【創世編,流血多,イリアス】

 *** 11 ***


聖堂の蝋燭に火を灯し祈りの言葉を口にする。信者が帰った後の聖堂は日中の雰囲気とは別物のように薄暗く不気味なほどの静けさだった。

天窓から差し込む月の光がステンドガラスを通って七色の光を床に映す。その光を見つめながら唐突に先日の出来事を思い出していた。

負った傷をあっという間に治してしまったセイン。
眩い光と迸るような生命の輝きが力強くて、その治癒の力の凄さに知らず鳥肌が立つ。溢れる光の渦と七色の血が華やかさを競演するようにセインを取り巻いていた。一つの芸術を見るような美しい光景とゆっくりと開かれた瞳の無機質な色に彼の本質を見た気がして、胸が痛んだ。

棘のある美しさだ。
過去に何があったのかは知らない。どうして和平を望むのか、その理由さえモノイは知らなかった。
ただ、それを望む彼の決意が並大抵のものではない事は感じていた。
とても大きなモノを喪ったのであろう事も推測の付く決意の深さだ。


思わず抱き締めようとした手の平を見つめ握りしめる。
そんな衝動を抱いた自分が信じられなくて不思議でさえあった。


討伐後、セインと二人っきりの帰路は口論するでもなく静かなものだった。
一言二言会話をして、また黙々と歩いての繰り返しで、でもそれが不快なものでもなかった。
道中で取った野宿では火を起こしただけの環境であったにも関わらず、躊躇わずに地面に横になる姿を見てどんな生き方をしてきたのか容易に知る。
着ていた法衣を掛けてやれば、クスリと小さく笑った。
そのまま寝息を立て始める顔を見つめる。端正な美貌は傷はおろか、染み一つすらない。
炎の揺らぎが白い陶器のような美しい肌に長い睫毛が影を落とす。
頬を撫でれば、滑るような柔らかさだった。


彼を許容してしまうのは、その見た目が人間そっくりだからだろうか。
答えの出ない自問をしてこの状況はなんだと客観的に分析する。
相手は魔族だと何度心に刻み付けても一度居着いた存在はそう簡単に去ったりはしなかった。

だが。相手はそうではない。
目的を達した彼はこの街に、この国にもう用は無いのだ。

ましてや。
自分にはもっと用が無いだろう。
近い内にこの国を去っていく相手を思い返して、引っ掛かりを覚えるのはやはり毒されている証拠だと自嘲の笑いを浮かべた。
そう思いながらも心のどこかで放っておけない己がいて、諦めの気持ちが浮かぶ。

どうしてるのだろうかと思い描いて、しょうもない事だと緩く頭を振るのだった。



*****************************************



ユーリアはセインが何をしてどこの国の人間なのかも知らない。それでも、セインという存在そのものに惹かれていた。それは命の恩人ということもあるが、セインの纏う雰囲気、気遣いや時折浮かべる表情、その見目のよさ、全てが好きだった。
セインに1日会えないだけで心がざわつき、気分が上下する。セインの存在を探して街をうろついては家に戻っての落ち着かない日々を過ごしていた。


セインがユーリアに会ったのは、討伐から戻ってきた翌々日のことだったが、いつもの場所で会ったユーリアに突然、腕を組まれて体を震わせた。
ユーリアは非常に大人しく可憐な印象を与える女性だが、時折見せるその積極性は驚きの対象だ。
「どうしたの?」
セインの驚きを感じなかった筈はない。小さく首を振ってセインの肩に顔を埋める。

これは。

人間の世界では恋人同士がする行為ではないだろうか。

セインの中で疑問が沸くと同時に、そんなことをしていいのかという葛藤が生まれる。
ユーリアを傷つける結果しか生まない事が目に見えてわかっているだけに、傷は浅い方がいいというマイナス思考が働く。
そんなことを考えていると、
「…すき」
小さな声でそんな台詞が耳に届く。

「…」
返答に窮して固まるセインだ。
考えあぐねた結果、選んだ回答は沈黙だった。
特に気にした風でもないユーリアがセインの手を引いて小さな店に引き込む。質素なデザインの服を手に取り、セインに宛てがった。
「何着ても似合うね」
満面の笑みで言われ、はにかみを返す。満更でもないセインの態度が余計にユーリアを惑わせることにも繋がるが、邪険に返すことも出来ない。

その日はずっとそんな調子で、そろそろこの街を発つこと、そしてユーリアとはそういう関係にはなれないということを伝えることも出来ずに終わった。

セインの中でも一つの躊躇いがあった。
そんな事を伝えずユーリアの前から黙って去ってしまえばいいのではないかという考えもある。酷いやり方ではあるが、馬鹿正直に全てを伝える必要などなく、ユーリアもまだ若いのだからすぐにその傷も癒えるだろう。
考えれば考えるほど、それが最善な気もして益々言うのを迷っていた。
こういう時に、ふと思い浮かぶのはモノイだ。自分が魔族である事を知っていて、客観的にはっきりと意見を言ってくれる相手は有り難い。唐突にモノイのふてぶてしい顔を思い出して何となく会いたくなってくる。

別れの前に。
もう一度。
ゆっくりと話しをしておきたかった。


その翌日の朝早くから、早速モノイがいるであろう聖堂へと向かう。
セインの姿を見たモノイが開口一番で、
「その首飾りがお気に入りなんですね」
言った台詞はそれだった。
首元に掛かる物を軽く掬って音を立て、その言葉に答える。
モノイと和解したというよりは、討伐から以後は特に用もなく会いに行ける関係になっていた。
以前なら何のためにという葛藤があったのに、今は何の躊躇いもない。

聖堂の椅子に腰掛け、偶像を崇める人々を習って形だけの祈りをするセインに苦笑して歩み寄ってくるモノイには以前ならあったような険は一切なく、共に戦った仲間のような親近感を感じさせる表情だ。
「これなら人間みたいにいられるから」
そう答えるセインに苦笑を浮かべた。
セインの苦労もよくわかる。首飾りがなければすぐに魔族だと分かる異質な目だ。
魔国と和平を結ぶこともまだ公にはしていない現状では、到底人々の許しは貰えない。
とはいえ。

その異質な目が、らしくて好きだとは口が避けても言えないモノイだ。それは魔族の存在を全面から肯定することになる。そこまで認めきるには抵抗もあった。
魔族であるセインが見せる無機質な瞳の色と熱を宿す強い眼差しが脳裏に焼き付く。思わず目を奪われるその瞳は思考を停止させるほどの美しさだ。
それをもう一度見たい気もして、胸の内で即座に否定した。

「王に貰っていいかと聞いたら国宝だから駄目だと言われてしまったんですよね」
さらりと言った言葉に驚いてすぐに笑いが込み上げた。

それは断られて当然である。
モノイのそんな気も知らず、セインが名残惜しむように首元を撫でた。
「魔族なのだからそうすべきでしょう。いつまでも人の振りでは本当の意味での和平は結べない」
鋭い返しを受けたセインが真剣な目を向ける。
「分かってますよ」
難しさい表情を浮かべるセインの心情はよく分かる。それが出来ていたら苦労はしないだろう。
事実、その通りでセインは人との関係づくりに悩んでいた。結局、ユーリアとの関係も偽りの関係でしかない。ユーリアに限らず、彼が魔族だと知れば、セインを人だと思って接している多くの人がその事実を拒絶し、畏怖するだろう。それを想像すると人間とは決定的な境界線が存在している気がしてどうにもできない気がしてしまう。

