【過去ネタ】

 *** 1 ***

<本編読後推奨〜癒えない傷>


ギエン・オールは特別な人間だった。
当時、誰もがそのことを認め、否定したりする者はいなかった。

かといって、どんなに褒め称えられようと彼自身は決して驕ったりはせず、常に誰かのために動くような正義感の塊のような人間だった。

彼が騎士団に特級で入団した時も、若くして団長になった時も、彼ほどの人間ならば当然だろうという意識の方が圧倒的で、彼の業績を否定する者はいなかった。

だが、それも上辺だけは、という事になるのだろう。


実力者の集まる騎士団だ。内部的な対立は必ずしもゼロではなく、常に何らかの場面で衝突はあった。それでも、ギエンの実力は誰もが認めるところであり、多くのメンバーにとっては年下となるものの、最終的には彼の意見に従った。

特に当時、屈指の剣術を持つと言われていた指南役のゾゾックは彼の技術にぞっこんで、彼が右と言えば右を向き、左と言えば左を向く、それほど彼の剣術にほれ込んでいた。

それがきっかけではないが、やはり内部では不満の声もあり、どこぞの出身かも分からないギエンが、地位も名声も何もかも手にしたことに対し、勝手な嫉妬心を抱く者もいた。

その事に全く気付かなかったギエンではない。
彼らが反発心を持っている事は知っていた。
それでも一つのことを成し遂げるためには、騎士団が一つにならなければ達成できない。

反発するのも色々な考えがあれば当然であり、騎士団としての誇りは別だ。

騎士団としての彼らを信じていた。




あの事件は、魔が差したのではない。

明確な欲望を持って行われた計画的犯行であり、彼の、そして彼らのギエンに対する想いはそれだけ複雑なものであったといえる。

ただの憎しみや嫉妬心だけではない。
多くの仲間を殺してでも、ギエンを堕としたいという願いは非常に歪んだ願望で、自分たちの名声のためだけではなし得ないものだ。

彼らの反発心に気が付いていながら背中を預けるギエンに、幾度も刃を突き立てるシミュレーションをし、そうして実行に移された事件だ。



堕とされ、欲望にまみれ穢されていくギエンに、彼らが歪んだ達成感を得たのは束の間だった。
結局、彼らの欲望は自身を縛り付け、自分の首を絞める結果となった。


それでも、ギエンに深い傷を残したのは確かだろう。
背中に走る大きな傷跡は引き攣れ、時折、疼くように痛みが走る。

ギエンの人間不信のきっかけとなる初手は、本来最も信頼すべき仲間の裏切りによるものだ。
その後も、大きな傷口に塩を塗るように幾度と裏切られ、今なお、治らない傷として心の中に残り続けていた。


2021.05
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 *** 2 ***

<本編読後推奨〜予定調和>


以前から英雄の噂は度々、耳にしていた。
山脈まで届く名声は、それだけで畏怖の存在で、放っておけば、代々名を馳せるゼク家やハン家と匹敵する存在になるだろうことは容易に推測できた。
それだけでなく、最近は特に獣人族狩りのペースが早く、あちらこちらで仲間が殺されている。


早く、そいつを始末しなければと、焦りばかりが募っていた。



「ルギル。焦った所で我々がする行動は同じだ」
兄のザゼルが落ち着いた声で早まったことをするなと諫めるのを、苛ついた思いで聞く。
焚火を前に獣の皮を剥ぐザゼルは、いつもと同じ無表情で獣人族を脅かすそんな存在を何とも思っていないようだった。
「俺は兄貴と違って、」
「事を急げば仕損じる。狩りの鉄則だろう?」
ルギルの言葉を彼が奪い取る。
「下調べは済んでる。あとはいつも通り、獲物が罠に掛かるのを待つだけだ」
静かな声で言うザゼルの言葉に、不安な気持ちが僅かに落ち着いていくのを感じていた。


