【番外】

 ***1***

当初、オール家が養子を取ったことは、大した話題にもならなかった。
それが僅か5年後には将来を有望視される存在になり、他の貴族たちも彼の存在を注視するようになっていた。

ハバードとギエンが出会ったのは、王立訓練校に入った直後のことだが、出会う前から互いに相手の名は知っていた。
ギエンが注目されるようになったのと同様に、ハバードも幼少期から注目されていた一人で、それは古くから王族の身近な存在として君臨するハン家の長男としての立ち位置にもあった。
幼い頃からの武術訓練に加え、厳しい礼儀作法は、10の頃には既に身に沁みついており、彼の立ち振る舞いは同じ年頃の少年たちとは群を抜いて成熟しており、同世代の中では異質な存在でもあった。
王立訓練校入学式での代表挨拶では、堂々たるもので大人顔負けの流暢な挨拶を述べ、教師や教官からも大きな賛辞が寄せられていた。
同年代の訓練生たちにとって憧れの的になるのも当然の成り行きであった。

一方、同時期に幼少特殊学校で既に魔術と剣術の才能を顕出していたギエンは、特別枠として入学挨拶を任されており、礼儀作法を幼少期からみっちりと教え込まれたハバードと比較すると、緩い挨拶ではあった。
それでも、彼の鮮やかな蒼い瞳は希望に溢れ、ハバードの次というプレッシャーにも関わらず、真っすぐな忠誠心と王国への惜しみない貢献を約束する姿は、それはそれは輝かしいものであった。

その清々しさは養子という彼の欠点を補うに十分なもので、これもまたハバード同様に大きな賛辞を送られていた。
同年代の中には、貴族とはいえ養子であるギエンを疎ましく思う者や、妬みを抱く者もいたが、ハバードと同じように同世代にも一目置かれる存在になったのは間違いない。

同時期に入学した二人は、立場は違えど同世代の中で飛び抜けて優秀な二人であり、意識せずとも互いを意識せざるを得ない環境になっていた。
同じ授業を受けることもあれば、得意分野の違いから別々の授業の時もあったが、基本訓練は一緒に受けることも多く、1日の中で顔を合わさない日は無かった。

同世代の中で仲のいい者同士のグループが出来始め、1年、2年が過ぎる頃にはそれぞれの派閥が出来上がっていた。
本人たちがどんなに気にしないようにしても彼らの周りが放ってはおかず、ハバードが武術で褒められれば彼の派閥が勢いづき、逆にギエンが剣術で褒められれば彼の派閥が勢いを増す。両者の力関係は常に均衡状態で、押して押されての関係だった。
実際、ハバードがギエンを疎ましく思っていたのは確かだ。目の上のタンコブとでも言うべきか、常に幼少の頃から頂点にいた彼は、学問にしろ戦闘技術にしろ、肩を並べる存在というものは鼻に付く存在であった。
そんな状況もあって、比較的早い段階からギエンとは、事あるごとに衝突していた。
そのハバードの対応に感化されたようにギエンも、ハバードを目の敵のように顔を見れば喧嘩する関係になっていた。

得意でない分野を得意とする相手が互いに気に食わない、そんな関係のまま4.5年は経ち、15歳になった頃、訓練校では一定の課題提出が求められていた。
その内の1つに、2人1組で何かを為し、それをレポート提出するという課題があった。内容としては、どんな環境でも最善を出せるかを図る目的で行われるものだったが、それは教官による強制的なペア決めで行われ、ペアとして呼ばれた2人の名前に訓練生たちがザワついたのは言うまでもない。

名を呼ばれた途端に手を挙げ異議を述べるのはハバードだけでなく、ギエンもだった。
「こいつが嫌いなので嫌です」
ハバードの言葉に、ギエンが同意の言葉を被せるのを、教官が一刀両断する。
「君たちは戦場でも同じことをいうつもりか?嫌いな人間がいるから一緒には戦えないなど言っていたら、何一つ勝利を収めることは出来ない」
「今は戦場じゃありません。課題です」
それでも食ってかかるギエンの言葉に、
「敢えて苦手、嫌いな者同士のペアにしてある。君たちは一番仲が悪いから課題にピッタリじゃないか。頑張っていい結果を残しなさい」
そういう訓練だと言われれば反論も出来なくなって、押し黙るギエンに対し、
「私は家から訓練校に通っておりますので今回の課題は、」
「ハバード君。訓練校宿舎に泊まれば良かろう?寝泊まり含め共同生活をし、ペアを理解しなさい。意見の合わない同士で何を成すことが出来るかという課題なのだから、四の五の言わず二人で協力しなさい」
ハバードの反論もバッサリと否定されて終わった。
教室内がざわついたのは言うまでもない。その頃にはダエンも訓練校に入学していたが、心配そうにギエンに視線を送っていた。

不満そうな顔の2人が互いを見て、睨み合う。
それからすぐに視線を逸らせた。

翌日から早速、二人の共同生活が始まったが、初日から大喧嘩していた。喧嘩の理由は些細な事で、どっちがどこのベッドで寝るかという非常にどうでもいい内容だった。2時間ほど口論した後に、言い争うことに疲れたように近場にあったベッドに腰掛ける。
「っち!」
短い舌打ちをした後、一言も発する事なくベッドに潜り込むギエンに対し、ハバードは一瞥しただけだ。
それから本を開き、夜遅くまで読書をする。
それがまた翌日のクレームに繋がったのは言うまでもない。

