【ファンタジー,褐色肌,俺様,蛮族,育成】

 ***1***


「は?」
木の束を椅子代わりにして火をくべていた男が苛立ったように低い声を出した。
聞こえなかった訳ではない。
身近にある薪を手にとって火の中に乱暴に放り投げた。火の粉が飛ぶのもお構いなしに皮製の靴で転がった薪を蹴り入れる。

燃えていく様子を見ていた彼の視線が沈黙したまま立っている男の顔へと移った。

「マジで言ってんのか?」
脅すような低い声が再度問い直す。
大きく足を開いて尊大に座る男が相手を見定めるように視線を上下に移動させた。
その鋭い視線を受けてもぴくりとも表情を動かさない相手を見て、その言葉が本気だと知った。

膝に肘を置いて思案するように唇を指先で弄る。
僅かに首を傾げて考え込む、その拍子に長い前髪がはらりと落ち目に掛かった。
火の明かりで瞳が赤く反射して光る。伏せ目がちに俯く精悍な顔は蛮族と呼ばれる種族特有の力強さがあった。
はっきりとした目鼻に弧を描く男らしい眉、そして切れ上がった鋭い瞳は野生の動物のように力強い。
そしてその均整の取れた顔は見る者の目を釘付けにするほど美しく整っていた。

彼の長い睫がゆったりとした瞬きに合わせて小さく揺れる。その僅かな動きが炎に揺れて不思議な色気を醸し出す。


「…いいぜ。取引しようか。監視官」
厚みのある唇が小さな笑みを浮かべた。
顔を上げた彼が前髪をかき上げる。闇夜にも関わらず白銀の髪が僅かな光を反射して白く光った。

承諾の言葉に監視官と呼ばれた男が表情も変えずに小さく頷く。
皺一つない黒の上質なコートをきっちりと着こなす彼は神経質そうな男だった。銀縁の眼鏡を中指で上げて、冷たく見える一重の目を細め る。
「ナジャ、大切なドラゴンと引き換えだと思えば容易いだろう?」
その言葉への返事のようにナジャから小さな嘲りの笑いが返った。可笑しそうに口元を押さえたまま立ち上がり男に歩み寄っていく。
近くまで来たナジャの視線は取引を持ちかけた男より頭ひとつ分は上にあった。

男の身長が低いのではない。
ナジャと呼ばれた彼の背が高いのだ。

蛮族とは南の孤島に住む野蛮な種族を総じてそう呼ぶが、みな背が高く骨格のしっかりとした体格の持ち主が多い。
陽に焼けた小麦色の肌に白銀の髪、そして淡黄色の瞳が特徴的な種族で戦闘民族と呼ぶに相応しい体躯の良さだ。
ナジャもその特徴を強く引き継いでいた。
だからといってナジャが山男のように筋肉隆々で大柄な男という訳ではない。その体つきはしなやかで引き締まった美しいシルエットの持 ち主だった。


とはいえ、二人が並べばその体格さは瞭然だった。


ナジャが上から覗き込むように見下ろしてゆるりと微笑む。
「随分とあぶねー橋を渡るんだな、セジリオ」
低い声がハッキリと名前を呼ぶ。
目を僅かに見開くセジリオの顎を持ち上げて、
「ッう…!」
唐突に噛み付くようなキスをした。

いや、それはキスと呼べるような代物ではない。獣が獲物に噛み付くような荒々しさでセジリオの口内を貪っていく。
逃れようと暴れる体を押えつけて強引に荒らしていった。

「う…、っのバカが…!」
ようやく解放された頃には息も絶え絶えになる。
ずれた眼鏡を直すセジリオの余裕の無さとは対照的にナジャは息一つ乱さず笑んでいた。
「てめぇが俺とキスしたいって言ったんだろ」
「…キスしたいとは言ってない。キス一つでお前が禁止生物2群の育成をしている事を黙っててやるって言ったんだ」
「あぁ、そうかい」
間髪入れずに返ってきた反論にナジャが小さく呆れの声を出した。
「とりあえずキスしたから成立だ。上には報告すんなよ。男なら約束守れ」
短く言って、この話は終わりだとばかりにセジリオに背を向けた。
そうはさせないセジリオだ。
ナジャの肩を掴んで振り向かせる。
「あんな乱暴なのがキスなものか。もう少し真剣にやれ。俺は報告義務に背くことになるんだぞ」
セジリオの必死な言葉もナジャには届かない。
「ンなもん俺が知るか。キスはキスだ」
「ナジャ!それが10年来のダチに対する態度か」
肩を掴む力が強くなる。
いつもは表情一つ動かす事のない鉄壁仮面が怒りを宿していた。
黒い目が力強く睨む。それに根負けした訳でもないが。
「うるせぇな。愛してるからさせてくれって言うならまだ可愛いもんを…」
口内で小さく文句を零して、掴まれた肩を乱暴に払った。