兄に付いていけば間違いない。


明日、欲に眩んだ人間が上手く釣れる筈だ。
俺らはその機会を待っていればいい。



淡い光を放つ星空を見上げた。



ギエン・オール。



仲間の仇であり、殺さなければならない人間の一人だ。
偵察に行った仲間の情報によると年は自分と同じくらいだと聞く。だが、それがなんだという。老若男女問わず多くの仲間が人間たちに殺されてきた。やらなければやられる、それだけの話だ。
命辛々逃げ出した仲間が言うには、彼は剣術と魔術の合わせ技を得意とし、目にも止まらぬ速さの剣技だったという。


万が一があれば。
仲間を捨ててでも逃げなければならない。
命あっての獣人族だ。
血が絶えてしまっては意味がない。


「案ずるな。ルギル」
まるで心を読んだかのように言ったザゼルの横顔は、何の不安もなかった。
大剣を傍に置き寛ぐ姿は、信用されている証拠で、
「ギエン・オールはじき我々の手に落ちる」
確固たる自信をもって答えた。
「あれは人間への警告の第一歩だ。王都の混乱を想像すると今までの苦労も無駄ではなかったと思うだろう?」
無表情のまま言う兄の言葉に、笑いを読み取る。
「あぁ。ギエン・オールは簡単には殺さない」
「生かすも殺すも。全てこれから考えればいい。見せしめには打って付けの人物だ」
なんてことないように言って、ザゼルが?ぎ取った獣の皮を地面に放り投げた。


「ルギル。二人でいれば何でも出来る」
「分かってる」
兄の言葉に強く頷きを返す。


落ち着かない体を誤魔化すように両肩を摩り、息を深く吐くのだった。


2022.03
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 *** 3 ***

<本編読後推奨〜砕けない心>


ギエンという男は、思った以上にタフだった。

宴の席での凌辱など珍しいものでもない。
彼らにしてみれば、人間は憎き敵であり力を誇示するための象徴に過ぎない。捕えた人間を奴隷として使用するのもそうした思惑の現れであり、上位にいるのはあくまでも自分たちだと分からせるためだ。

多くの人間がそうであったように、たとえギエン・オールといえど末路は同じだろうと多くの獣人族が思っていた。
ましてや、獣人族の中でも2トップの二人に目を付けられて、自尊心を保てた者はいない。

落ちぶれた彼が涙を流して命乞いするのをまだかと心待ちすらしていた。


そんな彼らの予想に反し、ギエン・オールの瞳はいつまでも澄んだ蒼い瞳のままで、強い輝きを宿していた。
彼がぼんやりと虚空を見つめたまま動かないでいたのは僅か1週間ほどのことで、背中の傷が治っていくにつれ、生きる活力を増していた。


そんなことは到底、許されないことだった。


『英雄』を奴隷として手に入れた所で、そのプライドをへし折らねば完全なる勝利とは言えない。人間側の象徴ともいうべき『英雄』を何としてでも貶め、惨めな様を見なければ殺された仲間も浮かばれないだろう。
そんな復讐心で、傷ついた彼を殺し合いの決闘に向かわせる。どちらか死ぬまで続けられるそれは、どっちが死のうが獣人族にとっては、大した問題ではない。それにより自分らの士気が高まれば、どうでもいい事柄だ。

得意の剣を失い、精霊魔術は封じられ、かのギエン・オールがいかに勝利することが出来るのか、そんなことを考える者は当時おらず、多くは惨めに死ぬ様を思い描いていた。


ギエンという男はやはり、滅多にはいない逸材なのだろう。
初めての決闘で万全でない身体にも関わらず、彼の立ち回りの鋭さ、そしてその戦闘能力は度肝を抜かれるもので、死に物狂いの闘いの中、彼のその『生きよう』とする強さは鮮明な何かを見ている者たちに与えた。

自然と共に常に生きてきた獣人族にとって、人間にも同様の強さがあることに驚き、そんな馬鹿なと認めたくない感情を芽生えさせる。

二度、三度と、決闘に出向く度にその思いは確固たるものへと変わり、『英雄』の見方が僅かに変化していた。
それでも、ギエンの立ち位置というのは最初から一貫して同じで、夜になれば見知らぬ獣人族の下の世話をさせられることには変わりがなかった。

