31




シュウの家に行くと既に夕飯の支度と風呂の準備が出来ていた。

呼び鈴を鳴らした途端にシュウが顔を覗かせて笑みを浮かべる。
「おかえり!遅かったな!」
久しぶりにシュウの家に来たせいか、ミエが甲斐甲斐しくハルトを迎え入れた。
「元気にしてた?最近、うちの子がハルトくんの家に入り浸りでごめんね」
開口一番でそう訊いてくる。それに笑みで答えるハルトだ。

ハルトが実母と会う機会はあまり無いが、ミエはハルトの母親のように自分の事を気にかけてくれる貴重な存在だ。それを心の中で感謝して、持参したケーキを渡せば大きく驚いた。
「誕生日おめでとうございます」
ハルトの言葉にミエが口元を両手で覆って感激していた。
「いつもありがとう。さ、早く入って入って」
丁寧に受け取って催促する。
嬉しそうな様子を見てホッとするハルトだ。

実母の誕生日を祝ったことは数えるくらいしかない。メールのやり取りくらいはするが、そもそも記念日には無頓着の親だ。こんな風に家族でケーキを食べるという絵図はあまり経験してこなかった。
悪い親ではない。愛がない訳でもない。
それ以上に仕事人間で、女手一つで育てるにはそれだけの財力も必要だった。ただそれだけの事だ。ハルトもその事実をよく知っているから母親に多くを求めたりはしなかった。
して貰える事はしっかりとして貰っている。ミエという存在もあってか、いつも不在の母親に不満を抱いてもいなかった。

「ハルトくんは3日後に誕生日でしょ?うちで夕飯でもどう?」
食事を終わった後、家族でケーキを食べているとミエが唐突にそう言った。
そういえばそうだった、と思い出す。 横からシュウの視線を感じて、ふと目が合った。
シュウが何かを言う前に、視線をミエに移す。
「すみません。その日は家で食事を取ろうかと…。
一時帰国した叔父がまた海外に行くので、空港まで見送る事になったんですよ」
申し訳なさそうに謝罪すれば、ミエが残念そうに頷いた。
「カナメさん来てたのね。彼も面倒見がいいものね。一緒に誕生日をお祝いするの?」
ミエの疑問にハルトが首を横に振る。
「俺は午前中は部活あるし、向こうは午後仕事があって、夕方帰ってきたらすぐ見送りに行く感じですね」
「そっかー」
ミエの落胆した返答の横で、シュウがムッとしてるのが気配で分かった。 何を怒っているのかよく分からないが、カナメの見送りが入ってしまった事はどうにも出来ない事だ。

その後、ミエと他愛のない話をして久しぶりに家族というモノを体感した。

風呂に入り気分よくシュウの部屋へと行けば、仰向け状態で雑誌を読むシュウと目が合った。
「お前な…」
開口一番に文句を言おうとするシュウに先手を打つ。
「誕生日なのに悪かった。忘れてたんだ」
先に謝ってしまえば、多少の溜飲は下がるだろう、そう目論むも当てが外れる。
「忘れてたのはいいにしても、カナメさんを見送るってどういう事だよ!いつも行き来してるんだからいらないだろーが!」
怒りの矛先はどうやら忘れていた事ではないらしく、見送る事に対してで驚いた。
「何…、妬いてんの?」
思わず嬉しくなる。気分の良さも相まって、勝手に綻ぶ口元を隠した。

のそりとシュウの上に跨って胸元に手を置く。 そのまま無抵抗で動かないシュウに軽くキスを落とせば、まだ怒ったままの表情で、睨んでくる有様だ。
「何そんな怒ってんだよ。カナメさんは叔父さんだぞ。偶にはいいじゃねーか」
雑誌を奪い取って、床に放り投げる。二回目のキスをすれば、拒絶するように胸を拳で叩かれた。
「…誕生日に俺と過ごさねぇのも気に入らない。付き合い始めて初めての記念日なんだぞ。分かってんのかよ」
やけに真剣な眼差しで言われて茶化す訳にもいかなくなった。

そんなに自分の事を想ってたとは予想外だし、シュウから直接そんな気持ちを伝えられるとは思ってもいなかっただけに、嬉しさよりも驚きが先に立つ。
その僅かな変化に気が付いたシュウの苛立ちが尚更強まったのは言うまでもない。

