【ファンタジー,男前受,総受け,流血】

 ***1***


 この世界には『ツガイ』という概念があった。

 いつからか人類は生きる為に必要不可欠な要素を欠落した状態で生まれるようになった。そしてそれを補う為にはその要素を持って生まれた別の誰かに依存しなければ生きてはいけない。その人物もまた、別の要素が欠落した人間であるため、誰かからその要素を補充しなければ全うな生を歩むことは出来ない。
 そうした人類の退化の結果、生まれた制度が『ツガイ』であった。

 全ての人が生まれると同時に国家機関による強制検査を受ける事になる。生まれた個人の足りない要素が何であるかを判断し、居住地、家柄、気質、性質など様々な事情から最適なツガイが選ばれる事になっていた。この検査は血液とDNAによるが、検査結果に間違いが生じる可能性は非常に低く、後日になって訂正されるという事は絶対にあり得ない。
 そこで定められたツガイは死別が無い限り、一生涯に渡って支え合う絶対のパートナーとなっていた。

 とはいえ、気質や性格は環境で大きく左右され、また突然の死別などあり得ない事でもない。機械で定められた互いのパートナが必ず相性がいい訳でもなく、何故国家が決めたパートナーと生涯を共にしなければならないのか、そうした反抗心を抱く者も少なくはなかった。
 ましてやパートナーは男女問わず機械的に算出される。同性であることに嫌悪を抱く者も多く、下級層の市民ではツガイ殺しも起こりうるくらい不完全な制度であった。

 一方で、上流階級にも同様の問題は生じうるが、彼らの方は全てが金の力で解決できる問題であった。気に入らないツガイであれば、形式だけのパートナーでいればいい。
生きていく上で必要な要素の補充はツガイの体液を摂取すれば事足りるのだから、血液にしろ精液にしろ、食事と共に互いのモノを交換し合えばいい。またどうしても相手に不服があれば、同じ要素を持つ別の誰かから掻き集めれば済む話である。
 形だけのツガイを守っていれば国家から咎められる事もなく、上流階級の体裁も保てることになる。
 
 また彼らには特権が認められ、どうしても相性が悪い最悪の場合にはツガイ選定再審査という制度があり、要件を満たせば2回までの選定し直しが認められていた。
 
 問題があるとはいえ、一定のレベルで『ツガイ』制度は大きな意味を為していた。何よりも決まったツガイが存在することで、互いに安心感が生まれ必要要素が足りずに空腹に陥るということが無い。
 そうした事もあり多くの市民がツガイという制度を許容し生活していた。



 もっとも、持って生まれた要素の大小は個々人で大きな差がある。人が生きていく為に必要な要素として、56個の重要要素が発見されているが、何が足らないかはパターン化しておらず、2,3個しか欠損の無い0型タイプもいれば、10以上の欠損がある多型タイプもいる。どちらも両極端であり非常に珍しいタイプであるが、その扱いは真逆だ。
 0型は特に重宝され、下級生まれであろうが上流階級に昇れるほど貴重な存在であり、その体液は高値で取引される。ツガイの候補も広く相手が死別しようが直ぐに次のツガイが見つかるくらい、相手に困らない。
 そうした人生を歩んでくるせいか、0型の多くは人に優しく奉仕の心が強い人間が多かった。特定のツガイを持たない食み出し者や多型タイプに体液を寄付することも多く、ツガイよりも他人を重視する姿勢は時に身を滅ぼすことさえあった。

 反面、多型は欠損が激しい分か定められたツガイを大切に扱うパターンが多いが、ツガイが見つからない事もある。欠損が多ければ多いほど、一人の相手では補充できなくなるのである。
 多型のツガイに0型がくることはまず無い。0型は上流階級のためのツガイに昇格することが多いため、多型の多くは国家に切り捨てられることになる。全体の制度を守る為に、どうしても生じてしまう犠牲でもあった。