強くなれば強くなるほどに彼らの強要は激しくなり、当初のそれは自尊心を満たすためだけのものであったが、いつからか明確な欲が混ざるようになっていた。

20代前半の若々しい身体が、より筋肉質で凛々しい身体へと変化していく中で、抱かれることに慣れるほど身体もより一層、鮮やかに、そして艶やかに色気を増していった。
夜にもなれば、眠っている時ですら、諦めたように足を開く。抵抗しても体力を失うだけだと知ってからのギエンは非常に従順で最初の頃は散々、抗っていたキスすらすんなりと受け入れる有様だった。


「…人間如きに現を抜かしやがって…」
夜な夜な仲間が、彼を抱いていることは知っていた。
ルギルが酒瓶に口を付けながら吐き捨てた言葉に、ザゼルが聞き飽きた台詞のように小さく相槌を打ち、聞き流す。
「すっかり生活が馴染んだようだな。多くの人間はとっくに死んでいるが、珍しく長くいる」
「兄貴が示しを付けるべきだ。俺らが見くびられる」
「逃走2回か。懲りない男だ。その内、色仕掛けを覚えそうだ」
「兄貴!」
とんでもない冗談に声を荒げたルギルと視線を合わせるザゼルは無表情だ。それでも、彼がこの状況を楽しんでいることが分かった。

酒を一口で飲み干し、
「目を覚まさせてやろう。主は誰か、な」
彼が席を立つ。
「まさか、…」
「どんな表情をするか見物だ。俺が本気で抱いて壊れなかった人間は見たことが無いが、あれがどうなるか、お前も気になるだろう?壊れたらそれはそれでいい玩具になる」
「…」
何故か返す言葉に詰まっていた。


ギエン・オールが壊れるのを見たくないのかと自分の動揺を否定して、小さく相槌を打つ。

「そう、だな。人間に見せしめが、…必要だ。俺らに捕まって、真っ当に生き残ることなど出来ないと…」
「あぁ」
ザゼルがすんなりと頷くのを、後ろ髪を引かれる思いで聞く。


彼が、もし壊れてしまったら。
何故か恐怖にも似た寒気を呼び起こし、夜風のせいだと頭を振る。


去って行くザゼルの背中を戸惑いの宿る瞳が見送っていた。


2022.08
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 *** 4 ***

<本編読後推奨〜始まりの夜>


その日の祝い席は大いに盛り上がっていた。
かねてから目の上のたんこぶであった人間の象徴とも言うべき英雄を手中に収めることができたからだ。

備蓄していた酒瓶が大量に運ばれて、長テーブルの上に置かれる。狩り立ての肉が盛られた大皿と、豪勢な食事が次々と用意され、かつてないほどの大宴会となっていた。

背中に大きな傷を負った英雄の処遇をどうするかという話し合いは族長であるザゼルの一言、『殺さず生かす』で決着が付いていた。
術師が呼ばれ、簡単な手当てが施された2日後のことであった。

祝いの場に、精霊排除の首枷を付けた男がペットのように鎖を引かれて連れられてくる。
両手は後ろ手で拘束され、ふらつく足元でありながら、その瞳は強い光を宿し周囲を威嚇していた。
その強気な態度を見て、獣人族が余計に盛り上がったのはいうまでもない。元々、血を見て興奮する性質を持つ彼らだ。野蛮な雄叫びを上げ、酒が飛び交い、今すぐ殺せと誰かが叫ぶほど激しく昂っていた。

戦利品の扱いは大体決まっていて、多くの場合が宴の席で凌辱したのち、反抗心を奪って奴隷化するというもので、翌日には絶望のまま死んでいくものも少なからずいた。
仮にその場で生き残っても、肉体労働は勿論のこと、残された道は性欲処理の道具か、決闘で命を落とすか、彼らの犬となり下がり媚びへつらうかのいずれかしかない。
捕えた人間に自分の立場というものを分からせるのに、リーダーを犯し嬲るのは見せつけに一番の方法でもあった。

殺さず生かす、とはつまり更なる屈辱を与え絶望の中で死ぬということを意味する。

「ギエン・オールか。お前はどっちに賭ける?」
鎖を引く力に反抗する彼を見て、片膝を立ててテーブルの奥に座る男が隣にいる弟に問う。
「1カ月」
間髪入れず返ってくる言葉は悩む必要もない答えのように迷いがないものであった。