今度は顎でなく頬に手を添えて顔を近づける。
瞳を閉じて薄く唇を開いた。
「…」
「…」
ナジャが相手の動きを待つ。
しばらく互いに止まったままだった。



「…おい。する気があんのか、ねーのかどっちなんだ」
痺れを切らして文句を零すナジャの唇にセジリオの息が掛かる。
「悪い。お前が余りに従順だったから、驚いた」
「…」
その率直な言葉を受けてナジャの中で何かが切れたのは確かだった。
見下ろす瞳に鋭さが増していく。
焼けて崩れる薪の音が静かな闇夜に響き渡った。

「てめぇ…」
小さく呟くナジャの唇がセジリオの唇に一瞬触れる。
「俺がそんな従順な男だとでも思ってんのか、あぁ?素直にチューして、委ねるとでも?」
ナジャの熱い息がセジリオを焦らすように唇をくすぐる。
それから舌でゆっくりとセジリオの唇を舐めた。
「…機嫌を損ねたなら謝る」
「それっぽい謝罪をすれば済むと思ってンな?」
頬に添えていた手を下に滑らせていく。
セジリオの肩から胸、わき腹へと辿り臀部へと降りていった。
「俺がその気になれば簡単に犯れるぜ。セジリオ」
「謝っただろう」
全く動じもせず、むしろナジャを引き寄せるように手を腰に回した。
眼鏡を外して胸ポケットに引っ掛ける。
先ほどナジャがしたように、唇が掠めるようにナジャの唇に触れて離れた。

「相変わらず…腹が立つな」
言ったナジャが先だった。
セジリオの口をこじ開けるように舌を唇の狭間に入れていく。
それに応じるようにセジリオが舌を絡めた。

「っ…んー…」
ぴちゃりと濡れた音と共にナジャの間延びした声がセジリオの耳に届く。
思わず笑うセジリオだ。
「ナジャ、今回はこれで勘弁してやる」
笑みを含んだ言葉に、じっとりと呆れの視線が返ってくる。

「当然分かってると思うが、大検査で俺が禁止種育ててる事はすぐバレるぜ?言いたくねぇ事も全部筒抜けだからな」
今更の疑問を投げかけた。

セジリオがふっと鼻で笑う。
外していた眼鏡を掛けてタイを締め直した。
「意味が無いって知りつつキスしてくれるとはどういう風の吹き回しなんだ?」
「茶番に付き合うのも悪くねぇだろ?」
ナジャの長い指が締め直した結びを引いて乱す。
挑発するようにセジリオの目を覗き込んだ。
「俺が黙っていれば、充分時間稼ぎになるだろう?それまでに育て上げて自然に帰してやれば問題ないさ」
あっけらかんと言い放つセジリオの言葉に納得のように片頬を上げる。
顎を手で擦って、
「嫌らしい野郎だ」
何故か誇らしげに呟いた。

座っていた木の束まで戻って腰を下ろす。
膝に両手を乗っけて横柄に座ったナジャが、セジリオの目を見つめたまま唇をゆっくりと人差し指で撫でた。
「…唇はお前にだけやるよ」
「っ…」
驚くセジリオを満足そうに見つめて、ニヤリと笑う。
「別に欲しくないが、…仕方ないから貰っておいてやろう」
素っ気無い言葉に僅かな照れが混じっている事は容易に分かった。
ニヤニヤ笑うナジャをセジリオが軽く睨む。


このまま一緒に夜番をする事にしたらしいセジリオがナジャと同じように木の束に腰を下ろすのだった。






新年ですね!おめでとうございます!!
日が経つのが早すぎて恐ろしい限りです(笑)。

今回、完璧な男前受け目指してます(*゚∀゚*)ナジャ可愛いー!
自分で書いて言うのもなんだけど、ナジャは凄い格好いいキャラです(*^3^*)んで、エロいと…。 (ぇ?)
そしてお得意のドラゴン出てくるファンタジー。
いつもワンパターンになりがちなので、ナジャは普通に人間設定で多分魔族とかも出てこない(笑)。

この二人、そう見えないけど普通にカップルなのでよろしくです(笑)。多分気が向いた時に体も許してるんじゃないかしらん?!
今回、攻めキャラが珍しく素っ気無い(笑)。たまにはこういう感じもいいよね(笑´w`)ふふ。

そんなで今年も更新は怪しいですがよろしくお願いします。
2014年はまた長らく無更新になると思いますorz。

訪問、拍手、本当にありがとう(*゚∀゚*)!!!

