【総受け,男前受け,冷血】

 ***41***


獣人族の性交は人間とは少し異なる。それも含め、やはり人とは異質な存在と言わざるを得ない。


壁に押し付けられた背中が、ルギルの動きに合わせずり落ちる。その度に繋がっている部分が深くなり、
「ぅ…、ッんァ…!」
両腕で顔を隠すギエンの唇から抑えきれない声が漏れていた。

身体の奥を突かれる度に脳が涎を垂らして歓喜に震える。その抗いがたい高揚感に身体中を震わせた。

それでも、
「ァ、…っ、許さ、…ね」
快楽に溺れ朦朧とした表情で、濡れた唇が呪詛を放った。
「はっ…」
ルギルが余裕のない笑いを返す。

紐で留められただけのズボンが半脱ぎ状態で、太ももに絡みつくのを手で更に脱がし、
「お前のそれは聞き飽きた。身体は俺を好き好き言って、締め付けて離さねぇ癖に毎度よく言うぜ」
膝裏をもち上げたまま、更に深く繋がる。
「ぅあッ…!っ…、く…ッ」
熱く硬いモノがごりごりといい場所に当たり、悲鳴にも似た声を上げ大きく痙攣した。

先端が小さく震えどろりと白濁のモノが溢れ出す。それでもそこは勃ち上がったままで、
「身体が覚えてんだろ。お前のことは隅々までよく知ってる」
ルギルの嘲りの混じった笑いに返す余裕すらなく、顔を隠していた両腕をだらりとルギルの肩に乗せる。
「ふ…、ァ…っ」
人のモノでは考えられないほど容易に奥の深い部分まで届き、身体だけでなく脳みそまで犯され、蒼い瞳が完全に蕩けきっていた。
甘い揺らぎを見せる瞳に精神魔術の刻まれた赤い光が宿り、より見る者を惑わせる。
「俺のが堪まんねぇよな?お前がメスだったら、とっくに孕んでる」
依然として硬いままのモノを突きあげられ、
「ッ…ぁ!」
更に与えられる快感に、悪態を付く余裕すらなくなっていた。中を擦られる度に、身体中が馬鹿になったかのように快楽に震え、イキそうになる。それでも達することが出来ず、
「ザゼ…、ル」
朦朧とした意識のまま、甘く彼の名前を口にしていた。
「っ…、っち…!」
ギエンの無意識の言葉に、ルギルが忌々しげに舌打ちを打って乱暴にギエンを抱き締めた。

長いアッシュグレーの髪がギエンの耳に当たり、剥き出しの首筋に唇が触れる。シャツの中へと指を入れ、するりと肩から下へとさげ、噛み後の残る左肩に口付けを落とした。
触れる熱い舌に、
「…ん」
惚けた表情で小さく声を洩らしたギエンの瞳が、ハッとしたように正気を取り戻す。
「ッ…、よ、…っせ!そこは、っ…」
全てを言うよりも前に。
「ぐ…、ッぁ…!」
ルギルがギエンの肩に残る歯型の痕に、噛みついた。

元々ある歯型よりも一回り小型のモノだ。
弱い力でルギルの身体を押し退けようとするも、繋がったままの部分が擦られ、虚しい抵抗に終わる。噛みつかれたまま、勃ちっぱなしのモノへと触られ、
「ル…、ギル…、ァ…っ、くっそ、ッ…!」
ルギルへの殺意が、押し寄せる快楽でかき消されていった。
「ほら。イケよ。ギエン」
犬歯を引き抜いたルギルが、歯に付いた血を舐め取りあくどい笑みを浮かべる。ぐっとギエンを引き寄せ、
「っ…!」
奥深くで繋がったまま、熱いモノを吐き出す。
「ぅ…、ぁ…!」
その感覚は何度も経験しているが、未だに慣れずにいた。獣人族の射精は人とは異なり数十秒から数分間続く。身体がその圧倒的な熱量に満たされ、甘い痺れが全身を駆け巡っていった。

ルギルの長い絶頂と共に、
「んぁ…」
否が応にも、イかされる。

ルギルがギエンの中から自身のモノを引き抜く頃には、すっかりと頭の芯まで蕩け淫らに唇を半開きのまま、全身を小さく痙攣させていた。

立っていられなくなったギエンが、ずるずると壁に寄りかかったまま座り込む。
どろりと白濁の液体が、後ろから溢れ出し地面に流れていくのを、
「いい眺めだな、ギエン」
服を整えフードを被り直したルギルが興奮したまま眺めていた。ギエンの乱れた姿を見下ろし、ぎらついた目で犬歯を舐める。
「一度じゃ物足んねぇだろ。俺のことを考えて悶々と過ごすんだな」
「っ…、…!」
その言葉に文句を返そうと唇を開き、代わりに出るのは熱の孕んだ吐息だった。
体内の熱は収まらず、むしろギエンの身体は欲情に溺れたままで、浅ましくルギルのモノを求めていた。

勝手に震える体を歯を噛み締め、やり過ごす。
それすら、ルギルには見透かされ、
「どんなに俺を憎もうと、お前は俺なしじゃいられねぇよ、認めな。お前に必要なのは兄貴でも人間でもねぇ。俺だ」
強い眼差しでそう宣言される。
その言葉が心に響くということはない。
だが、体は違う。

勝手に覚え込まされたモノにぞくぞくと甘い痺れが走り、
「っく…!」
腕で顔を隠しながら、漏れそうになった言葉を飲み込む。

視界からルギルを消せば、僅かに心の余裕が生まれた。
ギエンのそんな行動を、ルギルが愉快そうに笑う。
屈んで、ギエンの腕を掴み、
「そんなことで俺から逃れられる訳ねぇだろ。今日は何の準備もしてねぇから、このまま帰るが…」
強引に上を向かせた。
「ここにはお前の家族がいるもんな。お前はどこにも逃げらんねぇ。
もうじき、俺らの国が建つ。必ずお前を連れて帰るから覚悟しておけ」
金の瞳が、目を逸らすことすら許さないように間近に迫って告げた。
「…だ、れが…っ!」
快楽に溺れた蒼い瞳がルギルを睨み、掴まれた腕で弱々しく押しのける。
拒絶の言葉を放つギエンの唇を親指で押し開いたルギルが、
「っ…?!っぅ…、ン…」
甘く深く、口付けをした。

濡れた音がしばらく続き、すぐにルギルが身を離す。
周囲を気にしたように見回して、それからギエンの額に人差し指を置いた。

ギエンの視界が眩しくなると同時に、体から溢れた赤い光が指先に集約していく。それから唐突に魔術陣が浮かび上がり、ギエンに掛かっていた精神魔術を解いた。

それでも、ギエンは立ち上がることも出来ず、
「…」
小さく顔を背けるだけだった。

「また来る。お前に人間社会で居場所なんてねぇのを自覚しろ。今までのことをよく考えてみな」
無言を返すギエンを名残惜しそうに見て、獣のような素早さでその場を去っていった。


彼の気配が完全に無くなってようやく、
「…くそっ…」
呪縛から解けたように小さな声で悪態を付いた。

指先が小刻みに震え、浅ましい自分の体に吐き気を覚える。
腕で顔を覆って、今更変える事の出来ない過去を呪った。これからもずっと過去が付いてくるのだろう。どこまでいっても、どこにも逃げられもせずに。
そう思うと、いいようのない絶望感が襲ってきた。

変えられない現実に、どうにも出来ない悔しさと腹立たしさが溢れだす。
「っ…!」
それでも15年もの間、体に染み付いたものは簡単には抜けず、身体は甘く余韻を残して熱く昂ったままだ。

濡れた頬を腕で拭い、鼻を啜る。

乱れた服をどうにかしなくてはいけない。
ルギルがいた時には施されていた認識阻害の魔術が今は無く、誰かにこんな所を見られでもしたら大変な事になる。
頭の片隅でそんな事を思い、重い身体を何とか起こした。
弾みで、
「っ…、最、…悪だ」
とろとろと体内から液体が溢れ出し、褐色の肌を滴り落ちていった。
大きな深呼吸をして、それを持っていたハンカチで拭い取る。

血が流れる肩を手のひらで擦り、シャツを正してズボンの紐を締め直した。
乱れた髪の毛をかきあげ、
「ざけんな…、誰が思い通りになんかさせるか」
前を見据える蒼い瞳は、負けじと強い意思を宿していた。


震える身体を悟られないように、人目を避け城へと戻るのだった。



2021.06.20
エロエロボディを持て余すギエンが不憫で可愛いです(´ω`*)ププ!
ついでに突き落とされるギエンが不憫で好き(笑)。←鬼畜(笑)。
まぁ大丈夫、ギエン強いから(笑)。うん(笑)。

拍手沢山ありがとうございます‼訪問もありがとう(*ノωノ)!皆さんあってのサイトなので嬉しいです(笑)。

コメントもありがとうございます!またいつもの如く舞い上がってます(´ω`*)ウフ☆
兄弟設定+獣人族、私も大好物です(^^♪獣人族は存在だけでも良きですな〜❤
闇落ち歓迎コメントもありがとうございます(笑)!ギエンはどう転ぶことやら…(笑)。
一応再生物語☆の筈なので、落ちないように頑張ります( *´艸`)‼

さりり様へ☆またまたお返事までありがとうございます‼ちょっと語りになってしまうので、【こちらのページ】(新窓)にて(笑)。

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 ***42***

昨晩、部屋へと戻ってこなかった主のために、朝早くから部屋掃除を終わらせ、書類の整理や花瓶に花を飾ったりと内装に気を配っていると、ふと人の気配がして部屋の入口を振り返った。
「…!」
音もなく静かにドア枠に寄りかかるようにして、ギエンが立っていた。

すぐにギエンの様子が常と異なる事に気が付くパシェだ。
乱れた髪が片目に掛かり、気だるい気配でぼんやりとパシェを見つめる。
何より、
「…戻られていたのですね」
いつもは強い眼差しを向ける蒼い瞳が、潤んで甘い熱を宿していた。

今までのパシェだったら何事かと大慌てする所だが、以前にゾリド王との情事を見せ付けられてからは少し違う。
この表情のギエンは、そういう行為の後だとすぐに悟った。
ダエンと何かあったのだろうかと思い、ずきりと心が痛む。それにしては、ギエンの様子が少しおかしい。

素知らぬ顔で歩み寄るパシェに、
「悪いが、少し一人にしてくれ」
ギエンが僅かに身を起こし、パシェから視線を逸らせて言った。
その言葉にパシェが足を止めるという事は無く、
「シャツに血が付いているので、跡が残る前に洗った方がいいです。ダエン様の借り物ですよね?」
助言しつつ、ギエンの目前まで来る。

間近まで迫って、ギエンの肩が小さく震えている事に気が付いた。
「…」
これはただ事ではないかもしれない。
そう思いつつもギエンが何も言わないのであれば、自分は平静に接するしかなかった。

「自分でやるから気にするな」
何事も無かったかのように通り過ぎるギエンの腕を、咄嗟に掴んでいた。
「ッ…!触、んなッ…!」
ギエンが過剰な反応を返す。
掴まれた腕を思いっきり振り払って、
「いいから出てけ!今の俺はお前に何するか…!」
珍しく声を荒げて言った。

それでも、そんなギエンを放っておく訳にはいかなかった。
払われた手を再度、伸ばす。
「血が出てるなら、」
パシェが最後まで言う間もなく、
「…ぅっ!」
自制心が切れたようにギエンがパシェの唇を無理やり奪った。
衝撃でパシェの頭が壁に押し付けられ、軽くぶつける。

以前、ギエンにされたキスとはまるで別物で荒々しく、それでいて情熱的だった。パシェの首筋に両手を掛けて深く舌を絡める。

数秒後にようやく、
「っ…、は、」
濡れた音を立て唇が離れていった。
間近にある蒼い瞳が揺れ、
「分かったろ?さっさと出てけ…」
濡れた唇を手の甲で拭い、気まずそうに顔を背ける。その指先が小さく震えていた。

ギエンの首筋には褐色の肌でも分かる程、ハッキリと赤い痕が残り、行為の激しさを物語る。
それは、まるで自分の所有物を主張するかのような痕だ。

「ギエン様…」
パシェは引かなかった。
こんなに弱ったギエンを見せ付けられて、素知らぬ振りなど出来そうもなく、
「…大丈夫ですか?」
ギエンの震える手を包む。
直後、
「っ…!何するか分かんねぇって言ってんだろッ!!」
目を見開いたギエンが、拳で壁を叩いて激高した。

