はそんなことはからっきし無かったが、静かに答えれば、ギエンが鼻で笑った。
「ハバードの奴、エスコートが手慣れてるから、ロスがあいつに懐くのも分からなくもない」
「そう、…ですか?」
実際、ロスはハバードを尊敬してはいるが、ハバードの人間性というよりはその強さを尊敬しているのであって、特にそういった気遣いとかは気にしたことが無い。懐いているつもりもエスコートされたことも無いが、ギエンの勘違いを特に否定することもせず、
「この15年で何人と付き合ったのか知らねぇけど、結婚してないことが不思議だよな」
続くギエンの言葉に相槌を打っていた。

ハバードとギエンの関係が目に浮かぶロスだ。
ハバードが女性に対して丁寧なのは確かだろう。だが、恐らくギエンと接する時とは大分違う筈だ。
その最たる物が、ギエンの首元で光るネックレスであることをロスは知っていた。

ゼク家の一員としてハバードと言葉を交わすようになって10年以上は経つが、彼が人に御神木の飾りをプレゼントした所は見た事が無い。そもそも御神木はハン家にとって非常に価値の高い物で、市場に易々と出回るような商品でもない。
それだけハバードにとってギエンが別格の位置にいるということだが、それを敢えて教えてあげるつもりもなかった。
「ロスは知ってるのか?ハバードが今まで誰と付き合ってたか」
そう問うギエンが、何気ない仕草で首筋のチェーンに指を滑らせた。飾りを親指で撫でながら位置を直す様がやけに色っぽく、同性だというのに目を奪われる。
「そういう話はしたことが無いです」
意図的に視線を外しながら、素知らぬ態度で返せば、
「あいつの生活ひでぇからな。今度聞いてみるか」
面白いことでも発見したように瞳を輝かせていた。
「まぁ、センスはいいよな。ゼレルにも感心するんだが、ハバードもマジでいいセンスしてやがる。ついでに…」
一度、言葉を切ったギエンが思案するように口元に指を置き、
「すげぇいい匂いだよな。今まで気にしてなかったが、あれだけで女はコロッと靡きそうだ」
最後には柔らかな表情で言った。

「…」

ギエンの表情に、言葉に。
ハバードをべた褒めする態度に。

「ハバード様の香りはそんなにギエン殿の好みですか?」
答える声が僅かに冷え込む。
「あぁ。すげぇ好み」
カップに唇を付けながら答えたギエンは、そんなロスの気配に気が付くこともなく、優雅に紅茶を飲み干していた。
喉仏が震え、誘うような色気を放つ褐色の首筋は見ているだけで妙な気にさせる。ギエンにまつわる噂が途絶えないのもある意味納得のモノで、男だというのに無駄な色気を漂わせるギエンに、ロスが苛立ちを深めていた。

席を立ち、テーブルに手を付く。
顔を上げるギエンに、
「匂いなんて物は所詮、脳への信号です。僕がもっと極上の体験をさせてあげましょうか?」
喉ぼとけから顎にかけ人差し指を滑らせながら、ロスが言う。その手を払い除けるギエンの目は僅かに真剣な色で、
「お前が言うと冗談にならないからよせ」
ロスの精神魔術の力を知っているだけに、それがいかにやばいモノか把握していた。
「残念」
すっと離れたロスが思案するようにテーブルを指で2,3度軽く叩き、それから、
「ハン家の香りを気に入ってるみたいですが、ゼク家の香りも悪くないと思いますよ。今度、うちの名花を持ってきますので、ぜひ部屋に飾って下さい」
珍しく対抗心剥き出しに言った。
「…どうした?」
ロスの言葉にギエンが驚きの表情を返す。それを笑って見遣り、
「別に。そろそろ帰ります。警備隊長殿と鉢合わせして、変に追及されても困るでしょうし」
ほぼ毎日のようにダエンが来ていることを把握しているロスが、パシェに紅茶の礼をして去って行く。
意外な言葉に思わず後ろ姿を見送っていたギエンだったが、扉が閉まるのを確認した後、
「相変わらず何を考えてるんだか分かんねぇな…」
ぼそりと呟いた。
パシェが扉を振り返り、同情の溜息を零す。

ロスがどういった類の感情を抱いているのかは知らないが、少なくともギエンに構ってほしかったのは確かだろう。
それなのに、当の本人はハバードの話に夢中で、ロスがむくれるのも分からなくもない。
人の感情に鈍い時はとことん鈍いのがギエンだ。

ギエンがテーブルに置いたままの手のひらに纏わりついて甘えるクロノコを見ながら、素直に感情を露わにして甘えることが出来る彼が羨ましいと感じるのは自分だけでは無いだろうと思うのだった。



2022.01.04
建国祭に誘いたかったのに、誘えずに終わる不憫なロスです(笑)。ギエンはハバードの話題に夢中で気が付かないっていうね(笑)
マニアックなツボでスミマセン…(;^ω^)


いつも拍手・訪問ありがとうございます!沢山頂いて凄く嬉しいです💕
新年早々ルンルン(*'V’*)♪と更新してます(笑)

展開が相変わらず遅くてすみませぬ…(笑)。

応援する!
    


 ***74***

建国記念祭が近づいてくるにつれて街の至る所では飾り付けが始まり、どことなく街の人々に活気が宿っていた。警備がより強化され、夜にでもなれば明るい照明が華やかに街を彩る。
その美しさは、一見の価値がある煌びやかさで観光客が王都に集まるのも自然の流れでもあった。
ましてやその年の建国記念祭は、かつて『英雄』と言われ名を馳せた男が帰還してから最初の年であり、彼を一目見ようと宿は数日前から埋まりきっていて、大通りは人で溢れ返っていた。

建国記念祭ではまず広場で王の挨拶があり、騎士団による軽い演舞の後、ゼク家の魔術披露、その後にちょっとしたパレードが行われるのが通例だが、そこにギエンが参加するのでは、と以前から噂されていた。
人々のそんな淡い期待を裏切り、ギエンがパレードに参加するという事は無かったが、ギエンは街の混雑具合に辟易して王城に引き籠る生活を余儀なくされていた。

そうして迎えた祭りの当日、ギエンは痺れを切らしたように早朝から自室を抜け出していた。
季節はそろそろ上着が不要になる気温へと移りつつあるとはいえ、早朝の気温は低く、呼吸をすれば肺に冷たい空気が入り込む寒さだ。
上着を羽織ったギエンが馬に乗って向かう先は既に決まっていた。

行先を告げた時、パシェが浮かべた表情は戸惑いで、日頃は機械人間のような男がすぐに落ち着きを無くし、指先をそわそわとした様子で動かしていた。
心配するなと一言だけ残して朝から出掛けるギエンをパシェはいつまでも見送っていた。

慣れとは不思議なもので、今まで一人の時間は珍しいものでもなかったのに、今では誰かと他愛無い会話をする日常が当たり前で、久しぶりの一人に僅かに戸惑いを感じていた。
自分の変化に驚きつつ、目的の場所へと辿り着く。

何となく。
再びルギルと会えるとしたら、ここしかないだろうと思っていた。


そこはつい先日、ルギルに遭遇した小さな森の一角で、懐かしさを思い起こす滝のある岩壁の場所だ。
ルギルも、この光景を見て同じ想いを抱いたであろうことは推測できる。雪こそ降っていないが、ザゼルが好みそうな場所であるここは静寂に満ち、小川の小さなせせらぎ音が耳を癒す。

冷たくなったザゼルを水葬した場所も似たような場所で、滝の流れる岩石に囲まれた深々とした森の中だった。もっとも、川幅はもっと広く流れも激しい。山間を下っていく川の流れは、あっという間にザゼルの姿を森の中へと隠していくもので、尚更それが受け入れがたい光景だった。


岩の上に腰を下ろし、持ち込んだ本を開く。
聞きたい事だけではなく、話したいこともあった。
ルギルの話が本当であるなら、彼に謝罪をしなければいけない気もしていた。

そうして待つこと3時間ほど経った頃か、
「お前は馬鹿なのか?」
ギエンの予想通り、ルギルが警戒しながら姿を現して言った。
「前回と立場が逆だな。話をしに来た」
歩み寄ってくるルギルを警戒するように本を置いて距離を保つ。
「互いの関係にケリを付けようぜ」
精神魔術を警戒するギエンを見て、ルギルはそれ以上歩みを進めることはせず、木に寄りかかって視線を動かした。
「俺と来るなら真実を話すと言った筈だろォ?来ないなら話すことなんかねぇ」
「…」
ルギルの言葉に、ギエンが静かな眼差しを向ける。その瞳の強さに、ルギルが僅かにたじろいだ。
見つめ合うこと数瞬後、
「ザゼルのことは謝罪する」
ギエンの放った言葉に、ルギルが大きくため息を付いて頭を抱えた。
「お前があの時になんで俺を生かしたのかは知んねぇけど、俺の自由を奪ったあの3年間で納得できねぇなら、決闘で決めよう。俺らの関係に相応しいやり方だろう?」
続くギエンの言葉に、俯いたまま頭を抱えるルギルから沈黙が返ってくる。
「謝罪だけじゃ足らないのはわかってる。ザゼルを失った苦しみは一緒だ。お前が俺を憎むのも、理解出来る」
「…ギエン」
絞り出すような低い声で、ルギルが名を呼んだ。
顔を上げる彼の瞳は強い意思を宿す深い金色でそれはザゼルのモノと同じ色だ。獣の瞳が今度は真っ直ぐにギエンを捉えていた。
「お前は、口に出して言わなきゃ分かんねぇのか?」
「何をだ」
凄むルギルのギラついた瞳に負けじと視線を返せば、更に強い眼差しがギエンを見つめていた。
「俺が一緒に来いと言ってんのは償いをさせる為じゃねぇし、兄貴は関係ねぇ。俺がお前のことを好きだからに決まってんじゃねぇか」
「っ…!」
「兄貴が死んだのはお前のせいかもしんねぇが、それ以上に、お前を傍に置きてぇんだよ。憎いだけなら、お前が動けないように手足をもぎ取って、もっとズタボロに出来てただろーが。まさか気づいてなかったのかよ?」
やれやれとため息混じりに呟いて、木に寄り掛かったまま腕を組む。戦う意思が無いことを示す彼の動作に、握っていた拳を解いた。
「…お前は、…」
言われた言葉を飲み込めずにいた。