14.01.01


 ***2***

一斉検査の後のナジャといったら、それは酷い有様で有名だった。それを知らないのは当人だけで、いつもと変わらないつもりでいるのだから余計に性質が悪い。


その日も年に数回ある一斉検査の翌日で、まだ朦朧とする頭のまま育成場に戻ってきたのだろう。
日頃は鍛えた形のいい腹筋を、そして引き締まった身体を見せびらかすようにだらしがなく衣装を着るスタイルのナジャだが、検査の翌日は違う。育成者規定の服を身に纏い、ベルトをきっちりと締め黒いズボンを履くスタイリッシュさだ。
その姿は非常に見目麗しい男ぶりだが、それが逆に色気を振りまく結果となっていた。
緩く開いた胸の隙間から褐色の肌が覗く。そこにはっきりと残る赤い跡がナジャの気だるさを強調し、眠そうに潤む目が昨夜、何があったのかを想像させるに容易だった。
その癖、当の本人だけが語気荒く強がるのだから、余計に劣情を刺激する。



「はぁ?ふざけんな、俺の仕事じゃねぇぞ!てめぇの脳みそ、腐ってんのか!」
掠れた声が同僚を罵る。
両手に抱える卵を男に押し付けて、
「てめぇの管理種だろーが。ちゃんとやれよ!」
口調も荒く怒鳴った。
と言ってもそこにいつもの勢いは無い。
立ってるのさえしんどそうな気配でふらりと揺らぐナジャの体は完全に弱々しい様相だ。
「わ、分かりました」
男が動揺して卵を抱きかかえる。
「最初っから、大人しく従ってろ!クソ!」
文句を零す唇さえ誘い言葉を紡いでいると思うほど、全身から艶かしい気配を漂わせていた。



苛立った様に髪を掻きあげる。
「っち…最悪だぜ」
つい洩らすナジャが疲れたように置石に寄り掛かり、いつまでもそこにいる男をじっと見つめ返す。
「…何か用か?」
腕組をして、去らない男に問えば。



「い、いえ、別に…、失礼します」
そう頭を下げて去っていった。
常にない雰囲気のナジャというのは、それはそれで育成場では見物の一つでもあり、育成場だけに留まらず他の職の人間さえ来るほどの有様だった。



こうした事が何度と続くのだからナジャの頭が痛くなるのもおかしくはない。
それなのに当の本人はその原因が何なのかすら分かっていないのだから、やはり頭が朦朧としているせいなのだろう。
見物人がいるのさえ気付かず、育成場で作業するナジャは完全に無防備だ。
さすがに手を出そうというつわものは育成場にはいない。だが、過去にそういう目に遭わなかったかというとそうでもないというのに、ナジャ本人がその事を覚えていないのだから、学習のしようもなく。



暑そうに髪を搔きあげて、襟元を開き風を胸元へと送る。
ナジャという男はまさに人々の劣情を煽る天才とも言えた。




さてと、ナジャでも(*゚∀゚*)。結構というか相当というか、ナジャ凄い好きです(笑)。日頃不感症なんだけど(笑)、検査の時とセジリオ(彼氏)が相手の時は別なのだ!
2014.11(2021年-拍手より移動)

 ***3***

検査の後、意識の無いナジャが運ばれる部屋は決まってダジャクの部屋だった。地位の高い彼の部屋なら人の出入りも少なく、誰かの危害が加えられる恐れも無い。また、王の信頼も厚く、秘密が外部に漏れる心配も無い。

そうした事情もあり、皆の寝静まった夜更けにひっそりとノックが鳴り、強制的に重い身体を渡され面倒を見ることが慣わしになっていた。


身を清められた後とはいえ、その身体には生々しい情交の印が残る。
彼を運び込んだ側近の者がやや余韻の残った面持ちで去っていくのを毎度の事ながら気の毒に思いつつ見送った。