 そうした制度の欠陥に反発する者は下級層に行けば行くほど増えていく。ツガイ制度を敵対視して、敢えてフリーの道を選ぶ者もいた。
 自分に何の要素が足りないのか知らない者はいない。欠損要素の種別マークが身体に記されており、それを見ればその人が何の要素を必要としているのかが分かるようになっていた。下級層の秩序は悪く、適当に相手を襲って必要要素を補充する者もいるくらいである。
 秩序の成り立っていない層に住んでいる者にしてみれば、国の定めたツガイなど無くとも力で奪い取ればいい話である。


 上流階級で『金』が全てのように、下級層では『力』が全てだった。




*****************************************



 「はっ…ぁ、ン…、バイアー。もっと…、もっと頂戴…」
 汚れた路地でそのまま性交に至る者も少なくは無い。ツガイの制度がある為の安心感か、人目を気にする恥など持ち合わせていない者も半数はいるだろう。ゴミが散乱し汚れたこの下層街でも一定のモラルは存在している。

 まず。
 人のツガイには手を出さない。

 これはどこの層にいようと共通の認識だ。


 とはいえ、食み出し者は必ずいるもので、
「ッ…ぁ!」
絡み合う二人の影に一人の男が歩み寄っていった。


 長い金茶の髪から鋭い目が覗く。立てた白シャツに黒の革ジャンを羽織った男がジャラジャラとベルト通しからぶら下がる金属質の細い鎖が手に絡まるのを気にするでもなく、性交の真っ只中である少年の後ろ髪を突如、後ろに引いた。
「痛ッ…ぁ!だ、誰っ!」
 行為に夢中だった二人が突然の闖入者に気が付いて動きを止めた時には既に遅く、少年の首に尖った八重歯を突き立て躊躇う事無く噛み付いた後だった。
「う…ぁ、あぁ…っ!」
「て、めぇっ!人のツガイにっ…何しやがるッ!」
 男を振り払おうとしてバイヤーと呼ばれた青年が殴ろうとして前のめりになる。その途端、少年に挿入したままのモノがより一層深く入って甘い悲鳴が上がった。
「バイ、ヤー…ぁ…、んん…!」
「てめぇはそのまま犯ってりゃいいだろ。少し摘むだけだ」
 まるで軽食でも取るように突然噛み付いた男がそう言って流れる体液を吸い取った。  
 溢れる真っ赤な血を美味しそうに喉を鳴らして食す。その姿に圧倒され一瞬、文句を言うのも忘れてたじろぐ二人だ。それでも、ツガイとの最中を邪魔されてすんなり見過ごす男でもない。
「ふざけた事を抜かしてんじゃねーぞっ!」
 語気を荒めて相手に迫ろうとするも間に挟まれた少年が嫌がるように首を振って、バイヤーの攻撃を阻む。掠れた声で、
「バイヤー…!血、くらい…っ許してあげて…」
朱色の瞳を潤ませバイヤーを落ち着かせるように首に腕を回して懇願した。
 歯軋りをして言葉を飲み込んだバイヤーの目を間近で真っ向から見つめ返す男だ。人のツガイから勝手に要素を頂いておきながら、悪びれもせずバイヤーの怒気をさらりと受け流す目だ。
 視線を合わせたまま少年の首から唇を離し、軽く唇に付く血を舐め取って挑発した。カッとなったバイヤーが文句を言うよりも前に。

 男の手が頭の後ろへと回り、
「んんッ…?!」
口を塞がれ口腔を貪られていた。
「っ…む、ン…−−!!」
 バイヤーがその暴挙に抵抗を示したのはほんの一瞬だった。濡れた舌が触れた瞬間に、ぞくりと背中に刺激が走って下半身を直撃する。貫かれたままの少年が歓喜の声を洩らすのさえ気付かない程、バイヤーにとっては驚愕の出来事だった。

 見ず知らずの男とのたかがキスで一体何故そんな反応を返してしまったのか、自分の反応を理解できず軽いパニックに陥ってしまう。混乱する頭を置き去りに、急速に昂ぶったモノが自分の意思とは無関係に解放を求めて抑えが利かなくなっていった。