その翌日には前日の仕返しのように朝早くから起き出したギエンが、騒音を立てる。
「お前、わざとかよ?」
朝の不機嫌丸出しでハバードが言う言葉を、視線を返すだけで無視するギエンだ。
溜息混じりにハバードが着替え、朝食を取りに部屋を出る。そのまま訓練の時間まで帰ってこないことなどザラで、二人の課題クリアは全く先が見えない状態だった。

そんな関係のまま1週間も過ぎると嫌でもお互いのリズムが分かってくるもので、相手の欠点だけでなく自分の欠点も見え、互いに反発しながらも少しずつ譲歩し始めていた。
雑なようで几帳面なハバードの一面や、意外に神経質なギエンの生活感など、今まで知りようも無かった相手の細かな性格まで見えてくると、見え方も少し変わってくるもので、生活面で衝突しつつも、それなりにちゃんとした共同生活を送っていた。
それと共に朝早いギエンに合わせるようにハバードの朝も早くなっていく。いつからかどっちが早起きするかの競争へと発展し、一つの遊びのようにもなっていた。

「…課題。どうするよ?」
口を利かない訳にもいかない。
偶々、食事の時間が重なった二人が食堂で顔を合わせたまま、重い沈黙を破って口を開く。
「期限まで2週間も無いな」
ギエンの問いにハバードが焦りも見せずに、視線を皿の中へと落とす。
「西の森に探索に行こう。魔獣をやっつけようぜ!」
「…阿保か。俺ら二人じゃ無謀に決まってる」
ギエンの提案を呆れた視線を送って断り、
「ちゃんと考えてるのか。許可も厳しいし、何の魔獣だよ。無計画で危ねぇ奴」
そんな言葉を放った。意外に慎重派であるのがハバードだ。
「はっ!相変わらずクソ面倒くせぇことを言ってやがる。だからお前は俺の下なんだよ」
鼻で笑うギエンの台詞に、ハバードが皿にフォークを突き立てて、
「俺の下なのはお前だ」
怒りを抑えるように言った。
「こないだの魔術訓練じゃ、随分と精神魔術を解くのに時間掛かってた癖によく言う。お前の成績はクラスじゃ4番目だろ」
「っ…!俺の成績は平均0.5秒で遅くねぇよ!お前が異常なだけじゃねぇかっ!」
「あんなもんに時間が掛かる方がおかしい。鍛錬が足らない証拠だ」
「ハバード!」
「怒鳴んな。とにかく西の森は駄目だ。リスクがでかすぎる」
冷静な声でそう判断するハバードに、ギエンが呆れたようにそっぽを向く。
しばらく黙々と食事を進めた後、
「夜までに考えとけよ、課題。俺は案を出したからな」
吐き捨てるように言って席を立てば、ハバードが呼び止めた。
「西の森じゃなく、北の泉にしよう。あそこなら狩場がある」
「…ピクニックでもする気かよ?」
ギエンの言葉に、
「俺はお前と違って不必要なリスクは侵さない。一緒に獣を狩って課題は終わり。それで十分だろ」
特に関心もなく答えた。
「…」
訓練校の課題は、多くの生徒にとって重要な意味を持つ。それによって教官から今までの総合評価が下される訳で、今後の将来を左右する一つの大きな区切りでもあった。それを適当に済ませるかのようなハバードの言葉に、
「さすがはハン家の嫡子。いいご身分だよな」
そう揶揄った。
「…考えなしのお前よりマシだ。西の森で、お前と協力し合って魔獣を倒せる自信も無いしな」
ギエンの嫌味を軽く流して、空になった食器をトレーの上で整頓していく。

ハバードの言葉にも、一定の説得力はあった。

ギエンとハバードは決して仲がいいとは言えない。
互いのことを把握してはいても、いざ魔獣を前にした時に共闘して呼吸が合うかは別物だ。

「…俺はお前と違って、剣一つで制圧できる自信があるけどな。だからハバードがいようがいなかろうが関係ねぇよ。
まぁ…、お前が乗る気じゃねぇならいいや。北の泉にしようぜ。それでちゃっちゃと終わらせてこの面倒な課題も終わりな」
横目にハバードを見て、返答も待たずにギエンが背を向ける。対するハバードもギエンを一瞥しただけで、特に反論もしなかった。


その3日後、二人は北の泉へと来ていた。
北の泉はハバードが言うように一般向けに公開された狩場があり、魔獣は基本的に出没しないエリアだ。何種類かの泉が点在する森は観光名所にもなっていて安全なエリアであった。

舗装された細い道を黙々と進み、狩場とされる開けた場所へと辿り着く。
自然豊かな所は、それはそれで気持ちが安らぐもので、
「さっさと終わらせて帰ろうぜ」
澄んだ空気を鼻一杯に吸い込んだギエンが、傍らでストレッチをするハバードに言った。
「うさぎで十分だな」
同意するようにハバードが答え、二人で散策を始めた。