続く言葉を発することなく考え込むギエンを見て、
「ギエン。嫌いな奴を、ましてや人間の男を抱けるとでも思ってんのか。お前で性欲処理しなきゃなんねぇほど困っちゃいねぇ」
喧嘩腰に言った。
ぶれない瞳が真っすぐにギエンに突き刺さる。
「獣人族が噛む意味を分かってんだろ?兄貴がそうだったように、俺もお前を自分のモノにしたいからお前の肩に噛みついてんだ。知らないとは言わせねぇぞ」
ルギルの言葉にそれもそうかと納得させられた。女ならいざ知らず、男の、それも人間を毛嫌いする獣人族が、見せしめでもないセックスをするとは考えられない。それも毎晩のようにだ。
拘束した相手を前に今日の出来事を報告し、目の前で食事を取って、身体を重ねる。翌朝には身綺麗にされていたことを踏まえても、ルギルの言う言葉は本心なのだろう。

囚われていた3年間は、ザゼルを殺された憎しみのあまり、ルギル自身を全く見ていなかったのは間違いない。


今更になって伝えられた事実に頭が僅かに混乱していた。
だからといって、
「お前と一緒に行く気はねぇぞ」
はっきりと口にすれば、ルギルが目を見開いて、
「っ…」
らしくもなく、傷ついた表情を浮かべていた。

それが捨てられた子犬のようで、見るべきではなかったと後悔するギエンだ。
ルギルのことを仇だと憎んでいた時とは心情が違う。ザゼルと同じ容姿のルギルの顔は、ギエンに罪悪感と共に強い寂寥感を呼び醒ました。

今までとは立場が逆転していた。
ザゼルの死の直接的原因ではないにしても、自分という存在のせいで兄を殺されたのはルギルであって、憎まれてもおかしくない。
それにも関わらず、頑なに一緒に来いというルギルを慰めたくなる。
ザゼルの死を一緒に悲しむことができる相手はルギルしかいない。


アッシュグレイの髪が風になびき、ルギルの頬を撫でていく。
沈黙していたルギルが、小さく息を吸い込んだ後、幹から身を起こしギエンを見つめた。
それから組んでいた腕を解き、恭しく右手を差し出す。
「お前が牙を抜けと言うなら、抜く。人間らしくしろというならしよう。
だから…」
言葉を切ったルギルが何を言わんとしているか、聞かなくても分かっていた。耳を塞ぐべきだったのだろう。

真っすぐに見つめてくる瞳は力強く、瞬き一つしなかった。
いつもの荒い口調ではなく、静かな声音で、
「俺は、お前と一緒に生きたい」
切実な願いを口にした。


その言葉に。
その声に。


ザゼルの姿が重なり、共に生きることを選んだあの時が脳裏を過って、胸が締め付けられていた。


「っ…、お前とは…」
拒絶の言葉が、何故か止まってしまう。

肉親だけでなく。
多くの仲間たちを失ったのはルギルも同じだ。
「…っ」
裏切られ、傷つけられてきた気持ちが痛いほど分かる。

獣人族それ自体に罪は無い。
彼らが人間を憎む理由も、そして逆に人間が獣人族を憎む理由も、どちらも正当性のある憎しみだった。
どちらが先に始めた争いなのかは不毛な議論で、もつれた糸のように絡まったまま今日まできてしまっていた。今更どっちが悪いなどといったものでもない。

「…」
無言のまま、見つめ合う。
いつもは粗暴で強引なルギルの、真摯な一面を見て全く揺らがないかといったら、それは嘘になる。
一度は、獣人族と共に生きようと思ったギエンだ。
ハバードが抱くような激しい憎しみの感情がある訳でもなかった。
それでも、
「俺は、お前とは行かねぇ」
強い意志をもって答えていた。


『信じる』と言ったハバードの言葉が頭の片隅に過り、裏切る訳にはいかないと強く思うギエンだ。
例えハバードが結婚して遠い存在になろうと、ハバードにとって、自分の価値が無くなろうと、一度した約束を違えたりはしない。

胸に痛みが走る。
ルギルの、痛みを宿す強い瞳にか、それとも、死んでしまったザゼルに対してか。
一体、何に苦しみを感じているのか分からず、ただ強くルギルを見つめ返すしか出来ずにいた。


2022.01.13
大変遅くなりました(◎_◎;)。
新年早々、亀更新になりそうや…💦言い訳するとですね(笑)、ちょっとやらねばならんことが多くて、やる気が起こらん状態で、全く諸々進まなかったです(笑)。
ようやくちょっと片付いてきたかな…(;^ω^)。来週も予定が色々あり、更新合間見て頑張りますm(_ _"m)…(笑)
拍手励みです(笑)。ありがとうございますm(_ _"m)
そしてギエン…(笑)。危機管理能力0です(笑)。それがギエンです(笑)ハハハ!

コメントをありがとうございます(#^.^#)♪馬の鼻面に人参状態で頑張ってます〜(笑)罪な男驀進中です(笑)

りほさん、こんばんは☆彡
ランキングからありがとうございます💕凄く嬉しいです(*'V’*)♡
そしてまさかの一気読み!ありがとうございます(´ω`*)わぁい💕しかし凄いですね(笑)、結構な文量だと思うけどそうでもないのかな(笑)?!私は自分の小説ですが、夜眠いことが多いせいか、読んでると眠くなり沈没します(◎_◎;)笑!
また、ぜひお暇なときに来てくださいね(^^♪


応援する!
    


 ***75***

重い沈黙が続く中、先に口を開いたのはルギルだった。
緊張していた全身の力を抜くように深々と溜息を吐き、アッシュグレイの髪をかき乱す。
「兄貴には敵わねぇか。俺が兄貴だったら、お前は迷わず来んだろ?」
ぽつりと呟いた後、再度、重いため息をついた。
「お前の事を最初に見つけたのは俺だぜ?兄貴は何でも持ってる癖にお前まで奪っていく。全く、マジで腹が立つぜ」
口ではそう言いながらもどこか寂しげで、その表情に胸を突かれていた。反発しながらも信頼を寄せていた気持ちを見せつけられ、言葉を失う。

ギエンがルギルを見て、ザゼルを思い出すのと同じように、ルギルも自分の姿を見て兄を思い出すのだろう。そしてそれは一生、ついて回る。
それだけに、ルギルがザゼルに囚われている苦痛というものが、身に染みて分かるようだった。

「兄貴と俺は唯一の血族だ。
小さい頃、部族を皆殺しにされてからは兄貴と二人で居場所を探しながらずっと生きてきたんだ。賛同する仲間も随分と増えたが、あんな事になって、何故、未然に防げなかったのか悔やんでも悔やみきれねぇ。
せめて、兄貴の意思だけは受け継いでやらねぇと、兄貴が、…」
言葉を止めたルギルが感情を押し殺すように唇を引き結ぶ。握り締めた拳から血が流れ落ちていくことにも気付かずに、睨み付けるように足元を見つめていた。

今まで、誰にも言えなかった想いなのだろう。
彼の名誉のために、自分が殺したことにしたくらいだ。
相当の決意だった筈で、その強い覚悟にザゼルに対する深い親愛を感じ取る。

珍しく弱音を吐くルギルの悲壮な表情に、どう対応すべきか迷っていたギエンだったが、意を決したように足を踏み出す。
ルギルの傍まで歩み寄り、
「っ…!」
血が滴る拳を手に取ってそっと開いた。
「ザゼルは、もう帰ってこない。俺だって同じだ。ずっと悔しい思いをしてきた。ザゼルとはずっと、一緒に生きていくつもりだった」
ギエンの静かな声に、
「…」
ルギルが小さく震える息を静かに吐き出していた。
「…お前は本当に愚かな人間だ。俺にまた襲われるとか思わねぇのか?」
無防備に間近まで来たギエンを乾いた笑いで貶す。その表情は酷く弱った顔で、胸が締め付けられるようだった。
力無い悪態がルギルの苦しい3年間を表していて、尚更邪険には出来なくなっていた。
ルギルが言うように、同じ傷を背負った似た者同士だ。ザゼルの想いを、彼自身を語る相手は互いの存在しかいない。
「お前が欲しい。身体だけじゃなく心も犯して、俺だけのモノにしたい」
「出来るもんならやってみろ。返り討ちにしてやるから」
挑戦的なギエンの返しに、ルギルが驚きを浮かべ、すぐに笑い声をあげた。
「お前はいつまでも変わんねぇな。俺は諦めねぇぞ、ギエン」
獰猛な獣の顔に戻ったルギルがギエンの胸ぐらを掴み、間近で凄む。
「こんな風に会うんじゃなく、正々堂々とお前に会いに行く。そしてお前を取り戻す。
お前が『獣人族』を選ぶんじゃねぇ。『俺』を選ぶんだ」
「はっ!勝手な奴」
強い勢いで言ったその言葉は好感が持てるもので、小さく笑いを返していた。

獣人族の居場所を作る。
その想いは本気なのだろう。


ルギルが気が抜けたように転がる岩の上に腰を下ろす。それに合わせ、ギエンも近くの小岩に座った。昔、ギエンがザゼルに認められ、獣人族の仲間として受け入れられつつある時にそうであったように。
何気なく、落ち着いた気持ちで会話をし始める。