 バイヤーの動揺など知らぬ風で、一通り堪能した男が唐突に唇を離す。それに物悲しさを感じながら、少年の高い喘ぎ声と共に吐精した。

「バイ…ヤー…、すっごい…イイ…」
 恍惚とした表情の少年がぐったりと肩にもたれ掛かってうっとりと呟いた。その言葉もバイヤーの中では素通りしていく。何の感情も宿っていないような目の前の男をじっと睨み付けて威嚇していた。

「そんな警戒しなくても去るから安心しろよ。お陰で俺の空腹も少しは癒えたしな」
 金茶の髪をかき上げて唇の端を親指で擦った男が視線を交えたまま素っ気無く言った。
「ツガイがいないのか?」
 荒い息を整えながら訊ねれば、男が鼻で笑う。青紫の瞳を一度大きく開いてすぐに見定めるように細めた。
「そんなものに価値は無いね。必要な要素は他所から頂けば十分だ」
「僕らはこの辺にいつもいるから、お腹空いたらおいでよ。僕の血でいいならあげる」
「ミリヤ!何言ってんだっ!」
 少年の親切心がバイヤーを怒らせる言葉だったのは当然のことだ。ツガイ以外に体液を与えることは結婚でいう浮気に当たる。
 咎める声もスッキリした顔の少年には素通りで、
「だって。ツガイがいないんでしょう?僕ので補充出来るならいい事じゃない?」
むしろバイヤーを説得して文句を飲み込ませた。

「—— ッ!勝手にしろっ!」
 しまいにはそう答えて、首に掛かる彼の手を強引に引き剥がす。腕を組んでそっぽを向いた。それでも視界の隅で男の動向を窺っているのは丸分かりで、その様子にミリヤと呼ばれた少年がくすりと笑いを零す。
「バイヤーはこういってるけど、博愛主義者なんだよ。困っている人は放っておけない優しい性格なんだ」
 にっこり笑って言う彼に邪気は無い。白い面にさくらんぼ色の唇、稀に見る美少年が毒を払拭するような優しい笑みで男に手を差し出した。

 それを冷めた目で見つめ返す男だ。彼の手を軽く叩いて、
「提案はありがてーけどな、欲っする時は自分で奪う。今までそれで困った事がねぇしな」
そう言って胸倉掴もうとするバイヤーの手を難なく避けて背を向けた。

 自分に自信がある男の態度だ。事実、それだけのものを男は持っていた。高い身長に服の上からも分かる程よく付いた筋肉、そして何よりもその見目の良さ。その気になれば誑かしてでもツガイを寝取ることが可能だろう。

 細身のズボンのポケットに手を突っ込んで、ちらりと彼らに流し目を送る。
「礼は言う。またな」
 小さな笑みを浮かべたその表情が、やけに鮮やかで艶やかだ。

 恐らく流れ者だろう。この辺り一帯では見た事がない顔だ。もう二度と会うこともないかもしれない。それでも不思議と腹が立つでもなく、
「変なやつ…」
二人に鮮明な印象を残して名も知らない男が悠然と去っていった。





2015.12.13
ということで。短編というページを作ったので先の見えない、書きなぐりのようなオチ無しはこちらに書いていこうかと目論見中(笑)。
主人公の名前すら出てきてないです(*´∀`)しかも総受け要素どこにあるんだっていう…(笑)。
恐らく設定の意味もよく分からないかと思いますが、とりあえず欠落してる要素は人の体液を口からの摂取で賄えるというかなり大雑把な世界です(笑)。病気の心配とかしちゃだめ(笑)。一応血清みたいなのもあって、注射打ては血から摂取してもOK的な。後はツガイ同士だと病気保菌の可能性が基本的には低かったり…。
とか大雑把な世界です(*^ー°)b笑。




 *** 2 ***


ロアは空腹で死にそうだった。
力の入らない身体を引きずり起こして鉄パイプの無機質なベッドからずり落ちる。空腹を紛らわせる為に寝たのが間違いで、何日眠り込んでいたのかさえ分からない異常な虚脱感にやや後悔していた。
何もそれが初めての経験ではない。
自分の要素が激しく欠落している事は承知の上で、放浪の身なのである。