考え込むように沈黙するセインをモノイが静かに見つめていた。
しばらくのあと、ふと入り口に人の気配を感じて振り返る。

清楚な白のワンピースに黒髪が良く映える。
モノイの動きを追うように視線を変えたセインに驚きの表情が浮かんだ。
「…ユーリア」
ここに来るのは怪我が治った以来である。微笑みを浮かべてセインの前まで来て、モノイに会釈した。
「ここにいるかなと思って来ちゃった」
はにかんで言う様子から、自分でも思いきった行動をしたと思っているのがよく伝わってくる。
ユーリアのその想いに笑みで返すセインだ。

「どこか行こうか?」
折角きたユーリアに気を遣って誘えば緩く首を横に降って、モノイを見上げた。
「お二人でお話の最中だったのでしょう?私はセインの顔を見に来ただけなので、気にしないで下さい」
柔らかにそう言ってセインの横に寄り添った。腕にするりと華奢な手が絡まりセインを惑わす。

戸惑うセインを敏感に察するモノイだ。
ちらりと顔色を窺って、次いでうっとりした表情で肩に顔を埋めるユーリアを見る。


人間と魔族。
そんな関係をすんなりと受け入れられない自分と同じように、セインもそうなのかと意外な想いで対応に困っているセインを見た。
それにしても。


異常な懐き具合だ。
いくら命の恩人だからといって、ここまでべた惚れするものだろうか。
ユーリアは確かに純粋で穢れない少女だ。善意を向けられれば疑いなく受け入れ、好意には真っすぐに答える素直さがあった。
ただ、助けてくれたという事実だけでここまで傾倒するのは些か奇妙な事のように見えて、わずかに首を傾げるモノイだ。

セインの一挙一動を見つめる。
何ら妖しい行動もなく、されるがままになっていた。
普通の人と比べ違う点を強いて挙げるなら、ただただ優しいくらいである。


「モノイ」
セインの小さな声が思案するモノイの耳に届く。
ふと視線を合わせれば、何かを訴える強い目とかち合った。淡い茶色の瞳が光を宿してキラリと輝く。
綺麗な目だ。
傷一つない、充血すらない生まれたての赤子のような目で、訴える姿はその容姿と相まってやけに脳裏に焼き付いた。


こういう所が、彼女を惑わす原因かと疑問を抱いて相手の意図を視線で問う。
緩く首を横に振ったセインがユーリアの頭をちらりと見て次いで、モノイに再び視線を戻す。
どうにかして欲しいという切実な訴えを、気が付きながら素知らぬ顔で無視した。

セインの問題だ。
モノイが口を出す事ではない。
その気が無いのならハッキリと言えばいいだけの事であり、セインがどうしたいのかもわからない。
そんな事を思っていると、
「ユーリア…。ここは聖教院だよ。公共の場での行動は慎まないと」
躊躇いがちなセインの静かな声が窘めた。
顔をあげたユーリアがセインをじっと見つめた後、そっと身を離す。
素直に従ったその姿はユーリアの性格ゆえなのか。それともセインの魔族としての力がそうさせるのか、ついあらぬ疑いをセインに掛けてしまうほど従順だった。

「僕はモノイと大事な話があるから、今日は帰って貰ってもいい?明日、ユーリアの家まで迎えに行くから明日会おう」
顔を覗き込むように小首を傾げて、ユーリアの目を覗き込んだ。

彼女の瞳にセインの姿が映り込む。

「ね、ユーリア」
甘い声がそう言うのをうっとりした目で聞くユーリアだ。
こくこくと小さく何度も頷く。
「明日、待ってる…。セイン、愛してるわ」
すっと。

背伸びして、
「ッ…」
唐突にセインの唇にキスを落とす。
動きを止め固まったセインに、手を振って踵を返した。
「…」
唇を押さえたまま去って行く背中を見送る。

その様をモノイが呆れたように見つめて、固まったまま動かないセインの肩を叩き現実に呼び戻す。
「っ…!」
「色恋が初めてでもあるまいに、そんな初心な反応は止めて下さい」
肩を震わせたセインの反応を咎めて言えば、心底困った表情でモノイをじっと見つめてくる始末だ。
「知ってるでしょう?僕の血は毒だって」
突然の問い掛けに付いていけず首を傾げれば、セインが緩く唇を開き自分の指を銜えた。
人差し指を舐めて濡らす。

何気ない動作がやけに官能的で思わずどきりとさせられる。どういう意図かとセインを見つめれば、
「毒なのは僕の血だけじゃない。僕の体液は全て毒だ」
濡れた指を立てそう告げた。

特に驚く事ではない。
見つめ合ったのは数瞬だ。
「だから何です?」
大した事ではないかのように突っ返して問い返す。
一瞬、押し黙ったセインがすぐに反論した。
「これは重要な事だよ。人間が僕の体液を取り込めば普通ではなくなる。ほとんどが1週間以内に死ぬし、運よく助かってもそこに元の人格は無い。だから人と接する時は気を付けなければ…」
「それは推測ですか?事実ですか?」
躊躇いなく突っ込んでくるモノイに隠す必要もない。素直に頷きを返して事実だと告げた。
「相手が魔族であれば死ぬ確率は減るが、それでも大抵が自我を喪う。これは僕の意識とは無関係で僕にはどうにもできない。
ユーリアにキスされてぎょっとする理由が分かるでしょう?」
切実に訴えるセインに、モノイが短く同意をした後、唐突にセインの指を手に取った。
「今、私がこの指を舐めれば同じように死ぬという事ですか?」
流れるような動作で捉えた指を銜えようとする。
「っ、…!やめろっ…て!」
素早い動作で相手の手をから自分の指を取り戻す。彼に取られる事のないように胸元で拳を作った。
「それで俺を慰めているつもりか。絶望に突き落とすだけだ」
いつにない剣幕のセインを見てそれほど確実な事柄なのかと知る。
とはいえ、頑なに拒絶するセインをどうにかしたくて、
「ここ一月の貴方をみる限り一番危険なのは血でしょう?貴方だって汗をかく。それに触れたからといって、目に見えて害があるわけじゃない。唾液も同レベルに見える」
客観的に観察した結果を伝えた所で、セインの目は拒絶の色を宿したままだった。
「血ほど強くはない。けど…唾液でも確実に害がある。これは人とキスした結果だ。魔族であればまだそうでもない。頻度にもよるけど、少しずつ相手を狂わせるだけの力はある」
忌々しく吐いたセインの言葉は諦めの言葉でもあった。
聞いていたモノイが僅かに思案した後、セインの顎を掴み上向かせる。
「首飾りで魔族の力が制御されている現状でも?」
そう言った相手の意図を素早く察するセインだ。掴む手を解き、
「実験なんかしない」
相手の善意に甘えるでもなくハッキリと断った。
「今の僕が人に近くて万が一、大丈夫だとしてもリスクは侵さない。
モノイが普通の人と違うとしても、この事実は誰が相手だろうと変わるものじゃないんだ」