獣人族に捕らわれて、今までの自分を保てた者は少ない。
特にリーダーのような立場の男は一度、自尊心を失えば後は落ちていくだけだ。
「随分と短く見積もったな」
ザゼルの意外そうな言葉に関心が無い振りをして、
「苦難もなく優雅に育った貴族のお坊ちゃんだ。耐えられやしない」
同じ年齢くらいの男を見る。
血まみれの自分とは偉い違いだと嫉妬のようなものを抱き、その反面、だからそんな目に遭うんだと同情のような苦さを抱く。
見つめる先には、怪我した背中を蹴られて強制的に膝を付く様があった。
洞窟内に作られた大広間は、所々毛皮が敷かれていたが、素足で歩けば剥き出しの石で皮膚を傷つける。あちこちに擦り傷を付け、血が付く裸足を見て、彼の抵抗のほどが分かるというもので、
「無駄な足掻きを」
さっさと諦めた方が痛い目を見ないで済むのにと心の中で思っていた。

黒の下着姿に血で汚れたシャツを羽織っただけの格好は、血気盛んな彼らを興奮させるに十分で、
「族長!もういいだろう?!」
大柄の男がギエンの首根っこを掴んで地面に強く抑えつける。怒鳴るような問い掛けに、
好きにしろとザゼルが答えれば、目をぎらつかせた獣人族が数人集まってきて取り囲んだ。
「お前ら…ッ!」
拘束された両手首の鎖が、じゃらじゃらと耳障りな音を立てていた。
どんなに暴れた所で両手は背中で固定されていて、首を抑えつけられれば碌な抵抗もできず、
「ンぐッ…!」
為す術もないまま、下着を引き裂かれていた。

あられもない姿を大勢の目の前で晒されて、ギエンの頬に朱が走る。
そんな経験がある方がおかしいだろう。
かつてない屈辱に歯を噛みしめ、怒りのあまり指が震えていた。
そうして、
「ッ…!」
裏切者たちの勝ち誇ったような顔を見つけ、名前を呼ぶのすら穢れると言わんばかりに、声にならない呻き声を上げていた。

「族長。俺らにもまわす権利はあるんだよな。リスクを犯してここまでしたんだ。英雄様の堕ちる様を存分見たい」
「貴様らは人間だ。これはもう我々のモノであり、同じ土俵に立つことは許されない。規約通り報酬を受け取って去れ」
「少しくらい、」
「欲をかくと身を滅ぼすことになるぞ」
交渉に持ち込もうとする男にそう返すザゼルは冷静なままで、話は終わりだと言わんばかりに酒瓶を傾けて口に含んだ。
「図に乗るんじゃねぇよ。人間如きが」
持っていた食器を手荒な仕草でテーブルに置き、ルギルが忌々しげに吐き捨てる。
大体、仲間を平気で売るような奴らだ。信用も出来ず、彼らの顔を見ているだけで虫唾が走るというものであった。

視線の先には孤立無援の中、抵抗を試みるギエンがいた。頭を殴られ力なく地面に頬を付ける。事前に慣らされたとはいえ、狭い秘部に異物を無理矢理、押し込められて歯を食いしばっていた。
「う、…ん、ぐ…!」
獣人族のモノを受け入れるには狭すぎるそこは固く閉ざされ、男が押し入る度にギエンの口からは苦悶の声が零れ落ちる。
それでも彼らは容赦なく腰を動かして、じゃらじゃらと鎖が音を立てる度に中に塗り込められた潤滑剤がそこから零れ、太ももに流れていった。
「人間の良いところを一つだけ挙げるとしたら、この狭さだぜ。穴としては最高だ」
「だな!」
腰を引き寄せて乱暴な挿入を繰り返していた。自分本位の行為は人間を玩具としか見ていない証拠で、ギエンの反応は彼らにとってみれば、どうでもいいものであった。
犯され続けて数分後、男が果てる。人間とは異なり獣人族のモノはとにかく量が多い。それが彼らの男としての誇りでもあり、同族間では一種の競いポイントでもあった。
中に大量の欲望を吐き出して、敗者に最大限の屈辱を与える。
震える背中を見て満足そうに引き抜けば、狭いそこには収まり切れない液体が零れ、滴り落ちていった。淫猥なその光景は見る者の欲望に火を付け、
「早く替われ」
別の男が入れ替わった。
「ッ…、ぅ…」
ギエンはただひたすら地面を睨みつけ、男たちの横暴な行為に耐えていた。
殴られた影響もありぐらつく頭に、怪我の痛みも酷く、内臓を抉るような異物感に吐き気を催していた。頭を地面に抑えつけられ両手は背中に、そして腰をあげるような体勢も辛く、いつになったら終わるのかも知れぬこの行為に、精神はめげそうにもなっていたが、鋭く刺すような痛みが頭を覚醒させ、何とか気力を保つ。