しばらくザゼルとの思い出話をする二人だった。


***********************


ギエンがルギルと別れた後、王都へと戻ってきたのは夕方に差し掛かる頃だった。
祭りを避けるように北側から戻れば、道中で見知った顔を発見する。それと同時に、向こうもギエンに気が付き、足を止めた。
「出掛けてたのか?珍しいな。祭りの混雑に巻き込まれなかったか?」
ハバードの台詞を受け、馬上から降りて挨拶を返す。
「ミラノイ様。お久しぶりです」
「お久しぶりです、ギエン様。これ程お目出たい日に貴方ほどのお方が、お一人だなんて勿体ないですね」
隣に立つハバードの腕に手を掛けたまま寄り掛かるように身を寄せて、そう言う。
「事前に知っていれば、私の友人をご紹介いたしますのに…」
よかれと思っての台詞だろう。
ギエンが苦笑を浮かべていると、
「北街を通って戻るんだろう?貸してやる」
ハバードが手に持っていたフード付きの外套をギエンの肩に引っ掛けた。ふわりと香るのはハン家の香りだ。

何故か、その香りに動揺する。

別に疚しい事がある訳でもないのに、ふとルギルの顔を思い出していた。
結局、ザゼルの死の真相は聞けず仕舞いで終わっていた。それでも、ルギルに会いに行ったことは後悔してはいなかった。

ハバードがよこした外套を鼻元へ引き寄せながら、ぼんやりとそんなことを考えていると、
「今度、婚約のお披露目会をすることになったんです。招待状をお送りしますので、ギエン様も是非参加なさってくださいね」
ミラノイが嬉しそうに誘った。
「勿論です」
突然のことに驚きつつも快諾すると、隣に立つハバードが苦笑を浮かべる。
「今まで私が何度お伝えしても髭を剃って下さらなかったのに、こないだは髭も剃って下さって、お披露目会でも是非そうして下さいとお願いしているところなんです」
ハバードの伸び掛けの髭を見上げて言うミラノイに、自分が無理やり剃ったとは口が裂けても言えないギエンだ。
ちらりとハバードを見れば、視線で黙ってろと口止めされていた。
胸の内でそんなハバードを笑っていると、
「ミラノイ様を送ってくるからまたな。外套は後で取りに行く」
ハバードが気まずい空気から逃れるようにしてミラノイの肩を引き寄せる。立ち止まっていた彼女の足を強引に動かして、歩かせた。
「…悪いな、借りる」
顔を隠すようにフードを目深に被れば、視界が遮られ世界が狭まった錯覚がした。そのことに何故か安堵を感じ、小さく笑みを浮かべていた。
遠くなっていく二人の後ろ姿を見送りながら、ルギルと交わした会話を思い出す。

もしも。
ルギルと一緒に行ったらハバードはどうするんだろうかと考え、すぐに愚かな考えを打ち消す。

ただ、受け入れてくれる人や環境がある自分とは違い、ルギルは天涯孤独になってしまったのではないかと思うと、ザゼルを死なせてしまったことに責任を感じていた。
獣人族の国を興そうとしているのだから、他にも仲間がいるのは確かだろう。だが、それは今までの部族とはまた違う性質のモノで、家族のような関係とは違う筈だ。

憂鬱な溜息が知らず洩れる。


邪念を振り払って止まってしまっていた馬を走らせる。
部屋へと戻れば帰りを待っていたパシェが、ギエンの顔を見ると同時に明るい表情になって迎え入れた。
心配させたことを僅かに反省していると、クロノコが胸に飛び込んできて小さな顔を擦り付けてくる。
口にはギエンが外したネックレスが咥えられていて、
「ポプはハバードが好きだよな」
それを受け取りつつ、訊ねれば、クロノコが返事をするように鳴いたあとギエンの肩へとよじ登っていった。

ルギルに会うために外したネックレスだ。嗅覚の優れたルギルが発見できるようにと思ってのことだが、すっかり肌に馴染み、無いと落ち着かない心境にさせられる。
そんな自分を再発見して、ハバードの存在感を以前よりもより強く感じていた。
「あいつ、いよいよ結婚するみてぇだぞ」
椅子に腰かけてポプの鼻を突きながら言えば、ポプが怒りを示すように小さな足で地団駄を踏む。
「はは。お前、メスか?」
クロノコのお腹を擽り、仰向けにひっくり返して悪戯するギエンは楽しそうに笑っていた。性別の判断ができないつるりとした体を撫でて、小さな手足を指で押しまくる。
「ギエン様。夕食はこれからですよね。お持ちしましょうか?」
「あぁ」
流し目を送り同意の片笑いを返したギエンが、緩慢な動作で頬杖をつき、考え事をするように人差し指で唇を撫でた。
その表情が儚げに見え、途端にギエンを抱き締めたくなるパシェだ。

今日一日、何があったのかを尋ねることが出来たらどんなにいいかと辛くなる。
ギエンが思っていることや感じていることを素直に聞くことが出来たらと、常々思っていた。
「お前もこれからなら一緒に食おう」
片肘を付いたまま柔らかな笑みで誘うギエンはいつも通りのようでいて、覇気がなく、いつもの勇ましさは半減していた。ここに縛っておかなければ、どこかに放浪してしまいそうな空気で、
「すぐにお持ちいたしますね」
美味しい物を食べ、少しでも元気を出して欲しくて、いそいそと夕食の準備をしに部屋を出るのであった。


2022.01.23
スミマセン…おそくなりました(笑)。会社で不愉快案件があると精神ダメージ凄く回復に2,3日かかります(;'∀')。そして私は転職活動中です(笑)。面接やらで更新遅延気味になるかもです(;^ω^)。今すぐ会社を辞めたい(切実)。

久々のギエンが絶賛、闇落ちまっしぐらです(笑)。いや、闇落ちはしない筈…。
私の精神状態のせいか、物凄く愛憎入り混じる闇落ちの話が書きたくなってきてます(笑)。ヤバイ!(笑)。まぁギエンの過去がほぼそれかしらん?(笑)過去編書くか('ω')。衆人環視の中、強制〇〇の末、快楽堕ちです('ω')💕。
私の頭の中が闇で渦巻いておる…(笑)。休養が必要や…(笑)ハハハ

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 ***76***

ギエンの夜の入浴は比較的長い方で、日によって異なるが1時間以上掛かる日もあり、その日もだいぶ遅い部類であった。
食後にいつも通り入浴をしたギエンが浴室から出た時、そこに見慣れた顔ではなく珍客がいるのを見て固まっていた。

「…パシェは?」
優雅に足を組んで座るハバードに訊けば、ハバードが驚きを返す。
というのも、ギエンの格好は腰にタオルを巻いただけで、水に濡れた状態のままだからだ。
「パシェに頼り過ぎだ。お前と話があると言ったら出て行ったぞ。代わりに拭いてやろうか?」
呆れた口調で言った後、読んでいた書類の束に視線を戻しながら言った。
クロノコは既に自分の寝床にいるのか、姿は見えない。
「あいつ、俺の紅茶はどうする気だか」
テーブルの上で逆さに置かれたティーカップを見て小言を呟く。もう一客、ハバードの手元に置かれているのを見て、いつからいるのか知らないが、空なんじゃないかと余計な心配をしていた。
「こんな時間に話って珍しいな。長くなるようならパシェを呼ぶが、どうした?」
別にハバードに裸を見られたところで困る事は何一つ無い。それでも、ハバードに背を向けるようにして身体を拭き始める。
大きめのタオルを肩に掛けたまま顔から腕、脇腹の水気を取りながら質問すれば、ハバードが手に持っていた書類の束をテーブルに置き、沈黙した。

乱雑に髪の毛の水気を取るギエンは、ハバードが席を立ったことも気付かず、
「今日はミラノイとずっと一緒だったんだろ?俺と会う時間があるなら、彼女ともっと遅くまでいれば良かったんじゃないのか?」
そう訊ね、ふと唐突に気配を感じて顔だけ振り返った。
「っ…!」
間近に立つハバードに驚き、肩を震わせた拍子にタオルがずり落ちる。それを慌てて腰元で抑えたギエンの無防備な背中に、がっしりとした手が置かれていた。
「さっき会った時に元気が無さそうだったから、外套ついでに会いに来たんだが、」
深い刀傷の痕を辿るように指を滑らせながら、
「今日。どこに行ってた?」
そう訊ねられ、知らず肩が震えていた。

疚しい想いがある訳でもないし、隠すようなことでもない。
それでも、今日一日中、女と遊んでいたような男に何故いちいちそんな質問に答えなければいけないのかと思い、
「…別にどこでもいいだろ?」
動揺を誤魔化すように言えば、ハバードから返ってくるのは沈黙だった。古傷を刺激するハバードの手が止まることはなく、
「触んな!」
振り返るようにして右手を振り上げる。
その手首を逆に捉えられ、間近にある黒い瞳が刺すような鋭さを宿しているのを見て、
「っ…、パシェの奴…ッ!」
既に行先を知られていることを悟った。

掴まれた手首が痛みを伴う。
振り払おうとしてもびくともしないほど物凄い力で、ハバードの怒り具合が分かるというものだ。
「っ…、何を、怒ってやがる…」
「ギエンがそうしたいなら、勝手にしろ。だがな、お前が獣人族を選ぶなら、お前だろうと容赦しないと言った筈だ」
肩を押し身を乗り出すようにしてギエンに迫るハバードに対し、ギエンの左手はタオルが落ちないように腰元で押さえたままだ。
ハバードの剣幕に仰け反り、
「ッ…う、るせぇ!」
苦しい声が洩れる。