静かなその言葉を受けて、沈黙が続く。

軽くため息を付いたモノイが慰めを諦めたように身を引いた。
「最初の相手は意図せず殺してしまったんですか?」
無言の後の言葉は不躾な質問だったが、セインの神経を逆撫でするものでもない。
「容易に想像つくでしょう?」
モノイの真剣な眼差しに、ため息交じりの言葉を返す。
「好きになった相手はみんな死ぬんだ。こんな最悪な事はない。この能力が俺の強みでもあるけど、ね」
「セイン…申し訳ない事をしました。ユーリアとの関係をけしかけてしまった部分があります。人間と魔族、貴方の理想を体現した形だ」
「そんな簡単なものでは無いことを知っている癖に」
間髪いれずに否定するセインが僅かに怒っているのを感じて押し黙る。
セインの事は何一つ知らない。
だが、セインが時折漂わすどこか冷めた空気感の謎が解ける。
「誰かを好きになった時…どうするんですか?」
相手を更にイラつかせる質問であろうことは分かっていたが、聞かずにはいられなかった。
モノイの疑問も尤もである。

セインが小さな自嘲の笑いを浮かべてそれに答える。
「どうするも何もそこまで好きにならないだけですよ。いくらでも自制はきく。相手を殺してまで関係を結びたいとも思いませんしね」

それがたどり着いた結論なら何も言うべき事は無い。とはいえ、誰かを深く愛するという行為を、そう簡単に自制できるものなのだろうか。セインの瞳をじっと見つめ返して他の感情を探る。色を変えない瞳が一切の動揺も浮かべず見つめ返してきた。

「モノイ。貴方が思っている事は分かる。時折、この相手なら大丈夫じゃないかと思う時もある。けど…」
そう言って言葉を切る。

口角を上げて、小さく微笑みを浮かべた。
先ほどまでは全く変化の無かった淡い茶色の瞳が初めて色を変える。

「彼が…、人では無くなってしまった昔の事を思い出すと絶対に無理だと思うんだ」
前髪がさらりと流れセインの目に掛かった。

一瞬。

泣いているのかと思ってどきりとした。
笑みを象る唇が緩く開いて小さな息を吐く。

「あんな苦しみは一度で十分だ」
言葉とは不釣り合いな笑いが余計にセインの揺らぎを感じさせた。
「人との和平は望むけど、そういう関係は望まない」
モノイの胸に指を掛けて軽く押す。
「ユーリアとひっつけようとしても無駄だ。俺にはあり得ない話なんだ」
「…その件はすみませんでした」
珍しくも、すんなりと謝罪した。
セインの痛みを感じて、言うべき言葉が見つからなくなる。
どんな言葉を言った所でなんの意味もない事は分かり切っていた。

「モノイ…。折角の好意をすまない。貴方が言うように、こんな物を嵌めた所で俺はどう足掻いたって魔族なんだ」
小さな笑みを浮かべたままそう言って背を向ける。
去って行く背中を見送るしか出来なかった。


魔族と人の決定的な違いをまざまざと見せつけられて、どうしたって埋める事の出来ない溝を見つけてしまう。

「和平を望む…貴方自身がそれでどうするんだ」
小さな嘆きはセインには届かない。
振り返る事なく出て行った背中に向かって呟かずにはいられなかった。





2016.08.16
こないだ、すごい事に気が付きまして。なんとこのイリアスシリーズ、開始から1年経ってます…。
う、うそだぁ〜?…いや、本当なんです。私もビックリ…( Д) ゜゜。ちょっと頑張って更新進めます。
まぁ、安心してください。もうじき終わりです(笑)。






 *** 12 ***


翌日のセインは昨日に比べすっきりとした面持だった。
モノイと話したことでユーリアとの接し方が明確になる。最終的な終着点が分かり切っているのだから、そもそも悩む必要などないものだった。

何も伝えずに去ろう。
そう心に決める。

ユーリアは自分の事を何一つ知らないのだからセインが消えた後、追い掛けようが無い。年も生まれも素性も、何一つ。

その無条件の好意を嬉しく思う反面、ユーリアが自分のどこに惹かれているのか全く分からない。本当は別の要因からくるものではないかと思ってしまうくらい理由が分からず、首を傾げる。
そもそも、セインの心中では常に『自分は魔族だ』という意識がある。それを自覚して人と接しているため相手が自分を好きになる訳が無いという意識が根強かった。それに対して、ユーリアにとってみればセインもただの一人の人間に過ぎない。
その意識の違いもあったが、セインにしてみればそんな事は思考の外の話だ。


理由なんか気にする必要も無いのかもしれない。



ユーリアの笑みを思い出し、ふと胸が暖かくなるのと同時に申し訳ないという気持ちが起こる。
昔から欲しくて堪らなかったモノを手に入れておきながら、自らそれを捨てる気分だ。人間の恋人が欲しい訳ではない。ただ人との繋がりが欲しい。和平のために、というよりは心が望むモノとして身近に人の存在を感じたかった。

セインが特にそう思うのは、人として生きてきた過去と、意図せず人を人であらざるモノに変えてしまった過去があるからだ。その後悔と経験が余計にセインをそうさせる。


ユーリアの家に向かいながら、物思いに耽る。
首飾りを弄りいながら慣れた道を進んでいった。
通り過ぎる人やすれ違う人々が視界の端へと消えていく。それを認識する事すらなく、頭の中はユーリアやモノイの事、人間との関係性についての思考で溢れていた。


次第に中心街から外れ、人気が減る小道まで来る。
身体が覚えた道順を考えもなしに曲がった所で。


ふいに、
「っ!」
横から腕を引かれた。


反応が鈍ったのは、どっぷりと思考の中に沈んでいたからだ。


鼻をくすぐるのは、目も背けたくなるような刺激臭で嗅ぎ覚えのあるものだった。
男が二人、セインを前に殺意を宿すのを感じる。
それと同時に、その刺激臭の正体を思い出した。


魔族退治に使われる毒液花。世間に広く使われているとは言えないが、対魔族武器としては高価な代物でその効果も信用が高い。
セインもその存在は知っていた。

その効果を思い出すよりも先に、後ろから伸びた手が顎を持ち上げ開いた口に瓶先を押し込む。一気に口内に流し込まれた熱い液体に痛みが走って、喉が鳴り吐き出そうとするも、口内一杯に満たされ飲み込んでしまう。
「ふっ…!」
唇から溢れた液体が零れて服を濡らしていった。

「っ…か、ッは…ァ!」
灼けるような熱さと痛みで咳き込み、自然と前屈みになる身体を羽交い絞めする男が無理やり引き摺り起こした。顔を上げさせて、
「こないだは世話になったな」
憎々しげな声で囁く。

腕に彫られた入れ墨に浅黒い焼けた肌を見て、相手の正体を悟るセインだ。
濡れた肌が焦げる音を立て赤く跡を残していく。
息を切らすセインの片腕を捩じ上げ、以前にセインがその男にしたように思いっきり捻り上げた。

腕がミシミシと音を立てる。
「っ…!」
痛みで呼吸が乱れ、僅かに止まった。
目の前に立つ男がセインの腹目がけ、追い打ち掛けるように何発も拳を入れて更なる暴力を繰り出す。


殴る蹴るを繰り返してセインの抵抗を奪った。
ずるりと脱力する身体を引きずり起こして、セインの頬を殴る。
「っ…は、…ぁ…。
まさか、…1か月も前の、復讐とはね…、情けない」
血が滲む唇を舐めて小さく笑ったセインを余裕の態度で聞き流す男たちだ。
「毒液花ってすっげぇ貴重だけどな。魔族には本当によく効くぜ」
言って。