このくらいの空腹は何度も潜り抜けてきた。
とはいえ。


「くっそ…」
思わず悪態が口を付く。
こうなる前にどうにかすればいいのだが、それも上手くいかない時もある。
面倒臭くて空腹を放置していると突然その飢餓感が増し、身動きが取れなくなる事さえあって厄介な身体であった。

ロアは常々、自分の身体に嫌悪していた。
こんな身体でなければ苦労もしないで済んだだろう。


『ツガイは?』


誰もが口にするその言葉にさえ嫌悪を覚え、ツガイという制度に激しい疑念を感じていた。そもそも。
ロアにはツガイがいない。
5歳まで施設で育ち、自力で生きていけるだろうという判断で下層街に放り出されたのである。
多型タイプは皆そうである。
その時に死ぬ人間も少なくないが、幼いながらしたたかに生き残る者もいてロアもそういった一人だった。


匍匐前進のように肘でコンクリートの床を這って冷蔵庫まで辿り着く。
強引に扉を開けて掻き回すように中身を引きずり落とした。

歯で噛み千切って加工肉の袋を開ける。
透明の液体が手首を伝って床へと零れるのを気にもせず、齧り付いた。
「っ…」
顎を使う事で少しは意識がハッキリしてくる。
そんなモノを食べた所で真の部分での空腹は癒えないが、一時的な満腹感は得れる。
その間に要素を摂取しなければ、本当の意味で危うい状況へと追い込まれることは経験上分かりすぎていた。

口内に広がる塩味と柔らかな肉の食感、薬品のような独特の味。
それが乾き切った脳内を刺激しアドレナリンを大量に分泌した。舌で極上のモノを堪能するように味わって嚥下する。
喉が鳴って、今度は乾きを感じるロアだ。
ミネラルウォータを取り出して頭から丸被りして喉へと流し込んだ。

「ふー…」
獣のようにがつがつと性急した動作で食事をしていたロアがようやく一息ついて満足の溜息を付く。
思うように動かなかった身体を起こし、ボロボロのシャツを脱ぎ始めた。
そのまま全裸になってシャワーを浴びに行く。
ワンルームの部屋に簡易のシャワーボックスがあり湯船は無い。
透明の仕切りで丸見えのシャワー室だったが、誰もいない部屋では然程の不便さもない。むしろ簡易なその造りは掃除も楽でロアには丁度よかった。

長めの髪を乱雑にかき乱して石鹸で洗う。僅か数分でシャワーを済ませて、濡れた格好のまま室内を歩き、椅子に掛けてあったタオルを引っ張った。

本来、ロアは外見を気にしない男だ。
だが、街へ出る時はそれなりに気張った格好をする。それにもそれなりの事情があり、あまりにだらしがない格好や安っぽい格好をしていると喧嘩を吹っ掛けられるという経験則があるからだ。

壁に掛かるハンガーからブレザーを外して白いシャツの上から羽織った。
黒のズボンを履いてしっかりとベルトを巻く。



「…面倒くせーけど、飯探しに行くか…」
溜息交じりに呟いて自分を奮い立たせるよう両頬を手の平で軽く叩いた。
ヘアースプレーを両手に付けて前髪を撫でる。
金茶の髪を後ろに流してその男前の顔を晒せば、先ほどまでのだらしがなさは消えモデルのような清潔感と華やかさのある男へと変貌していた。


鉄製の扉を開け、外へ出れば時刻はすっかり夕闇で心地よい風が頬を撫でていく。
ロアには丁度いい時刻だ。日中の喧騒は嫌いで、基本的には夜の街にしか出かけない。
年若いガキのグループに遭遇するのも厄介で、ましてや今のように空腹との瀬戸際にいる身体では張り合う気力があまり無いというのが本音である。
気合をどんなに入れた所で、身体的空腹にはどうにも勝てず、殴られようが犯されようが、まぁいいかという心情に流されやすい。
むしろ、殴られるくらいなら性交渉の方がロアには都合がいいくらいだ。そこから要素を補給すればいいのだから、空腹も満たされる。