「こないだ、どんな目に遭ったのかもう忘れたのか?お前の頭は鳥頭か」
凄むハバードの勢いに後ずさり、
「うっ、…く!」
そのまま、寝台の上に押し倒されていた。
頭上で固定された右手はびくともせず、強い力で抑えつけられ息を飲む。
「本当に何も、覚えてないのか?」
するりと、胸の狭間から鳩尾、臍まで指先で撫でられ、
「ンッ…ぅっ!?」
途端に、ビリビリするような感覚が全身を襲っていった。
「俺にあの男の匂いを消してくれとせがんだのはお前だぞ」
「…な…、に!」
ハバードの触れた箇所から身体の感度が鋭く敏感になっていく。
突然のことに頭が付いていけず、まるで媚薬でも盛られたかのように、
「はっ…、ッぁ…、さ、わるな…」
ハバードの触れた部分が熱くなって身体が勝手に震え出す。
焦らすように触れる指がすっかりと立ち上がる乳首に触れ、
「く…、んッァ…っ!」
あまりに強い刺激に、悲鳴にも似た声を上げ背を弓なりに反らしていた。
「っ…!」
咄嗟に出てしまった声に屈辱の余り顔を横に逸らし、浅い呼吸を繰り返す。混乱するギエンの瞳は驚愕で見開かれ、触られただけでこんなに感じてしまう自身の体に理解が追い付かないでいた。
タオルを握りしめる手が震え、ともすれば洩れそうになる声を必死に抑える。
「離、せ!」
掴まれた手首を振り解こうと力が籠り、小さく震えていた。

ギエンのその姿態をじっと見下ろすハバードだ。

濡れた髪が端正な顔に掛かり、水滴が首筋に沿って流れ落ちていった。
透明の雫がシーツを濡らし、シミを作る様が見る者の情欲をそそり、濡れて光る褐色の肌が余計にギエンを妖艶に魅せる。
「相変わらず。男の癖にエロい顔をしやがって」
「ッ…!」
ハバードの口から出た言葉とは到底思えず、侮辱されたと感じたギエンが迷わず膝蹴りを食らわす。それを難なく手のひらで受け止めて、
「!っ…や、…めろッ!」
膝を持ち、片足を大きく押し開いた。
拍子にタオルが捲れ、隠していた部分が露わになる。
「っ…!」
触れてもいないのに既に立ち上がっているモノを眼前に晒され、ギエンの目元が瞬間的に赤く染まっていた。
「っ…、いい加減にしろ!」
激しい羞恥に襲われるギエンだ。
タオルで押さえる意味も無くなり、左手で容赦なく脇腹を殴り付ける。
その渾身の一撃も、ハバードが呻いたのは僅か一瞬で、
「ぃ、っぁ…ァッ!」
仕返しのように敏感な部分を親指で擦られ、更に恥辱を重ねる羽目になっていた。襲ってくる快楽に身体が勝手に昂り、自制が出来なくなる。
「っふ…、」
指が動く度に簡単に喜びに震え、先端から溢れる滴がいやらしくハバードの手のひらを濡らしていった。

「ハバー、ド…、ッ…何、考え…」
問う言葉もハバードの苛立ちを宿した瞳の強さに途切れ、訳が分からなくなる。
「お前が気付いてないようだから、分からせてやろうかと思ってな」
揶揄でもなく真顔でいった言葉が理解できず、闇雲に抵抗を試みる。
「く、…っ」
それでも拘束は振り解けず、暴れたところで大したダメージにもなっていなかった。
ギエンの抵抗を見たハバードが鼻で笑った後、屈辱に追い打ちを掛けるように、驚愕の言葉を吐いた。
「いい加減、俺のことを好きだって自覚しろ」
「ッ…!…っ自惚れん、なッ…!」
カッと頭に血が上り、足でハバードの腹を思いっきり蹴り付ける。それをそのまま上半身で抑えつけられ、
「っ…、馬鹿力、…め…!」
逆に苦しい思いをさせられていた。
「それとも、何か。お前は誰にでもこんなに喜んで触らせてるのか?」
「うァ…、あ、ッ!…ハバ…ッ!」
濡れた音が響き、強い快楽に頭に霞みが掛かる。
ハバードの言葉の通り、触られるだけでこんなに満ち足りた気持ちになるのはハバードだけだ。それを無理やり気付かされ、
「っ…!」
意地でもそんな気持ちは認めたくないギエンだ。
それでも、身体は正反対でハバードが触れる箇所から全身が痺れ、甘い余韻が駆け抜けていく。

行為は次第にエスカレートしていき、ハバードが慣れた手付きで秘部を開いて中を解していった。
指が正確にいいところに当たる。その度に声を抑えたまま身体を震わすギエンに対し、
「お前、いつも後ろも洗ってるのか?」
苦笑交じりの声が不躾にそんな質問をした。
「っ…、うるせぇ…!どうでも…、ぅ、ぁ…」
一際強く中を抉られ、息が止まる。
「綺麗好きか。それとも毎回、男と寝るためにとか言うつもりじゃないよな?」
「ふ、ざけんな…!」
「まぁ、今となっちゃ、それもお前らしいが」
鼻で笑った後、ベルトを外しズボンのファスナーを下ろす。腕をクロスさせてシャツを下から脱ぐハバードの姿に、
「…!」
目を奪われ、動揺していた。
割れた腹筋は美しく、武芸を極めた男の裸体には無駄な脂肪は一切なく隙が無い。それでいて、
「ギエン」
いつもは鋭い光を放つ黒い瞳が、珍しく欲情を宿していた。
「っァ…」
思わず、甘い声が洩れそうになって手の甲で唇を覆うギエンだ。

変なスイッチが入った気がしていた。
十分に柔らかくなった場所に、硬く屹立したモノを宛がわれ、小さく震える。
それが何からくる震えなのかも分からず、真っすぐに見つめてくるハバードの黒い瞳に、経験した事のないような強い動揺を覚えていた。
「ン、…ぁア、…っ…」
ゆっくりと挿入されて、尾てい骨にゾクゾクと痺れが走る。
「っく…そ…」
悪態を付きながら甘い表情でだらしがなく唇を開くギエンに、ハバードが小さく苦笑していた。
唇に触れ、舌に指を絡ませる。
強引に唇を開かせ、それから、
「っ…?!」
ゆっくりと、口付けを交わしていった。
いつかのキスと同じように、緩く、優しく、柔らかで、
「っぁ…、…ッ」
ギエンの脳みそが簡単に犯される。

口付けが深まるのと同時に、奥深くまで挿入されて目の裏で光が走っていた。
「ふ…」
身体の奥からゾクゾクと這い上がっていく何かが全身を支配していき、その後に感じるのはどうしようもないほどの多幸感で、
「っ…!」
キスをされたまま、触れられてもいないのに達してしまう。

後ろを締め付け背を震わせるギエンに気が付き、ハバードが小さく笑った。絡まる舌を緩く解きながら、ゆっくりと腰を動かし始める。
「ハバー、…ド…」
蕩けた瞳で甘く名前を呼ぶギエンは、誰がどう見ても恋人に見せるような濡れた表情で、快楽で潤む蒼い瞳が、真っすぐにハバードを見つめていた。
それでもまだ自我はあり、
「自分の事がよく分かったか?」
ハバードの言葉に、五月蠅いと文句を返す。
奥を突かれる度に、抑えられない何かが口を付いて出そうになり、懸命に意識を保つギエンだ。
「俺を好きだって認めろ。そうしたら俺は結婚せず、お前の為だけに生きてやる」
真剣な眼差しでそう言うハバードの言葉はある意味、愛の告白そのものだったが、
「ふざ、けんな…、ッンァ…、ぜってぇ、言わねぇ…、ぞ」
すんなりと受け入れるギエンでもない。
手の甲を噛んで、勝手に出そうになる言葉を飲み込む。
「っふ、…、ァ…っ」
仰け反るギエンの首筋に力が入り、筋が浮き上がる。甘い色気で誘うギエンに、
「っ…、強情だな」
ふっと笑ったハバードが頬に掛かる髪の毛を耳の後ろに払った。その優しい仕草に、ハバードと視線がかち合う。
「ンぅ…!」
途端に、ビクビクと身体を震わせていた。黒い瞳に捕食の色が浮かび、より強い欲情を宿すのを見て、根負けしそうになるギエンだ。
容易に後ろでイかされて、思考に霞みが掛かっていく。
「俺を好きだって言うまで止めるつもりは無いぞ」
ハバードの低い声が耳の奥まで心地良く響いて、
「うる、せ…ぇ」
悪態を返すギエンの声は甘く揺らぎ、弱々しく掠れたものだった。


夜が更けていく。
二人の夜はまだ始まったばかりなのであった。


2022.01.28
びっくりするくらい甘々です…(*'V’*)♡私、こんな甘々書けたんですね?!ナンチャッテ(笑)

ハバードに滅法弱いギエン(笑)。意地っ張り同士の二人なので、今後どうなることやら(笑💕)。

拍手沢山ありがとう(´ω`*)!!沢山頂いて舞い上がってイソイソ更新頑張ってみました(笑)。ちなみに次週はまた遅くなりそうな予感はしてます(笑)。そろそろ拍手文3つ目を更新したいとは思ってますが、まだネタ無しです(笑)

コメントもありがとうございますm(_ _"m)💕むっちゃ嬉しい…💕
闇落ちしそうでしないギエンです( ^)o(^ )☆彡ハバードが食い止めてますよ〜(笑)ハバードが結婚したら闇落ちすると思います(笑)ハハハ!

はるはるさん、こんばんは〜(´ω`*)💕訪問ありがとうございます!嵌ってくれて嬉しいです(^^♪
背徳感最高ですよね!私も大好物(*'V’*)♡色々頑張ってストーリー進めていきますね!('ω')o
闇落ち過去ギエン(笑)。私の頭の中の闇が晴れちゃったですが(笑)、いつか実現させたいです( *´艸`)💕期待せずお待ち下さい(笑)

応援する!
    