毒液花の液体が入った瓶をセインの頭に振りかざした。
咄嗟に目を瞑るも僅かに遅く、
「ぁ、ッァ…っ!」
セインが小さな悲鳴をあげた。簡単に割れたガラスの音と水の掛かる音が耳元で鼓膜を揺さぶる。
刺激臭が鼻を狂わせ、喉を震わせ、目の奥を焼いていった。

粘度の無いサラサラとした無色透明の液体が髪を濡らし、頬、顎をたどって上半身を先ほど以上に濡らいく。全身に激しい虚脱感と痺れが襲い、力が抜けていった。
「は、っぁ、…は…ッ」
緩く開いた唇が短い呼吸を繰り返し、絶え絶えの息を漏らす。
それでも、セインの態度は変わらない。

涙で濡れた瞳を眇めて、目の前の男に鋭い視線を送った。
「愚かな…っ、殺せるとでも、思ってるのか…」
弱った体で。そう言ったその姿は、酷く。


煽情的で加虐心をそそるものだ。


濡れた唇が光る。目の端から液体が零れ頬を伝って地面に垂れた。
その姿に舌舐めずりする男だ。
「やべ…。こいつ、ぶち犯してぇわ」
「ッ…!?」
セインの目の前にいた男が唐突に熱を宿した声で呟く。
視線を落とすセインの目に膨らんだ下部が見えて体を強張らせた。
「ッな…」
唐突に頭を後ろから押され男の下腹部に顔を押し付けられる。
「奇遇だな。俺も同じ事を思ってた所だ」
臀部に服の上からでも分かる程、硬いモノが当たって戦く。まさかという焦りが浮かんで、身を強張らせた。
その動揺の中、目の前の男がズボンの袷を解いてするりとモノを取り出す。濡れたそれは触りもしていないのに既に起立して禍々しい気配を放つ。
それに顔を背けようとして、
「っ…ぅ、…!」
後ろから頭を更に押し付けられ、無理やり口づけさせられる。
唇が汚らわしいモノの先端に触れ、
「…ッ、んう…!」
ゆっくりと唇を押し開いて口内へと入っていく。舌が勝手に滑って男のモノを刺激しながら丸まると飲み込んだ。
毒液花を飲み込んだ口内は熱く灼け、感覚が麻痺している。味覚も壊れ、通常なら感じるであろうおぞましさが半減していた。口の中を滑る感触が気持ち悪い。口に突っ込まれた質量に口内が窮屈になって息苦しくなり、自然と舌が蠢いた。

「すっげぇ…。あちぃ…」
男の手がセインの濡れた髪を鷲掴む。反応を見るように腰を動かし始めた。
「ッ…ふっ…、く…ッ!」
上目遣いで睨むセインの視線は逆効果だ。男が愉悦の笑みを零して熱を宿す口内を犯し始める。

それを見て、後ろにいた男がセインの脇腹を撫で始めた。手がゆとりのある服をめくり胸の突起を刺激する。
咄嗟に反応を返すのは条件反射だ。魔族であろうと人であろうとそれは変わらない。
唐突に腰にあった布がするりと解け、秘部が曝け出される。
「ッ…!」
ぎょっとして息を止めるセインに気が付いて、男が笑った。
臀部に熱いモノが滑って何度も行き来する。入口を探るように押し当て秘部を濡らした。その感触に身をよじらせようとして、
「ぃ…ッ!っぁ、…ァ」
指が狭い入口を押し開いた。ぶちゅぶちゅと冷たいモノが後孔に流れ、塗り込められる。その気持ち悪さから背筋に鳥肌を立ち、小さな呻き声が洩れた。

その直後だ。
大して慣らしもせずに熱いモノが後孔を押し広げ強引に中へと侵入していった。
「ぅ、ぁあ、ァ…!」
痛みに悲鳴があがるも、塗られたローションが滑りを良くして男のモノをゆっくりと飲み込んでいった。
「っ…く…!」
すっぽりと収まる途中で前立腺を刺激していく。その感触にきゅっと入口が狭まって、
「き、つ…!」
男が苦悶の声をあげた。
「すっげ…、締まるっ…、こいつは初もんだわ…」
僅かに呼吸を乱した男が、セインの尾てい骨を撫でながら興奮した声で呟く。些細な刺激に背中を震わせて反応を返す様が、余計に男を刺激し喜ばせた。
「ッ…ぅ、…ふ」
口内を犯す男のモノが急激に質量を増し、挿入の速度を増していく。
緩い挿入を繰り返す後ろと息苦しい前の挿入で、感じているのが痛みなのか何なのか分からなくなっていくセインだ。

指先が痺れ感覚が麻痺する中、セインを揺り動かすそれは次第に大きなモノへと変貌していった。


ずるりと出し入れを繰り返すモノにぞくぞくと背筋が震え、前立腺が擦られる度に抑えられずに甘い声が洩れる。勝手に立ち上がった下半身からは甘い滴が零れ糸を引いて垂れた。
「っ…いい眺めだな…、おい」
男が乱暴にセインの片足を持ち上げ、一気に深く突く。ごりごりと腸壁を擦り深くまで届いたその熱に、頭を殴られたような衝撃を覚えくらりした。身体が勝手に熱を宿して快楽に震えて蕩けていく。
「っは…、ッ…んぁ…」
快楽に堕ちるセインを嘲り、弄ぶように浅く深く緩く、速く挿入して更なる深みへと落としていった。
甘い痺れに頭が働かなくなる。内臓を焼く熱が全身の痺れを伴って身体を駆け巡って行った。
「ふっ…ぁ…」


唐突に。
口内を圧迫していたモノが引き抜かれ顔に濡れたモノが掛かる。
整った美貌が白い液体で穢され、酷く背徳的な気配を醸し出した。緩く開いた唇に白濁とした液体が流れ口の中へと入っていくのを、赤い舌が揺らめいて舐め取る。

水分を含む茶色の瞳が僅かに色を変え、甘く蕩けて更に男を煽った。
「ッ…!やべぇ…」
ぞくりとする男だ。イッたばかりだというのにその表情に下半身を刺激され、凶暴な思考が頭をもたげる。


乱暴な動作で犯していく男たちを相手にセインが壊れるという事は無い。それ以上の官能さで彼らを更に凶暴にさせていく。それは彼らの人生を狂わせるほど危険なものだ。
セインの身体は味わったことが無いほど、熱くて煽情的だ。適度についた背筋が誘うように動き、引き締まった身体が蕩けて淫らに蠢く。


魔族で、その上、男であり、復讐をしに来ただけだというのに。



そんな事を忘れてしまうほど、堕落的な肢体だった。
二度と、他の相手では満足できない程の。
危険な身体だった。





2016.08.26
ふー。突然のこの展開です(笑)。ここらでぶっこみたくなりました(笑)。
今日も暑いー…。
セインが人へ近づいていくなら、世界〜の主人公は魔族に近づいていく感じですよね(笑)。
とこれを書きながらふと思います(笑)。







 *** 13 ***


体内に何度も熱いモノを吐き出した男たちが満足した頃には、セインを苦しめた毒液花の効果はだいぶ薄らいでいたが、特に報復するという事も無かった。
乱れた服装を正した彼らが、地べたに倒れたままのセインに下卑た嘲笑いを投げる。
「ハッ!人間に犯される魔族なんてさぞかし滑稽だな」
興奮覚め止まぬ声でそう言って、精液でどろどろになった下肢を見下ろす。
「またヤッてやるよ。別嬪さん」
のめり込んだ自分たちを誤魔化すように荒々しい口調で言ってセインを貶めた。他の身体では満足が出来なくなる錯覚がして、意図的にその感覚を排除する男たちだ。