とはいえ。
事後に激しく後悔するのは目に見えているので、基本的にはその方向は避けたい部分もあった。何も好き好んで男と寝る必要も無い。
それはプライドの問題でもあった。


ギシギシと軋みを立てる鉄筋の螺旋階段を降りて、コンクリートの地面に降り立つ。
狭い路地を抜けて大通りに出れば、物乞いや物売りの子が道行く人に声を掛けていた。
ツガイ制度があるとはいえ、そういう光景は珍しいものでもなく、また一人で外出する人がいない訳でもない。
獲物になりそうな人を探して、視線を巡らせる。

そこで。
ふっと。

来たばかりのこの街で見知った顔を見つけた。
白い面に、淡い茶色の髪。幸の薄そうな淡い色素の少年は記憶に新しい。

名前を確か。
「ミリヤ」
歩み寄って声を掛ければ、向こうはすぐに気が付いた。
小さく笑んで、人懐こい気配を醸し出す。

この下層街では珍しいタイプだ。こんな危機感の無さでよく今まで無事に生きてこれたと不思議に思う類で、彼を見た者は庇護欲を掻き立てられるか、あるいは支配欲を掻き立てられるか、そのどちらかしか無いだろう。そしてその邪な思いから少年を常に守っているのが、彼のツガイであるバイアーなのだろう。
「今日、いねーのか?相方」
ロアの質問に、呆けて見つめていた彼がハッとしたように小さく頷いた。
「今、定期健診で病院に行ってるの。僕は待ってる所」
所在なさげに店の外をウロウロしていた理由に合点が行く。ロアにしてみれば彼がいない事は丁度良かった。
二人のセックス現場を見て、バイアーよりミリヤの方が自分にとっては要素の補給率が高い事は把握済みである。
ミリヤの肩に手を置いて、
「なぁ、ちょっと…血、貰っていいか?」
甘い声でそう囁いた。

「…え?」
驚きの声を挙げる彼を気にもせず、二の腕を掴んで歩みを進める。そのまま人気の少ない路地へと入って、焼却ボックスの裏へと彼を引きずり込んだ。
「お腹、空いてるの?いいよ」
ロアの暴挙に文句一つ零さず、ワイシャツを開いて首筋を曝け出す。
綺麗な白い肌が露わになってロアの目の前に差し出された。


だが。
本当の目的は血ではなかった。


首筋に唇を付けて、相手を油断させる。
ミリヤの手を掴んで顔の横で固定した。それでも何の疑問を抱いていない相手に罪悪感など一ミリも浮かばず、
「っ…!?」
ズボンを下着ごと一気に引き降ろした。
「ま、待って、っ…な、何?」
焦って暴れるミリヤのモノを強引に手で扱いて、叫ぼうとする唇を塞ぐ。
舌を絡めあえば、偽りの満腹感が急激に飢餓へと変わって、無性に喉が渇き始めた。甘い唾液を吸って、柔らかな舌を食み味わう。歯列をなぞり、口内の様々な場所を堪能して、相手の抵抗を封じ込めた。

キスだけで簡単に反応を示した下半身から溢れる滴が指を濡らしていく。
唇を離せば、ぐったりとしたミリヤからは既に抵抗が無く、甘い吐息が零れるばかりだった。
ミリヤの前に屈み込んで、立ち上がり喜びに震えるモノに唇を付ける。
「ッ・・・や、…め」
拒絶の声よりも先に。

一気に口内に銜え込んだ。
相手が喜ぶであろう場所を刺激して、舌を絡ませ根元までしゃぶる。口内に溢れる液体に、ロアの腹も喜びに溢れる。
いかんせん、空腹が激しすぎて思考がややいかれ気味のロアだ。通常であればしないような事も平気でしてしまうのは完全に空腹のせいであり、生存本能の前では恥も何も消し飛んでしまう。
「だめ、…っだ、め…。いっ、…ちゃう…ッ」
ミリヤの懸命な呼びかけも。
ロアの舌技の前では無意味で。