 ***77***


「くッ…!」
ハバードの動きに合わせ、ギエンが頭上でシーツを握りしめる。横を向いたまま、声が洩れるのを堪えるように手の甲で口元を押さえていた。
「ふ。初めてみたいな反応すんな」
脇腹を摩りながら甘い声で笑うハバードに、批難を篭めた視線を返す。
「いいから、さっさと、っ、…いけ」
乱れた息の合間から吐き出された強気な言葉に、ハバードが声を立てて笑った。それから、腰を引き寄せて奥深くに吐き出す。
身体を震わせるギエンに、
「俺がイけば終わると思ってるのか?甘く見るなよ?」
そんな言葉を言って驚かせる。
「ッ…お前、何度、…!」
言い返そうと口を開こうとして、ふと何かの気配に気が付き、更に驚きを深めていた。
「っ…!」
ハバードとはまた違うつぶらな黒い瞳が興味深そうに2人を見つめたまま、寝台の背に座る。いつからいたのか、クロノコの存在に動きを止めたギエンに対し、ハバードは平然としており、それどころか、
「今更、気が付いたのか?」
ギエンの驚きに笑いを浮かべてさえいた。
純粋な眼差しに羞恥が沸き、
「っ…、ハバード、よ、せ!」
緩く動くハバードの肩を押しやる。
止まる気配の無いハバードはクロノコの視線を全く気にもせず、むしろ面白がるように口角を上げた。
「見せてやればいい。俺は気にしない」
ハバードが太々しいのは見た目だけでなく中身もだ。
「冗談じゃねぇ…ッ!…っ抜、け!」
ギエンが暴れ、圧し掛かる相手を払い除けようと拳を振り上げる。その手がハバードの口元に勢い良く当たって、鈍い音が響いた。
「っ…!」
唇から血を流すハバードを見て、ハッとしたように動きを止めるギエンだ。


ハバードが無言のまま唇の端についた血を親指で拭う。
ギエンを上から見下ろしたまま、あまり目にすることの無いような狂暴な笑みを浮かべていた。三白眼の瞳がより残忍に気配を変え、妙な熱を宿す。
それと同時に、
「うッ…ァ!?」
中に挿入されたままのモノが急激に質量を増し、腹の中を圧迫した。
「何…!」
「そういう強気な態度、俺が好みなのを知ってんだろう?わざとなのか?」
深く突かれ、背を逸らせて善がる。
「んン…ッ!ハバード!待、…ァッ!」
喉の奥が引き攣れ、抗議の言葉も途中で止まっていた。
ハバードの強い眼差しに意識を丸ごと持っていかれ、クロノコが見ていることすら意識外へと追いやられていく。
突かれる度に経験した事の無いような快感が駆け巡り、全身の隅々まで痺れ、
「ぅァ…、ぁ…、ッ…」
何度目か知れぬ中イキをさせられていた。
小さく痙攣するギエンの瞳は甘く蕩け切っていて、淫らに唇を開いてハバードを求める。
それでも、ハバードが揺らぐということは無く、
「ギエン。しっかりしろ」
むしろ、頬を軽く叩いて意識を覚醒させるハバードは鬼畜そのもので、意地でも正気の状態で『好き』と言わせる気満々だった。
「っ…、クソ…野郎…」
ギエンが弱々しい声で悪態を返す。
「ふー。後で覚えてないとか言わせないからな」
一息、大きく吐いた後に、ギエンの首筋に手を添えて頬に口付けを落とす。
「早く俺を好きって言え」
僅かに息を乱しながら動きを再開させるハバードをぼんやりと見つめるギエンだ。
「ふっ…、必死、…だな…」
小さな揶揄の言葉にハバードが否定せずに頷く。
「俺は、お前を『また』失うつもりはない」
「…っ!」
さらりと吐き出されたいつに無く真剣な言葉に驚き、ハバードの顔を見つめ返す。
「そういう…台詞は…」
茶化そうとして、顔が熱くなるのを感じるギエンだ。

余裕のない息をつく精悍な顔がどストライクだと今更のように気が付き、心の奥深くまで侵食されていくのを感じていた。 ふとすれば、ハバードの求める言葉を吐き出しそうになって、手を噛んで声を押し殺す。
その様はストイックでありながら、抑えきれない淫らさが余計に情欲を煽るもので、
「ンぅ…、くッ…」
均整の取れた身体が快楽に震える度に、甘い気配をまき散らしていた。
褐色の肌が、鍛えられた筋肉の陰影をより濃厚に魅せ、淫らにハバードを誘う。
「お前という奴は…」
根負けしたように笑った後、ギエンの唇を強引に開いて熱く濡れる舌に自らの舌を絡めた。

いつでも、それが強引になされたものであっても、ハバードがするキスは非常に優しいもので、容易にギエンを勘違いさせる。
長く深いキスの後ともなれば、頭の芯すら痺れ、いよいよ呂律も回らなくなり、
「ハバァ…ード…」
甘ったるい声で更にキスをせがむ。


苦笑を浮かべながら、ハバードがそれに応じていた。


**********************



翌日、ギエンを起こしに来たパシェは大いに動揺していた。
今まで誰かの気配があっても、朝まで誰かが一緒にいたことはない。
ハバードがギエンを抱いて寝る様を見て、完全に我を忘れてドア口に突っ立ったままであった。
すぐに目を覚ましたハバードが上半身を起こし、パシェと視線を合わせる。

ラフなシャツを一枚羽織っただけの気だるい気配に、昨夜の状態を想像させられる。
その瞬間の動揺は人生でも初ではないかというほど激しいもので、持っていた朝食セットを落とさなかっただけでも立派だろう。

「おは、…ようございます。ハバード様もご一緒とは思わなかったもので、…すぐに朝食をご用意してきます」
慌てて踵を返そうとし、
「すぐに帰るから気にしなくていい」
ハバードの声に引き留められた。

「ギエン」
よく寝入るギエンの肩を揺すり耳元で声を掛けるハバードは、パシェの動揺の酷さとは対照的に全く普段通りで気にも留めていない。
ハバードの声かけにギエンが小さく呻いた後、緩く瞳を開き、
「…!」
ハバードがそこにいることに驚きを浮かべていた。
「朝」
素っ気なく聞こえる短い言葉に、昨夜を思い出したかのように僅かに視線を揺らす。耳元がほんのりと赤くなって、
「てめ…、限度を考えろ…」
小さな声で文句を零すギエンの声は甘く掠れ、いつも以上に無駄な色気を振り撒いていた。
身体を起こすと同時に、痛みに呻いて腰を押さえる。
「意地を張るからだ」
「クソ…。お前が俺と寝てぇだけだろ」
何気ない動作でギエンの髪を乱す手を払い除けるギエンは、いつもと同じ態度でありながら、いつも以上に甘い気配をさせてハバードに視線を返していた。
二人のただならぬ雰囲気に当てられ、
「…」
パシェが二度目の激しい衝撃を受け、視線を逸らしていた。

テーブルにそっと朝食を置いたパシェの後ろで二人の会話が続く。

「俺の服を勝手に着やがって」
帰り支度をするハバードの格好を見て、ギエンが愚痴る。それを笑って流したハバードが、さらりとギエンの顎を上向かせ、
「っ…!」
唇に軽いキスを落とした。

「覚えてないとは言わせないからな」
「ぅ、るせぇ…。さっさと行け」
低い声が掠れて、勢いが半減する。
ハバードの背中を足蹴りするようにして、追い払う仕草をするギエンは、ただの照れ隠しだ。
声を立て笑い声を上げたハバードが、パシェと視線を合わせた後、
「悪いが、世話を頼む」
瞳に笑みを乗せたまま、外套を肩に引っかけるようにして部屋から出て行った。

「っち。…あの野郎」
唇を手の甲で軽く擦って、ギエンが掠れた声で呟く。
朝から甘い気配をさせるギエンを見つめながら、パシェの動揺は続いていた。
今まで男の気配があっても、翌日に声を枯らしたギエンを見たのは初めてのことで、昨夜の激しさを推測させる。
「朝から悪かったな」
謝罪する低い声が掠れて危うい気配を漂わせていた。

着替え始めるギエンの身体にキスマークは一切ついていない。それにも関わらず、いつも以上に強烈な色気を放って、余計に淫らな想像をさせ、
「喉に、…良い飲み物を持ってきますね」
冷静さを保つのが精一杯のパシェだ。

男の筋肉質な身体が何故こうまで色っぽく感じるのかと不思議に思いつつ、ギエンから目が離せなくなる。

今日みたいな日は、誰にも会わない方がいいだろう。
剥き出しの背中を見ながら思い、実際、それは難しいだろうことも分かっていた。

ギエンのこんな気配すら気にもしていない豪胆なハバードの態度を思い出して、何故か嫉妬よりも安堵に似た気持ちを抱くのであった。


2022.02.06
更新遅くなりました(゚ω゚;A) 。色々忙しかったです(笑)。転職準備したりもあって、中々書く時間取れずでした(;'∀')。転職活動も少し休憩〜(笑)

いつも訪問、拍手を沢山ありがとうございます(#^^#)。凄い嬉しいです💕色々大変だった1週間だったけど、励まされます(笑)。少しでも楽しんで貰えると幸いです(*'V’*)♡

コメントも沢山ありがとうございますm(_ _"m)色々頂いて感激…💕
そうですそうです、ようやくおセッセです(*´∀`)ハハ!メインCPなのに遅すぎィー(笑)。楽園へようこそ(笑)。喜んでくれて何よりです('ω'*)!
初セッセなのにハバード鬼畜スギー!(笑)
ギエンもハバードの色気にはノックダウン気味。無意識だけど、ギエンのタイプなのだ(笑)。私は普段あまり攻めの要素は書かないですが、ギエンが惚れるほどの男なので今回は割とハバード押しx2です(笑)。魅力が伝わって良かった…(笑)
なるほど…!(^^)!ゾリド王とギエンの若かりし頃かァ…!考えてみますね!(^^)!あまり期待せずお待ちを(笑)💕
多分、そこにラブは無い(笑)
suiさん、こんにちは〜☆彡いつも訪問をありがとうございますm(_ _"m)💕
めちゃ萌えしてくれて嬉しいです(#^^#)私もようやくメインCPと甘々になってきたので、萌えです(笑💕)
メインがいい雰囲気なので他CPも絡めていく気がします(笑)。節度持ってやり過ぎないよう気を付けます(笑)
ぜひまた来てくださいね〜!(^^)!