ハルトの胸倉を掴んで引き寄せる。 互いの額がぶつかり合って鈍い音が響いた。
「痛っ…!」
思わず目を瞑るハルトだ。
「いい加減にしろよ…。お前、俺が好きなんじゃねぇのかよ…」
小さく呻くような呟きに、ハッとさせられた。
「手に入れた途端、素っ気なくすんじゃねぇよ…」
そう小さくぼやく相手の表情がよく見えない事がこれ程恨めしいと思ったことはないハルトだ。珍しく弱音を吐くシュウに胸が締め付けられる。
散々、セトとの仲を見せつけてきておいて何を言ってるんだという苦情も、苛立ちも、どこかへ消えて行った。

三度目のキスを落とす。 先程とは異なり、柔らかで優しさに満ちたものだった。想いを伝えるようにゆっくりと長く舌を絡めれば、ようやくシュウの怒りが治まっていく。
「俺はいつだってお前だけを見てる」
「…分かってるよ」
ハルトの言葉に仏頂面の表情のままシュウが答える。

その仏頂面はただの照れ隠しだと容易に分かった。ちゃんと想いが伝わっている事を知り、安堵する。
シュウの意外な面を見たが、些細な事でヤキモチを妬いていた自分がバカみたいだと思い、笑いを零した。

シュウの隣に寝転がって、
「ほんっと俺ら馬鹿みてぇ!」
ケラケラと笑えば、
「下らねー事で真剣になって阿保だよな。自分がこんなみみっちい人間とは思いもしなかったわ」
釣られたようにシュウも笑い出す。


二人で意味も無く笑い転げるのだった。





comment 2017.10.01
ふー。
ラブラブです(笑)。だれも入る余地ないのだ!(^▽^)ノ

32




結局、ハルトの誕生日は当初の予定通りカナメの見送りとなった。 断ると言い張るハルトを止めたのはシュウだ。カナメは叔父ではあるが、ハルトにとって第2の父のような存在でもある。それに加え、次に日本へ戻ってくるのは1〜2年後になるという話を聞いてしまった立場としては無下に断れとは言えなかった。

ハルトの家庭の事情が複雑なのも十分把握しているシュウだ。ハルトの人間関係をそこまで束縛する権利は無いだろう。それに自分は翌日にハルトと会えばいいだけだ。記念日にこだわる事もない。 後日に会えばいいかと計画し、やや複雑な気持ちを抱いたままハルトを見送った。

その日、ハルトは上機嫌だった。部活でも調子がよく、イメージ通りに身体が動いて絶好調だった。練習試合も完勝し、相手チームとがっしりと握手を交わす。 チームメイトと喜びを分かち合って最高の気分で帰宅した。
マンションに帰ると靴があり、意外な人物がいる事に驚く。
「午後の仕事が無くなったから、一緒にご飯でもどう?」
玄関まで迎えに来たカナメがそういって、ハルトを招いた。 リビングに行けば、既にテーブルの上には豪勢な食事が用意され、こないだシュウの家でミエの誕生日を祝った時と同じようにケーキに蝋燭が立っていた。

自分が買った物とは比較にならないほどお洒落で高級そうな代物だ。 それに驚き、ひそかに感激していると、
「偶にはこういうのもいいだろ?」
満面の笑みでそう言われ、熱いモノが込み上げてきた。

別に気にしなくていいのに。

そう答えようとして、それは相手に失礼だと思い直す。 素直に礼を言ってカナメの想いを受け取った。
「さ、食事にしよ。しばらく僕は帰ってこれないしさ。可愛いハルトを見れる最後かもしれないしね」
「何言ってんだか」
相手の言葉を鼻で笑った。

昼にしては多すぎる量の料理も、試合後のハルトにしてみれば丁度いいくらいだ。
食後のケーキもぺろりと平らげ、カナメが特別に手に入れたという風変りな飲み物も一気に飲み干す。 腹が膨れて一息ついていると、カナメが小さく笑いながら紅茶の入ったポットを持ってきた。
「よほどお腹が空いてたんだね」
カップに注いでハルトの目の前に差し出しながら、唇に付く雫を指で掬い取る。
「見事な食べっぷりで嬉しいよ」
ニコリと笑みを浮かべる秀麗な顔は同性でもドキリとする魅力を放つ。思わず口元を指先で拭って、視線を逸らすハルトだ。

特に意識した事はない。
無いが、シュウに思わず見とれるのと同じようにカナメの顔も十分、整った顔をしていた。
たとえ同性であろうと目を奪われるのも通常の事だろう。

注がれた紅茶に息を吹きかけて冷ます。不覚にも見惚れそうになった自分の気持ちを冷静にさせて、一口啜った。
「いい香りだろう?僕が今嵌ってる紅茶だよ」
ふわりと華やかな香りがして、甘い後味が喉の奥から広がる。口当たりがよく渋みもなくて飲みやすい紅茶だった。