簡単に終わるだろうと思っていた二人だったが、歩けど歩けど獣は出てこない。本当に狩場かと疑うほど、うさぎ一匹見つけられず、歩き始めて2時間程は経過していた。
「…もしかして時期間違えてねぇ?」
ギエンの言葉に、
「そんな訳ないだろ?」
否定しながらも、
「こんなことなら鳥にすれば良かったな。今からでも鳥に変更するか」
ハバードが言うと同時に、肩に背負った弓を木の上に向けた。
「…俺は剣しか持ってきてない」
ギエンの言葉を鼻で笑って、
「よくよく考えたらお前、うさぎも剣で狩るつもりか?投剣でもするのか?」
小馬鹿にした視線を寄越す。
「ほんと、お前はむかつく奴だよな!いちいちうぜぇ!」
文句を言ってハバードの肩を力強くどつく。

その拍子に、
「あっ!」
草の影からようやく待望の茶うさぎの集団が飛び出した。
目を輝かせて追いかけるギエンだ。慌ててその後を追うハバードだったが、弓を持っていたこともあり僅かに遅れを取る。
右へ左へと蛇行しながら素早く駆け抜けて行くうさぎを追うギエンは夢中で、
「ギエン!深追いするな!」
ハバードの忠告もお構いなしに、
「今、やらなきゃ終わんねぇよ!」
走りながら大声で答える。
そのまま狩場の範囲を示すロープを飛び越え、更に森の奥へと入っていった。
「っ…、の、馬鹿…」
追いかけるハバードも勢いのまま、張られたロープの向こう側へと向かう。途中、途中で木に目印を付けて追い駆けていった。

二人が狩場から更に奥へと入って行った僅か数分後には、森全体が深くなり鬱蒼としていった。腰丈程の雑草が増え行く手を阻む。うさぎが瞬く間に生い茂る草花の中へと身を潜め、あっという間に姿が見えなくなった。
「あぁ、くそ!」
飛び出た木の枝に服を引っ掛け、ようやく足を止めるギエンだ。
荒く息を付きながら、遅れてやってきたハバードを見て、
「…逃がした。…っていうか、どこだ、ここ」
きょろきょろと辺りを見回した。
「お前、…」
文句を言おうとしたハバードが諦めたように溜息を吐く。それから同じように来た道を振り返って、深い森に覆われた空を見上げた。
「来た道を戻るしかない。途中で矢を射ったから辿っていける筈だ」
日暮れを気にしながら歩き出すハバードを見て、素直に謝罪するギエンだ。
「何かあってもハン家が探しに来る。北の泉に行くと言ってあるしな」
そう言って、
「…」
ふと顔を上げて耳を澄ませた。
ハバードの行動にギエンが足を止め、周囲を窺う。
「…ツイてない」
げんなりしたハバードの言葉に、
「ツイてるって言えよ!課題がクリアできるじゃん!」
ギエンが素早い動作で剣を引き抜く、それと同時に木の陰から獣が飛び出し二人目掛けて突進してくる。どっしりとした図体に、細い手足の四足獣だ。唸り声を上げ、二本の鋭い角を突き上げるように襲い掛かった。
先頭の一頭を避け、ギエンが背中に刃を突き立てる。そのまま、捌くように逆手に引いて、鳴き声をあげる獣の息の音を素早く止めた。殺気立つ獣たちが逃げるかと思いきや、それが合図のように、周囲から一斉に十頭以上の獣たちが飛び掛かっていった。
「っ…お前といると碌な目に遭わない!」
ハバードが踵で獣の角を弾き、横っ面に手の平で突きを繰り出す。
狩りをしに来ているハバードだ。装備は身軽で、剣を持つギエンとは違い武器は生身の身体一つだ。それでも、彼の放つ一撃は鋼の一打に等しく、一体一体と確実に倒していった。

ハバードにとってもギエンにとっても、長い雑草が生い茂るこの環境は足元を取られ戦いにくい状況であることには変わりない。それでも二人は怯むこともなく、突然の強襲に慌てることなく対応していた。

一体、一体と地面に倒れ伏すのを見ていた一際大きな個体が、そのことに腹を立てたように地面を右足で引っ掻き、荒々しく鼻を鳴らす。そのまま別の一体を相手にしていたハバードの背中目掛け、物凄い勢いで突進していった。
「ッ…!」
それにいち早く気が付いたのはギエンだ。

その後の行動は目にも止まらぬ速さで、一瞬で魔術陣を出したギエンが自分の目の前にいる獣を物凄い剣技で切り刻む。そのまま一気に距離を縮め、ハバードの背中にぶち当たった。
激しい衝撃で振り返るハバードの目に、獣の巨体を剣で抑え込むギエンが映る。大きな角が剣とぶつかり合いガチガチと激しい音を立て、火花が散っていた。
「っぐ…っ!硬ってぇ…!」
互いの力が拮抗し、獣が荒々しく唸ってギエンを押し退けようと地面を力強く引っ掻く。
ギエンが魔術陣を出そうとし、獣の雄叫びに妨害された。
「っち…!」
鼓膜を揺さぶる激しい音に集中が途切れ、後ろへと引き摺られるように押される。生い茂る雑草に足を取られ、踏み堪えることが出来ずにいるギエンだ。
角を突き立てようとする獣を剣で抑え込むのに精一杯で、
「ン…ッ!…ぅ…!」
歯を食いしばって両手で剣を押し返すしか出来ずにいた。そのまま獣の勢いに押され、
「っ…!」
大きな角がギエンを薙ぎ払った。