驚きは一瞬だ。

ギエンの余裕の無さが痛いほど、伝わってくる。
それが余計にパシェを冷静にさせていた。

真っすぐに視線を返し、ギエンの手を両手で掴む。
「っ…」
「大丈夫です。私は何をされても貴方を嫌ったりしない」
物怖じしないグレーの瞳が何の欲も映さずに、ただただギエンへの信頼のみを宿す。
驚きの表情を返すギエンをそっと抱き締め、警戒し毛を逆立てる獣を相手にするように、優しく頭を撫で背中を摩る。
「…パ、シェ」
パシェの触れる箇所がじんわりと暖かくなり、冷静さを取り戻していく。
ギエンの震えが段々と治まっていき、
「悪い…。お前に酷いことを…」
強張っていた身体から、ようやく力が抜けていった。
「別に何もされてないです」
ギエンの申し訳なさそうな謝罪を、一蹴してパシェが身を離す。
「浴室の準備をしてきます。紅茶を入れますのでゆっくりして下さい」
そう答え、浴室へと去って行くパシェは全くいつも通りで、それが逆にギエンを安心させた。

酷い所を見られた自覚は十分ある。
パシェにはこれからも、もっと酷い所を色々見られるかもしれない。
それでも、パシェは変わらない気がした。

静々と椅子に腰掛ける。
「っ…」
生々しい感触がして、ルギルの気配を体の中から感じていた。

脳裏につい先程の出来事が過り、慌てて蓋をする。
ふとした瞬間に、勝手に昂ぶる身体にうんざりして深々と溜息を付いた。
額に手を置いて考え込む。


あの日。
ルギルを殺すことが出来なかったことが最大の失敗だったと今になって思っていた。
ザゼルを発見した時、近くにはルギルもいた。彼の胸に深々と刺さったルギルの剣に、何故、手を伸ばさなかったのかと。

あの時に、剣を取っていればまだ違ったのだろう。
動かないザゼルの衝撃が強すぎて、ただ彼の名を呼ぶしか出来ずにいた。
結局、その後になって我を忘れ素手で飛び掛かり、すぐに拘束されてからはずっとルギルの支配から逃れることは出来なかった。

それだけでなく。
月日が経てば経つほどに、ルギルを見れば連動してザゼルを思い出していた。憎い筈のルギルにザゼルの面影を感じ、愛おしい感情が揺さぶられる。
兄弟だけあって性格は正反対であるのに醸す気配は全く同じで、その風貌までよく似ている。あれほどザゼルに反発していたルギルが結局は兄の意思を継ぐ結果となっているのだから、血は争えないのかもしれない。

それが良かったとは言えないが、本当にザゼルの仇を討つことが出来るのかと自問していた。
ルギルを前にしただけで身体が勝手に条件反射を起こし、こんなにちぐはぐな心と身体で、ザゼルの顔をしたあの男に刃を突き立てることが本当に可能なのかと。そんなことが出来るのかと何度も繰り返す。

「くそ…っ」
ルギルの顔を脳裏に描いた途端に、忘れかけた熱までも思い起こす。
身体の奥が熱くなり、何年も抱かれた身体はルギルのモノを貪欲に求めていた。彼の言葉の通り、あんなものでは物足りず意識がぶっ飛ぶほどに、激しい刺激を欲する。

ふとすれば負けそうになる気持ちが、
「ギエン様」
パシェの声で現実に呼び戻された。
「浴室の準備が出来ましたのでどうぞ」
出てきたパシェがタオルを片手にギエンの元へとやってくる。
それを受け取って、
「…お前はもう下がれ」
すれ違いざまにそう伝えて、浴室へと入った。

服を脱ぎ全身を水で洗い流しながら、血の付いたシャツが視界に映る。
パシェが言うように、早く血の跡を流さないとダエンに返すことが出来なくなるだろう。深い溜息を付きながら、唐突にハバードを思い出す。
獣人族と人間、どちらに付くのかと鋭い目付きで問い質した真剣な顔が、ギエンの弱気を払う。

また会いに来ると言っていた男の余裕に、いいチャンスじゃないかと思い直す。
失ったと思った復讐の機会が再び与えられたのだから、それまでにこの体質をどうにかすればいいだけの話だ。

「ちっ…。容赦なく中に出しやがって…」
中へと吐き出された精液を洗い流し、未だに血の滲む肩の傷口を水で流す。指で触れ、ルギルが噛み付いた場所を確認した。ザゼルの残した痕はルギルの噛み跡に消されることなくハッキリと肩に残っていて僅かに安堵の吐息を洩らす。

石鹸を泡立て、肩を何度も擦る。バスタブに身を沈めた後、血で汚れたシャツに手を伸ばそうとして、
「ギエン様。失礼しますね」
パシェの声がすると共に、浴室のドアが開いた。

ズボンの裾を捲り、腕捲りをした格好は濡れてもいい姿で、片手に救急箱を持っていた。
「…お前、下がれって言ったろ」
ギエンの剣の混じった声に動じるでもなく、
「貴方の世話をするのが私の仕事です。毎回お伝えしますが、私の仕事を奪わないで下さい」
ギエンの苦情も聞かずに、背後に回った。

僅かな沈黙の後、
「誰か…、呼びましょうか?」
傷口の状態を確認しながら静かな声で訊ねる。
「いい。気にするな。後でハバードの所に行く予定だ」
触れる度に小さく肩を揺らすギエンを見て、まだ全然大丈夫ではないことを知る。

髪の毛を濡らし、汚れを払うように洗い始めた。


肩の傷口は、人間のモノではない事は見てすぐに分かった。
それでもパシェは何も訊ねはしなかった。

「っ…」

僅かに触れるだけで小さく声を洩らすギエンを救うだけの力が、自分には何故、無いのだろうと悔しい想いをする。ただこうすることで、ギエンの心が少しでも楽になればいいと願うのだった。



2021.06.26
相変わらず、パシェが美味しいスタンス(#^^#)♥
ところで、メインCPって誰かお分かりですかね?('ω')??
そろそろ総受けモード+CPちゃんと作っていきますよ〜('ω')ノ♥
何気に私の中では初期からメインは決まってます(笑)。

拍手・コメントありがとう(*ノωノ)!更新遅くなってすみません…。最近、眼精疲労が酷いです(^^;。仕事が暇なせいで疲れてるんかなーとは思っとります(笑)
あと転職活動したりとかしちゃったり…(笑)。そんなでしばらく更新遅めかもしれないです…(゚ω゚;A) アセアセ

ルギルの上書きシーンは私も絶対盛り込みたいシーンでした(#^^#)!共感貰えて嬉し(笑)‼上書き最高ですよね〜♥ムフフ(笑)
獣人族に振り回されるギエンは圧倒的に受け属性だと思う(笑)‼あ、今回、耳と尻尾は無い獣人族デス…💦あと爪。その代わり背中に毛が生えてます(笑)。耳と尻尾は街に出没するには目立ちすぎる…っていう個人的理由によります(笑)。あと獣耳大好きなんだけど、人間の耳と獣耳の両立は謎、だし、かといって獣耳のみって身体構造的にどうなんだろう?って現実的な部分が囁き、今回、獣耳は無い獣人族デス(笑)。その代わり、性交に獣の特徴を持たせてみました(笑)。ギエンは多分、色々こっちの面でまぁ快楽堕ち的な部分強いです(*´∀`)ハハ(笑♥)

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 ***43***

ギエンがハバードに会いに行ったのは既に日が落ち暗くなった頃合いだった。
訓練場から戻ってきたハバードを待ち伏せるように、彼の簡易宿所の前で待つ。腕組みをしたまま壁に寄りかかる不遜な態度はいつものギエンだったが、
「…どうした?ダエンと喧嘩でもしたか?」
やってきたハバードの第一声はそれだった。
「…茶化すな。お前に会いに来る時点で大事な話があるって悟れよ」
笑みも浮かべず返すギエンの言葉に、笑いを引っ込めて、
「悪い。ダエンと仲直りしたってミガッドから聞いてたもんでな。わざわざ俺に話があるって事はダエン絡みかと思ってな」
木の扉を開いて、中へと招き入れた。
「てめぇ、面白がってんだろ」
「さぁ?」
答えながら、部屋の明かりを灯す。通された部屋は土が剥き出しの空間だ。真ん中にかまどがあり、脇には手押しポンプ式の井戸水がある。
ハバードの生活は質素で原始的なものだったが、どちらかと言えば敢えてその道を選んでいるのが分かった。

石で出来たかまどに火種を入れ、鉄鍋を置く。ポンプ式の井戸水で茶を用意した。
一段高くなっている場所に腰掛けて、
「で?話って?」
湯気の立つカップを置いて、立ったままのギエンを招く。

隣に腰掛けながらブーツの紐を緩め、
「…こりゃ、お前に女が出来ねぇ訳だわ」
呆れた声を出すギエンだ。
「お前に関係ねぇだろ?」
ハバードが笑って茶を啜った。真っ黒に淀んだ茶は飲まなくても味が容易に想像できる。
地位があるのに、この生活感では大半の女性は嫌がるだろう。

カップに息を吹きかけ、熱い茶を口にした。
頭の芯からうんざりするほどの苦味は、今のギエンには丁度いい。酔い覚ましにもよく使われるその茶は、疲れた脳みそにいい具合に染み渡っていた。

しばらく無言のまま、茶の啜る音が二人の間に響く。
昔を考えれば、ハバードとこんな風に静かな空間を過ごすなど考えられないことだ。
それが決して居心地の悪いものでもなく、不思議な感覚を呼び覚ました。

パチパチと炎が燃える音と外を吹き抜ける風の音が耳をくすぐる。木々のざわめきや、虫の声、シンとした静かな空間に、ふと安堵していた。
朝から慌ただしかったのは確かだろう。
炎の明かりに照らされた薄暗い部屋が心地よく、簡素な宿所が鉄壁の城塞の中に居るかのように静かだった。

息子のミガッドでもなく、親友のダエンでもなく。

何故、ハバードの元に来たのだろうと今更、気が付いていた。
獣人族のことなら、警備隊長のダエンに相談すべきだ。
ここに来るまで、思いつきもしなかった自分に僅かに驚く。

カップに口を付けたまま無言で考え込むギエンをちらりと見て、
「ついでに飯でも食っていくか?」
ハバードに限って空気を読むなんてことは無い筈だったが、立ち上がり、中々口を開かないギエンを夕食に誘った。
床下で冷蔵保存した肉を取り出して、かまどの横で調理し始める。

乱暴な男料理だ。大鍋に肉やら野菜やらを放り込み、適当に味付けをし煮込む。
「お前の手料理かよ」
ギエンの言葉に、背を向けたまま大きく笑った。
その後ろ姿は不思議と見慣れたもので、訓練校時代も騎士団だった時も、何度も見た背中だ。互いにいがみ合う仲ではあったが、一緒に魔獣討伐に出た事も数知れない。
ハバードの地位は特殊なもので騎士団ではなかったが、その武力を買われ何かと有事の際には必ずハン家として駆り出されていた。

この安堵感は、他の誰にも感じる事のないものだ。
背中を預け合った安心感かもしれない。


「ハバード」
雑な料理をする背中に呼びかける。
「…街で獣人族に会った。それをお前に伝えに来た」
ギエンの言葉にばっと振り返り、鋭い黒目が真っすぐにギエンに刺さった。
それを見つめ返し、
「前に話しただろ?族長だったザゼルの弟だ。今回の討伐で死んだと思ってたが、生きてたらしい」
静かに伝えれば、意外な事に感情を荒らげるでもなく、小さくため息を付くだけだった。
「…だったか?」
「…?」
小さな声の問いかけを聞き取れず、身を乗り出す。
「お前は大丈夫だったか?って聞いたんだ」
再度言い直すハバードが、短い髪をかき乱して問う。そこにはただ純粋に気遣いの想いだけが読み取れた。
ハバードなら怒るかもしれないという認識はあった。あれだけ獣人族を嫌ってる彼が、接触してきた彼らに何も思わないわけが無い。
「…大丈夫かどうかで言ったら大丈夫ではないけどな」
ポロリと本音が零れる。本当はこんな言葉を言いたくもないが、ハバードの真剣な目に答えるべきだと感じていた。
「怪我でもしたのか?」
ハバードの言葉に、留めていた首元のボタンを外し肩を剥き出しにする。
「…!」
息を飲むハバードを見つめたまま、
「弟のルギルは昔から俺の身体に執着してる。兄への対抗心だと思うが…、俺が精神魔術に抗えない話をしたろ?それでな、まぁ色々あって噛み付かれた」
情けない自分を素直にさらけ出した。
ハバードが眉間に皺を寄せ、歩み寄ってくる。
包帯の巻かれた肩を見た後、首筋に残る痕に気が付き、
「お前、全部ちゃんと説明しろ。ザゼルとか言うやつとは恋仲で間違い無いんだよな?ルギルは何なんだ?」
目の前に立ち、詰問した。それは苛立ちから来るものではなく、ただ単に心配してるだけだと分かった。