カナメは食のセンスが非常に優れていた。 手土産で買ってくるものはどれも美味しく品があって、外れがない。その優雅な姿形の通り、そのセンスも一級品で同じ男として目標にするには申し分がない男だった。
自分がもし、こんなに出来た男ならシュウも誇らしいだろう。 そう思って立ったまま、こちらを見下ろすカナメを見上げる。
はらりと一筋の髪が落ちて、銀縁の眼鏡に掛かった。 嬉しそうに瞳を細めて微笑む姿に、なぜか唐突に気恥ずかしさがこみ上げる。 その原因を探ろうとして、突如早鐘を打ち始めた心臓に動揺するハルトだ。 相手にその動揺を悟られまいとして、
「紅茶、…あんま飲まねーけど、美味い…」
そう答えながら、再び意味もなく視線を外す羽目になった。

「そういえば…」
ふと、カナメが思案気に目を細める。
何かと思って見上げれば、
「シュウくんと付き合ってるの?」
唐突に変わらない笑みのまま訊ねられ、持っていたカップが激しく揺れた。
「な、に…」
問い返す言葉が上擦る。
妙な焦りもあって鼓動が余計に早くなっていく。
「だって、妙にいい雰囲気だからさ。僕は経験上、そういう事に鼻が利くんだよ」
自分の鼻を指して、固まるハルトの様を小さく笑った。

「ハルトは昔から嘘が付けないな」
ハルトの鼻を人差し指で突く。
「残念だな…。僕はずっと君が18歳になるのを待っていたのに…」
笑みを消して真剣な顔になったカナメの台詞が、更に混乱を招く。

言っている事の意味が分からなくて相手の整った顔をみつめ返すしか出来なくなった。
互いに言葉が見つからないのか、しばらく見つめ合ったまま時間が過ぎる。 何か言わなければという焦りばかりが沸きあがり、気の利いた言葉は全く思いつかない。
口を開いたまま固まってしまったハルトの言葉を促すかのように、カナメが手を伸ばした。 それが頬に触れる前に思わず払いのけるハルトだ。

「ッ…!」

しまったと思った時には遅く。
酷く傷ついた表情を浮かべる相手にドキッとさせられた。


美しいグレーの瞳が真摯な色を浮かべてハルトを真っすぐに見つめてくる。それは偽りのない気持ちの表れでもあった。その視線の強さに視線を縫い付けられて、目を逸らせなくなった。
「驚かせてごめん。いきなり過ぎたかな」
カナメの神妙な声に頷くでも首を振るでもない、曖昧な態度を返す。 どうしてそうしたのかもわからない。

不快な訳では無かったが、あまりに突然の事過ぎて、どうしたらいいのかすらわからなかった。カナメの告白は自分の返答によっては、互いの関係性を破壊するものだ。 とはいえ、そもそも気持ちを受け入れるつもりもない。

テーブルの下で握りこぶしを作る。 意を決して口を開いた。
「っ…、俺、カナメさんと、そういうのは考えた事もねーから!」
真っすぐに見つめてくる視線を無理やり引き剥がして、振り切るように告げる。そのまま席を立って、
「シュウ以外はあり得ない」
視線を合わせずに、そそくさとリビングを出て行った。

「ごめん…忘れて。出かける時に声を掛けるよ」
背中に気落ちした声が掛かる。いつもは自信に満ちたカナメの声が胸に突き刺さって後ろ髪を引かれた。

それでも振り返る事もしなかった。何かを喪った気がして、心がざわつく。
それを意図的に無視して、考えまいと念じた。


誰もいない静かな部屋でベッドに腰を下ろす。 鼓動は治まる気配がなく、全身が心臓のように脈打っていた。
今日を乗り切ればもうしばらくは会う事もない。 次に会う時にはいままでのように接する事が出来るだろうかと自問した。 いくら考えたところで混乱は解けそうにない。
ドクドクと煩い身体を横たえる。 試合の疲れや興奮もあって、ドッと疲労感が全身を襲った。