地面に片膝を付いたギエン目掛け、巨体が踏み潰そうと上体を持ち上げる、そのがら空きの腹部目掛けてハバードの鋭い蹴りが炸裂した。横から襲い来る別の一体を拳の連打で仕留め、振り向きざま、よろける巨体の背骨に渾身の踵落としを繰り出していた。
金属音の鈍い音が響くと共に大きな雄叫びが上がり、獣が頭を振る。ふらつく所へ容赦せず追撃し、巨体を打ち倒す。

ようやく大人しくなった獣を見て、
「…、ったく…碌な目に合わない」
肩で息をしながらハバードが呟いた。
安堵したように剣を地面に突き刺し、大きく息を吐くギエンを振り返り、
「大丈夫か?」
手を差し出して起こす。
「あぁ。助かった」
ハバードの手をがっしりと握り返すギエンだ。

予想以上に。いや、想像すら出来なかったほどに、互いの息が合うことに驚いていた。そして、戦闘における考え方すらも同じだ。

思わず、お互いに見つめ合う。
それからハッとして、
「これで貸し借りなしだからな!」
つっけんどんに言ったギエンの言葉に、
「当然だ」
ハバードが同じように素っ気なく言って、手を振り払う二人だ。

倒れ伏したまま大人しくなる獣たちを見回して、しばらく無言で立ち尽くす。
ほとんどが気絶しただけの個体だ。
無闇な殺生は狩りの本質ではない。一つ、ギエンが本気を出して切り刻んでしまった個体もあるが、多くは目が覚めたらそのまま自然に帰るだろう。

「燃やすか…」
動かなくなった個体を見つめていたギエンが小さく呟くと同時に、小さな陣が浮かび上がり獣の体に火が付く。
蒼い瞳に赤い色が映り込み、それがやけに情緒的でハバードの視線を奪った。

今まで、いがみ合っていただけのギエンに対して、自分を高めるためにいる目標のようなものだと思う。不思議と穏やかな気持ちでギエンを好敵手と認める。

僅かな時間、ギエンの横顔を見つめていたハバードだったが、突然の突風に意識を呼び戻され、周囲を見回した。
「また変なのに襲われる前に狩場に戻ろう」
草の根をかき分けるようにしてハバードが踵を返す。
それに頷き、黙々と歩き進めた。
前を行くハバードの後ろ姿を何となく眺めてしまうギエンだ。


今までお互いに相手の技量を認めながらも、どこか気に食わない存在だと思っていた。その感情が僅かに変化する。
ギエンにとってのハバードが、ハバードにとってのギエンが。
心の奥深くで互いのことを本当の意味で認め合った瞬間でもあった。


2021.11.27
祝い☆彡300拍手☆彡
ワ━ヽ(*´Д`*)ノ━ィ!!!!ありがとございます( ^)o(^ )ホクホク〜(笑)
宣言通り記念番外編ということで(笑)。全然甘くないけど(笑)。本篇より甘くない気がするけど…(笑)

ちなみに私のサイトで一番拍手数が多いのは「ふたつの黒」で600くらいです('ω')笑!良かったら読んでね(笑)
まぁだいぶ前に書いた小説なので、色々稚拙な部分もありますが(笑)、まぁそれを言ったら今も同じカナ…( *´艸`)笑!

いつも訪問・拍手ありがとうございます〜‼m(_ _"m)感謝★

応援する!
    


 *** 2022 ***


「…くそ。軽々しく了承するんじゃなかったぜ」
ギエンが鏡の前で悪態を付くのを、ミガッドがソファに座ったまま笑って見つめていた。
「今年の仮装大会の優勝者は凄い美人でよく似合ってたから勢いで買っちゃったんだ。今度、王都で仮装行進するって聞いたからギエンも見に行こう!」
「…だからって何で俺が…」
「ギエンに折角買ってきたのに、少しくらい着てくれたっていいじゃん」
むくれた目でそう言われると、断り切れなくなるギエンだ。

鏡の前でヘアバンドの位置を指で調整しながら溜息を付くギエンの頭には、白と黒の虎柄の耳が付いていた。ミガッドに強要されているのは、白虎の仮装衣装だ。ふわふわの丸い耳は、ギエンの深い藍色の髪と喧嘩することなく不思議とよく馴染み、まるで本当に耳が付いているように見えていた。