二人目が中に入る頃には後ろはすっかりと拡がっていて、男が出した精液で何の抵抗も無い状態であった。
一人が酒瓶を片手に、ギエンの髪の毛を引っ張って顔を上げさせる。
瓶ごと傾け強制的に飲み込ませ、咽るのを見て頬を叩いた。
「勿体ねぇなぁ。てめぇはただの玩具に過ぎねぇんだよ。大人しくしろ」
強く睨むギエンに更に酒を飲ませ、弱々しくなった所で、
「う…ッ、…ン、ぐぅ…!」
自身のモノを口内へとねじ込んだ。
顎に力も入らず、出来ることは睨むだけのギエンを見て、男が野蛮な笑みを浮かべる。
「族長ー!これ、俺のモノにしていいですか?」
その馬鹿な発言に周囲から笑い声が起こり、勝手にしろとザゼルの代わりに誰かが答えた。
「人間の希望とやらも、こうなっちまえば無残なもんだな」
事実、彼らにしてみればギエンの存在はただの鬱憤のはけ口でしかない。ギエンが粘れば粘るほど時間は長引き、加虐心に火を付ける。
獣人族にとって人間は同族の仇だ。ギエンがどれほど優れていようと、仮に人格者であろうとそれは関係の無い話であった。根底にあるのは仲間を殺された恨みであり、如何に彼を苦しめ辱め、そして殺すか、それだけだ。

身体を前後に揺さぶられ、呼吸すら満足にできない激しい行為の中で、酒の力もあってか意識が朦朧とし始めていた。
「おら、飲め」
口内一杯に広がる独特の味に嫌悪で表情を歪めるも両手で顔をがっちりと掴まれれば吐き出すこともできず、
「ふッ、…、っぅ…ぐッ、…」
喉へと注がれるモノを飲み込むことしかできなくなっていた。
まるで喉が乾いた時のように、ごくごくと長く続くモノを飲み下し腹が満たされていく。男のモノで満たされるその気持ち悪さは尋常ではなく、満足したように男が口内から引き抜くと同時に、
「うえっぁ、…っ、えッ…!」
激しくえずいていた。

視界の端には、下劣な表情で歪んだ笑いを浮かべるかつての仲間たちがいる。全身を舐め回すようにまとわりつく視線は、今まで感じたことが無い類のおぞましさで、その気持ち悪さに総毛立つ。

彼らの裏切りに対して、既に失望も疑問もない。

自分の甘さが、招いたことだと自覚していた。
襲われたのは二手に別れた後のことで、他の皆は無事なのかともう一グループの安否を頭の片隅で気にする。
自分自身ですら、今日生き残ることが出来るのか分からなかったが、少なくとも傷の手当をされたということは当面は生かすつもりなのだろうと悟っていた。

今は何があろうと耐える時だ。
ぐっと眉間に力を入れて、荒い呼吸を整えるように苦しい息を何度も繰り返す。
「は、…っぁ、はぁ」
視界がぐるりと回り、酒が全身を駆け巡っていた。
激しい痛みが薄れ、苦しさだけが身体を支配する。