呆気なく、口内に放出した。
それを躊躇いも無く、むしろ美味しそうに飲み込むロアだ。
恍惚の表情で嚥下して、最後の一滴まで絞り尽くすように舌を先端に絡めて口内から解放した後、濡れた唇を舐めて袖で拭った。

その凄まじく妖艶な様に文句の言葉も消えて、見蕩れてしまうミリヤだ。バイアーの存在を忘れてしまうほど、エロチックで刺激的な表情だった。彼の普段の傲慢な雰囲気からは想像も付かないような姿を見て、もっと汚したいという欲望に火を付けられる。
経験した事の無いような衝動に背筋が震え、知らず彼の髪を掴んで引いていた。

「なんだ?その気になったか?」
小さく笑って答えるロアに、ミリヤの理性が蘇る。
「だめ、だめだめだめっ!これ以上は駄目っ!」
掴んだ髪を持ち上げて強引に顔を上げさせれば、ロアが、いててと呻いた。


「やらねーから安心しろよ。男を抱く趣味はねぇ」
慌てるミリヤにそう言って誤解を解く。
「とにかく腹が減って死にそうだったんだ。噛みついて得れる血じゃ足らなかったんでな。わりぃ」
軽く、悪いとは思っていないような軽さで謝罪して、髪を掴む手を解いた。
たった今飲み込んだモノを確認するように腹を摩る。それを見てかぁっと顔を熱くなるミリヤだ。
「な、名前も知らない人に…、いかされるなんて…」
そう嘆くのはある意味、自分の咄嗟の衝動への誤魔化しではあったが、
「ロア。俺の名前。これでいいだろ?」
その回答は予想外のもので、ミリヤの顔に笑みが浮かぶ。
「いいよ、それで許してあげる…」
照れを隠してそう小さく呟くのをロアが笑って見ていた。



とはいえ。
ロアの空腹はマシになったとはいえ、未だ癒えてはいない。
何せ彼は多型タイプであり、欠落要素が常人の遥か下のレベルにあった。
一人からでは到底補充できるものではなく、この後、更に探さねばすぐに次の空腹が襲ってくるレベルである。

腹を摩りながら、次の獲物を探す算段をするロアであった。


2016.05.22

はぁ。日が経つのは早いですね〜(゚ω゚;A)。

と言う事で、前回の続きを書いてみました(笑)。吸血鬼の延長みたいな話になってしまった感…(笑)。
でも空腹に喘いでるロアってかわいい…(*´∀`)!
放浪癖があって、誰とも関わりたくない個人主義なんだけど、でも身体がどうしてもそうさせてくれない、
そんな感じです(笑)。




 *** 3 ***


どこの街でも隠したい闇の部分はあって、それはこの第3区エリアも同様だ。街から街を転々とするロアにしてみれば、何区にいようと最下層エリアは基本的には同じで、知らない場所であろうと穢れた道を辿れば目的の場所へと辿り付ける事を知っていた。

アートとは呼べないレベルのスプレー缶の落書きが道路を穢し更に堕落させた気配を漂わせる。
亀裂の入ったアスファルトの道を更に奥へと進むと、看板も出ていない古びた店が並ぶ通りへとたどり着いた。薄汚れたコンクリートの壁に、黒マジックで書いたようなアルファベットが乱雑な字で書かれている。そのすぐ下に入口を示す矢印がでかでかと描かれていた。

矢印の通りにごみの散乱した細い道を突き進んでいくと、鉄製の扉が通路を塞ぐ。
『ZOAJIF』
この店の名前なのだろう。

躊躇いもなく中へと入れば薄暗い照明に、白煙が視界を遮った。
大音量で曲が流れ、騒がしい話し声が扉の閉まる音を掻き消す。やってきた客に目をくれるものはいなかったが、カウンターの奥にいる店主はすぐに気が付いて軽く会釈した。

思いの他、大きな店だ。フロアにはアップテンポな曲に合わせて踊る人々がいて、隅にはソファ席があった。吹き抜けとなっており二階からは一階が一望できる仕様になっていた。


ここは出会いを求める場所だ。
ツガイはいても、別の人のモノを欲する人やツガイがいない人が一夜の相手を探す場所である。必ずしも性的な出会いは含まないが、多くがそれも含めた目的で来ていた。