ギエンが指で耳の位置を直した後、虎模様の尾が付いたズボンを履く。
「仮装も大変だな…。女子はどうやってこれを固定するんだ」
垂れ下がる柔らかな尾を手で撫でながらぼやいたギエンに、ミガッドが歩み寄って背中側から前へと手を回す。ベルトの金具を一度緩め、再度、
「っ…」
一段階きつく、ベルトを巻きつける。
「このくらいやらないと、腰骨から落ちちゃうよ」
「…そうは、言うが…」
ベルトを締め付けられた勢いで鏡に片手をつき、苦しい息を吐くギエンだ。もう片方の手を腰に置いたその姿勢は無駄に性的で、虎の耳と尻尾が余計に可愛らしく、ミガッドに邪な想いを抱かせる。
「…」
思わず鏡に映るギエンの顔をまじまじと見つめてしまう。
鏡越しにその視線に気が付いたギエンの目が鋭くなり、
「しばらくはお前の玩具になってやるが、来年は絶対やらねぇからな」
威嚇するようにそう宣言していた。
その姿すら可愛く見えるのだから、末期症状だろう。

気恥ずかしそうにするギエンに止めを刺すかのように、虎の手足を渡す。
「っ…ミガッド!」
可愛らしい爪が付いた手足は、ぬいぐるみのようにもこもこで女子が好みそうな一品だ。ギエンが眦を吊り上げるのも無理はない。
「いいじゃん、折角、仮装一式買ったんだから着てみてよ。俺、ギエンがこれを着るのを見たい」
目を輝かせて言うミガッドは、ある意味、甘え上手だ。ミガッドの好奇心に満ちた顔に、ギエンが呻いたのは僅かな時間で、
「っち。本当に今回だけだからな。二度と甘えんな」
舌打ちしながら、もふもふの手袋を右手に嵌めた。

それからすぐに左手にも嵌めようとして、自分の右手がもふもふ過ぎて嵌める事が出来ないことに気が付く。
「クソ…」
それでも諦めずに挑戦するギエンがあまりに可愛らしくて、ひっそりと笑いを零すミガッドだ。
「貸してみなよ」
苦戦するギエンの手から左手を奪って、嵌めてあげる。
足首まであるスリッパのような形状の虎の足を身に付ければ、すっかりと可愛らしい虎の子が出来上がっていた。

満足そうなミガッドに対し、ギエンは自分の姿を鏡で見ることすら拒む。
鏡に背を向けたまま、ミガッドと向き合い、そうして、
「うっ…!」
見つめるミガッドの視線を避けるように顔を背けて呻いた。
「もう金輪際やらねぇからな」
顔を隠すギエンの手はもふもふの虎の手で、頭には丸みを帯びた耳が付く。日頃のギエンの勇ましい雰囲気とはまるで正反対で、ミガッドの妙な部分を刺激した。
「…優勝者より、断然…」
思わず零れそうになった本音を慌てて飲み込めば、
「ん?」
聞き取れなかったギエンが首を傾げ、逸らせていた視線をミガッドと合わせた。

美しい蒼い瞳が白虎の仮装によく映え、ムラッとさせられる。
仮装大会で優勝した彼女の豊満で艶やかな肢体よりも、遥かに性的で欲情させられるのは何故だと自問していた。
それでいて、
「っふ。お前の方が絶対似合うぞ。次、ミガッドが着ろよ」
笑う顔は愛らしく、ポンと肩を叩くもふもふの感触に、思わずミガッドの手がギエンの胸元へと伸びていた。
「ミガッド?」
特にその行為を疑問と思わないのは男同士だからであって、鍛えられた胸筋に手を置いた所で拒絶されることはない。
ましてや息子としか見ていないミガッドからそんなことをされるとは思ってもいないギエンは、全くの無防備で、
「ッ…!」
服の上から乳首をなぞられ、ようやく反応した。
反射的にもこもこの柔らかな手がミガッドの肩を押しやる。
「いきなり、…何だ」
「何となく?触りたくなっただけ」
短く答えたミガッドの手は、止まるどころか更に大胆になっていた。
突然の行為の意味を理解出来ず、ギエンが思考停止に陥っている合間に、巧みな指が敏感な部分を更に弄ぶ。その度に小さく反応を返していた。
「ミガッ、…ドっ!」
服の上からでも分かるほど胸の突起が立ち上がる頃にようやく抵抗らしい抵抗を示し、もこもこの柔らかな手がミガッドの肩を押す。それも大した威力にならず、
「ぃ、…い加減に…ッ、…」
ミガッドの服の上で滑り、更に抱き込むような形になっていた。
「くっ、…!」
「はは!ギエンが必死で可愛い」
笑い声をあげるミガッドに、ギエンの耳元が羞恥で染まっていった。
首筋にミガッドの吐息が掛かり、妙な気にさせられるギエンだ。
「ふ…、っ、…、やめ…」
相手の服を掴もうとして、もこもこの手袋では掴むことも出来ず、むしろ誘うようにミガッドの背中を抱き寄せる結果になっていた。
「あんた、ホント無駄に俺を欲情させるよな」
ミガッドが笑いながら言った台詞を否定するように背中を叩けば、
「ぅ…、っ、ァ…」
シャツをたくしあげたミガッドの手が、背骨を下から上へと撫でていった。
その手を止める術もなく、指先が動く度にギエンがビクビクと身体を震わせて、身を反らす。
「これだけで感じちゃうなんて、ギエンの身体どうなってる訳?」
単純な好奇心だろうミガッドの台詞はギエンを酷く羞恥に陥らせ、その瞳には恥じらいが宿っていた。それが余計に欲情をそそり、嗜虐心を煽り立てる。
「悪ふざけは、よせっ…」
一際、声を張り上げて距離を保とうと一歩、後ろへ退く。ギエンの背中に鏡が当たり、
「っ…!俺らは親子だぞ!」
目前に迫るミガッドの体にギエンが珍しく焦り声を上げた。
それを鼻で笑うミガッドだ。
鏡に手を付き、更に身体を押し付け密着する。
「だから?そんなのどうでもいいじゃん」
「ッ…?!」
服の下で硬くなっている下半身を自覚させるように、密着した身体で刺激され、ギエンが息を飲んだ。
上から触れる手は優しく、その瞳は誰に似たのか、清楚な美貌に似合わず男の目で、
「分かっ、…た。脱ぐから、待て…」
ギエンが観念したように弱った声で、容認した。
「別に脱がなくても」
気にしないミガッドの台詞に、
「折角、お前に貰ったのに汚したくねぇだろ…」
あっさりとそう言ったギエンの言葉はミガッドの胸を熱くする。あれだけ着るのを嫌がっていた癖に、自分からの贈り物というだけで汚したくないのかと思うと、益々ギエンを愛おしく感じていた。