既に何がどうなっているのかも分からなくなっていた。


「…下手くそどもめ。見てられんな」
唐突に、ザゼルが席を立つ。
「兄貴?」
呼び掛けるルギルには答えずに、羽織っていた上掛けをばさりと落として朦朧とするギエンの元へと歩み寄って行った。
族長の登場に、彼らがざわめき立って動きを止める。何事かと視線を寄越す彼らに対し、
「それでは余興にもならん。よく見ておけ、男を堕とすにはどうすべきかを」
朦朧とするギエンの喉元に背後から手を掛け、上体を起こしながらそう告げた。
仰け反る胸元に触れ、ピンク色に色づくモノを弄ぶ。
自身のモノを立たせた後、
「っ…、う…」
眉間に皺を寄せていたギエンが僅かに呻いたのを合図とするように、
「ん…ッ…?」
ゆっくりと挿入した。それは今までの乱暴なやり方とは違い、身体の内側から愛撫されているような小刻みの焦らしで、唐突に男が触れる手を意識する。彼が動く度、経験したことのないようなじんわりとした痺れに襲われて、
「ッぁ、…ぃ…っ、や、めろッ!」
ギエンが今までに無い反応を返していた。
「ここが好きか?」
耳元でザゼルが囁く。
その冷えた美声はやけに股間を直撃するもので、先ほどまでは全く反応していなかったモノが今ではすっかりとその気になって、はしたない姿を晒していた。
「や、…ぁ、…ッ、離、せ…ッ!」
「殺す予定だった男に犯されて善がる気分はどうだ?」
ギエンの耳朶に唇を付けて静かにそう訊ねた男は、良し悪しで言ったら相当、歪んだ性格の持ち主であろう。
「!く、そが…ッ…、っぅンぁ…、ァ…ッ」
今すぐにでもイきたいと主張する前を触れもせず、執拗に後ろを責め立てられて、
「いッ、ン…ぅ、…イき、た…」
初めての快感に混乱を極め、涙目になっていた。

殺意すら籠っていた眼差しも今やドロドロに溶かされ、美しい蒼瞳は甘い淫らさを宿すだけで、ザゼルが動く度に唇からは抑えられない喘ぎが洩れる。

先ほどまで馬鹿みたいに騒がしかった場は、静まり返っていた。
淫蕩さは一気に膨れ上がり、二人の絡み合いに誰もが目を奪われる。強気な目で獣のように睨むだけであったギエンの、甘く爛れた表情は酷く劣情を刺激するもので、冷やかししかなかった獣人族がそわそわとし始めていた。


結局、ザゼルの執拗な攻めから解放されるのはそれから20分も後で、乱されまくった挙句に後ろでイかされていた。女性としか経験の無いギエンにとってそれは未知の快楽で、男に強制的にイかされた屈辱を遥かに上回る圧倒的な快感に頭は馬鹿になっていた。
「入れてやれ」
唇を押し開く指に抵抗も出来ず、瞳は惚けたまま熱い舌がザゼルの指を濡らす。
淫らな表情で目の前に立つ男を誘い、
「んぅ…、ぁ…」
目の前に差し出されたモノを簡単に受け入れていた。蕩けた蒼い瞳が男を尚更、興奮状態にさせる。
「あー…、口ン中、すっげぇ熱い…」
「よく分かったか。この手の男は、痛みでは屈しない」
ギエンの中ではイかず、いきり立ったままのモノを脱ぎ捨てた上掛けで隠しながら、感心する彼らに言った。
「さすがは族長…」
ザゼルは彼らの中でも特に立派な体躯の持ち主で、知力や腕力だけでなく精力も並々ならぬことを仲間の誰もが知っていた。
人間は勿論のこと同族の女性ですらザゼルと寝ると駄目になる。その強烈なテクニックの前では、誰もがメスに成り下がり、廃人と化してしまう。彼との子を孕みたがる女性は多くいて、弟の存在が無ければ、常に女が群がっていただろう。
まさに群れを率いるリーダーに相応しい存在で、圧倒的な雄臭さを持っていた。