そしてロアがやってきた目的も、食事の為である。


カウンターに座り、一番安価な酒を頼む。
周囲に座っていた男達が突然やってきた新顔に口笛を吹いて会話を止めた。
「そんな安酒じゃなくて何か奢ってやろうか?」
下品な笑いの残念な男たちだ。ロアの眼中にない。

くるりとカウンターチェアを回して、歩み寄ってくる男たちに視線を向ける。
「生憎、安酒が好きなんでな。結構だ」
はっきりと断りを入れれば、しつこい男たちが強引にロアの左右に腰を下ろして、肩に手を置いた。
「空腹なんだろ?見りゃ分かるぜ」
顔を近づけてささやく男を冷ややかに見つめるロアだ。空腹は空腹だが、こんな下劣な男から要素を頂戴しなければいけない程、切羽詰まってはいない。
それに加え、出会いを求めてここに来ている訳ではなく、
「ッ!ぐッぁ…!」
男の太ももに鋭い蹴りを入れ、残忍な笑いを浮かべた。
「カモ探しなら別を当たりな。俺は安かねぇよ」
「ってめぇッ…!」
反対側の隣に座っていた男がロアのジャケットの襟を引き寄せ、殴り掛かる。その拳を手の平で弾き喉仏を指で突いた。
軽く突いただけでも十分な威力だ。男が噎せて息を詰まらせ咳き込む所へ、容赦せず蹴りを入れて椅子から転げ落とした。
「気易く触んな。俺は喧嘩に来てんじゃねぇんだよ」
掴まれた襟を穢れ物でも払うように叩いて正す。

喧噪に気が付いた傍観者たちがざわつき、危険な熱気が辺りを渦巻く中、
「お客さん。もめ事は勘弁して。追い出しますよ」
店主の穏やかな声が場を諫めた。
「嫌がる方への無理強いは禁止です」
彼らの後ろから立派な体格の強面な男たちがやってくる。店の喧噪に気が付いて飛んできたようで、店主が軽く手をあげ彼らを止めた。

「ちっ」
打ちのめされた男二人が舌打ちを残してその場を去る。
ロア一人が涼しい顔でグラスの酒を口に含んだ。
「保存あるだろ?」
店主に何食わぬ顔でそう聞けば、
「Sランク以外ならありますよ」
あっさりと欲しかった回答を貰う。

ロアの本当の目的はそこだ。
こういう店では提供された血液を備蓄しており、客に提供している。
もちろん保存ものということで、要素の一部欠落など採れ立てと比べ鮮度は落ちるが、食事としては十分である。
とはいえ、信用の低い店では何が混入しているか分かったものではない。血液検査のされていない血を栄養素として提供されては堪ったものではなく、そこは店の外観、雰囲気、客層で判断するしかないが、営業の信用問題でもあり基本的には品質に問題は無いと判断するのが普通である。

「欠落はどのタイプですか?」
店主の言葉にロアの視線が尖った。
「Aランク持って来いよ」
質問には答えず横柄にそう注文すれば、店主がクスリと笑いを零した。
「うちのAは5種類ありますよ。全部ですか?金額もそれなりに貰う事になりますが?」
ロアの服装を見て、小馬鹿にして訊ねた。
実際の所、そんなに金は無い。

この街に来た直後である。住処を探すのに全財産使ってしまったロアは、Sを一つ頼めるかどうか程度の金しか持ち合わせていなかった。
苛立ちの表情でおもむろに席を立ち、ジャケットを脱ぐ。シャツを下からたくしあげて周囲の目も気にせず上半身裸になった。
そのまま店主に肩を向けて欠落要素を示す。


均整の取れた肉体美に、ではなく。
その欠落部分のあまりの多さに彼の動向を見つめていた周囲からどよめきが走った。


誰がどう見ても多型である。
幾何学模様が複雑に絡み合い、不足要素をその肌に描く。その文様は肩から筋肉の付いた背中まで走り、一つのアートのようになっていた。焼けた肌に白と赤の図柄が良く映え、意図的に入れた柄かのように洒落た印象を与える。思わず感嘆が零れる美しさだ。

