ギーンズ,報われない

ギーンズが力を付け始めて2年ほど経った頃だった。
明け方、ふと目覚めると背中に暖かい物が当たる。その正体は振り返るまでもなくすぐに分かった。
自分よりも遥かに年上のセインだ。冷え込みが厳しい日など時折こうして潜り込む。

何故ランゼットでも、ギザでもなく。
俺の寝床なのか…。


ギーンズの心に訳の分からない苛立ちが湧き上がる。
今日こそ蹴り飛ばし寝台から落としてやろうと決意して向きを変えた。
こちらを向いて寝ているセインの顔が目の前にあった。
いつもは子どもみたいな無邪気さを向ける目が閉じられ、まるで置物のように静かだ。
目を閉じるだけでこうも印象が変わるものなのだろうか。


僅かな灯りの中に端正な顔が浮かび上がる。
均整の取れた美貌は少年のものではなく立派な大人のものだった。
流れるように顔に掛かる長めの髪が絹糸のように繊細で美しい。


こんな顔だったかと新鮮な気持ちでまじまじと見つめていた。


無防備に寝るセインを見ると日頃のやり返しをしたくなるものだ。
何故そんな事を思いついたのか、自分でも分からなかった。
寝入るセインの唇に近づく。
柔らかい唇にそっと口付ければ、気配を察したようにセインの目が緩く開いていった。


「っ…」
呆気なく気付かれた事に驚くよりも。


セインの開いた目が奇妙な色で驚いた。
それはすぐにいつもの茶色の瞳に戻ったが、決して笑みを浮かべる事は無かった。
それどころか見た事もないような冷めた色を浮かべて瞬きもせずに見つめ返してくる。
一言も発しないセインが不気味ですらあった。


「セ…」
何か地雷を踏んだらしい。
むくりと起き上がって音も立てずにセインが抜け出す。
声を掛ける隙さえ与えず、セインが部屋を出て行った。


何がいけなかったのか、ギーンズには全く分からなかった。
確かにキスしたのは悪かったかもしれない。
ただセインならそのくらい何とも思わないだろうと思っていた。


翌日のセインはいつもと何ら変わりがなかった。
あれから、ベッドに潜り込む事が無くなったかというとそうでもなく。
あの夜の事は何だったのかと頭を悩ませる。

よく知っている筈のセインがまるで分からなかった。



2013.10
(2021年)拍手より移行(笑)。
ギーンズとのある一夜でも(笑)。
訪問、拍手ありがとう!!(*´ω`*)!!更新の少ないダメサイトですがこれからも頑張ります(笑)