でかい身体を引きずるようにしてベッドへと運び寝かしつける。放り投げた僅かな刺激で、
「っ…ふッ…」
甘い声を上げる淫らな身体にぞくりとして、理性を最大限に働かせるダジャクだ。
彼がこの部屋に預けられるのもダジャクの精神力を王が買っているからだろう。そうでなければ、意識の無いナジャの面倒を見るという役割を貰う訳も無い。
ましてや。


自白効果の残る脳内丸裸状態の男を預けていくのだから余程の信頼だ。
少しでも何かを質問すれば、隠す事無く全てを曝け出してしまう無防備な状態は、ナジャが知りえる情報全てを他に暴露してしまう危険もあり、それなりの対策も必要であった。


とはいえ、蛮族の全てがこのような扱いをされる訳ではない。
ナジャは特例中の特例で、そもそも王とそのような関係にあるという事自体が異常なことであった。


快楽の余韻を引きずって小さく震える身体に柔らかな布団を掛ける。
濡れたタオルでナジャの頬を拭いて、熱を取った。
「…ッん」
首に力が入って、褐色の肌に筋が浮かび上がる。むき出しのその首に噛み付きたい衝動を抑えて、首元にタオルを滑らせた。


あのプライドの高いナジャが屈辱的な検査を耐えてまで、大陸に居座る理由をダジャクはよく知っていた。ナジャから聞いた訳でもない。上層部の人間なら誰でも知っている事だ。
「そんなにセジリオが好きか」
特に仲睦まじい二人を見た訳でもないが、二人が昔からの親密な関係なのを知っていた。古くからの友人であり、セジリオが大陸にいる限りナジャも決してそこを離れようとはしないだろう。


ナジャの淡黄色の瞳が僅かに開いておぼろげな視線をよこす。唇が緩く開いてうっそりとした笑みを浮かべた。
小さく返ってきた返答は日頃のナジャからは想像も出来ないほど甘い言葉で、当人が聞いたら一発で堕ちてしまう事が容易に推測できるほど情熱的だった。


纏う淫靡な気配と相俟って試すように理性を揺さぶって来る男に心底、大迷惑を蒙るダジャクだ。



何故、毎度のように自分が面倒を見なくてはいけないのか。

文句を言いたくとも王の命令とあっては従わざるを得ない。下半身をずくずくと刺激する男の目に濡れタオルを被せ、合わさった視線を強制的に遮断した。


不覚にも反応してしまった自身のモノを取り出して扱く。
「っち…。この、馬鹿が…ッ」
意識のないナジャに文句を零した。



今、やるのは簡単だ。どうせ意識もない。
やろうがやらなかろうが、どちらにしろ目が覚めたナジャは勘違いしていて情事の相手が自分だと思っていた。
意識の無い相手に手を出すのは獣のする事だと罵るナジャの言い分も尤もではあるが、本当の相手が誰なのかを言う訳にもいかず、適当に流している。とはいえ常に納得のいかないダジャクだ。


それだけに、尚更手を出す訳にはいかなかった。
それは王の信頼だけでなく意地の問題でもあった。



「お前なんかに手を出す訳、ないだろーが…ッ」
そう愚痴って、熱いモノを手の中に吐き出す。

ようやく余裕を取り戻して、極力ナジャの存在を無いものとして寝る支度を始めるのだった。
そして。


眠れやしないことも認めたくない事ではあったが、重々身をもって知っているダジャクであった。





毎度1年ぶりの拍手更新で申し訳ないですー(゚ω゚;A)!そして今回もナジャで!(笑)
ナジャ可愛いよぉ。日頃はすっごい俺様で超が付くほど格好いいんだけど、身体は完全にアレなのよね(笑)。
蛮族っていうのは過去に大罪を侵してて、そのせいで常に警戒されてる種なのだ。
完全に抵抗を奪う薬漬け状態で、自白剤投入し何でも喋ってしまうデロデロ状態の検査です(笑)。オイ。
まぁBLとして非常に美味しいです(笑)。

2015.12(2021年拍手より移動)

 ***4***

「待っ…、困りま…」
腹ごしらえを終えて、欠伸をしながら育成場に戻ってきたナジャの耳に困惑した声が届く。その声は聞き覚えがあった。
最近、新人として入ってきたアキメルだ。
最年少という若さはやっかみを買いやすく、その麗しい見た目も苛めの標的になっておかしくない。