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 ***78***

「…」
朝の日課となっているギエンとの魔術訓練の後、客室を出たロスは冷静を装いながら、小さく握り拳を作っていた。
ロスが抱くギエンとの思い出は一方的なもので、何か大切な出来事が二人の間にあった訳でもない。ただ、暗い幼少期に明るい光をもたらしたのは紛れもなくギエンで、それが例え一方的な思い出であっても、ロスにとっては純粋で穢れなき思い出だ。
ハバードの凄さを間近に感じ彼を長年の目標としつつも、幼い頃の特有の憧れは今も甘酸っぱい想いとして残り続けている。
ギエンに対する想いは特殊なモノで、そう簡単に誰かとの思い出で塗り替わったりはしなかった。

そのため、彼が生きていると知った時の何とも言い難い昂揚感は言葉に表しようがなく、15年ぶりに姿を見た時には、心臓が張り裂けそうなほど早鐘を打っていた。
ギエンがかつて自分に向けた優しい眼差しを思い出し、当時抱いていた憧れにも似た純粋な想いを瞬時に思い起こせるほど、彼を敬愛していた。

そういったこともあり、朝から情事の気配を色濃く残すギエンに苛立ちを募らせる。かつて抱いていた純粋な気持ちを真向から否定されたような感情だけでなく、ギエンをそうさせる誰かに、そして、どうしようもないほどの苛立ちを抱く自分に、朝からくすぶっていた。


複雑な感情を持て余したまま、脳裏にちらつくギエンを何とか追い出そうと躍起になっていると、訓練場へと向かうハバードの姿を発見し、くすぶっていた気分が僅かに晴れる。
朝の訓練に付き合って貰おうと歩み寄り、そうして彼の顔を見た瞬間に、違和感を抱いた。
「…」
「おはよう。ロス」
欠伸を零しながら挨拶をするハバードはいつも通りだ。生えてきた髭を摩り、一本一本、木刀を手に取っては手入れをしていく。柄から剣先に至るまで丁寧に磨いていくその仕草は、意外でもあり、らしい一面でもあった。
剣術に対する彼の敬意を見た気がして、ギエンを思い出しハバードの顔をじっと見つめる。
視線に気が付いたハバードが、小さく口角を上げ、
「どうした?何かあったのか?」
サラリとロスの頭を撫でた。
まるで凹む弟を慰めるかのような仕草に、癒されるというよりは相手にされていない気がして、ハバードの手をさり気なく外す。ロスの遠まわしの意思表示に気が付かないハバードではない。
「機嫌が悪そうだな」
小さく声を立てて笑うハバードは逆に機嫌が良さそうで、ロスの神経を逆撫でる。彼から仄かに香るのはギエンの部屋で嗅いだ香りと同じで、やたらとネックレスを指先で弄るギエンの様子が脳裏を過っていた。
「僕なんかが貴方に勝てる訳がないとか思ってます?」
珍しく嫌味で返せば、ハバードの笑いが更に深くなった。
「ギエンの魔術訓練が上手くいってないのか?俺に八つ当たりしても変わらないぞ」
「そういうことではありません」
きっぱりと否定し、黒い瞳を真っすぐに見つめ返す。
「武術だっていつか貴方を越します。魔術だって」
言うと同時に二人の周囲を囲むように風が起こり、燃えるような勢いの大きな円陣が浮かび上がった。突然の行動に一瞬、目を見開いたハバードだったが、視線に力を籠めるとそれはすぐに霧散した。
「…!」
「俺に精神魔術とは、随分強気だな」
ふっと鼻で笑ったハバードが、可笑しそうに首を傾げ顎髭を摩る。
それから、ロスには見せた事が無いような獰猛な瞳をして、
「俺に探りを入れて、何を知りたい?」
そう詰問した。

視線の鋭さとは裏腹に口元に笑みを乗せて訊ねてくる余裕の姿は、絶対強者のモノだ。
渾身の精神魔術もやはりこの男には効かないかと、分かり切っていることなのに、益々歯がゆい想いをさせられる。
簡単に掛かるギエンと対比するように苛立ちが強くなっていた。


そして、疑念は確信に変わりつつあった。


「僕が、…ギエン殿との思い出を大事にしていることをご存じでしょう?」
ハバードとの付き合いは浅くはない。昔から悩み事などの相談に乗って貰ったこともあり、ギエンに対する想いがどれほど純粋なものかも知っている筈だ。
「何故、貴方まで僕の思い出を穢すんです?」
その想いで訊ねれば、
「ギエンが男と寝る事を気にしてるのか?何がそんなに問題なんだ?」
逆に問い返され、言葉に詰まっていた。

飄々とした態度で腕を組むこの男は、全く気にしていない。
その事に軽いショックを覚え、足元が揺らぐ。

「ハバード様は、かつてライバルだった男が、男と平気で寝ることに何も感じないんですか。昔のギエン殿は、」
「ロス」
威嚇するような低い声に、言葉を無理やり止めさせられる。

ハバードの黒い瞳が真剣な色を浮かべ、ロスを批難するように見つめていた。
「あいつが、男と寝るからって好敵手じゃなくなるわけじゃない。俺は今でもそうだと思ってるし、別に何とも思っちゃいないぞ。
ギエンとの思い出が欲しいなら新しく作ったらどうだ?ギエンは別に昔と変わっちゃいない」
断言したハバードの強い言葉に、激しく動揺していた。

自分の苛立ちが一方的なものであることは自覚していた。
ギエンが悪い訳でも何でもない。
今のギエンを否定したい訳でもなかった。

「…それでは、僕がギエン殿と寝ても別に構わないんですね」
そんなつもりは無かったが、何が何でもハバードの余裕を崩したくなってそう告げれば、自信に満ちた態度でふっと笑う。
「したければすればいい。どんなに寝た所でギエンの心は手に入らんと思うがな」
ハバードの余裕の笑みはむしろ深まり、
「あいつは俺に惚れてるから無理だと思うぞ」
ハッキリと宣言した。
「っ…!」
両手で握り拳を作って震えるロスを笑って、肩を叩く。
「鬱憤晴らしなら付き合ってやる。掛かってこい」
挑発するように、手の平を差し出す。


笑みで対応するハバードのその姿に、勝てる気は全くしていなかった。
「…後悔させますから」
そう答えながらも様々な感情が渦巻き、ぐちゃぐちゃにこんがらがっていた。ハバードに対する尊敬と、ギエンに対する敬愛と、過去に抱いていた純粋な気持ちと、何が何だか分からなくなる。
怒りの根本がどこにあるのかも分からず、鬱憤をぶつけるようにハバードに拳をぶつけていた。その怒りの籠った一撃さえ彼にとっては軽いお遊戯で、合間合間にアドバイスすらしてくる始末だ。

朝から妙な色気を纏うギエンに得体の知れない苛立ちをさせられ、ハバードには二人の強い絆を見せつけられ、非常に苦い思いをさせられるロスだった。


2022.02.16
バレンタインを思い出したのが昨日の夜でした(笑)。簡単な小話でも書こうかなと思ったのに時すでに遅し(;'∀')ヒャ。チョコの口移しとか割とメジャーなネタかなとか思いつつ、個人的にあまり好きじゃないので止めました('q')ハハ☆ハバードと無茶苦茶甘々を書きたい(笑💕)

そう、完全に私事ですが、転職決定しました(^^♪しばらく忙しくて更新が無くなるかもです💦3か月くらいかなァ?その前にギエンを完結させるか、今まで通りのんびり更新か悩む所(笑)。いあ…、まぁ完結できるのかは別にして…(笑)。ようやく引っ付きそうでまだまだこれからな気も(;'∀')??
今回ギエンが出てこないので見て下さる方々は消化不良かなァ(笑)💕それはそれで嬉しいことです(笑)

コメントもありがとうございます(´ω`*)訪問、拍手も本当にうれしいです(´人`)ありがたや〜
朝ベッドまで一緒はハバードの特権(笑)。むちゃ萌えです(*'V’*)♡
推しが決まらないのは嬉しいお言葉(*'V’*)♡総受けサイトなので万々歳です(笑)。


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 ***79***


「ギエン殿にはしてやられましたよ」
昼食後のティータイムに延々とゼレルの愚痴を聞かされる羽目になっていた。
適当に相槌を打ちながら、3杯目となる紅茶を口に含む。
「まさか、私と買いに行った物をハバード様にプレゼントされるとは。本当に見損ないました」
白々しく盛大な溜息を吐くゼレルには目もくれず、
「何度目だ。大体、贈り物に付き合えって言っただろ」
素っ気なく答えるギエンは、随分と落ち着いた態度で素知らぬ顔だった。
「ハバード様のあの勝ち誇ったような顔!何故、私は報われないのでしょう。これだけギエン殿に愛を伝えているというのに!」
「…あいつは別に勝ち誇った顔なんかしてねぇだろうが…」
頭を抱える勢いで叫ぶゼレルの嘆きに小さく突っ込みを入れれば、珍しく鋭い視線を返し、
「どう見ても勝ち誇った顔ですよ!」
握り拳を作って強く叫んだ。
「っ…うるっせぇ!黙れ」
ゼレルの叫びにうんざりしたように声を張り上げ、パシェを手招いて追加のデザードを要求する。
「贈り物を下さい。貴殿から頂いたものならそのお持ちのカップすら家宝にいたします」
萎れた態度でまだグチグチと恨み言のように強請るゼレルは強心臓の持ち主であった。ギエンの呆れた顔など何のそので、鋭い視線を返すギエンの瞳を真っすぐに見つめ返して捨て犬のように要求する。
「相変わらず気持ち悪いことを言ってやがる。あの髭剃りはハバードへの嫌味だ」
運ばれてきたフルーツに手を付け始めれば、恨めしそうな視線がいつまで経っても外れる気配もなく、
「っち…」
褒美をよこせと存外に強く主張する彼に舌打ちを返す。
フォークでイチゴを突き刺して、
「ほら。食えよ」
彼の目前に差し出せば、思いのほか嬉しそうに目を輝かせた。