一方、潔く言ったギエンだったが、
「…」
ベルトを外そうと何度か挑戦した後に、自分の手では外せないことにようやく気が付いていた。
「っ…!」
観察するように見つめるミガッドの視線に耐えられなくなったかのように俯いて、
「…ミガッド」
懇願するように小さく呟く。
「…あんたのそれは、わざと?」
ミガッドの冷静な台詞に、美しい瞳が恥じらいで揺れる。
「…うるせぇな…」
小さく呟いた後、強気で睨むギエンの表情は羞恥を宿したままで、それが尚更、劣情を刺激するものだと気付かないのは本人だけだ。
「無自覚?それともそういう煽り?」
「何言って…、ッぁ」
文句の言葉も途中で途切れ、甘い吐息へと変わった。
ベルトを外すミガッドの指が意図的に触れながら、焦らすように脱がしていくのが、もどかしく感じる。
「お前、本当に、…っン、…誰に似たんだか…」
ミガッドの頬をもふもふの手で持ち上げて見つめるギエンの目には、こんな状況だというのに慈愛に満ちたもので、
「…」
その表情に勘違いしそうになるミガッドだ。
だが、こんなことがあっても、ギエンには大して響かずに終わるだろうことは分かっていた。
そう思うと自分がちっぽけな存在のような気がして、僅かな苛立ちと共に寂寥感を覚える。

「俺はギエンにとって、大事な存在?」
気になって訊ねれば、
「当たり前のことを、訊くな」
躊躇う事なく相槌を打つ。
欲情に濡れた淫らな顔で平然と答えたギエンに、様々な欲が混ざり合い、より一層酷くなるのを自覚する。
「ッ…、ン…」
小さく声を洩らす男の顔に、何故こうまで魅せられるのか、いくら考えたところで答えは出なかった。

猛烈にキスをしたくなって、それは違うと懸命に自制する。
そんな想いを知る由もないギエンが甘い声で、
「少しは、…俺を受け入れたって事だよな?」
そう囁いた。
驚くミガッドに笑みを返す男は、度を越えた無自覚っぷりで、
「ほんとに…、あんたは…」
呻くように諦めの呟きを零すしかない。
だが、これもギエンの魅力の一つだということを既に知っていた。
無関心を装いながら、それでも惹かれずにはいられない。


いつの日か。

ギエンにキスが出来る日が来ればいい。
そんな小さな願いを、胸に抱くのだった。


2022.01.01
新年祝〜!(^^)!いつも訪問・拍手ありがとうございますm(_ _"m)
ホント来てくれて嬉しいです💕
今年はトラらしいのでトラ絡みで番外をば(笑)。もう私は眠くて死にそうです…耐えた!
本編はしばしお待ちを(笑)

多分、ギエンは貰ったズボンは寝間着にするんじゃないかなぁ(笑)。尻尾付き。絶対可愛いヨ(笑)。
今回可愛い+天然を前面に出してみました!(^^)!ギエンは多分、どっちかというとステレオタイプで、男はこうであるべき、みたいな所あるんじゃないかなぁ。こういう恰好させられちゃうと照れちゃうのだ(笑)。んでまた、無駄に色気が増しちゃうと言うね('ω'*)オイシイ!💕

本当は、これ+ネコ科獣人族の短編を書く予定だったんですが、時間足りず断念しました(゚ω゚;A)
1月中にアップ出来そうなら短編であげておきます💕ネコ科大好物だから、寅年は美味いよね〜構想は出来てるんだけど、書いてる時間無かったら12年後にでも(笑)ハハハ☆彡

本編の方でコメントもありがとうございます(#^^#)本当に有難いです!美味しく頂けて何よりです💕
suiさん、またまたありがとうございますm(_ _"m)💕ロスとは今後どうなるのか、ちょっと色々考え中ではあります(笑)。乞うご期待…?(笑)拍手文も読んでくれてて本当に嬉しいです☆彡また新たに追加したらお知らせします!(#^^#)ウフ💕

あ。セインの方なんですが…、何気に結構前から出来てて、upしようと思えば出来る状態なんだけど、これ、本当にupして平気かなと悩んでズルズル今日です(笑)
そして、新年早々グロすぎるから、しばらく待とうかなーと思ったり。これBLじゃなくスプラッター小説では…って気がしてきてる(笑)。極力グロくならないように気を付けてはいるけど、18禁サイトだから大丈夫かな(;^ω^)??そんなでホント、苦手な人は見ないでね(笑)

応援する!
    