「気絶するまでヤれ。自分の立場が嫌というほど分かるように獣人族の匂いを染み付けろ。ただし、ヤり過ぎて殺すな。これから嫌というほど絶望を味わせるためにもな」
性行為の後とは思えないほど冷めた声音で告げて、
「俺はもう抜けるが、お前はあいつらがやり過ぎないように見張っておけ」
ルギルの元へと戻ってくるなりそう指示をして、出ていった。

恐らく抜くためだろうと推測するルギルだ。兄は決して中出ししないことを知っていた。それは同族であれば高確率で妊娠することが明白であり、無用な争いを避けるためだ。そして相手が人間の時は、同じ土俵に立ちたくないからだ。
今日みたいに参加すること自体が珍しいが、いつもと変わらない兄だ。ギエンをあのまま痛ぶったところで、彼のプライドをへし折ることはできなかっただろう。
「…」
異様な熱気に満たされた中、乱れに乱れて同族と交わるギエンを見つめる。
酒を煽りながら、この言いようのない感情はなんだと自問して、明日のギエンがどうなっているのか、そればかりがやけに頭をチラついていた。
「っち…」
歳が近いせいかと考えを否定して、誤魔化すように酒を飲み干すのであった。


2023.02.25
更新遅くなってすみませぬ…花粉で先週ちょっとやられてました…目が、目が開かん…みたいな??(笑)

今回、ギエンのトラウマの一夜を抜粋…(*´꒳`*)抜粋?(笑)
ちなみに、私の小説は風紀乱れまくりが常ですが(笑)、ファンタジーなので見えないシールドがありセーフティです(;'∀')エ?

さてさて、ザゼルはドSのド鬼畜だと思います(^ω^*)💛ギエンは初めて+この頃はまだ20代なので初々しさがあり、ザゼルのテクにはイチコロです(*^-^*)ウワァン💛ギエンが可哀そうで可愛い(*´꒳`*)スマン。

ジラクの方でもコメント、ありがとうございます!!気に入ってくれて凄く嬉しいです(*'-'*)!お礼のコメントが遅くなってしまって本当すみません…(-_-;)!!!まだまだあちらは序盤なので、付き合って下さると嬉しいです〜💛
というか…世界〜の方で返事を書いた方がいいのか迷う所…💦

応援する!
    


 *** 5 ***

<本編読後推奨*流血注意〜白夜にて>


ギエンがザゼルと恋人同士になってから、族内の派閥争いは強くなっていた。
兄を熱狂的に信奉する者は多いが、反面、人間如きを特別扱いするのがどうしても許せない層はいて、ただザゼルの圧倒的な支配力の前ではそんな不満も押し殺して従うしかなかった。

今までも散々、ギエンが他の仲間に抱かれる所を見てきたこともあり、今更、ギエンが誰と寝ようが特別な感情は湧かないが、それが実の兄とあっては心情はだいぶ変わってくる。
なぜ兄なんだという想いと、兄ほどの男なら当然だという想いがせめぎ合い、愛情も憎しみに変わるというもので、兄に対する苛立ちと、人間風情がという八つ当たりがない交ぜになっていた。

年月が経つにつれ、ルギルの力も増していくと共に反発に同調した仲間たちも集まっていく。
そんな中でも相変わらず、兄とギエンはまるで昔からペアであったかのように恋仲で、どうせザゼルの一時的な遊びだろうと楽観視していた仲間も、さすがに彼の本気を目の当たりにしていた。
とはいえ、その事実を素直に受け入れる仲間もいた。
ギエンは今まで見てきた人間の中でも抜群に力強く、不屈の精神の持ち主だ。そして過酷な待遇の中でも長く生き残ってきた彼の根性は獣人族の認識を変えさせるに十分で、彼なら仕方ない、あるいは仲間として受け入れようという意識の者たちもいた。
ただ、ザゼルを熱烈に崇拝していた層や、ギエンに複雑な感情を抱く者の多くは反発し、腑抜けた二人と称していた。
それでも目に見えて敵対行動に出る訳でもなく、不満は募れど族長であるザゼルには従順に従っていた。