晒した肩を仕舞いながら、なんと言うべきか悩む。
無言のまま見つめあっていると、グツグツと鍋が音を立て、吹きこぼれた。
ハバードが慌てて鍋を手に取り、器に盛る。乱雑にスプーンを放り込んで、ギエンに手渡した。
「まぁ…、とりあえず飯を食え。お前の辛気くせぇ顔を見たくねぇからな」
器を受け取ったギエンの頭を乱暴に撫でて、
「っ…、何だ!」
文句をいうギエンに笑った。
「馬鹿か。お前は今、どこにいると思ってんだ。王都だぞ」
どかりと隣に腰を掛け、足を組む。
スプーンで具材をすくい息を吹きかけた後、口に大きな塊を放り込んだ。
「お前を裏切った騎士団と一緒にするな。二度と15年前の悲劇は繰り返さねぇから安心しろ」
熱っと呟いて、舌を出す。

ハバードの物言いに、何故か笑いが出ていた。
到底、切ったとはいえない野菜の塊をスプーンですくう。
「ルギルのことは俺一人でどうにかしなければと思ったが…、そうだな。ここは王都だったな」
「当然だろうが。もしそのルギルって奴がお前に執着してるなら、来るなら来いって話だ。ここにはゼク家も、俺もいる。舐めるな。お前もだ。たかが獣人族に何をビビってる」
人々に恐れられる獣人族を軽く扱うハバードの強い言葉に、悩んでいるのが馬鹿らしくなって、
「頼もしいわ」
孤立無援のあの頃とは違うのだと改めて実感していた。
半分、生状態でしゃりしゃりと音を立てる野菜を噛み砕きながら、ギエンが声を立てて笑う。

猫舌のハバードがスプーンにふぅふぅと息を吹きかけながら、ギエンに硬い植物で編まれた籠を手渡す。籠の中には細長い形状のパンが食べやすいように切られ、几帳面に並べられていた。
手に取れば、表面は硬いにも関わらず中はしっとりとしていて、豊かな麦の香りが広がっていく。食欲をそそる香りに、ギエンが瞳を輝かせていると、
「パンでも特にそれが好きだろ?スープにも合うしな。全然、お前の為じゃねぇけど意図せずそうなったな」
そう言って笑ったハバードが、パンを千切りごった煮のスープに放り込んだ。
その雑な食べ方に、再度笑いが零れる。
「お前、ほんっとそんなじゃ一生、独り者だぞ」
ギエンの言葉に、
「お互い様だろ」
ハバードが気にもせず笑って返す。

たわいない会話をしながら取る食事は、想定以上に心安らぐモノだ。抱えていた不安や弱気が引っ込んでいくのが分かる。
あれほどの悩みが嘘のように引いていき、何を震えていたのかと自分の弱さを笑った。




2021.07.02
ね、眠い…(;'∀')。
拍手、いつもありがとうございます!(*´∀`)‼更新頑張りますね〜☆
ちょっと長くなるので、2分割したから次回更新は早めに出来るかと思います(笑)ハハ!
応援する!
    


 ***44***

食後にはフルーツの香り付けされた茶が出され、僅かに驚きを感じていた。
酷い生活感だが、案外に女性受けはいいのかもしれない。
ハバードのセンスに密かに感心していると、
「で?そのルギルって奴は何でお前に執着してるんだ?」
まるで世間話をするように、話を切り出した。

既に先程まであったような躊躇いはなく、
「さぁな、よく分かんねぇ。出会った頃は兄のザゼルによく従ってたし、仲が良さそうに見えたけどな…」
茶を啜りながら、初めて会った時を思い出す。

仲間に背中を切りつけられ、痛みに呻くギエンの目の前に現れたのは、獣人族を引き連れやってきた一際目立つ二人だ。深い金色の瞳は強い光を宿し、彼らから放たれる威圧感はその辺の獣人族とはまるで別物で、彼らがリーダーだとすぐに分かったものだ。

「当時は、…」
ふと騎士団の面々が脳裏に過り、言葉に詰まる。
「っ…」
ハバードがちらりとギエンを見た後、背中に手を置いて、
「無理しなくていい」
眉間に皺を寄せたギエンを慰めた。
「…、悪い。未だにちょっと駄目なんだよな。本当にプライドも何もかもぐちゃぐちゃにされたっていうか…。まぁ、簡単にいうと宴の席で姦されたんだよな。怪我した背中は痛ぇし、拘束された腕はズキズキするし頭痛も酷くて何度もゲロって、色々酷い記憶しかねぇ。後のこともよく覚えてねぇしな。
ただ裏切ったあいつらの悪意に満ちた笑い声と、妙な熱気に包まれた気持ちわりぃ空気だけは今でもよく覚えてる。それが身体に纏わりついてくる気がして、どうにもな…」
ギエンの背中を摩る手がじんわりと暖かく、予想以上に冷静さを保てていた。
ハバードになら言っても平気なのだろう。
根拠のない安心感が、気持ちを楽にさせていた。

「…お前も言ってたように、そうなってからの俺の扱いなんて想像付くだろ?俺自身、もうどうでも良かったしな。獣人族も人間も変わんねぇ。…けど、それを変えたのがザゼルだった」
静かに話を聞くハバードの顔を見て、
「俺を犯すあいつらをその場で切り捨てた。ザゼルがどういう男か認識したのはその時が初めてで、あいつにとって深い意味は無かったんだろうが、それでも俺はザゼルの行為に助けられた。
こんな言い方すると、お前は怒るかもしんねぇけど…」
心情を吐露する。
獣人族を憎んでいると口にしたのはハバードだ。その獣人族に助けられたことは、受け入れがたい内容だろう。
そんな事を思っていると、
「怒る訳ないだろ」
ハバードの手が背中を優しく叩いた。真っすぐにギエンの瞳を見て、
「お前がここに戻ってきたことが一番、大事なことだ」
以前、後悔の言葉を口にした時と同じように、真剣な表情に痛みを滲ませて言った。
「思い出したくないなら言わなくてもいい」
「…」
ハバードの思い遣りが胸の奥深くに染み込んでいく。

背中に置かれた暖かい手を感じながら、
「ルギルが変わっていったのは、俺がザゼルとそういう関係になってからだ。ザゼルを殺して部族を乗っ取って何がしたかったのか分かんねぇけど、兄のモノを全部手に入れたかったんじゃねぇかと思う。そこに俺も入ってるんじゃねぇかと…」
ザゼルの顔を思い浮かべて、ルギルの顔を思い出す。昔はよく二人で歩いている姿を見かけた。今後の方針も二人で話し合い、部族を纏めていたはずだ。それが何故あんなことになったのか、未だによく分からずにいた。
「単純に、兄が俺と過ごす時間が増えたのが許せなかったのかもしんねぇな」
「王都までお前を探しに来るとは余程、執念深い奴だな。一人の人間に執着する種じゃない筈だが…」
ハバードの言葉に頷く。
「あいつが相手だと俺はザゼルと被っちまって、反応が鈍っちまう。精神魔術なんかされた日には、もうどうにもならねぇ。だから獣人族との闘いで俺を当てにすんなよ?」
先に釘を刺せば、ハバードが大きく笑った。
「お前はもう騎士団でも何でもねぇんだから、城で隠居でもしてろ」
ハバードの大きな手が乱暴にギエンの頭を撫で、髪の毛をぐちゃぐちゃにする。
「失礼な奴だな」
ギエンの笑いを含んだ苦情を楽しそうに笑って、
「とりあえず精神魔術を克服しろ。ゼク家には俺から伝えとく。拒否権は無いからな」
ちゃんと訓練しろと強制した。
それが嫌なモノでもなく、
「そうだな」
答えながら、ハバードの優しさを実感していた。

今まではただ対立するだけの相手に過ぎなかった男が、今や拠り所になるとは人生不思議なものだとぼんやり思う。
「変な噂になっても困るだろうから、ハン家は表立って動かないが、今回の件はゼク家に相談して、街の警備を強化することになると思う。ゾリド陛下も獣人族が侵入したとあっては、惜しみなく協力してくれる筈だ。お前はそれで問題ないか?」
獣人族が街へと入ってきたとなれば、治安的にも無視する訳にもいかない問題だ。それでもギエンに気を遣って、そう聞いてきたハバードに強く頷いた。
「お前に任せちまって悪い。本来だったら俺が自分で報告すべきことだよな…」
ギエンの言葉に、再度髪を乱暴に撫でて、
「…何でも一人で背負い過ぎだ。逆に王都の守りに穴があるって分かって良かったじゃないか。獣人族は精霊との親和性が高いからな。もっと強い守りじゃないと駄目なのかもしれん」
真剣な眼差しで言った後、一気に茶を飲み干した。

「そういえば、ベギールク様の所での仕事はどうなんだ?あの人はあれで食わず嫌いだから、助手も中々、雇わないって聞くぞ」
唐突に会話を変えて、そんなことを聞いてくる。
「まぁ、普通に面白い。最近は魔術を一から学び直せって指示でずっと本を読んでるけどな」
「あの人らしい」
笑いながら伸びをして、ハバードが姿勢を崩した。

あれはああだこうだと、まるで以前から親友だったかのようになんてことない会話をしながら、気が付いた時にはあっという間に3時間ほどが過ぎていた。
ハバードの隣は存外に居心地が良く、以前に一緒に出掛けた時もそうだったが、不思議とギエンの気持ちを前向きにさせる。

「わりぃ。長居しちまった。帰るわ」
時間に気が付いたギエンが、パッと立ち上がるとハバードも外を見て、
「城まですぐ近くだが、送る」
一緒に立ち上がった。
「お前な、俺は女じゃねぇんだぞ」
ギエンの苦笑いに、
「男も女も関係ないだろ。俺がしたいからするだけだ」
ハバードがあっさりとそんな言葉を口にした。
「…まぁいいけどよ」
過保護なハバードに益々笑いが出る。

「ハバードって、意外に優しいのな」
ついそんな言葉を言えば、
「当たり前だろ。何をいまさら」
鼻で笑ったハバードが当然だと返す。
それが無性に可笑しくて、
「馬鹿らしい」
ハバードの肩に額を付けて笑い声をあげた。

外へと出れば冷たい風が頬を撫でていった。静まり返った澄んだ空気を胸いっぱいに吸い込めば、朝の出来事が頭の片隅へと追いやられ、霞んでいく。
「元気出たか?」
ハバードの言葉に素直に頷く。
「そうか。なら良かった」

相談する場所がここしか思いつかなかった。
だが、それで良かったのだと今ならはっきりと言える。

ハバードの安堵を浮かべた笑みを見て、心の中でひっそりと感謝するのだった。



2021.07.05
お知らせ見た方はご存知だと思いますが、短編の整理をしました(^^♪
というか途中です、が本題はそれじゃなくて(笑)、 自分の褐色肌への異常な拘りに慄いてます(;'∀')!!!
ヤバイよね…(笑)、自分でもびっくりしてる…(;^ω^)‼やばすぎやろー‼もしかしてどの話もこの話も褐色肌なんじゃ…?いや、まさかね…??
どうなってるんだろう。私の頭の中…(;^ω^)ヒェッ…‼

気を取り直して、拍手・コメントありがとうございます(´ω`*)
ハバードにじゃんじゃんときめいてくれると嬉しいです❤(笑)スパダリ感出てるといいですが…(笑)。ストーリーもサクサク進むよう頑張りマース(^^)ノ。

次回は多分、まだ短編整理とかその辺、色々長年、放置していたものたちを整理してる気がします…(;^ω^)。あとそろそろセインの方を書く予定です〜(^_-)-☆待ってる人、いるのかな?!(笑)

応援する!
    