焦りの宿る笑いを残してあっさりと去って行った。


殺しに来たんじゃないのかと妙に冷静な突っ込みを心の中でして、道の角に消えていった二人を見送った。
金目の物も盗らず、犯して満足とは随分と生ぬるいものだ。
セインがいくら人寄りの思考とはいえ、根本は異なる。敵であれば留めを必ず刺すし、容赦はしない。

彼らがいなくなった先を見つめる。
自分と交わって死ななかった人間は稀だ。腹が立つ話ではあるが、むしろ彼らの今後の方が気掛かりではあった。生きていようが死んでいようがセインにはどうでもいい事ではあったが、殺す程の大罪人でもない。間接的に手を下したとあっては後味も悪い。
とはいえ、気になる事もあった。
今の自分は魔族というよりは人間に近い。この状態で人と交わった時にどうなるのか、それは未知の領域だ。その確認の術がない事が惜しまれた。


考えてもきりがない事かと思い、重い身体を起こす。
その拍子に後ろからどろりとしたモノが流れ出て、肌が粟立った。
「ぅわ…」
この状態でどうしたものかと思案する。一先ず脱がされた下を履き乱れた格好を整えた。
この近辺で身体を洗えるような場所が無い。
思いつくのはモノイがいる聖堂だが、この状態でそこに行くのも気が引けて城のある方向へと足を向けた。

ふと今日の予定を思い出して、彼女の顔が浮かぶ。
心の中で謝罪して、夜遅くなら会いに行くのが可能かと計算して来た道を返していった。
体内をじりじりと焼く毒液花の名残を意図的に無視して、平静を装った。街の中心に近づくにつれ人が増えていく。いくら平静を装った所で、人々の視線は刺さるものだ。それは中々味わった事のない羞恥だったが、頭の芯が痺れて思考がまとまらない事が幸いだった。


城に辿り着いた時、セインは『いつも通り』を装っていたがその成は普段とは大分違う。
門番がぎょっとした後、特に追及せずに中へと招き入れた。道中ですれ違う兵が少なかったのは幸いだろう。

一度、首飾りを外せば良かったかと思案しながら部屋へと辿り着き、入口で見張る兵にリガードを呼ぶよう頼む。すぐにやってきたリガードが部屋に入った途端に眉間に皺を寄せた。
「…何か、あったんですか?」
それは疑問ではなく確信のある質問だったが、そう訊ねずにはいられない。

伸びたシャツによれよれの汚れたズボン、顔には殴られた跡と血が付着していた。淡い茶色の髪には汚れがこびり付き、赤い爛れが顔や首、胸元に残る。
誰がどう見ても、何かがあった姿だろう。

相手の珍しくも焦った顔にセインが小さく笑う。
「身体を洗いたいんですが、用意して貰えますか?」
質問には答えずにそう訊ねれば、リガードがすぐに頷いた。

本来であれば決められた時間に城内の物を利用するのが決まりである。お湯はすぐに用意出来るものでもなく、兵士には兵士用の、王族には王族用の浴場があり、客には客人用の物があったが、セインがこの滞在で使用を許されていたのは客人用の、それも一番最後の時間帯のみであった。
それはセインが魔族だからに他ならない。一番最後であれば水に何らかの仕掛けをしても害は無く、翌日に浄化されてしまうからだ。
セインの我儘に答えたリガードがいそいそと部屋を去り、セインを呼びに来たのはそれから僅か10分後の事だった。


「今は使用されていない第二皇女専用の浴場がありまして、そちらを用意させました。どうぞ、こちらに」
手に真っ新なタオルと着替えを持ってセインを招く。それに僅かに驚いて、
「大した事じゃないですよ」
リガードの不安を取り除く。それから今更気が付いたように顔を擦ってこびり付いた血の跡を拭った。

大した事ない訳がなかろう。
リガードが眉を顰める。

回廊を渡って、人気のない小さな塔へと入って行った。螺旋階段を登り、一室に辿り着く。木々が生い茂り窓から差し込む光を遮る。石壁に明かりを灯して、薄暗い部屋を照らした。
扉の無いその部屋は白い湯気が立ち込め、花の香りが部屋を満たしていた。曇った視界の中、水の流れる音が耳をくすぐり、心地よい世界を作る。
「少し狭いですが、ここなら静かですしゆっくり出来るでしょう」
言って傍らにタオルと着替えを置いて出ていく。
その背中に礼を言うセインだ。

石で積み上げた長方形の湯舟に、湯が並々と揺らいで溝へ流れていく。それを手で掬って顔を洗った。濡れた服を脱いで全身に掛ける。口に含んで濯ぎ、二度目は飲み込んだ。
体内を燻る毒液花が僅かに薄まるような気がして息を付く。
首飾りを取ってしまえば早い話ではあるが、都合のいい時だけ魔族の力を借りるのも癪であり、敢えて苦痛の道を選ぶセインだ。人ならばどうにも出来ない傷もある。セインにはその感覚が無いため、こうして人としてその傷を受け入れるのも一つの経験ではあった。

何度かバシャバシャと全身に被って、いよいよ身体を洗おうかという時になって、
「…大丈夫ですか?」
躊躇いがちの声が後ろから掛かり驚いた。
その声は、聞き覚えのあるものだ。そして、今、あまり会いたくない相手でもあった。

「もしかして…リガードが呼んだんですか?」
歓迎されていない事はモノイも感じたであろう。
入口で履物を脱いだモノイが羽織の裾が濡れるのも気にせずに、ずかずかと中へと入ってくる。膝を付いてしゃがむセインに合わせて腰を落とした。
「何があったかは聞かない。ただ何があったか容易に分かる貴方を見て、リガードも放っておけなかったんでしょう」
そう言ってセインの髪に付く汚れを指先で擦った。
身体に残る赤い鬱血の跡に視線が流れる。点々とその跡を辿るように下へといくのを感じて、珍しくも羞恥の感情が沸いた。
「っ…」
「貴方が抵抗できない状況というのは考えにくいですが、その爛れを見る限り考えられるのは毒液花かと思いますが、合ってますか」
つっと首筋から胸元へ赤い跡をなぞって尋ねる。その感覚にぞくりとするセインだ。

「モノ、イ…。僕はこのくらい一人で対処出来る。見た目ほど深刻では無…」
モノイの手が首に掛かりセインの言葉を奪う。小さく何かを呟いて、手の平をセインの腹へと当てた。
途端、
「いッ…!」
鋭い痛みが走って、咄嗟に振り解く勢いで背中を湯舟にぶつける。座り込むセインに伸し掛かるようにして腹へと手を押し当てられ、益々の痛みが走った。
「やはり毒液花ですね。使いようによっては強力な武器になる。ましてや飲み込んだとあっては当分はその効力が続くでしょう。再生力の高い魔族でも毒液花を飲めば死に至る事だってある。そのくらいの猛毒だ」
セインの反応を観察した後、そっと身を離して静かに告げた。
心配して言っているであろうその言葉に、セインがふっと鼻で笑って返した。