ギエンの手首を掴み身を乗り出してフォークに口を付けるゼレルの姿は、まさしく餌付けされた大型犬そのもので、
「ふっ…。お前…、本当に」
ギエンが忍び笑いを零す。
「満足しただろ?」
「全然、物足りないですけどね」
言いながらも留飲を下げる彼は随分と単純で、弟がいたらこんな気分かと密かに思えば、ゼレルの我儘も微笑ましくなってくるものだ。
「私もプレゼントを差し上げたら身に付けてくれます?」
「ん?」
何のことか分からず問い返せば、あっという間の早さでフルーツを平らげたゼレルが、ギエンの胸元を指さした。
「それ、凄く目を引きますよね。さすがハバード様というべきでしょうか。憎らしくなってきますが、よくお似合いです」
シャツ一枚の開いた胸元から覗くのは以前、ハバードからプレゼントされた御神木のネックレスで、外すことのないそれは既に身体の一部のように違和感がない。付けていることすら忘れるそれを指先で弄り、
「…よくハバードだって分かったな」
不思議そうに訊ねた。

それから、飾りを唇に当てて匂いを嗅ぐ。
ほぼ無意識に行われたその動作は、まるで大切なモノにキスをしているかのような恭しさで、
「御神木特有の色合いで、それほど高級感溢れる代物はハバード様くらいしか思い当たらないですよね。まるで財力を見せびらかすような贈り物ですよ」
嫉妬心を露わにして答えるゼレルだ。
「似たようなことをロスも言ってたな。手に入らない代物らしいな」
「家柄に物を言わせるなんて、ハバード様らしくない」
ゼレルの言葉を軽く受け流したギエンが、ふっと笑う。
頬杖をついて見上げるようにゼレルを見る瞳は、まるで子どもを見つめるような柔らかさで、口元にはふんわりとした笑みを乗せていた。
「ハバードはそんなこと考えちゃいねぇよ。あいつのことは俺が一番よく知ってる」
「…!」
何気なく言ったギエンの台詞は、衝撃的なものであった。

返す言葉をなくすほど驚いて、押し黙る。
ギエンが無意識にさらす独占欲に、思わず目を見張っていた。


指先で飾り部分をいじるギエンの動きに合わせ、チェーンが繊細な音を立てる。
たったそれだけのことで、どうしようもないほど、どす黒い感情が湧き出てくるのを感じていた。

今まで数多くの女性と交際関係のあったゼレルは、自分が想いを伝えて実らなかったことがないといえるほど、恋愛経験は豊富で自信があった。
付き合ってきた女性たちが自分のことで喧嘩をしたり醜い嫉妬心を剥き出しにする様を見て、なんと醜いものかと思い、恋愛とは美しく綺麗なものだと思ってさえいた。

それが今や一人の男の言動に好き勝手に振り回される始末だ。
それだけでなく、彼が別の男のことを語るだけで醜い感情が首をもたげる。他の男のプレゼントを身に着けていることすら許せない気持ちになり、自分にもそんな醜い感情があったのかと驚きすらしていた。

できることなら、ギエンの首から引きちぎって捨ててしまいたいくらいだ。
だが、ギエンの柔らかな表情を見ていると、やはり愛おしい想いの方が勝り、醜い嫉妬心を塗り替えていった。

「なら、私は貴殿の腹を満たすことにしますよ。心を掴むにはまず胃袋からって言いますからね」
「はは。そうだな。お前のセンスは認めてる」
冗談を軽く笑って足を組むギエンは、どこからどう見ても女性的な部分はなく、むしろ見とれるほどの男前だ。
シャリシャリとリンゴを口に含み、果汁で濡れた唇を人差し指で拭う。端正な顔立ちがする何気ない動作は、やけに劣情を刺激し、
「お前、そろそろ仕事に戻らなくていいのか?」
顔を傾けて訊ねてくる姿に、ムラムラさせられていた。

できることなら仕事を放り出しいつまでもギエンと一緒に居たいくらいで、
「まだ時間が少しありますので」
そう答え甘い時間を楽しんでいると、唐突にノックの音で二人の時間を遮られる。

「…」
ギエンが表情を変えて無言になったことに気が付くゼレルだ。
パシェが扉を開くと同時に、ダエンが室内へと入ってきて、ゼレルの顔を見るや否や表情を険しいものへと変えた。
「ギエン。君って奴は」
「うるせぇな。てめぇの文句は聞かねぇぞ」
ダエンが言うよりも先に牽制するギエンだ。

昨日の朝から、ひと悶着あり、ダエンとは半ば喧嘩中のような状態であった。
「ゼレル、まさか君が昨日の相手?」
「俺はお前の恋人じゃねぇぞ。俺が誰と寝ようが関係ねぇだろうが」
ゼレルが答えるより先に言えば、
「君の節操の無さには呆れ返るよ」
何が気に食わないのか、そんな罵り言葉を吐く始末だ。
「一体、何人と身体の関係を持ってる訳?ミガッドが知ったらどう思うか考えてる?父親がふしだらな男だなんて、どうかしてるだろ!」
「っ…!」
ミガッドの名前に、反論の言葉をこらえるギエンだ。鋭い視線を返し、歩み寄ってくるダエンを見つめ返す。
「ゼレル。君には退席してほしい。ギエンと二人で話がある」
いきなりの事態に場を見守っていたゼレルだったが、二人の剣幕に軽く溜息をついて、
「ダエン殿。いきなりそんなに責め立てることはないでしょう」
仲を取り持つように席を立ち、睨みあう二人を引き離した。
「ギエン殿の相手が私なら満足ですか?」
そう訊ねれば、落ち着くどころかより視線を鋭くして、
「ゼレル、下手な嘘で庇うのは止めて欲しいね。君が昨日の相手ならキスマークを残してる筈だろ。君が以前、ギエンと寝たときは酷いキスマークだったじゃないか」
はっきりと事実を突きつける言葉に、二人は顔を見合わせる。
「…よく見てんな…」
ダエンの指摘を意外に思うギエンだ。
「まぁ、どっちにしろお前のその面倒くせえ戯言に付き合ってる暇はねぇ。文句を言いに来てんならゼレルじゃなくお前が帰れ。俺が何をしようが俺に対する噂は変わんねぇよ」
追い払うように手を振れば、その手を掴んで身を乗り出したダエンが、
「ギエン!なんで君はそう…、奔放なんだ!ミガッドの立場を考えてくれ!
君、本当に僕をいらっとさせるね!」
怒鳴ったあと、机を平手で強く叩いた。

テーブルの上でフルーツの盛られた皿に顔を突っ込んでいたクロノコが驚き、大きな瞳をダエンに向け、次いで怯えたように前足をあげて逃げるような姿勢を取る。
ダエンのその剣幕を物ともせず、
「お前が勝手にイライラしてるんだろう?」
素っ気なく言って掴まれた手を振りほどくギエンは、ダエンの小言にも些か慣れつつあった。
「毎回、理解できねぇ癇癪を起こすのを止めろ。お前は俺の親友なんだろう?それとも何か、男と寝る親友は要らないって意味か?」
席を立って静かに問えば、さすがのダエンも押し黙り、間近にある蒼い瞳を見つめ返すだけになる。

しばらく睨みあっていると、
「早い話、ダエン殿はギエン殿が取られそうで嫉妬してるということですよ」
ゼレルが呆れた口調で間を取り持って、二人を引きはがすように両手で双方の胸を押した。
仰天する二人を他所に、ギエンの皿からブドウを一つ手に取って口に含む。
「ゼレル。僕はそんな子どもみたいなことはしない」
反論するダエンの言葉を咀嚼しながら聞き流し、
「なら別にギエン殿が誰と寝ようがどうでもいいでしょう?」
追い出すようにダエンの肩を押して無理やり出口へと向かわせる。それから、
「私はギエン殿を愛しているので、他の男と寝てると思うと相手を殺したいほど嫉妬しますが、ギエン殿が本当に好きなお相手なら認めるつもりですよ」
何の恥じらいもなく、ダエンの背中に告げた。呆気に取られるギエンを振り返り、手慣れたウィンクをする姿は随分と大人な思考で、決闘を申し込んできた男と同一人物とは思えないほど落ち着いた対応だ。
そんなゼレルと対比するように、
「君は部外者なんだから黙っててくれ。僕はミガッドのことを思って言ってるんだ!」
ダエンが押し出されながら身を捩って叫ぶように文句を返す。
「ミガッドは俺が男と寝ようが、なんとも思っちゃいねぇよ。お前が思うような偏見を持っちゃいないぞ」
ダエンの吐き捨てるような言葉に、大きく溜息をつきながら言葉を返し、驚くダエンに対し呆れたように両手を広げ肩をすくめた。
「ミガッドをよく分かってねぇのはお前だ」
「っ…!」
見つめあうこと、数秒の後、
「気に食わねぇなら親友を止めろ。親友としてやり直したいといったのはお前だ」
はっきりとぶれない態度で言い切ったギエンに、ダエンの瞳が動揺で揺れていた。