 ***45***

ゼク家の対応は早く、翌日の午後には既に四街区の出入口、そこから更に繋がる商街への入口、第二首都へのメイン通路に至るまで、魔術陣、検問の強化がされた。

まず朝一に、ゾリド王がギエンの部屋へと顔を出し、申し訳なさそうに謝罪していった。事の顛末を簡単に説明したギエンの肩の傷を治し、何度もギエンの存在を確認するように軽く抱き締める。彼らしくないその態度に、逆に笑ってしまうギエンだ。
紅茶を飲みながら会話をした後、安心したように公務へと戻っていった。

さすがにゼク家が来るということは無かったが、昼頃には手紙で警備強化の知らせが届き、更に必要なことがあれば追加してくれといった内容のものだった。
最後の一文で精神魔術の訓練の件が書かれ、ハバードの対応の速さにも驚く。

手紙を見ながら小さく笑みを浮かべるギエンを、パシェが安心したように見つめていた。


午前はいつも通り読書をした後、午後から外出の準備を始める。
仕事に関しては好きな時に来ればいいという緩い指示の元で働いており、その日も適当にベギールクの研究塔へと足を運ぶ。

会うなり、
「あぁ、ギエン。聞いたよ。街に獣人族が出たんだって?君は大丈夫だった?」
ギエンの頬を両手で挟み、背伸びをして瞳を覗き込んだ。
突然のことに驚くギエンをよそに、
「こんなことなら、僕のペットを君に付けておくべきだったね」
ペタペタと頬を触り、傷が無いか確認するように身体を見回した。
「大丈夫だ」
ベギールクの手をそっと退けて、一歩下がる。
「あまり大丈夫そうじゃないね」
彼の遠慮も無い言葉に、
「…大丈夫だって言ってるだろ。それより、俺に無断で変なのを付けたりしようとか考えてないだろうな?」
ベギールクのやりそうな行動を先取りし釘を刺せば、彼が視線を泳がせる。
図星かと呆れを返せば、珍しく苦笑いを浮かべ、
「でも、ほら。僕のペットがいればすぐに警告を発することが出来るじゃない?」
素晴らしい提案かのように、指を立てて身を乗り出す。
「阿保らしい。自分でどうにか、」
「出来てないだろう?」
「っ…!」
ギエンの言葉を奪い、作業着に着替え途中だったギエンの襟元を力強く引いた。

ルギルに噛まれた傷跡は無い筈だ。
ギエンの無言に、
「僕を騙せると思ってるな?ゾリドの白魔術の痕跡を感じる。治療して貰ったのが丸わかりだよ」
肩を突いて、容易に見破った。
「っち…!」
ギエンの舌打ちに笑い声をあげて、
「君のそういう所、好きだけどさ〜。偶には甘えてみたらどう?ここは君の生きて来た場所だ」
真剣な目をして言う。
その言葉に、
「下らねぇ」
素直に頷くような性格ではない。
肩に掛かるベギールクの手を払って、
「いい年して、俺がそんな事をする訳ねぇだろ。それよりな、絶対に俺の許可も無くこないだみたいな事はすんな」
強い眼差しで再度、釘を刺せば、やれやれとベギールクが両手を広げた。
「残念。体よく騙されると思ったのに。
とりあえず今日は君の負担を考えて、黒魔術の実験はいいよ。僕の助手をしてくれれば」
試験管がいくつも並んだ机を指差す。
「ん?何を取ればいいんだ?」
「その黄色と緑ラベル取って」
ベギールクが、山積みにされた本の真ん中から一冊を取り出し、パラパラとページを捲る。
開いたページを見ながら、
「これが何か分かるかい?」
試験管を手渡すギエンに訊ねる。
小さな光を零す半透明の液体ともう片方はサラサラの透明の液体だ。それが何か見当もつかず、試験管の中を見て首を傾げる。
「青緑花のエキスだよ。透明の方が甲殻虫のエキスね。青緑花のエキスは本当に何にでも利用出来て凄い応用力なんだ。君も覚えておくといいよ。きわめて頑丈な素材にもなるし、色んな液体との親和性が高くて弾力もあるから非常に薄く伸ばせるんだ」
「へぇ」
試験管を傾ければ、ドロリとしていて、とてもそんな万能なモノには見えない。
「青緑花は貴重だから、エキスもそんなに大量には取れないんだけどね。くれぐれも零さないようにね」
ベギールクの言葉に、ふと部屋の隅に目がいく。

日の当たらない場所に鉢が置かれ、そこに腰丈ほどの草花が何種類か植わっていた。
散乱する物を避けて目の前まで行けば、花の根元部分が筒状に大きく発達した大輪がいくつも咲く立派な花が目を引く。筒状になった部分には、甘い香りのする液体が溜まっていた。
何とも言えない香ばしい甘い香りに、思わず筒を手に取り中を覗き込む。
「その緑と青の花がそうだよ。青が取れ頃で、」
試験管を操作していたベギールクがギエンを振り返り、
「あっ…、ギエン!」
大きな声で呼び掛けた。
その拍子に手に取っていた筒に力が入る。
「ぅ…っ、…ッ!」
筒が生き物のように口を萎め中身の液体を勢いよく吐き出した。
「…」
「く、そ…、こえ、…かけんな」
口を半開きのまま、ベギールクを振り返り文句を零す。
「君、好奇心は程々にしなよ」
歩み寄ってきたベギールクがギエンを見て、笑い声をあげる。
顔だけでなく口の中にまで飛び散り、口を開いて舌を出したままギエンが動きを止めていた。どうしたものかとベギールクの対応を待つギエンに、
「あぁ、待って。飲み込んじゃダメだよ」
唐突に、
「ッン…!?」
口の中に手を突っ込んで指で舌を挟みこむ。
指が蠢き、口を大きく開かされ、
「ふっ…、ゥッ…ぁ」
苦しい声を洩らす。
目を眇めるギエンに、
「自業自得だよ。好奇心は身を滅ぼすという言葉を知っておいたほうがいいよ」
そんな言葉を言って粘性のある液体を指に絡め、ギエンの舌から抜き取った。
ベギールクの指を伝って、トロリと垂れるそれを試験管の中に入れ、
「これは本当に貴重なんだから」
ホッとしたように呟く。それから、顔に付く物も同じように試験管の中に移し取った。
僅かに残った白濁の液体に顔を汚され、涙目で鋭い視線を向けるギエンを見て、
「そんなエロい顔されても、僕は困るからね」
平然と、とんでもない言葉を吐く。
「誰が…!大体な、そういうことは先に言え」
濡れた唇を拭って、ギエンが苛立ちを宿した声で返す。
それをあっさりと聞き流したベギールクがタオルを手渡して、
「うがいは外の水場でお願い。青緑花は万能って話をしたろ?性欲万能薬でもあるから、まぁ何か影響出ちゃったら自分の行いを責めてね」
さらりと衝撃的な事実を満面笑みのまま、言った。
「ッ…!…先に言え!」
二度目となる台詞を、ベギールクが呆れを表して笑みで軽く受け流す。
「君が勝手にやっちゃったんじゃない。気を付けてよ。ここは研究塔なんだから、何も考えずにあちこち触る奴があるもんかね」
「…」
ギエンの瞳が鋭く尖るのを、にやけた笑いで眺めるベギールクだ。

「ほら、さっさと口をゆすいだ方がいいよ」
「…」
言い返す言葉も見つからず、背中をぐいっと押され、それもそうかと急ぎ足で外の水場へと向かうのだった。




2021.07.11
次回、セインでって話をした気がしたんですが(笑)、ギエンの更新を待っている方がいそうだったので、こちらを先にアップします〜(^_-)笑
ベギールクとちょっとイチャ(笑)。
警戒心ありそうで実は全く無く、何でも平気で手を出しちゃうアホな子、ギエンが可愛いです(´ω`*)!←酷い(笑)

今回、新窓表示のアイコン付けたんですが、どうでしょうか?表示崩れとか確認する限りは問題なさそうだったけど、何か不具合あれば教えて下さい(;^ω^)!
あと見にくくなった気もして(笑)、撤去するかもしれないです(笑)。今更、新窓表記のアイコンいるかなぁ?って気もしてます(;^ω^)フフ!
応援する!
    


 ***46***


悪態を付きながら研究塔を後にする。

大股で道を進みながら城の西側に差し掛かった時、いつもは横を通り過ぎるだけの生垣に囲まれた庭園に、ふと意識が向いた。

広大な庭園は王妃が憩いの場に使うとも、密会の場に使うとも囁かれていた。いくつかの温室があり、敷地面積でいったら訓練場よりも遥かに大きい。季節ごとに色とりどりの花々が咲き乱れ、剪定だけでなく配置なども定期的に入れ替えられる手入れの行き届いた庭園だ。

丁度、生垣の切れ目から中へと入る。
ぽっかりと空いた中央に石造りの噴水が置かれ、ベンチが二脚、それから3つに分かれた生垣の道に女性像が建っていた。
「…」
ギエンがその庭園に足を踏み入れたのは、王都に戻ってきてから初めての事だったが、以前はこんな造りではなかった筈だ。
好奇心が湧き上がる。

噴水を回り込み、その後ろにある通路へと進んでいった。数分後、また道が二手に分かれ、そこでようやくこの庭園の意図を察していた。
王族の遊び心というべきか、ちょっとした迷路になっているのだろう。僅かに気持ちが童心に返り、歩調が軽くなる。
更に歩くこと数分後、緑の葉を付ける生垣が次第に背の高い植物へと変わっていき、気が付いた時にはギエンの背丈以上の高さになっていた。

幅1.5mほどの生垣に囲まれた一本道を進む。
高い生垣に囲まれ周りの様子は全く見えず、突き当れば曲がり、二手に分かれれば適当に曲がりを繰り返し、時折、憩いの場のような空間に出たりと、何も考えずに突き進むギエンが、やや焦りを覚えたのはこの庭園に入って、1時間ほど過ぎた頃だった。
「…」
完全に道が分からず迷子になる。

空が次第に夕闇に変わっていき、陽が落ちてくるのを見て、鉄柵に寄りかかり額に指を当て考え込んだ。
深い溜息を付いて、自分の歩いてきた道を思い出す。

似たような景色ばかりだ。どの道も全く記憶に残っておらず、強いて言えば背の高い生垣が鉄柵に変わり、蔓性の薔薇が巻きついているくらいだった。
戻ればいいのか、それとも鉄柵になった事は進んだという事なのかすら分からず、悩む。

ベギールクの、好奇心も程々にしろという言葉を痛感して思わず小さく笑った。
このままここにいても仕方がないだろう。とりあえずどこかに出なければと気を入れ直し、再び歩み始める。

そうして数分後に、運が悪いことに雨まで降り始めていた。
「今日は厄日か」
パラつく雨が次第に強くなり、一気に土砂降りとなってギエンの髪や肩を濡らしていく。

既に目的は庭園を抜けることではなく、雨宿り出来る場所はないかに切り替わっていた。
上着を脱ぎ頭の上に被って上半身を濡らさないように進めば、唐突に、
「…!」
どこかで鐘の音が鳴る。
人がいると知り、
「誰かいるのか?」
声を張り上げる。

それに答える者はいなかったが、鐘の音が何度か鳴り続く。
音の方へと進み鉄柵に阻まれ、右へ左へと何度か曲がり鐘の音を辿れば、
「…ゼレル!」
鉄柵の向こうで、石造りの柱に豪華な屋根が付いたガゼボの下で、鐘を鳴らすゼレルがいた。
手を振り上げ声を張り上げるギエンに気が付き、
「−−−!」
何かを叫ぶ。
雨が降っている中、すぐに駆け寄ってきて、
「貴殿はこんな所で何をしてるんですか!一旦、戻って分かれ道を左に曲がって下さい。後は真っすぐ来れば、こちらに辿り着けますので…」
ギエンの姿を見て、心配そうに眉をひそめた。
「すぐ行く」
言うなり背を向け、来た道を戻っていく。

ゼレルと合流できたのはそれからすぐで、
「突然の雨で参った」
脱いだ上着を雨除けにして、駆けこむように建物の下へと入る。上着を叩いて水気を取り、
「お前がいて助かった。お前は何してんだ?」
不思議そうに訊ねた。
その言葉に、ギエンの姿をジッと見下ろしていたゼレルがハッとしたように視線を上げて、
「毎回、貴殿のように無闇にこの庭園に足を入れて迷子になる方がいるので、その回収作業ですよ」
可笑しそうに口角を上げた。
隠しきれない笑いは、明らかに馬鹿にしている笑いだ。
「てめ…、腹立つな」
「ここは迷宮庭園で有名な筈ですけどね」
ギエンの文句を聞き流して、再度、鐘を鳴らし始める。

「15分程、待っててくださいね。鐘鳴らしは騎士団がする仕事の一つで、今日の当番は私なので。貴殿のように迷子になって、2,3日発見されないってなったら大問題ですから」
「大げさな」
ギエンの言葉に、笑い声を上げて、
「私はこの庭園の入口は封鎖すべきだと思いますけどね、毎回、迷子者が多すぎる」
石造りのベンチに腰を下ろし、ズボンの水気を払うギエンの姿を見て言った。
屈んだ拍子に濡れた髪が顔に掛かり、端正な顔立ちを余計に際立たせる。濡れたシャツが体に纏わりつき、褐色の肌が普段以上に透け、ギエンの肢体を強調していた。