ぼろ小屋を回って、声のする方へと向う。
ナジャの期待を裏切る事なく、数人が少年を取り囲んでなにやら良からぬ事をしようとしていた。
わざと草を踏みしめ音を出すナジャだ。
その音に彼らが一斉に振り返る。


「よぉ」
「っ…ナ、ナジャ…」
多勢に無勢だというのに、彼らに浮かぶ表情は一様に同じで、
「これには、ふ、深い訳があって」
焦りと怯えを浮かべていた。
「てめぇら、どこの所属だ?どういう訳があんのか言ってみろ」
長い足を壁に掛けて、リーダーと思しき者に問い掛けた。
にこりともしないナジャだ。
いつもの鋭い眼光のまま男に凄む。


それはナジャにしてみれば普通の態度でもあった。
脅す訳でもない。
アキメルに特別な思い入れがある訳でも無いし、一人前なのだから自分でどうにかすべき事だろう。ナジャが助けに入ったのは一重にこういうやり口が気に入らないだけだ。



「その、…」
言い訳の言葉も途中でとまる。
「…すみませんでしたッ!!」
大声で叫んだ彼らが一斉に逃げるように去って行った。
年齢もアキメルより少し上くらいだ。まだ子どもっぽさが残っていても不思議ではない。


「お陰で助かりました」
だらしがなく半脱ぎ状態のアキメルが笑みを浮かべたままお礼を言った。
「てめぇがしっかりしろ!面倒なんか見きんねぇぞ」
「はい」
返事だけは素直なアキメルだ。
満面の笑みに弱った気配は無い。むしろその繊細な美貌とは不釣り合いの意思が強そうな瞳が真っすぐにナジャを見つめてきて、
「…」
思わずアキメルに見入ってしまう。
最年少で育成場に入ってくるだけあって、普通とは感性が違うのだ、この男は。


「少しは懲りろ。お前が受けてるのは歓迎じゃねぇ。虐めだ」
配慮も何もないナジャの言葉に大きく頷いて、
「ナジャさんは、思った通りの方ですね。凄く優しい方だ」
満面な笑みで素っ頓狂な返答を返して来た。
「…はぁ?!てめぇ、何ほざいてんだ!」
頭を抱えたくなって、小さく呻く。途端に対応が面倒くさくなるナジャだ。
この天然を通り越した変人をどうしたものかと思って、すぐにそんな考えを打ち消す。




どうでもいい事だ。
ダジャクに世話を頼まれはしたが、強制でもない。


アキメルが一人でやっていけるくらい図太い神経ならそれはそれで喜ばしい事であり、気に掛ける事でもなかった。
「付き合ってらんねぇ。俺は行くぜ」
片手をあげてひらひらと振る。


ナジャの口笛に応じて、木陰から4足獣が飛び出して、ナジャの足元にじゃれついた。
大柄な男に子犬のように懐く。その微笑ましさにアキメルから笑みが浮かんだ。
それもすぐに消え、真剣な色になった。
ナジャに懐く獣もよく見れば獰猛な獣の一種だ。素早く走れるよう発達した脚力に大きな顎と骨をも砕く太い牙、空高くせり出た獣耳、敵を威嚇する鋭い野生の瞳がアキメルを品定めするようにちらりと振り返る。ナジャの後ろをぐるりと回って、アキメルを警戒して再びナジャの足に絡みついた。




アキメルが彼の後を付いていくという事はない。この先のエリアは危険種を専門に育成するナジャの縄張りだった。
ナジャの飼育下にある彼らが突然、人を襲うという事は無い。それでも新参者のアキメルが迂闊に踏み込んでいい場所ではなかった。

「ナジャ…。本当に思った通りの人だ。君は獣のように強く、美しい」
男らしい背中を見つめたまま、ひっそりと呟く。



アキメルの熱の帯びた視線に気が付きもしないナジャだった。




毎度1年ぶり、ならいいんですが、なんとビックリ‼ほぼ3年ぶり拍手更新みたいです。んなばかなー?!ほんと??
そしてナジャ…。いい加減、メインストーリーを書きたいですが…(笑)。

ナジャ、相変わらず可愛いです(*ノωノ)❤

2018.10(2021年拍手より移動)

 ***5***