そんなある日のことだ。
夜も遅く、深々とした時間帯に、ルギルの元に壮年の男が駆けこんできた。
長年、ルギルに仕えるその男は獣人族の中でも低い位にあり、狩りでも能なし、器量もなく、当然、女にもモテない。何をさせても駄目で、精々雑用をさせておくのに丁度いいような不出来な男であったが、あちこちの獣人族にたらい回しにされる彼を気の毒に思ったルギルが、体の良い小間使いとして利用していた。
拾われた恩なのか、ルギルに絶対の忠誠を誓っており、常に周囲を纏わりつき、身辺の世話をしていた。
彼は当然のこと、ルギルが兄のザゼルに反発していることを知っていて、そして。
獣人族の絶対の掟もよく知っていた。

血塗れのナイフを片手に、貴方様の為にやり遂げましたと自信満々にルギルの袖を引きながら目を輝かせる。
寝ていた所を起こされ、一体、何のことなのかとぼんやりした頭で彼の後を付いていけば、大粒の雪が降りしきる中、
「…!」
この世の全てを呪いたくなるような光景が待ち受けていた。


雪の白さが反射して、深夜にも関わらず景色は明るく、空から降り続ける雪が視界を染める。
白い大地の上で、まるで眠るように兄が横たわっていた。
胸元は赤く血で汚れ、流れ出た血の温かさに周囲の雪が溶ける。

何の悪夢かと、どんなに思っても、それは覚めることの無い夢で、
「…」
呆然としたまま彼の傍でしゃがみ込み、血で染まる胸元に震える手を伸ばした。
触れた肌はまだ温もりがあり、そして、僅かな期待に反し、口元に当てた手には冷たい外気が通り抜けていった。
「…どうやった?」
奇襲を受けようと兄がこんな男に殺される訳がない。
「人間が傍にいたでしょう?我々には猛毒だとも知らず、馬鹿な男だ。あの男を使えば簡単に殺せると、どうして誰も気が付かなかったんでしょう。だから人間を身の内に入れるのは危険なんですよ。ザゼルもあんな男に誑し込まれるなんて、貴方様の足元にも及ばないですね」
まるで凄い閃きかのようにまくし立て、両手でザゼルの血が付いたナイフを差し出す。
「どうぞ。貴方様の成果です。私は貴方様の為なら何でもします」

族長を殺した者は次期族長となる。

それが獣人族の絶対の掟で、力が何よりも彼らの指標だ。
策略だろうが何だろうが、殺されるような族長は群れの長にあらず。
ましてや、人間を恋人にするような獣人族は要らないだろう。

「…なら死ね」
ルギルには一切の躊躇いも無かった。
言葉を返す時間すら与えず、差し出されたナイフで男の首を搔っ切る。
驚愕の表情で声も無く血を吹き出し、あっという間に絶命した。血を浴びたことすらルギルの眼中には無く、兄の元に座り込む。

燦々と降り続ける雪が兄の身体に積り、静かな時間が続く。
白い雪で埋もれていく身体はどんなに待ったところでピクリとも動かず、雪を払う手に冷たい体が触れた。
そのことに強い絶望感を覚え、低い唸り声をあげる。握り締めた拳は血に塗れ、激しい怒りで全身を大きく震わせた。


彼を見たとき。
ギエンはどう思うだろう。


反発している時ですら兄は兄のままで、いつもの無表情には自分への慈愛が籠っていた。
二度と。
起き上がることのない兄をしばらく見つめたあと、唐突に立ち上がり、
「…っ」
自身の剣を引き抜く。

そうして。
何のためらいもなく、
「ッ…!」
胸元目掛け、強い力で深く刃を突き刺した。
全身が激しく震え、苦悶の声を洩らす。
かじかんだ指先は上手く開くことが出来ず、握り締めた柄から中々外せずにいた。


こんなことが仲間に知られたら、兄の名誉がボロボロになるだろう。
兄を殺したのは、自分だ。
他の誰でもない。
足元に転がる卑怯な男でもなく、自分だと決意する。


強く、強く、何度も念じるルギルに涙は無く、
「…ギエン」
激しい痛みを宿した瞳で、小さく彼の名前を呟くのであった。


2023.07.08
「続編もとむー」コメントに応えた結果、過去編となりました(笑)
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