思わず視線を奪われるゼレルだ。
従来、男に興味などこれっぽっちも持ち合わせていないゼレルだが、ギエンの剣技を見てからは違う。そればかりか、ギエンという男を知れば知るほど、のめり込んでいた。
美しい剣技だけでなく、その性格や、声、話し方に至るまで、その全てがゼレルを刺激する。
男の身体に見惚れたことも、ましてや欲情などしたこともないゼレルだったが、ギエンだけは別格だ。

「大体、何のための迷宮庭園なんだか」
ブーツの紐を解きながら笑いを浮かべる唇が桜色で甘い色気を宿す。唇から顎のライン、剥き出しの鎖骨へとゼレルの視線が流れていった。見つめるゼレルに気が付きもせずに、ギエンがブーツを脱ぎ素足になると、片足を膝の上に置いた。ハンカチでズボンの水気を取り、ブーツをベンチの傍らに立て掛ける。
決して華奢な女の足ではない。男の関節の浮き出た無骨な足が、指先に至るまで綺麗なカーブを描き、美しい足の形にゼレルが見惚れる。

男の足に触れてみたいと思うのは初めてのことで、自分の感情に驚きさえ感じていた。

それだけでなく、濡れて張り付くシャツは、胸筋だけでなく胸の突起まで浮き出る。引き締まった腹筋からヘソのラインまで透け、ゼレルの目に抑えられない熱が帯びていった。

濡れた身体を拭くことに熱心なギエンがその視線に気が付くこともなく、胸元のボタンを一つ外して、肩に張り付くシャツを剥がすように指を差し入れた。露わになる褐色の肌に、無意識に喉が鳴るゼレルだ。
ギエンが濡れた前髪をかきあげ、ふと顔を上げて、
「っ…!」
そこでようやくゼレルの視線に気がつき、驚きの表情を浮かべた。
「…露骨な目で見んな」
ギエンの苛立ちを宿す声に、
「性的な対象として見てると伝えた相手にそんな無防備な格好を晒す貴殿が悪いのでは?」
悪びれもせず、むしろ笑みを浮かべて言った。
「お前にそんな事を伝えられた記憶はねぇな」
素っ気ない言葉に、
「ギエン殿を愛してると伝えたでしょう?貴殿と寝てみたいとも」
間髪入れずに、恥ずかしげもなく真顔で答える。
その真っ直ぐすぎる視線に、返す言葉を失うギエンだ。

「…」
首元をハンカチで拭きながら、思案の表情を浮かべる。
一定の間隔で鐘を鳴らすゼレルを見ながら、
「そんなに寝てぇなら、やってみるか?」
さらりと世間話みたいに誘った。
「…!」
驚くゼレルを見て、
「なんてな。やらせる訳ねぇだろ」
膝上に乗せた足首に両手を置いて悪戯な片笑いを浮かべる。

ゼレルが鐘を打つ手を止め、真顔でギエンを見つめ返した。
激しく降る雨の音が周囲を包み、他の音は何も聞こえない静寂の中で、無言のまま見つめ合う。

数秒後、無言で歩み寄ってギエンが腰掛けるベンチの目の前に立った。
ギエンの両側の背もたれに手を置き、
「そういう冗談は、感心しませんよ」
逃げ道を塞いだゼレルが冷ややかな声音で言う。
緑の瞳には怒りの感情が入り混じる。いつもなら笑い飛ばしそうなゼレルの意外な反応に、僅かに驚くギエンだ。

ゼレルの言う言葉をそれほど真剣には受け止めてはいないギエンだ。
歳の違いもある。
どうせ、一時的なものだろうという気持ちもどこかであった。

「…悪かった」
相手の気持ちを考えずに軽く扱ったことを素直に謝罪すれば、ゼレルの唇からは盛大なため息が漏れ、額を手で抑えたあと横を向く。
「…」
ゼレルを見上げるギエンに、
「貴殿は本当に…、何も分かってないですよね」
先程以上の熱を瞳に宿してそんな言葉を放った。
「…、ゼレ…」
呼びかける声が途中で止まる。

ゼレルが顔を近づけてきたからだ。

「っ…、待て」
触れそうになる唇を手のひらで押し返せば、
「こないだの賭けのキス、今ここでして貰ってもいいですか?」
まるで酔っ払っているかのように熱い声で言って、手のひらに口付けを落とす始末だ。
「ふざけんな。こんな場所で」
「この時間です。もう誰も来ないですよ。鐘も鳴らしましたしね」
唇を押し付け、指の腹を舌で舐めた。
「っ…!」
その感触に蒼い瞳を一瞬、眇めるギエンだ。
今日ほど、手袋をしていれば良かったと後悔することもないだろう。

空いている手のひらでゼレルの胸を押しのけ、唇を守れば、
「約束は約束ですよ」
尤もらしい言葉でギエンを責める。

このまま拒絶していても埒が明かないのも確かだった。
小さな溜息の後、
「…仕方ねぇな。それでもう無しだからな」
手のひらを下ろし観念したように了承する。間近にある爽やかな緑の瞳を見つめれば、
「っ…、ぅ」
その爽やかさとは正反対の獰猛さで、唇を強引に開かされていた。

ベンチに片膝を乗せたゼレルが、ギエンを逃がさないように後頭部に片手を置いて圧し掛かってくる。
「んぅ…、ッ、…ま、て…、」
制止の声も無視して、息も苦しくなるようなキスが続き、口内のあらゆる所が貪られ蹂躙されていった。
頭が痺れ、流されそうになる意識を懸命に保つも、
「…ッう…、ァ…!?」
唐突に、シャツの張り付く胸の突起を弾かれ、肩を大きく震わせる。
「ゼレ…、っ…、ル」
キスの合間に、批難を篭めて名を呼ぶ。
約束が違うと肘を突っ張ろうとし、より明確な刺激を与えられ背筋を甘い痺れが駆け抜けていった。
「ッ…!」
背中を反らせ身体を震わせるギエンの声はゼレルの口内へと吸い込まれ、言葉にならずに消えていく。

それでも終わらないキスに、
「…ふ、ッ…」
ギエンの瞳が甘く蕩けていくのにそう時間は掛からないのであった。



2021.07.18
今日中の早い時間に…、と思ったんですが日曜日になっちゃいましたね(;´・ω・)アラアラ…笑。
ギエンの更新を待ってくれている方がいるみたいなので嬉しいです(´ω`*)‼セインと同時更新できるようちょこちょこ進めておきます〜(笑)

今回、このバラ園で何故あえての鉄柵かっていうと、そこで書きたいシチュエーションがあったんですが、ギエンの素足を優先したので断念かな〜(笑)。どっかで似たシーンが書けるといいなぁと思ってます( *´艸`)‼乞うご期待(笑)

拍手・訪問ありがとうございます‼糧になります〜(#^.^#)‼
コメントもありがとう(*ノωノ)!
1000話超えてもって書いてあるので、そうか、100話いくかもな〜とか思ったら、桁が一つ違ったので笑えました(笑)。ぜひ1000話でも付いてきてください(笑)‼
ギエン推しの方、ギエン可愛いと仰ってくれる方も、そう言ってくれると嬉しいです(*'V’*)♡。更新ペース維持しつつ頑張ります〜(^^♪
応援する!
    


 ***47***


「くそ、が…!約束、くらい守れ…」
半裸の乱れた格好でギエンが悪態を付く。言葉とは裏腹に既に諦めモードでろくな抵抗もなく、身体はしどけなく淫らにゼレルを誘っていた。
その態度に、ゼレルが余裕の無い笑みを浮かべ、
「手を出さないとは言ってないじゃないですか。あんな格好でこれみよがしに、私を誘っておいて、生殺しもいい所だ」
抱きかかえたギエンの太ももにキスを落とし、痕を付けるように軽く吸う。
「っ…、」
その僅かな刺激でも小さく震え反応を返すギエンの感度の良さに、内心で苦笑を零すゼレルだ。

男と寝るのは初めてだったが、何の抵抗も無い。
そればかりか欲は高まるばかりで、今すぐギエンを抱き潰したいくらいだった。その凶暴な衝動を残った理性で抑え込む。
いくら男と寝る事に慣れているギエンといえど、いきなり突っ込まれては堪らないだろう。それでなくとも、ゼレルは自身のモノが常人のモノよりも遥かに凶悪なレベルであることを自覚していた。

濡れた前をやんわりと扱きながら、後ろへと指を伸ばす。
「…っく!」
既に柔らかい部分を指で押し広げれば、身体を震わせたギエンが忌々しげに舌打ちを打った。
熱い吐息をつきながら、ゼレルの首の後ろへ手を回し、
「ぅ、…っ、お前、男とは、初めてだろ…、やめんなら今の内だぞ」
そんな言葉で煽る。

間近にある蒼い瞳が、欲に濡れ、見たこともないほど甘美な気配を醸していた。衝動を懸命に抑えていたゼレルの理性を容易く破壊しにくるギエンの態度に、大きく深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。
指でギエンの後ろを解しながら、
「貴殿は本当に厄介な方だ」
熱を宿した声で苦笑を零した。

「昨日、獣人族が街に侵入したと聞きましたが…、やはり貴殿絡みですか?」
「っ…!」
ギエンの小さな驚きの声に、やはりと小さく呟く。
「ここがこんなに熱くて柔らかいのは、まさかそういう事ですか?」
ぐぐっと容赦なく指が奥まで入り、
「…っは、…ァ…!」
一際、大きく背を反らせた。
「貴殿が簡単に濡れるのもそういう理由ですか?」
「っ…、てめぇ…!」
目を眇めて苦情を言う。その瞳が甘く濡れ、余計にゼレルを煽っているとは思いもしない。
「いい、加減に…しろ」
「獣人族とやった事がある人間は善がり狂うと聞きますけどね、…果たして私とどっちがよりそうなのか、試してみます?」
ふっと鼻で笑い、ズボンのチャックを下ろした。
現れたモノを見て、
「ッ…!」
ギエンが驚きの表情を宿す。
緩く扱き、更に大きくなっていくモノを狭い後ろに宛がわれ、ゾクゾクと背筋が震え喉が鳴る。ルギルに中途半端にされてそのままだった身体の奥が、それを無意識に求めていた。
身を寄せるゼレルに、
「ま、…て、…ゼレ、ル…」
ギエンが肩を押し、珍しく動揺した声を上げた。
それを軽く聞き流したゼレルが、ゆっくりと挿入していけば、
「待てって…、ぅ、…っぁ、…ッ」
ギエンが声にならない悲鳴を上げた。
小さく痙攣し、肩を押していた手から力が抜けたようにだらりとベンチの上へと落ちる。
「…、」
口元を手の甲で隠し、ゼレルの視線を避けるように横を向いた。
「…まだほんの少し入れただけですよ」
驚いて動きを止めたゼレルの言葉に、
「うる…っせぇ…!」
耳元を赤く染めたギエンが、目を細めて睨む。
そのギエンの態度に、クスっと小さく笑いを零し、愛おしそうに首筋に唇を付けた。
「全く…、どこまで私の理性を試せば気が済むのか…」
困ったように耳元で囁き、ゆっくりと後ろを押し開くように挿入していく。
「ふ…、っく…」
中を擦り上げ緩く動くだけで、抑えられない声がギエンから洩れ出ていた。口元を手の甲で覆ったまま、快楽をやり過ごすように目を細める。
余裕を保とうとするギエンの虚栄に、
「この辺がお好きでしょう?」
ゼレルが自信に溢れた声と共に言って、ぐっと弱い部分を押し当てた。
「ンッ…?!…ってめ、…!」
瞳を見開いたギエンが甘さの含んだ苛立ち声を上げるのを愉快そうに聞くゼレルだ。
「貴殿の身体が分かってきましたよ?」
再度、容赦なく擦られ、
「ぅあ…、…ァっ…」
鼻に掛かった甘い声が抑えられなくなっていった。

ゼレルが動く度に、ギエンの瞳から余裕が無くなっていく。
「ぁ…、も…、いい加減、…イけ…」
目尻に色気を滲ませたギエンの苦情に、
「何を言ってるんですか?まだ全然、収まり切ってないですよ?」
平然と言って更にギエンを驚愕させた。
「嘘…、だろ…?」
快楽に流される瞳が外灯の明かりを反射してきらりと光を零し、蒼く揺れる。戸惑いを浮かべる瞳にキスをして、
「そんなに欲しいならいいですか?」
興奮を滲ませた熱い声が囁いた。
「ま、…っ!」
「待ちません。……欲しがったのは貴殿だ」
余裕の無い熱い声がギエンの言葉を奪い取って、強引に身を寄せる。それと同時に、ずんっと奥深くまでゼレルのモノが届き、
「ッ…!」
その圧倒的な存在感に、脳の奥深くで何かが弾け飛んだ。