「僕が死ぬ訳ないでしょう?『再生力の高い魔族』ではなく、僕の力は『絶対治癒の力』だ。首を跳ねようが死む事はない。そのレベルになると意識とは関係なしに元通りになる。そういう力だ」
「だからって、」
言葉を切ったモノイが真剣な眼差しをぶつけてくる。
「放っておける訳が無いでしょう」
きっぱりと言って、セインの腹に手を置き詠唱を始めた。指先が淡い光を宿し白い煙が上った直後、火花が散るような光が目の前で小さく起こった。
「痛…っ」
チリチリと体内が灼けて、モノイの肩を掴む。
治すつもりではなく、傷つけるつもりなのか疑るような鋭い痛みが走った。
その痛みをやり過ごしてじっと息を顰める事、数秒間、ふっと身を離したモノイが懐から小瓶を取り出す。それに言霊を吹き込み小さな粉を混ぜた。軽く瓶を振れば、液体の色が透明から毒々しい緑へと変わる。
「中和剤です。これを飲めば毒は消える筈です」
「…」

どう見ても、毒にしか見えない色だ。どろりとしており、何を混ぜたのかすら得体が知れない。本来であれば素直に受け取るべきではないだろう。
モノイは人間であり、魔族である自分を殺そうとしても何らおかしい事ではない。今、ここで別の毒薬を飲ませれば確実に殺す事も可能かもしれない。
そういう思考が働いても不思議ではない状況だ。

それを躊躇いもせずに受け取り、一気に飲み干した。

「…」
沈黙の後、腹をさすってモノイの顔を見上げる。

効果は歴然だった。
急速に贓物の痛みが引いていく。
「さすが、聖者様だ。対魔族の効用に詳しい…」
一気に回復に向かっている気がして目を丸くしたまま何度も腹を摩った。
「当然でしょう」
感心した表情で見つめるセインの頬にクリーム状の液体を手で掬って塗った。爛れた個所を辿るように刷り込んでいく。
「5分もすれば爛れも引くでしょう。治癒の力に頼る事なく、治せますよ」
「…」
「貴方は我慢し過ぎだ。魔族である事に一番こだわっているのは貴方では?」
モノイの言葉にハッとした。

その通りかもしれない。
そう思いつつも。

「魔族と人は全く別の生き物なんだ。僕はそれを痛感してる。拘らずにはいられないだろう」
じっと見つめてくる瞳に、塗り込む手が止まった。
モノイが何か言いたそうに見つめ返した後、すぐに視線を逸らした。
湯を掬ってクリームの付いた手を洗い流す。タオルを濡らしてセインの身体を強引に拭い始めた。

身体中に残る跡が薄らいでくる。殴られた個所や蹴られた個所、爛れた個所が健康的な肌へと変わっていった。
「貴方の場合、情事の跡すら残らないんですね」
毒液花が浄化された事で後回しだった軽い怪我に治癒の力が及ぶ。セインが自分の身体を見下ろして、二の腕を摩った。
「ある程度の制御は出来ますよ。死んだ振りも簡単だ」
ぎょっとする台詞を言って笑った。笑わせようとして言ったセリフなのか自虐なのか判断出来ず、モノイが珍しく戸惑う。それを見て更に笑って、タオルを奪い取った。
顔を温めるように押し当て深呼吸する。
白い肌がさぁーっと赤くなって全身が一気に回復していった。
「言ったでしょう。魔族と人ではまるで異なると」

また。

自ら壁を作ったセインがタオルに顔を埋めながら籠った声で言う。
何度かタオルを湯に浸し身体を拭う。膝立ちしようと腹に力を入れた拍子に、
「っ…」
小さく呻いて僅かに動きを止めた。
「まだ、どこか痛むのですか?」
モノイの心配する声に首を横に振る。
「中に出されたモノが流れただけ」
あっけらかんと言ったセインの太ももを白濁としたモノがどろりと流れ落ちる。
「不快なモノを見せてすみません。本当はモノイには来て欲しくなかった。毒液花がどんなに強力であろうと僕には大した影響もないし、モノイが心配する程の事ではないのに…」
残念そうに言って首を振る。

桶で湯を掬い背中に掛けながら、軽い溜息を付いた。
「対等でいたいと思うからそう願うんだ。僕に『魔』を感じていない貴方は、こういう場面を見ると更に変な情が沸く。そういう情で視界を曇らせないで欲しい。だから知られたくなかったんだ」
視線も合わせずに切実に訴えてくる。
尻の狭間を手の平で拭って洗い流した。
「モノイが気にすべきは僕ではなく、むしろ犯した彼らの身だ。でもモノイは僕の力を知った上で僕を心配している。それは僕寄りに偏っているからだ。僕がただの魔族なら間違いなく彼らを心配する筈だ」
パシャパシャと水が床に跳ねる音が響いた。淡々というセインは決して強がっている訳ではない。

人と魔族。
それをごちゃ混ぜにしたモノイに対等な秤を持てと要求しているのだ。だが、納得のいく考えではない。それはセインの存在を一度でも認めた者なら誰でも思うことだろう。
「どこかで溺れている子どもより目の前にいる我が子を心配する、それのどこかいけないのですか。貴方が魔族であろうとそれは変わらない。人との繋がりというのはそういうものでしょう」
真向からセインの考えを否定すれば、彼がようやく視線を合わせた。

じっとモノイを見た後に、長いため息を吐く。瞳を閉じたセインが首の後ろに手を回し、付けていた首飾りを外した。
それをちゃらりと湯舟の淵に置く。

「聖者である貴方が、魔族である僕を心配しては調和が乱れると言ってるんです」
緩く開く瞳が。
決して人ではあり得ない色を浮かべる。

至近距離でその色を目の当たりにして、地面がぐらりと揺れ動いた。
すっと視線を逸らせたセインが何も無かったように湯を身体に掛ける。それから湯舟に全身浸かって、
「これなら僕が人間とは根本的に違う事がよく分かる筈だ」
視線を合わせないようにしたまま、小さく笑った。

セインの言うことが理解できない訳ではない。聖者が魔族を庇っているようでは人々の反感しか買わなくなる。セインが本当に求めるモノの為にはそういう秤が必要なのかもしれない。
「…」
沈黙の後、咄嗟に付いた膝を起こし立ち上がった。
「そうですね。貴方は魔族だ。余計な心配をしました」
濡れた裾を軽く絞って乾かすように叩く。
それから、『魔族』を曝け出して突き放したセインに視線を送った。

「セイン。私は貴方と友人だなんて言うつもりはない。ただ…、人と魔族、それだけで区切るには近づき過ぎた、そう思っています。私は人の目線でしか物を測れない。怪我を負えば心配するし、悲しんでいるなら慰めたくなる。相手が魔族とかではなくそれが貴方だからだ。そうされたくないなら、そういう姿を見せなければいいだけの事でいくらでも可能でしょう?」
言い捨てて背を向ける。そのまま出て行こうとする背中に、
「モノイ。分かってるよ」
落ち着いたセインの声が呼び止めた。湿気の含んだ部屋に反響して綺麗な声が耳に届く。
「君なら魔族の僕を諫めてくれる存在になれる。僕に寄る事なく平等な視点でいて欲しい。僕が人を殺めてもそれは仕方が無かったなんて言ってほしくないんだ。いつでも人を守る、そういう存在でいて欲しい」
足を止めたモノイが、セインの切実な願いを聞いて僅かに振り返る。