 *** 3 ***

何故そんな事態になっているのか、ロス自身よく分からずにいた。
気が付いた時にはギエンを寝台に押し倒し、両手首を抑えつける格好で上からギエンを見下ろしていた。
「っ…」
僅かに呻き声を洩らすギエンが、抗うように腕に力を籠める。
それが不発に終わる事を、ロスは知っていた。

ギエンの蒼く美しい瞳の奥に赤い光が走る。
精神魔術を掛けられたギエンが抗えずに、従うしかないことは分かり切っていた。

僕は何故こんな事を。

頭の中でそんな疑問が過る。
それから、シャツの肌蹴たギエンの格好を見下ろし、視姦するように彼の身体を見つめれば、
「…ッ…!」
触れてもいないのに、刺激されたように胸を反らせ身を捩る。
横を向くギエンの整った顔は、羞恥に染まり、赤い光を宿す瞳が余計にギエンを甘く魅せていた。

その表情に、妙な興奮をさせられる。

白いシャツの狭間から褐色の肌が覗き、膨らんだ胸筋や、鍛えられた腹筋が呼吸に合わせ揺れ動く。女性のような柔らかで、丸みの帯びた身体ではない。
どこからどう見ても男の筋肉質な身体であるのに、何故か無性に触れたくなる。

僕がギエンに抱く想いはもっと清く、純粋なモノの筈だと頭の中で思いながら、その衝動に抗えず、引き締まった腹筋から、上へと手を滑らせれば、
「っ…、ぁ…」
ビクビクと身体を震わせて、それに答えた。
「にゃ…めろ…」
舌足らずな声で拒絶するギエンの言葉が、何故か猫語で不思議になる。
「ふざ、けん、…にゃ!」

あぁ、そうかと思い出す。
ギエンが猫語になる精神魔術を掛けたのだと思い出していた。
何故、そんなことをしたのかは思い出せない。

清い思い出を穢された腹いせか。

「にゃ、ァ…」
甘い声に、甘い言葉で、にゃぁにゃぁ言うギエンに、益々邪な感情が膨れ上がり、シャツの下から主張する胸の突起に触れれば、更に甘く応じた。

自分の語尾を恥じて目元を染めるギエンに惑わされ、誘われるまま、彼の服を脱がしていった。

「ロ、ス」
名を呼ばれ、
「ニャー!」
耳元で鳴く大きな猫の声にハッとする。


唐突に意識が覚醒し、
「!」
耳をざらついた舌が舐めていた。
「ニャー」
「ニャァ」
二匹の猫が寝台で寝入るロスの枕元に纏わりつく。

白色で長毛種の凛とした美しい猫と、闇夜を思わせる漆黒の短毛種の猫がロスの回りでにゃーにゃーと鳴き声を立てていた。
「…」
頭がまだ覚め切っていない。
ぼんやりと白い天井を見つめ、そういえば仕事から戻って来てそのまま疲れて寝てしまったんだったと思い出す。
それから、たった今起こった出来事が夢だと知るや否や、激しく落ち込んでいた。
「何という夢…」
「ニャー」
餌を寄越せと尻尾を振る白猫を呆然と撫でる。

「…」
ロスの顔を覗き込む黒猫の蒼い瞳が、たった今、夢で見たギエンのモノと重なり、
「酷い夢だ…」
唖然としたまま呟いた。

「ギエン殿との思い出は清く純粋なモノだ。君達のせいで、とんでもない夢になった」
「ニャァ」
褒めていないのに、嬉しそうに鳴く猫は何も分かっていない。
その甘い鳴き声に、
「っ…」
夢の中のギエンがダブって、身体が誤作動を起こしていた。

ギエンの欲に濡れた表情を。
甘く蕩けた顔を猛烈に見たくなって、いやいやいや、と慌てて否定する。

「悪夢だ」
黒猫を抱き寄せ寝台から下ろしながら、げんなりと呟くのだった。


2022.02.22
滅多にないニャンニャンの日(220222)ฅ(=・ω・=)ฅニャー!
スミマセン。調子に乗って遊んでます(,,ΦωΦ,,)笑。
拍手も沢山ありがとうございます(笑)。私のお遊びにも付き合って下さると嬉しいですฅ^>ω<^ฅニャ💕

応援する!
    