「うッ…っァ…、ぁ…」
蒼い瞳が急速に力を失い、ただひたすら甘く蕩け、ぼんやりとゼレルを見つめる。
濡れて立ち上がる先端からは白濁のモノがトロトロと溢れ滴り落ちていく。強引にイカされて、完全に理性を無くしていた。

奥深くを突く度に自制の利かない声を洩らし、薄く開いた唇からは誘うように舌先が濡れて光る。
目元を染め快楽に溺れた瞳はまるで恋する目のように熱を帯び、引き締まった身体は淫らに乱れて、更にゼレルを煽り立てていた。
「っ…、本当に貴殿は…」
弱った笑みでギエンを引き寄せれば、それに応じるように唇を開いて、
「ん…」
キスを返す始末だ。
あれほど嫌がっていたにも関わらず、自ら舌を絡め、身体を震わせていた。


降り続ける雨が二人の濃厚な気配を消し込んでいく。
それは、夜遅くまで続いていた。



***********************



翌朝、心地良い微睡みの中、眩しさで目が覚めるギエンだ。
視界に入るのは見知らぬ部屋で、開いた窓からは爽やかな風が入り、小鳥の囀りが聞こえていた。

起き上がろうとしてすぐに自分が全裸であることに気が付く。それから腰の鈍痛に呻いた。
「あぁ…目が覚めましたか?」
けろりとした態度のゼレルが既に騎士団の格好で立ち、ギエンを見下ろしていた。
片手に持つ飲み物を手渡して、
「ギエン殿の服は洗濯してしまったので、私の服しかありませんが、構いませんよね」
明らかにサイズ違いのシャツとズボンを手渡される。
「てめ…ぇ」
怒りで瞳を燃やすギエンに、
「怒る貴殿も凄く素敵だ」
目に慈愛の色を浮かべて、素早い動作でキスを落とした。
「っ…」
あまりに咄嗟のことで避ける間もなく受け入れる羽目になる。

「…調子に乗るな」
ギエンの苦情に、
「昨夜のこと、覚えてます?」
ギエンの顎を持ち上げ、首筋から肩へと指を滑らせながら、
「ここも、ここも。全部…。私をあんなに求めていた癖に」
赤い跡だらけの身体を満足そうに見つめ、朝から品の無い言葉を放つ。
ぎょっとするギエンの胸元から、ヘソまで辿り、大げさな反応を返すギエンを笑った。
「…気の迷いだ。忘れろ」
手を振り払って、貰った飲み物を口に含めば、口内に爽やかな酸味が広がり爽快感に満たされる。氷水に浮かんだレモンの香りが寝ぼけた頭を覚醒させ、身体の奥を燻っていた熱が綺麗さっぱりと無くなっていることに気が付くギエンだ。

よくよく考えれば、青緑花のせいではないかとふと思う。
ルギルの件で、熱を持て余していたのは確かではあるが、それにしても意識を無くす程、溺れるとは予想だにしないことで、
「お前、本当に調子に乗んじゃねぇぞ」
ニコニコと朝から上機嫌のゼレルを睨めば、
「そんなに良かったですか?私とのセックスは」
ずばりと言われ、否定できないだけに睨むしか出来なくなるギエンだ。
耳元がほんのりと赤く染まっていく。

体の相性がいいことだけは確かだろう。獣人族以外で、あんなにいかされたのは初めてで、
「くそ…、どうかしてる」
忌々しげに吐き捨てて一気に飲み干す。

空になったグラスをゼレルに返そうと手を伸ばして、
「…おい」
「貴殿にこんな傷を付けた者らを皆殺しにしたい…」
そんな物騒な台詞を言ったゼレルが、大事そうにギエンを抱き締めた。
「…全員、死んでるけどな」
ギエンのあっけらかんとした言葉に、ゼレルが唸って右の手のひらに口づけを落とす。
それをじっと見つめる。

背中の深い傷跡も、肩の噛み跡も。
何もかも見られたにも関わらず、ゼレルは何も問うたりはしなかった。
その事に何故か安心するギエンだ。

無意識に肩の噛み跡を探った後、ゼレルがよこした大きめのシャツを羽織る。
ボタンを留めれば、胸元は大きく開き、手は袖が余って僅かに指先が見える程度だ。
「てめぇ、まじでふざけてるよな。パシェを呼べよ」
下着も付けずにウエストの余るズボンを履けば、
「今のギエン殿は全て私の物みたいですね」
ニヤついた笑みで変態みたいな台詞を言う。
「…」
ギエンの軽蔑の視線を気にもせず、
「貴殿の世話役は呼ばないですよ。ここから客室まで近いので、送りましょうか?」
むしろ、嫌味ったらしくそんな言葉すら吐いた。
「いい根性してやがる」
ギエンの呻くように呟いた言葉に、
「さすがにギエン殿が嫌がるだろうと思い、これでも遠慮してるんですよ」
満面笑みで言った。

若葉を思わせる緑の瞳は、やけに気分を爽快にさせた。
緩いウエストをベルトで強引に絞ったギエンが、小さく溜息を付いて、
「服は後で送り返す。俺の服も送っとけ」
文句を言うのを諦める。

立ち上がり、ドアの方へと向かっていき、
「お前、一度身体を許したからって二度目もあると思うな」
昨夜の甘さなど幻だったかのように、冷めた声で言う。

背後に立つゼレルをちらりと見た後に、扉を開けようとし、
「っ…!」
ドンと激しい音を立て、両手をギエンの顔の横に付いたゼレルが、開きかけた扉を押さえつけた。
「ギエン殿が別の男を忘れられないのなら、私が埋めるまでです」
「何言ってやが…」
「私が気が付いていないとでも?」
緩いシャツの狭間から顔を肩口に埋めて、
「よ、っせ…!」
噛み跡に舌を這わせる。
振り払おうとしたギエンの身体に圧し掛かるようにして扉に押さえつけ、
「貴殿の身体は、すっかりと私を覚えたようですけどね」
耳朶をねっとりと舐めた。
「ッ…!」
肩を大きく震わせた後、強い力で肘打ちして、
「て、めぇ…!調子に乗んなって言ってんだろ」
僅かに呻くゼレルの胸を押し退けた。
「冗談が過ぎました。謝罪します」
両手を開いて、ギエンから距離を保つゼレルの顔には笑みが乗る。
「本当に油断も隙もねぇな。少しは反省しろ」
呆れた溜息を付きながら言った言葉を軽く笑って、
「反省します。また一緒にどこか行きましょう」
全く反省して無い笑顔で誘いかける。
「…」
10歳近くも年下だとゼレルのこんな態度も、腹が立ちはするが、どこか可愛らしく思えてくるから不思議なものだ。
大柄の男が、まるで小さな子犬のように見えてきて、
「…、気が向いたらな」
溜息の後に、何故かそんな言葉を返してしまう。

笑みを深める男の顔を見て、言った言葉を後悔しながら部屋へと戻っていくギエンであった。



2021.07.24
2,3日前に更新する予定だったんですが、例の如く、睡魔には敵わなかったです(笑)。
夢現に書きながら、文章を読み返すんですが、何が書いてあるのか頭が理解出来ない(一q一)笑
そんなでちょっ〜と予想より遅くなりました(笑)
次回はもう少し早く更新出来るはず…(;'∀')?

ゼレルと思った以上にラブラブだな〜☆彡
拍手、訪問、いつもありがとうございます‼(*ノωノ)

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 ***48***



まだ朝早い時分だ。こんな格好では、あまり人に出くわしたくはない。
そんなことを思いながら通路を歩いていると、そういう時に限って誰かに遭遇するもので、
「…よぉ。早いな」
向こうからやってきたダエンとミガッドに何食わぬ顔で挨拶をした。
「ギエン、君が…、こんな朝早くから、…っ」
言いながら言葉が止まり、ダエンの視線がギエンの上から下まで見回す。そうしてすぐに情事後だと気が付いたように狼狽えた。

ギエンは華奢ではない。
それでもサイズ違いの大きなシャツに、緩いズボンは相手が誰かすぐに分かるダエンだ。

だらしなく開いた胸元は濃厚な跡が残り、見ているだけでドキリとさせられる。
ミガッドの教育上、良くないのではと瞬時に頭に浮かび、どうすればと一人慌てていた。
それに対しギエンは諦めたように、乱れた髪をかいて、
「まぁ、なんつーか…成り行きだ」
両手をポケットに入れた。
「成り行きって…、っ…余計、質が悪いじゃないか!」
何故か声を潜めて怒るダエンに、片笑いを返し、
「俺のせいじゃねぇ。文句なら向こうに言え」
詰め寄るダエンに、顎で来た道を示す。

「…ギエン、君は本当に…。呆れるよ、全く…」
額を抑えて呻くダエンを鼻で笑ったギエンが、
「お前の理解を得ようなんて思ってねぇから安心しろ。俺がこうなのを知ってて、それでも友人としてやり直したいって言ったのはお前だろ?」
男と寝る自分を気にもせず、ぶちまけた。
「知らないよ、そんなの…」
気まずそうに視線を泳がせて、傍らで大人しく二人の会話を聞いていたミガッドに視線を移す。その視線に気が付き、視線を返すミガッドの瞳は特に何の感情も宿してはおらず、ひっそりと安堵する。
「とりあえずこれを」
外套を外し、つかつかと歩み寄ってギエンの肩に羽織らせ、これで少しは目立たなくなるだろうと思っていると、そんな配慮もギエンの開き直った態度の前では無意味で、
「俺は女じゃねぇぞ」
「そんなのは分かってるよ」
そう答えるしかなくなるダエンだ。

紺色の外套は軽くて薄い素材だ。外側は光沢がある生地にギエンが確認するように手を滑らせる。
「…この外套、魔術除けされてんだろ?お前、これから仕事で大丈夫か?」
「街の警備だし、大丈夫だよ。それより君の目立つ格好の方が心配だよ」
立っているだけで滲み出る色気は目の毒を通り越して、もはや凶器だ。これでは仮に襲われたとしても、文句は言えないだろう。
ギエンに限ってそんな事態は有り得ないとはいえ、どんな輩がいるかも分からない。
視線を外してそんな事を思っていると、
「お前がミガッドとこんな所にいるのは珍しいな」
外套を引き寄せ胸元を隠したギエンが、不思議そうにミガッドの方を見て訊ねた。
「定期的に訓練生の面談みたいなのがあって、今後どうするかとか含めてね、ハバードと話を…」
そこで驚きの表情をしたギエンに気が付き、言葉を止める。
「どうかした?」
「いや…」
言いにくそうに口元に手を置いて思案した後、
「終わったらハバードもここ通るって事だよな?」
そんな疑問を投げかける。
「そうだね」
「ハバードにはちょっと見られたくねぇからな、もう戻るわ…。悪いけど借りるな」
ダエンの言葉を聞いたギエンが、話も途中にそそくさとダエンの脇を通り過ぎようとして、その態度に瞬間的に苛立ちを覚えるダエンだ。
腕を咄嗟に鷲掴み、
「っ…」
「僕に見られてんだから、ハバードだって同じじゃないか。彼の方が、余程、ギエンをそういうものだと思ってると思うけど」
強い言葉で引き止め、詰った。

その言葉の強さに驚くギエンだ。
「何…」
「親友は僕の筈だろ。なんでハバードを特別みたいに言うんだ」
突然の言葉に、ダエンが何に怒っているのか理解できずにいる。
「別に特別なんて言ってねぇだろ。お前らには見られちまったから仕方ねぇけど、親友とかそんなの関係ねぇ話だろうが」
当然のことを言えば、ダエンがハッとしたように掴んでいた手を慌てて離した。
僅かな沈黙の後、
「…ごめん」
唐突にしおらしくなって頭を垂れる。
「馬鹿みたいなことを言って、困らせたよね」
謝罪するダエンがなおさら理解できず、どうしたものか思案していた。

それから、二人の様子を見上げるミガッドに気がつく。
内心でため息を付いて、
「ダエン。お前を一番の親友だと思ってる。ハバードは別に親友じゃねぇしな。あいつにこんな姿を見られたら面倒くせぇだろ。ただそれだけだ」
やけに親友であることに拘るダエンにフォローを入れた。
ギエンの言葉に、申し訳なさそうに眉を下げて再度謝罪の言葉を言うのを、手を振って聞き流す。
「そういう訳だから、もう行くな?」
ミガッドの髪を乱暴に撫でて、足早に二人の脇を通り抜けて言った。
乱された髪を険悪な顔で直すミガッドを流し目で見て、片笑いを浮かべる。
「毎回、何なんだよ!」
背中に向かって放たれるミガッドのクレームを心地よさそうに笑って手を振った。