小さな声で。
言葉を返して、部屋を出て行った。


パシャリと水音が響く。
セインが満足げに口角を上げて、瞳をゆっくりと閉じた。

モノイに心の中で謝罪と礼を言う。
きっと。
更にいい関係を築けていけるだろう。



思い返すとリーン国はいい国だった。
人々の心が豊かで明るく、健康的だ。多少の荒くれ者はいても芯から腐ってはいない。

安心して和平を結べる国だ。
この1か月を思い出して微笑みが深くなる。


ついさっきあった出来事など頭の片隅に追い遣られるほど、満足のいく結果だった。






2016.09.04
平穏ですな…。
セインの話も書き始めて、既に5,6年経ってるんじゃないかと思うんですが、どうなんですかね(笑)。
何かテーマがあったような気がするんですが、もうすっかり忘れきっています(笑)。別に戦争とかそういう事を書きたい訳じゃなくて、むしろ逆だった気が…(笑)。
『戦争を平和なんて言葉で解決できる訳が無い』っていう…。甘ったるい事を言ってるなっていう苛立ちから生まれた話だったような気もしてます(-∀-`; )オイ。んで、主人公は冷酷で自己中の優しさしか持っていない、そんな話だったような…(笑)。
まぁ過ぎてしまったので良しとして(笑)、何だかんだで、セインも優しい男になってしまったのだった(;´艸`)
そういえば、セインの方の拍手文、更新しました(^▽^)ノ。押してくれると励みになります…(チラッ





 *** 14 ***


セインが出立を決めたのは花蝶祭の前日だった。

方々に別れを告げた後、会うつもりもなかったユーリアに偶然出会った。
旅立つ事を告げれば、綺麗な瞳から大粒の涙がこぼれ止まらなくなった。慰めの言葉をどんなに積み重ねてもまるで無意味で、最後には力一杯のビンタを食らうという結果になった。大泣きで走り去っていく彼女を呆然と見送る。
叩かれた頬は痛みすらない。
だが。

そのまま人ごみに紛れ消えていった彼女を見て最後に一目会えてよかったと思う。あのまま黙って去っていたら、もう二度と会う事が出来ない人になっていただろう。それがいずれの日にか、また会う事が可能な人へと変わる。彼女が見えなくなるまで見送ってから支度の為に城へと戻った。


王に面会して正式な協定を交わす。首飾りを返したセインに、何故か真王が笑いを浮かべた。
それは年相応に見える笑いだ。もっともその精神年齢はもっと上である事を薄々気が付いていた。イリアスと真王、二人の関係がどういったものなのか全く興味が沸かないといったら嘘になるが、それを追求するつもりもない。
いずれ分かる事だ。
浅い関係で終わらせるつもりもなければ、短い付き合いにするつもりもなかった。自分が玉座にいる限り彼らとの交流は続くだろう。

相手が魔族であろうと誰にも和平の邪魔をさせない。
これは確固たる決意だ。

城を出れば門の所でリガードが待っていた。袋一杯に詰まった果物をセインに渡す。
「余ったので道中にどうぞ」
いつも何らかの理由を付けて食べ物を分け与える。素っ気ない口調の中に彼なりの気遣いを感じて笑いが零れた。
何だかんだとリガードもモノイと同じで心配性な男だった。セインが魔族だという事も忘れて親身になってくれる。笑いながら受け取ったセインに憮然としたまま軽く手を上げて城内へと戻って行った。

不思議な事に。
人の世に降りる時は必ず目を隠して活動していたセインだったが、今は魔族である自分を隠す気も起こらない。それは和平を結んだからか、それともこの1か月で心境に変化が生じたのか理由は分からないが、その必要が無いという意識が芽生えていた。

それに加え、この1か月、首飾りをして強制的に力を抑えていた成果か、以前よりも瞳の力を抑えられるようになっていた。それは感覚的なものではあったが、いつかは完全にコントロールできるような、そんな予感だ。


そんな事を思いながら道を下っていくと、時折すれ違う人がセインの目に気が付いて、見てはいけない者を見たように走り去っていった。当然の反応だ。彼らがもっと魔族に慣れてもらわなければ困る。人を襲う魔族ばかりではないという事をもっと知ってほしかった。

真っすぐに突き進めばモノイのいる聖教院がある。一目で魔族だと分かる自分が聖教院に行けば人々の不信を買うだろう。
遠くからモノイの姿でも見えればいい、そんな気持ちだった。一生の別れになる訳でもない。
そう思っていると、以前にあったように。


ふっと荒々しい魔族の気配を感じた。獣のような泥臭い匂いだ。人間から真の姿へ変わっていく、その時に発せられる空気の振動と電気の流れを肌が敏感に察する。人なら気づかない空気の変化を感じ取って、セインの足はすぐにそちらに向かっていった。
真っすぐに下り、木々に囲まれた聖教院が視界に入る。礼拝に向かう人々が、人の擬態を破り魔族へと変貌していく様を見て、悲鳴を上げた。
聖教院から何人か聖者が駆けて来るのが目に見える。その中にモノイがいるのを瞬時に認識した。

人であったモノの腕がめりめりと音を立て太く筋肉質になっていく。背中が盛り上がり鋭く尖った突起物が突き出る。服が破れ臀部から硬く重厚そうな尻尾が顔を出し、鞭のようにしなった。人間であった手に獣のような鋭い爪が生えていく。地面に両手を付いて野太い声で咆哮した。

視線を移せば獣の目前に怪我をして泣き叫ぶ子どもがいた。
血の匂いに興奮したのだろう。

半獣になった魔族の雄叫びに野犬が騒ぎ立った。モノイが詠唱を始めようとするのを見て、魔族の尾が目にも止まらぬ速さでうなる。


それは以前と同じ状況だった。
手を伸ばしても届かなかった、あの時と。
だが。今は違う。
確信をもって、彼らを救うことが出来る。


ふっと。
息を軽く吐いた。
全身に僅かな力を込めるだけで、セインの周囲に空間の歪みが生じる。
それは至極簡単な事だった。

次の一瞬で放たれた衝撃波が、魔族目がけて駆け抜け彼の動きを止めた。

その威圧感を感じたのは魔族だけでなくその場に居た人も同様だ。急激に流れ込んだ刺すような冷気に、彼らの視線がそちらに向かう。
その直後の事だった。

半獣だった魔族が突如、震え出し急速に元の姿に戻っていった。細身の体をガタガタと震わせ両手を擦り合わせる。頭を地面に押し付けてセインのいる方向に深く深く頭を下げた。


その時のセインは、モノイが今まで見た中で最も魔族らしい姿だろう。
歩み寄る姿はいつもと同じ悠々とした態度で、その美貌も肢体も全く同じであるのに。


彼を取り巻く空気だけが異なった。
その異質感は彼が近くまで来て更に色濃くなった。全身が総毛立つような暗黒の冷気を纏って非常に残忍な気配だ。冷笑を浮かべ、伏し目がちに見つめる彼の視線の先には震える魔族がいた。


セインと、セインに頭を垂れる魔族。
その両者の関係性からセインが醸し出す気配の正体を知る。


それは弱者を強制的に屈服させる絶対王者の力だ。
力の差が歴然とし過ぎて歯向かう気力さえ奪う。気配だけで魔族を支配してしまうその圧倒的な力に、真のセインを見た気がしてモノイが息を呑んだ。