 *** 4 ***

ギエン・オールという男は、とにかく目立つ男だった。
その見目の良さだけでなく、特位という地位に加え、ここでは珍しい褐色の肌と美しい瞳は、どこにいても分かる。
その容姿だけでなく彼の所作においても一つ一つが様になり、片笑いを浮かべるニヒルな笑みですら、魅惑的な笑いだった。
街の女性たちが彼のことを褒め称え見惚れるのも納得の存在で、男の中でもギエンに憧れる者は多くいる。

英雄として崇められた過去と、そして騎士団副団長にも勝ったというその実力は、やはり本物の強さで、ギエンが帰還した直後には馬鹿にする者もいたが、今となっては街の人々の中にギエンを馬鹿にする者はいなかった。

噂ではなく生身のギエンと対峙した者なら分かるだろう。
いかにギエンが普通の男とはかけ離れた存在かを。

間近で相対すると、ちょっとやそっと押したくらいではびくともしないような体格の持ち主で、背は高く、しっかりとした筋肉が全身を覆っていた。
決して女性的ではない男らしい背中に筋肉の浮き出た腕、がっしりとした手は大きく、首筋もどこからどう見ても男の首筋で、彼から受ける印象は非常に力強い。


同性で彼に欲情するとしたらどうかしてるだろう。


事実、彼も、ギエンにまつわる様々な噂を耳にしながら、到底そんなことはありえないと思っていた。

馬上にいるギエンは特に気品に溢れ、優雅で勇ましい。馬から降りる姿すら見惚れるほどの凛々しさで、噂にあるギエンとかけ離れた姿は、由緒正しき貴族の男だ。その地位に相応しい輝きを持っていた。

手綱を引き、馬を連れてくる彼と一言二言、話をする。

セセラの季節になってからの彼の格好は、薄手で身体のラインがよく分かる服装が多く、鍛えられた胸筋から、引き締まったウェスト、それから腰、臀部に至るまで筋肉の流れが非常によく分かる格好をしていた。
半袖こそ着ないが、ベストの下に着る白シャツは褐色の肌が透けて見え、彼の傷跡がそこから覗くことも少なくない。特に外出から戻ってくるギエンは大抵が暑そうに開襟であることが多く、胸元からはネックレスと共に鎖骨が見え、屈んだ時には鍛えられた胸筋とピンク色の胸の突起まで見えていた。


これだけ男らしい男に欲情するのはどうかしてる。


無防備に背を向け、馬の首元を撫でるその姿を見て、彼の背後からウェストを鷲掴みにしたくなる。
シャツの狭間から手を差し入れ、綺麗な色をしている乳首をまさぐりたくなり、その異常な妄想に頭を振った。

実際の所、噂に惑わされギエンに邪な想いを抱く者も少なくない。
それでもギエンが暴漢に襲われるとか、そういう目に遭ったことがないのは、彼の周りには誰かしらいることが多く、また、彼自身の強さ故に手が出せないだけだ。


ギエンの背中を見つめていると、一人の男が彼に歩み寄ってくる。
ハバード・ハンだ。
「今、帰りか。ギエン」
問いながら、やけに距離を詰めていく彼がそのまま、
「っ…」
ギエンの唇を奪うのを間近に見て、思わず目を奪われていた。
「ンむ…」
馬に寄りかかるようにしてキスをする二人を見て驚愕すると共に、ギエンの噂が頭を駆け巡る。
それから同時に、良家のお嬢様との婚約を破棄したらしいハバード・ハンの噂を思い出していた。

「丁度良かった。お前の所に行こうと思ってたところだ」
肩に手を回し、二人が去っていく。
見られたところで気にもしていないのだろう。


鼓動が激しい音を立てていた。


彼の背中に手を回し、その均整の取れた美しい筋肉を撫で回したい。
後ろから押さえつけて、無理やりでも自分の欲望をねじ込んだら彼はどんな顔をするのかと、彼の乱れた裸体はどんなだろうかと、野蛮な妄想が頭を駆け巡る。

その願望は治まる所を知らず、その日の夜。

後ろから彼を犯し、喘がせていた。
淫らな言葉を無理やり言わせ、屈辱的な体位で彼を犯し尽くす。どんな女と寝るよりも最高に興奮させられ、脳みそがあまりの心地よさに弾け飛ぶ。

手の中に吐き出される白濁のモノと共に、自分の強い欲望をまざまざと自覚させられていた。
「はぁー−−−」
彼で抜いてしまった事実は越えてはならない一線を越えてしまったようなもので、げんなりと深いため息を付いて、頭を抱える。


同性に欲情するのは本当にどうかしてる。


ギエン・オールは決して手が届かない高嶺の花だ。どんなに足掻いても、自分の手に入ることは永久にない。
昼間の彼を思い出し、再び元気を取り戻す下半身を見て、深々と溜息をつくのであった。


2022.05.01
絶賛、スランプです(笑)。スランプって程、匠ではないですけど(笑)。
まぁ、とにかく本編が進まないので番外で誤魔化します('ω')ハハハ!これ自体はもう少し後でアップする予定で温めていた話ですが、近い将来なんでいっかぁって感じで(笑)。ハバードといちゃついてるギエンの第三者視点です(笑)。
ちょっと、スランプなんでしばらく私は浮気するかもです…(;´・ω・)その時はお許しください(笑)
    


 *** 未定 ***



    


***  ***