回廊に残された二人に沈黙が走る。
「…」
それを先に破ったのはダエンで、
「ギエンだけど、昔はあんなじゃなかったんだよ。今日の姿は忘れてやって」
困ったように言って、ミガッドの肩を組んだ。
「…別に気にしてないよ」
そう答えながら、ちらりとダエンを見上げる。


ギエンを振り返って後ろ姿を見送るダエンの視線には、以前思った時と同じように、いや、以前よりもより鮮明に友情以上の熱が宿っていた。
同性の壁を軽く超えてくるあのギエンの雰囲気だ。あんなものを見せられれば誰でもそうなるのかもしれない。
気にしたところで仕方がないことだと視線を外した。



***********************


部屋へと戻ったギエンを出迎えたのは、掃除中のパシェで、すぐにギエンの姿に気が付き、珍しく眉間に皺を寄せた。
「悪い。昨日、連絡入れなかっただろ?」
パシェの表情を勘違いしたギエンが言えば、
「…昨夜、ゼレル様よりご連絡貰っているので大丈夫です」
間髪入れずに返答し、ギエンに歩み寄る。
ギエンの姿を見つめた後、
「…正式に抗議を入れましょうか?」
ギエンの鎖骨辺りを視線を下ろし、強い口調で訊ねた。
「…いや。問題ない」
パシェの口調の強さに驚きを浮かべた後、ギエンが首を振る。
それを意外そうに見て、
「…そうですか。朝食はどうされます?」
すぐにいつものパシェに戻って、ギエンの服を用意した。

素早い動作でボタンを外し、手に持っていた服を着せる。余りに手慣れた動作は、ギエンが言葉を発する間すらなく、あっという間にいつものシャツへと着替え終わっていた。
手際の良さに呆然としていると、ベルトに手が掛かる。それを慌てて手で止めて、
「下は自分で着替える。履いてねぇから」
率直に現状を伝えれば、パシェが動揺を露わにして、
「っ…。分かりました。朝食は食べますよね?」
視線を逸らせて身を離した。

いつもは無表情の顔が狼狽して俯く姿はギエンの悪戯心を呼び起こすに十分で、
「パシェ、その顔止めろ」
口元を覆って、自然と上がる口元を隠した。
ギエンの密かな笑いに気が付いたパシェが失礼だと文句を言うのを尚更、可笑しそうに聞く。

「…」
無自覚にも程があると心の中で憤るパシェだ。
首筋にはキスマークを付け、寝起きの乱れた髪に余韻を残す蒼い瞳が、劣情感を誘う。

ギエンを無性に困らせたくなって、それをぐっと飲み込み、
「…朝食の支度をしてきますので、着替えを済ませておいて下さい」
事務的な口調で伝えれば、ギエンが鼻で笑って頷く。

釈然としない苛立ちを抱えながら、部屋を出るのであった。


2021.07.29
無意識に、色気垂れ流しのギエンが美味しいです(#^^#)笑☆このままノーマル男たちを落としていけばいいと思います(笑)

拍手・訪問ありがとうございます‼
コメント下さった方もありがとうご!(^^)!ざいます‼
ギエンの魅力が伝わって感激です(*´∀`)一緒に美味しく召し上がって欲しいです(笑♥)

こちらこそ読んでくれてありがとうございます(*^^*)‼出会えてよかったと言って貰えると大変うれしいです(笑)‼
ギエンの帰還は内容的にまだ半分〜2/3くらいかなぁとは思いますが、まだまだ付いてきてくれると嬉しいです!(^^)!☆彡
応援する!
    


 ***49***

それからしばらくのギエンは、自室に引きこもるという生活を送っていた。
特にこれといって外出する用事も無い。
合間にベギールクの元へ顔を覗かせたり、ダエンが訪問したりとして、3日程経過していた。

ルギルに遭遇した直後は、街へ出掛けることに抵抗感も芽生えていたが、それも大分落ち着きを見せ、久しぶりに出掛けるかと思い立つ。

パシェが用意した服を身に付けながら、左肩に残る噛み跡に手を滑らせ、
「…」
唐突に、ルギルの言った言葉が脳裏に蘇っていた。

本当に獣人族だけの国を興すつもりなのだろうかと。
そんな事を他の国が許す訳が無いと思いつつ、獣人族だけが持つネットワークの広さは侮れないものだと知っているギエンだ。
国が建つと知れば、方々に散っていた獣人族たちが集まってきてもおかしくはない。それが何千、何万ともなれば、立派な一つの巨大勢力になる。
西の山脈だけでも百人以上の部族だ。ギエンが囚われている期間でも、何度か他部族との争いがあり、全体で言ったらあの一帯に住んでいる獣人族だけでも千人は越すだろう。


ザゼルが思い描いた理想を。
彼を殺した男が実現する。

なんという皮肉かと握り拳を作る。


それでも。
苛立ちだけでない感情が胸の内を渦巻く。
ザゼルを殺したルギルを許せるかと言ったら到底許せるものではないが、彼の血を分けた唯一の血族であることには変わりない。
肩に残る傷と同じように、彼の生きた証がルギルにも宿っていた。

眉間に皺を寄せて、手の甲で額を抑える。
しばらくそうした後、軽く溜息を付いて緩く頭を振った。

「出掛けてくる」
パシェに声を掛けて部屋を出て行く。ギエンの一連の行動に一言も発する事なく、パシェが黙って見送っていた。



***********************



出掛ける前に思い付きで訓練場に立ち寄ると、丁度、トーナメント形式の摸擬戦を催している最中だった。
剣術チームはとっくに終わったのか、武術チームの対抗戦をそれぞれリラックスした様態で眺めていた。
興味を惹かれて人だかりの中心に視線をやれば、金髪が視界に映る。
以前、目にした青年が丁度、ハバードと組み手をしている最中で、ミガッドもそっちのけに二人の取っ組みに夢中になる。

見れば見るほど綺麗な型だ。
長い一つ結びの金髪が彼の優雅な動きに合わせて揺れる。涼しい色を浮かべる碧眼は鋭く、意思の強そうな印象を与えた。真っすぐに相手の動きを注視して、その優雅さから想像も付かない俊敏さで、ハバードの攻める手を払い除け、攻撃を仕掛けていた。

さぞかしモテるだろう。
まだ若々しい彼の力強い攻撃と臨機応変な戦い方に、ハバードが避けながら僅かに後退する。
柔軟な彼の動きはやはり若者特有の軽さと躍動感があり、その見目の麗しさと技術の高さに感心していた。

それでもやはり、圧倒的な才能の持ち主というのは存在する訳で、
「…」
年の差もあってか、ハバードの余裕は切り崩せはしない。

一瞬の出来事だった。
踏み込んで放った一撃を脇で抑えたハバードが、その手を捻り上げ、軽々と彼を投げ飛ばす。そのまま、抵抗も許さず締め技を繰り出した。


地面に押さえつけられた青年に苦悶の表情が浮かぶ。降参するように力を抜けば、ハバードが彼を解放して手を差し出した。
その顔は全く本気を出していない笑い顔だ。顎髭を摩って、彼の欠点を指導していた。

「…」
思わず。
魅入ってしまうギエンだ。
久しぶりに見るハバードの武術に知らず、興奮させられていた。
ハッとしたように、無意識に握っていた拳を開く。


とにもかくにも彼の動きは力強い。
その癖、その俊敏さは青年を遥かに上回り、それでいて動きに無駄が一切ない。全てが効率的で、余計な力すら入っていない精錬された技術に、舌を巻く。


訓練生たちに囲まれるハバードを見て、認めるのも癪だが彼の力量を認めざるを得なかった。生徒の中では抜きん出ていた青年も、彼の前ではただのヒヨッコに過ぎず、赤子同然なのだろう。
以前、ハバードに殴り掛かって簡単に制圧されたのと同じように、自分も彼にとって赤子同然かと思うと腹立たしい気持ちが、珍しくも湧き上がった。

ギエンの中にあった過去のハバードのイメージを遥かに上回る技術で、この15年で彼がどれほど力を磨いたかが分かる。かつてのイメージを容易に塗り替え、ハバードという男が、より魅力的な男になっているという事に何故か、むず痒い想いを抱く。

心の中で舌打ちをし、踵を返そうとして、こちらに気が付いたハバードと視線があった。

手を上げ挨拶をしてくるハバードに、仕方なく手を上げて答えれば、集団の中から抜け出してギエンの元までやってきた。
「よぉ」
ギエンの言葉に、
「引き篭もるのは止めたのか?」
笑いながらそんな揶揄の言葉を投げてくるのを、軽い蹴りで黙らせるギエンだ。
「うるせぇ。こないだは…悪かったな、色々対応させちまって」
一応、礼を言えば、意外そうに一瞬、目を点にして顎を摩って笑う。
「ゾリド陛下、心配してただろ?伝えに言ったときに、今すぐ山脈狩りに行かんとする勢いだったからな」
意外な言葉を言って、ギエンを驚かせる。
「一言も言ってなかったけどな」
「俺は彼の傍ってほど近い位置にはいないが、陛下がどれだけ悔やんでいたか見ていても分かる。今でもお前への信頼は絶大なもんだぞ」
過去の情景を思い出すように目を細めて、練習を再開する訓練場を眺めていた。
「そういや…ゼレルが言ってたな。俺の葬送はそれは盛大に行われたとか何とか…」
「そうだな」
短く答えた後、真剣な目をしたハバードが無言になる。
その横顔を見つめていると、
「あの頃はギエンが思う以上に、みんな参ってた。お前は人を信じないかもしれないが、多くの人がお前の為に涙を流したって事も、知っておくべき事実だ」
珍しいほど真面目な口調で言った。

「…」
何て返すべきか悩むギエンだ。
見つめてくる黒い目は真剣で、それが慰めの言葉でも嘘でもないと分かる。

王都へ帰還して1ヶ月以上が経っていた。
様々な人がギエンを歓迎し、中には涙して迎え入れてくれた人もいる。全員が悪人ではないことくらい、理屈では分かっていた。
だが、全てを何の疑いもなく信用できるかといったら、それはまた別物だ。

かつての騎士団がそうだったように。
上辺だけの感情などいくらでも出来る。悲しむ振りも、喜ぶ振りも容易なことだ。

人が笑顔の下で何を考えているかなんて分かる訳もなく、
「…」
あの時に、切り付けられた背中の古傷が疼き、唐突に痛みを呼び覚ます。

無言で見つめ合ったまま、
「…お前は?」
何故かそんな言葉を返していた。
「…」
僅かに驚きで見開かれた黒目が真っすぐにギエンを見つめ返す。
それから、小さくため息交じりに視線を外し、
「どうだろうな。少なくとも涙は流してないな」
常と変わらない表情で、何の飾り気もなくそう答えた。

ハバードとはそういう関係だ。
互いの死を特別に悲しむような関係ではない。勿論、貴重な人物を失ったという衝撃はあるが、それは極親しい誰かを亡くした感情とは違う。
「…そうか」
答えながら、馬鹿なことを聞いたと自嘲していた。もし仮に逆の立場だったらやはり同じだろう。
ハバードが死んだら。

そう考え、背筋がぞくりと震え、人の死を思い出していた。
獣人族に囚われていた期間は娯楽決闘が定期的に行われていた。獣人族だけでなく、人が死ぬ場面も見てきたギエンだ。何度、経験しても人の死は慣れるものではなく、心の奥底から嫌なモノだと拳を握った。それでも生き残るためには、心を殺すしかないのだ。

腹の底に溜まっていく黒い感情が、今なお根付いている気がして、強く拳を握り締めていると、
「言葉が悪かった」
唐突にハバードがポツリと言って、ギエンの肩に手を軽く置いた。
慰めが欲しい訳でもない。
「気にするな」
否定するギエンに、
「いいから聞け」
肩を引いて有無を言わさず視線を交らせる。

「お前の死を伝えられた翌日、俺はハン家数人を連れて山脈に行ってた。あいつらを同じように八つ裂きにしなけりゃ気が済まない、そう思ったからだ。
しばらく奴らを探したんだが、痕跡を見つけることが出来なくてな」
「っ…」
ハバードの意外な回答に、ギエンが珍しいほど驚きの表情を浮かべていた。
「数か月山脈に籠る予定だったが、そのすぐ後に今度は魔獣の暴動が発生して、王都に呼び戻された。騎士団もいないから王都の警備も不安定で、体制作りをやり直しになったんだ。
それからも何度か同じように山脈に行ったんだが…」
一度、言葉を切ったハバードが、再び小さく溜息をついて、
「ギエン…。探し出す事が出来なくて済まなかった」
偽りない黒い目が瞬きもせずにそう謝罪した。