「どうして、…君は…」
絞り出すような呻き声で小さく呟き、しばらく苦い表情で沈黙した。
「…よく、分かったよ。君がそのつもりなら、僕は今後、君をそういうものだと思って接する。君がどんな男だろうと、親友として君を支えるって決めたからね」
強く睨むダエンの顔は『親友』といった台詞とは相反する顔で、抑えられない苛立ちを明確に示していた。
「…そうしろ」
ダエンが言わんとすることが何なのかはよく分からなかったが、これ以上無駄な言い争いには付き合っていられないギエンだ。
ミガッドに関して感謝してはいても、罵られる謂れはない。

視線を外すギエンに、
「失礼しますね」
ゼレルが遠慮がちな言葉を掛け、ダエンを連れて出ていく。


ダエンがギエンに文句を言いに来るのは初めてのことでもない。扉が閉まるのを見つめていたパシェが、ギエンに視線を送る。
「ポプ…」
言い争いに疲れたようにどさりと椅子に腰掛けるギエンを慰めるように、クロノコがギエンの手のひらに纏わりついていた。


2022.02.27
ちょっと遅くなりました('◇')ゞピヨ
拍手・訪問ありがとうございます!
相変わらず嫉妬心メラメラのダエンです(笑)。
次回更新はセインを予定してます(^^♪そろそろ更新しろ合図かなという拍手をありがとうございます(笑)。1か月経ってしまう。月日の速さが本当に怖い(笑)

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 ***80***

ハバードの雑な料理もそれなりにレパートリーがあり、今日は珍しく鶏肉料理だった。
平らな皿に肉も野菜も乱雑に乗せたあと、余った僅かなスペースに均等な幅に切られたパンが乗せられていた。
事前の連絡もなくふらっとやってきたギエンにそれを手渡したあと、いつも通り、一段高くなった床に座るギエンの隣に腰掛け手を付け始める。

ギエンと一緒にやってきたクロノコが木の実の盛られた自分の皿と、ギエンの皿の中身を見比べ、嬉しそうに鳴いていた。
「お前の雑な料理も最近、愛着が沸く」
大して手の込んだ料理でもないのに、味付けが好みで思わず舌鼓を打つギエンだ。パリッと焼けた鳥皮に身の部分は驚くほど柔らかで、淡泊な味付けがより鶏肉の旨さを引き立てる。また濃いめの味付けがされた野菜ともよく合っていた。
ハバードの簡易宿所で出される定番の硬いパンの上に乗せれば、絶妙なバランスで、
「お前の手料理に唸る羽目になるとはな」
出された料理を旨そうに食べるギエンにハバードも笑みを浮かべていた。

「ギエンも料理くらいしたらどうだ。館も地位も無くなった時に困るぞ」
「妙なことを言う。その時には金もないだろう?」
片笑いで答えるギエンに、確かにと頷くハバードが自分の言葉をおかしそうに笑った。
「その時は魔獣を食うしかないな。なんでも焼けば、そこらの肉と変わらないとか」
「…まぁ、そうだな。俺は山脈にいたときに、魔獣も食ったことがあるが、普通の肉だな。中には神の末裔だといって崇める種族もいるらしいが…」
木の実を両手で掴んで食べていたポプが『魔獣を食べる』という言葉にぎょっとしたように、ギエンを見上げる。それに気が付いたギエンは小さく笑って、ポプの頭を軽く撫でた。
「お前、言葉が分かるのか?」
撫でさすれば、ポプポプと頷くような仕草で木の実を齧っていた。

食事も中盤に差し掛かる頃、
「…お前のその食い方、まじで無い」
以前と同じようにハバードがスープにパンを放り込んでかき混ぜ始めるのを見て、眉間に皺を寄せるギエンだ。
「オニオンスープと大して変わらん」
鼻で笑ったハバードが、スープでふやけたパンをスプーンで掬い取って、
「…」
ギエンの鼻先に近づける。
「いらねぇよ」
「食わず嫌いはよくないぞ。食ってみろ」
ずいっと唇につけられて、
「っ…」
なぜか気恥ずかしい思いをさせられ、これではゼレルのことを笑えないと思いながら、仕方なく唇を開く。

様々な野菜のエキスが溶け出したスープの豊かな香りと、歯ごたえがありながらとろけるような食感のパンが思う以上にマッチしていて、
「…悪くない」
恥ずかしい想いを誤魔化すように答えていた。

猫舌のハバードがスプーンに息を吹きかけたあと、一口でパンの欠片を食べ、
「な、美味いだろ」
自信に満ちた態度で笑う。
相槌を打ちながら、唐突に先日の夜を思い出して本当にハバードと寝たのかと不思議な気持ちになっていた。
「…」
しばらく考え込むように無言になったギエンが、ふと口を開く。
「お前はミラノイと結婚して、子どもを残すべきだ。いい父親になるぞ」
それは何の感情も籠ってはいないもので、割り切ったような態度にハバードが僅かに目を大きくした。
静かなギエンの言葉に、無言のまま二人が見つめ合う。
言葉の真意を問うハバードの視線に、ギエンが小さく笑った。
「ゼレルはともかく、ハバードは俺に恋愛感情を抱いてはいないだろ?」
口元は笑みを象ったままで、表情に悲観さはない。ただ思った事を言っているだけのような口振りだった。
「…そんなことは無い」
一瞬の無言のあと、真顔で答えたハバードを見てギエンの笑いが深くなる。
「今の間はなんだ。お前のはやっぱり只の愛国心だろ」
ふと視線を外し、食べ掛けのまま止まっていた手を動かす。スプーンを口に咥え、
「俺を失う訳にはいかないもんな」
何気なく言った。
「…」
ギエンの言葉は不思議なものでも、全く予想外なものでもないハバードだ。

「愛国心でミラノイと結婚するのも同じことだと思うが」
「俺とミラノイじゃ比較するのが間違ってる。俺はお前の血を残せない」
きっぱりと言い切ったギエンの言葉に、ハバードが白々しい相槌を打ち、食べるのを中断して皿を床に置く。
それから、何かと視線をよこすギエンを見つめ、口元に面白がるような笑みを浮かべた。
「中々、面白い逃げ口だな。俺と恋愛関係になるのがそんなに怖いか」
唐突な言葉に瞬間的にイラっとさせられるギエンだ。
「…!それはお前だろ!」
恋人に触れるような仕草で首筋を撫でるハバードの手を払い除ければ、逆に強い力で手首を捕らえられ、
「くっ…」
ギエンから呻き声が上がった。
「ギエン。俺は何も気にしちゃいない」
刺すような鋭さで真っすぐに見つめてくる黒い瞳に、息が止まる。
ハバードが向けてくる瞳の強さに、そして躊躇いもなく言い切った想いの強さに、ぎょっとしていた。

まじまじと相手の精悍な顔を見つめ返すギエンだ。
ハバードと見つめ合うことなど慣れたものの筈なのに、何故か動揺が強くなり、心臓がうるさく音を立てる。
本気で言ってるのかと訊ねたくなり、訊くまでもないことを知っていた。

この顔のハバードは本気の顔だ。
何かを論じている時や、大事な局面に対応している時の顔と同じで、物事に慎重なハバードが真剣に考え抜いた結果の顔であることが重々分かっていた。

「くそ…」
そう思うと益々、激しい動揺を覚え、耐えられなくなったギエンが珍しく視線を逸らす。
「…俺は、…お前に好きだとは言わねぇぞ…」
小さく返せば、ハバードが笑って掴んでいた手を外した。
「ギエン。言わせてやるから覚悟しろ。俺がお前に抱く想いが愛国心なのか、愛情なのか、そんなのはどうでもいい。お前のために人生を捧げようって言ってるんだ。こんなことを言う男はそんなにいないと思うぞ」
「…っち!…自分勝手な奴…!」
ギエンのぼやくような罵り言葉を笑って受け流したハバードが、何も無かったかのように食事を再開し始める。
ハバードをちらりと見て同じように止まっていた手を動かし始めるギエンだったが、耳元は赤く染まり、動揺を宿したままだ。

クロノコがギエンの傍で上機嫌に声を立てていた。
ハバードが頭に手を置くと更に嬉しそうに頭を弾ませ、喜びを表す。

「マジでふざけてやがる…」
納得がいかないように呟くギエンの言葉を聞こえていないかのように無視して、皿を平らげ寛ぐハバードは、たった今さっき交わされた会話すら何一つ気にしていない態度だ。
それが余計に腹立たしくもあり、その反面、傍にいると不思議なくらい気持ちが落ち着いていく。

今まで、忘れていたような甘い感情が全身を支配していく。
そんな自分の気持ちを心の中で否定して気付かなかったことにするギエンだった。



2022.03.06
ちょっと…、遅くなりました(笑)。計画では2日くらいに更新しちゃうぜ、みたいなノリだったんですが、色々会社絡みの準備やらで予想以上に時間が取れずにいました(◎_◎;)。

そして、拍手を沢山ありがとう〜〜(*'V’*)💕ウレシイ!
これは更新しろって事ねと思いイソイソ頑張りましたよォ。そしたらまさかの超ラブラブで、もうこれは完結じゃないかと思ってます(笑)ェ?
ハバードね、ギエンを煽るか悩んだけど、ハバードはそういう性格じゃないかなぁと(笑)。やっぱり基本、他の人以上に絶大な愛がギエンに対してあると思う(笑)。何というか一番、感情が複雑な気がしまする('ω')。プライドやら庇護欲やら、互いに培ってきた関係やら何やら。ハバード自身が確立してるっていうのもあるし、依存心とかは無いんだけど、ギエンは本当に特別なんよ。よう分からんけど( ^)o(^ )ハァ💕萌え💕(笑)

あ。次回更新、セインって言いましたが、ちょっとタイミング悪いんでまた今度(;'∀')。

セインの方でも拍手を下さる方、本当にありがとうございますm(_ _"m)💕



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