「もう二度と人を襲わないって約束出来るか?」
セインの言葉に。
男が何度も何度も首を振って頷いた。
「嘘は嫌いだ」
ふっと気配を和らげる。
「人の世界に住むなら人らしくしろ。それが出来ないなら魔国に住め」
彼の目の前にしゃがみ、顎を持ち上げる。涙と涎で濡れた顔を手で拭った。
「君はどっちを選ぶ?理性が本能に負けるのなら、俺の魔国に来ればいい」
静かな声でそう問う。

以前のセインなら口にしなかったであろう言葉を、大勢の人々がいるこの場で口にした。
セインが魔族である事を隠しもせず、そういう態度に出た事に驚きを覚えずにはいられない。

人々が彼らの挙動を恐々として見守る中、半獣が小さな声で呟いた。
「ひ、人の、世界で、…イ、生きる…ソレガ望み」
犬歯を唸らせて、歯をガタガタと噛み鳴らす。セインの気配が緩く柔らかなモノになるにつれ、半獣の形相は荒々しいモノへと変わる。眦が釣り上がり涎を垂れ流して不釣り合いな願いを口にした。

抑えても抑えても抑えきれない本性が顔を出し、尾が膨れ上がって波打つ。

「そう」
短く答えたセインに何の感情も浮かんではいなかった。


ただ、そう答えた次の瞬間には。
その手には半獣の尾が握られ、引き千切られていた。
「悪いのはこれか?君の一番の武器だ。これが君を誇示させ凶暴にさせる。
君は今、人の世界で生きると口にした。こんなモノ要らないだろう?」
狂ったような悲鳴を上げる獣の頭を手の平で地面に押し付け黙らせる。

セインの手でビチビチと左右に揺れ動いていた尾が生気を失い、だらんと垂れ下がった。毛先から燃え尽きるように消滅していくソレに見向きもせず、呻く彼の頭を優しく撫でる。
「君の望みだろう?これで理性が勝つようになる」
涙でぐちゃぐちゃになった彼の顔を上げさせて、笑いを浮かべて囁いた。

それは。
さながら救いの天使のようだった。
残忍な色など皆無で、柔らかな光に満ちている。

そして。
目の前で涙を流す魔族よりも遥かに。
冷酷で残忍な獣だった。


涙で汚れた顔を拭って綺麗に整える。乱れた白髪交じりの黒髪を撫でつけ額にキスを落し、荒い呼吸を繰り返す彼を優しく宥めて呼吸を整えさせた。
「口にした言葉を嘘にするな」

彼から涙が引っ込んでいく。小さく震えながら頷く様は憐れだ。優しい声音で彼を絶望の淵に落とす程の恐怖を与えて縛る。心の奥深くに楔を打ち込み、全てを支配した。
男からは最早、涙すら出ない。切断された尾てい骨を両手で抑え、地面を見つめたまま背を丸めて去って行った。

赤い血が。
ぽたぽたと地面に垂れ、彼の軌跡を描く。

それは心があげる悲鳴のようだった。



セインがもし人間であったら、周囲から大歓声があがっただろう。
今回は事情が違う。魔族同士のいざこざだ。
それも只のいざこざではなく、圧倒的強者による強制的排除だ。見ていて気持ちのいいものでもない。

魔族がそうしたように。
辺りにいた人々がそそくさとその場を逃げて行った。


場に残るのはモノイ只一人である。
じっと見つめてくる視線に耐えられなくなった訳ではない。
「残酷に見えた?あれでも甘いと思うけど」
避けていた視線を意図的に上げて、見つめる目を真向から捉える。
一瞬、驚いたモノイがすぐに平静の顔になって緩く首を振った。
「再び人を襲うのは分かっている事です。貴方でなくとも、そのくらいは分かる」
静かに言って憐れな魔族が去って行った方向に視線を投げた。

「食性の問題なんだ。仕方がない。僕にも同じ食性があったら今とは全く違う生き方をしてただろうと思う。
彼の本音がどこにあるかなんて僕は知らない。ただ…彼が本当に望むなら人との共存も可能だろう。僕はそれを願うしか出来ない」
セインの言葉にモノイが短い相槌を打つ。


特に別れを惜しむでもなく。
二言三言、交わしてその場を後にした。


多くを語らなくても通じるようになってきたと感じるセインだ。
人と?
思わず失笑しそうになって、唇を引き締める。


以前なら思いもしなかった事かもしれない。
モノイの存在が大きく育って、すっと胸に落ち着いた。


大きく息を吸って、リーン国の空気を胸いっぱいに吸い込む。
「また来るよ」
一度、振り返って。


眼下に聖教院を見下ろした。
それから街の奥に見える城へと視線を映す。
思惑通りならそう遠い先でもない。

ひっそりと笑いを浮かべる。
リーン国は大国だ。
多くの属国、同盟国を抱える。



両手をズボンのポケットに入れて、小さく口笛を吹く。
軽い足取りで街を抜け出し豊かな草原が広がる道へと出れば、どこからともなく青い鳥が飛んできてずしりとセインの肩に止まった。
耳元で何やら囁いて小さな足踏みをする。それを聴いたセインが、
「へぇ。そう。長老が俺に賛同するとはね…。君たちを貸してくれるんだ?」
口角を上げてそう返した。
セインの耳元で、彼が苛立ちの一声を放つ。
「長老の命には逆らえまい。精々粋がってればいいよ。ライ」
チチ、チチチと鳥が鳴く。

青光りする美しい翼が大きく開いて空に浮いた。
セインの肩には止まろうとせず周囲を飛び回りながら、セインの後を付いていく。


「一度、魔国に戻って邪魔者を排除しよう」
ふっと無邪気な笑みを浮かべ、空を行く彼を振り返った。
「俺が本気だって事を長老にも見せてあげなければいけないだろう?」
瞳を細めてそう呟くセインは、陽を浴びて輝かしい姿だった。
ライと呼ばれた鳥が小さく身震いして、空高く昇る。
近くにいれば引き寄せられ墜落するかのような禍々しさに、本能が拒絶して逃げたのだ。


「ふふっ。楽しくなってきた」


柔らかな声とは不釣り合いの残忍な気配で、軽やかに道を進んでいく。
セインの前に、障害など何一つ。




存在してはいなかった。






2016.09.25
完。
長かったイリアス編、一旦、終了です(^▽^;)ノ。セインは結局どこまでいっても魔族なのだ〜。
迷いもするけど、やっぱどっかズレてるんだよね…(゚ω゚;A)笑。
読んでいる方がいるか分かりませんが、ここまでありがとうございました!!!
あまり拍手が無いので、ちょっと暗すぎたかなーとかBL無いしなーとか、
いまいち魅力的じゃない受けなのかなーとか色々思いますが(笑)、
まぁ少しでも楽しんでもらえたら幸いです(笑)ヨチヨチ( *´д)/(´д`、)アゥゥ

さて。次にセインを書くとしたら、どこの話かは未定です。イリアス絡みの短編をちょこちょこ書くか、
全く別で現在の話を書くか…、的な感じですね〜(-∀-`; )。
ただ現在編は今の所、あまり書く気はないのだ(笑)。
何故なら、長くなるから(笑)。おそらく30話は普通にいく…(;´艸`)。
最近、更新頻度落ちてるので、できれば長編は止めてサクっと読める10話以内を目指しております(笑)。



良かったら… ⇒⇒ 拍手を送る(*´∀`)





 *** END ***