「相応しいのを持って来いよ」
忌々しげに吐き捨てて、すぐに周囲の視線から隠すようにシャツで肌を隠した。雑な動作でジャケットを羽織り、どかりと腰を下ろしてざっと周りを見回す。刺すような視線でけん制して、
「好奇心で見てんじゃねぇ」
不愉快な視線を薙ぎ払った。
ロアの血気盛んな態度に、人々が一斉に視線を逸らす。無かった事のように止まっていた会話を再開させた。


店の奥から戻ってきた店主が目の前で冷えた遮光性の袋の封を切る。
ワイングラスに注いで、
「検査済み、特A−タイプ?型ですよ。常連の0型提供者の物ですので物は保証します」
波打つ赤い物を差し出した。
「へぇ…。0型なんているんだ?」
思わずグラスを回して血を覗き込む。それで何かが分かる訳でもないのに、あまり出会う事のない0型の存在に興味を抱いて提供者を脳裏に描く。匂いを嗅いで味見するように小さく口に含んだ。

独特の鉄の味だ。
特に美味しい物でもない。


普通に取る食事の方が遥かに豊かな味で、楽しめる。血や精液を摂取するのは本当に義務感だ。


そうであるのに、身体は違う。
体内に取り込めば、脳が充足され勝手に胸が逸る。今まで飲んできた中でも一番の濃厚な刺激に衝撃を受けて一瞬、固まった。足りていなかった要素が体内を駆け巡り火を灯していく錯覚がして、意図せず興奮状態に陥った。

思わずグラスを半分近く開け、こくりと喉を鳴らす。
「0型ってやっぱ違うんだな…」
乾いていた喉が潤され、干からびていた体が一気に蘇る。
「特Aはサービスですよ。貴方ほどの多型タイプには別格でしょう?」
店主がにっこりと笑みを浮かべて言うのを、どこか遠くで聞くロアだ。
グラスを回してその正体を探るように眺める。
「マジでやべーな。1か月以上、持ちそうだわ」
くっと残りを飲み干して唇に付いた赤い液体を舐めた。
涙腺が勝手に潤み、きゅるきゅると腹が鳴る。うるうると緩んだ瞳に色気を宿して興奮するロアは酷く目の毒だが、当人は全く無自覚だ。

しばらくうっとりした表情で空になったグラスを眺めていたロアだったが、唐突に後ろポケットを探り小さな財布を取り出す。
「?メダル3枚で足りる?」
親指で薄汚れたメダルを弾いてそう訊ね、会計を促した。用は済んだとばかりの早変わりだ。
店主がメダルの軌道を眺めた後、ロアの端正な顔に視線を向ける。
一拍置いたあと、
「一枚で結構ですよ」
拭いていたグラスを置いてそう答えた。

僅かに驚くロアに、
「初来店の方へのサービスです」
人の良い笑顔でそう付け加えた。
思わずまた来店したくなる店だった。質もいいし店の空気もいい。
何より、欲しい物が手に入る。


ロアのようなタイプはいざという時に必ず駆け込める場所を確保しておく必要がある。
それは店であったり人であったり様々だが、本当に空腹でどうにもできない時に頼れる場所が無い事は死に直結するからである。


いい店を見つけたと思って、礼を言って軽い足取りで店を出ていく。
そんなロアをいくつもの好奇の視線が刺さっていたが、それすら気付かない程、新しい発見に心を躍らせていたのだった。


2016.07.23

0型と多型を毎回間違えそうになる私です(笑)。0がどっちだっけ?っていう…(笑)。

ロア、総受けです。本人がいやだーってどんなに思っても、もう属性が総受けだから仕方ない〜
(*´∀`)ぐふふふふ・・・!ごめんよ、ロア。
今回0型の影が登場〜。果たして出会う事はあるのか…?!

あ。今回モバイルで見た際の文字サイズを変更してみました。
今までちょっと大きすぎたかなぁと思って。見にくかったら言ってください〜☆






 *** 4 ***