息をするのも忘れ、ハバードを見つめ返す。
「俺が、あの時にあいつらの住処を見つける事が出来ていたら、違っただろうと思う」
肩に掛かる手に力が籠る。痛みすら伴う強い力に、ハバードの本音を感じていた。

涙を流さなかったのではない。
そんな余裕すら無かったのだろう。

「…お前らしい」
ハバードの言葉に苦笑を返す。

今更、後悔しても仕方が無い。
だが、思わずにはいられない。


「背中を預けるべき相手はお前だったよな」
ふっと片笑いで言ったギエンの言葉に、
「お前は見る目が無いな」
珍しくも、はにかんだ笑いを浮かべ肩を叩いた。

それから気まずさを払うように短い黒髪を掻いて、
「街に出掛ける予定か?午後は俺も空いてるから、一緒に出掛けないか?」
そう誘う。
「一人でいくつもりだった場所があるんだが…」
「付き合ってやってもいいぜ。その代わり、何か奢れよ」
ギエンの返しに、ハバードが笑いを返す。
「そう言ってこないだも酒を奢ったのは俺だぞ」
「知らねぇよ。お前があそこの酒を飲みてぇって言ったんだろ」
しばらく下らない言い争いをした後に、笑ったハバードが、
「じゃあ後で部屋に迎えに行くから待ってろ」
言って訓練場の方へと戻って行った。

その後ろ姿を何となく見送るギエンだ。
先程まで腹の底を渦巻いていた嫌な感情が消え、背中の疼きが無くなる。


ハバードは親友でも何でもない。
それでも。
遠くなっていく背中がやけに頼もしく感じ、胸が熱くなるのだった。


2021.08.01
ギエンの死を伝えられて、ダエンが内側に向かうのに対し、ハバードは外へ向かう感じかな?(笑)
ハバードのこの屈強な感じがスキ(*^^*)笑

さてさて、次回更新がもしかしたら空くかもです(笑)。一応ご連絡…。

拍手・コメントありがとうございます‼‼‼いつも嬉しいです(*ノωノ)♥一緒にニヤニヤ♥しましょう(笑)

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 ***50***

「お前が行きたい所ってここかよ…」
ギエンのやや戸惑った声に、ハバードが同じように苦笑を浮かべて頷く。
「マルト地区のセセ・リョクザ家あるだろ?そこの御令嬢がもうじき誕生日だから贈り物をしなくちゃならなくてな」
「普通、従者が勝手にやるものだろ。お前が選ぶ必要あるのか」
ギエンの言葉に頭の後ろを軽く掻き、
「婚約者にそういう訳にもいかないだろうが」
苦笑いで答えて、煌びやかな門をくぐる。

南街でも飛びぬけて大きな敷地を持つこの店は女子受けしそうな店だ。小さな庭園にフラワーアーチがあり、薔薇の咲き乱れた店は男が入るには照れ臭い。
ハバードが一人で行きたがらないのも納得だが、
「お前…、婚約者いたんだな。てっきり結婚するつもり無いのかと思ってたが…」
ギエンの意識は、ハバードの口から出た意外な言葉に向いていた。
「世継ぎ問題だろ。俺も長男だからな。弟に面倒ごとは全部押し付けるつもりだが、まだまだあいつらは諦めるつもりは無いらしい」
両親をあいつら呼ばわりして、メルヘンチックな店の扉を開く。

部屋の中央には天井から大きなシャンデリアが垂れ下がり、明るい照明の光を反射して陳列されたグラスや宝石箱、女性向けの商品が光り輝いていた。
「ぅ…、わ」
ギエンの小さな呻き声に、ハバードが可笑しそうに鼻で笑う。

「ギエン、割るなよ?」
入口で止まったギエンの背中を押しながらそう警告する。
「割る訳ねぇだろーが」
見れば結構な値段だ。中には値札すらついていない代物もある。
「お前、これ、本気のプレゼントの値段だぞ…」
ギエンが何気なく商品を手に取ろうとして、その手を抑えるハバードだ。
「買う気も無い奴が触んなって」
磨かれたガラス食器は細かな細工が施され、どの角度から見ても輝いていた。繊細で美しい造形のグラスがいくつも並ぶ。

「お前が結婚ねぇ…」
ギエンの言葉に、
「お前だってしただろ?俺が結婚する事の何が意外なんだ」
ハバードの言葉に、まぁなと小さく相槌を打つ。
「ハン家は歴史ある家柄だからな。何度断っても結婚話を持ってくるあいつらの言い分も分からなくもない」
「…そうだな。言ってくれる親がいるだけ幸せかも知んねぇな」
ギエンが何気なく言った言葉に、ハバードが無言になって考え込んだ。

ギエンの実の親は物心がつく頃には死んでいる。
養ってくれた義理の親も既に他界しており、言葉の重みが違う。

ちらりとハバードが視線を投げれば、特に気にした風でもないギエンが、ワイングラスを指差して、
「これなんかどうだ?洒落てるしセットで買えばいい」
そう勧めた。
対称的なグラスは2つでセットになるように装飾が施され、カップルに喜ばれそうな代物だ。
ハバードが苦笑を浮かべて、
「俺がこんなグラスを使うと思うか?俺の部屋を考えろ」
そう返せば、ギエンがふっと鼻で笑った。
片笑いを浮かべて、
「まさか、あの部屋に招く訳でも無いだろ?彼女と会う時は本家で会えばいいじゃねぇか」
揶揄れば、嫌そうに顔をしかめる。
「冗談言うな。それでなくても本家で食事会が入ってて気が重いというのに」
「諦めな。年齢的にもそろそろ結婚して落ち着く頃だ。いつまでも優雅に独り身じゃハン家の当主も名乗れねぇぞ」
ギエンの言葉に益々しかめっ面をして、
「…当主の地位に拘りは無いがな」
ぼそりと呟く。
「…」
顎髭を摩りながら、店内を見て回り、次に足を止めたのは髪飾りのコーナーだった。

宝石の埋め込まれた髪留めは、男の二人が見ても感動は無い。それでも、手の込んだ作りと際立つデザインは一際目を引く代物で、
「これにするか」
一目惚れしたようにハバードが手に取る。
覗き込むように手の中を見たギエンが、
「セセ・リョクザ家の令嬢ってどんな子だ?リョクザ家は分かるが、いまいち覚えてねぇな」
記憶を探るように言うのを、当然だとハバードが頷く。
「ミラノイは当時、13歳だからな。もっと同世代の若いやつと婚約すればどうかと何度か言ってるんだが…」
「ふーん。お前がいいって?」
ニヤリと片笑いを浮かべたギエンが、からかう。
それを聞き流して、
「そうだな。本音は知らん。向こうも代々の貴族だ。ハン家と深い縁を作りたいだけかもしれん」
やけに真面目な答えが返ってきた。
「関心ねぇなら、さっさと断ってプレゼントなんて送らなきゃいいだろ?」
呆れたように言うギエンの言葉に、ハバードがずいっと顔を近づけて、
「簡単に言うな、ギエン。うちにも武器やら何やら卸してもらってるしな。親同士の決めた婚約者だが、彼女自体は俺にはもったいないくらい出来た女性だぞ。しばらくは向こうが飽きるまで大人しくしてるさ」
黒い瞳が鋭くギエンを見た。
「俺には家名の縛りなんて分かんねぇけど、そう言ってる間に気付いたら結婚してんじゃねぇの?」
何気なく言った言葉に、
「そうなったら、それはそれでまた縁だろう?」
ハバードが否定もせず、すんなりと受け入れた。
「…」
ハバードらしいといえばハバードらしい。ハン家の重みはオール家とは全く違う。ハバードの背負うモノも全く違うのだろう。

ハバードが店員を呼び、手に取った髪留めを包装するように指示する。
驚くほど高額だが、ハバードからすれば大した事はないのか、手慣れた動作で会計を済ませ、無言のギエンを振り返った。

「俺の用事は終わったからギエンの用に付き合うが、予定は?夕飯は奢ってやるぞ」
そう訊ねるハバードは全くいつも通りだ。
「…そうだな、とりあえずゼク家に魔術訓練して貰うから、その手土産選びを手伝ってくれ。俺は街の流行に疎いから、どの店が人気か分かんね」
ギエンの言葉に大きく笑って、
「俺の言う通りに買っておけば間違いない」
自信たっぷりに答えが返ってくる。
「決まったな、さっさと出よう。この店は居心地が悪い」
ギエンの言葉に同意して足早に店を出る二人だ。


その後、巷で人気だというカカオ専門店で手軽な菓子を買った後、城の近くまで戻ってくる。
見えてくる城の姿に、ふと思い出して、
「そういえば、こないだゼレルと新しく出来た射的場に行ったんだが、結構難しいのな。魔術が使えないお前には練習しとくと丁度いいんじゃね?」
そう勧めれば、意外そうに眼を丸くして、
「ゼレルと射的場とは珍しいな。あいつは飯のイメージしかない」
ハバードが笑って答えた。
その言葉に同意の笑いを返す。
「ゼレルって図体の割に器用だよな。賭けたら負けちまって、とんだ目に遭った」
「何を賭けたんだ?金では無いんだろ?」
ハバードの追及に言葉が止まる。自分の失言に気が付くギエンだ。
「…別にいいだろ」
一瞬の無言の後、声のトーンを下げたギエンの言葉に益々ハバードが食いついて、
「夕飯を奢ってやるんだから、教えろよ」
面白がるように口元を緩める。
横目に見たギエンが舌打ちを返し、
「何か知んねぇけど、あいつ俺に惚れてるみたいで、まぁ、…その、俺が負けたらキスをするってなって」
そこまで言って、ハバードが吹き出して大笑いをした。
「お前ら、ほんっと下らねぇことやってるな!」
「てめっ…」
言ったことを後悔するギエンだ。

「やっぱり、言うんじゃなかった」
小さく愚痴るギエンを一しきり笑った後、
「折角だ。俺らも勝負に行くか!」
肩に腕を回して強引に射的場へと向かった。
「おい、行かねぇよ!」
ギエンのクレームに、
「なんだ、俺に負けるのが怖いのか」
ハバードがにやりと笑って答えるのを、黙って見過ごすギエンでもない。
「馬鹿にすんな。負ける訳ねぇだろ」
昔からハバードとは競い合ってきた仲だ。プライドが呼び覚まされ、急速に対抗心が芽生える。
「俺はやった事ないから、ハンデあって丁度いいだろ。ゼレルと同じで、負けたら何か賭けるか」
クスクスと笑うハバードに苛立ちを募らせ、組まれた腕を無理やり剥がす。
「ハバード、負けたら一日中、俺の世話役な。ちゃんと傅いて俺を敬え」
ギエンの強気な言葉に、
「なら俺も、ギエンがもっとも嫌いそうなものを賭けるか」
顎髭を指で擦りながら、口角を上げる。
「なんだそれ」
ギエンの問いに悪どい笑いを浮かべ、
「ゼレルと同じものを」
「っ…!」
驚くギエンを可笑しそうに見て、自信に満ちた笑いを浮かべた。

「…それ、お前にとっても罰ゲームみたいなもんだろ…」
心底嫌そうな顔をして小さく呟くギエンの言葉に、笑みを深めて、
「お前の嫌がる顔を見るためなら、どうってことないぞ?」
あろうことかそんな言葉を吐く。

「つくづくねじ曲がってやがる」
ギエンの文句を心地よさそうに笑って、
「じゃ、決まりな」
ハバードが明るい声で言った。こうなったら腹を括るしかない。ゼレルには負けたが、ハバードに負けると決まった訳でもない。
むしろ、一日大人しく自分の世話役をするハバードも大層見物だと思って、俄然やる気が出てくるギエンだ。

その後、延長の延長で数時間とゲームに熱中する二人なのだった。


2021.08.08
正直、ハバードが負けても、ギエンが負けてもどっちも美味しい展開(笑)
どっちがいいかな〜?|д゚)
ギエンに跪くハバードとか超美味しくなぁい?ついでにギエンの足にキスとかして欲しい(笑)
従者ってそういうモノだよね?そうだよね?|д゚)?!
とか血迷ってみる(笑)

拍手、訪問ありがとうございます‼
コメントもありがとう(*ノωノ)!ハバード派は少数かもしれないです(笑)
私もかなりハバードは好きなんですが、なんとなーくゼレルか、ダエンの方がCPとしては好きな人が多いのかなぁ?という気がしないでもない…(笑)
ハバードとのイチャイチャは果たしてやってくるのか…(^w^*)‼笑

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