「なんで、あんなタイミングで…」
思わず愚痴るハルトだ。 カナメの寂しそうな顔を思い出して、打ち消すように緩く首を振る。

「シュウ…」
名前を呼ぶと、唐突にシュウのいつもの憎らしい笑みが脳裏によみがえってくる。

鼓動が落ち着きを取り戻していき、ようやく安心した。
どんなに考えたところで、なるようにしかならない。


そう思って瞼を閉じるのだった。




comment 2017.11.05

うむ…。もうじき年末とか恐ろしいですな…。


33




ハルトが父親がいないという事を明確に実感したのは、10歳の時だった。それまで男親の存在は気にならなかった。学校の行事には常に母親がそばにいてくれたし、周りの子も母親が参加する事が多く父親がいない事を気にした事はなかった。
実際の所、運動会など大きな行事の時にはシュウと一緒に過ごす事が多く、母親と彼の家族で昼を食べたりしていた為、寂しいと感じた事も無かった。
そんな事もあって、ハルトが母親に対し父親がいない理由を訊いたことは一度もない。

ところが、学校の宿題で父親の好きな所を作文にするという課題が出た。その時に漸く自分に父親がいない事を痛感した。

ハルトがすぐに思い浮かんだのは、シュウの父親だった。
シュウの家族は気にせず、自分を本当の父親だと思って書いていいと言うが、そういう訳にもいかなかった。彼はシュウのモノであり、自分のモノじゃない。
どうしようかと悩み締め切りも間近に迫ったある日、偶々家に来ていた叔父がハルトのそんな悩みを聞いて大きく笑った。
「僕を父親だと思って書いてくれればいいよ。僕も嬉しいし」
そう言ってくれた時は、本当に嬉しかった。本当の父親が目の前に現れたような錯覚すらした。

それからというもの、母親がいない時はカナメが家に来てご飯を作ってくれたり、一緒に出掛けたりする事が多くなった。その言葉の通り、母親がいない時間を父親のように埋めてくれた。


カナメは家族ではない。
だがとても大切な存在だ。

口では言えなくても、いつも心の中で感謝していた。


*****************************************


軽く寝るつもりが随分と深く寝てしまったようで、昔の事をつい最近の出来事のように鮮明に思い出した。カナメに変な事を言われたせいかと思い、やはりちゃんと話し合うべきではないかとぼんやりした頭で考える。

頭は鈍く、心地よい眠りから唐突に引き起こされた感覚で全身が重たい。
強い睡魔の中、耳元をシャワーの音が優しくくすぐった。

いつ眠りに落ちたのか記憶にない微睡みの中で頭を働かせる。濡れた音と水が床を跳ねる音。腕が動かせない事を頭の片隅で認識する。
よく分からない昂揚感に重い瞼を開けようとして、視界が布で覆われている事に気が付いた。
その事に鈍い疑問を抱いて、その直後、ハッとして飛び起きる。
「っうッ…!」
その勢いのまま腕を後ろに引かれた。

いや。引かれたのではない。
手首を頭上付近で硬く固定されていた。
「ッ…!!」
パニックになったハルトの動きに合わせて、タオルが腕に食い込み痛みを呼び覚ます。

「あぁ。目が覚めた?」
優しい声は聞き覚えのあるものだ。

水音と共にさらりと何かが首筋を流れていく。それが相手の髪の毛だと知るのは容易な事だった。耳元で甘く名前を呼ばれ、思わず顔を逸らせる。首筋を強く吸われ、益々頭が混乱していった。
「なん…、…っ…!」
文句の言葉も途中で途切れ、歯を食いしばる結果となった。視界はふさがれていても状況は分かる。全裸で両手を縛られ、足を大きく開かされている。ぬるりとした手が既に反応しているモノを緩く扱いて甘い刺激を与えていた。
「ぅ…ッ」

何故、こうなっているのかは分からない。
だが今ここで声を洩らしたら男としての何かが失われそうな気がして、意地でも耐えなければいけなかった。

その中で必死な抵抗を繰り返す。
見えない相手を蹴り飛ばそうともがくも虚しく空を切り、容易に足首を取られ動きを塞がれる。縛られた両腕に体重が乗って痺れが増し、手の感覚が無くなっていった。
「…く…っそが…ッ」
相手がカナメだという事も忘れて悪態をつけば、
「ははは。強情だねぇ…。そういう所、大好きだよ」
そんな余裕の笑い声がいつもと変わらない声音で返ってきた。
その言葉と同時に、本来そういう用途に使用することのない部分に異物が入る。
「…ッ!」
容易く中へと入った指が的確に弱みを刺激してハルトの焦りを倍増させた。
何の抵抗もなくすんなりと指が2本、3本と入っていく。

「なん…で…ッ…」
戦慄く声が震えて泣きが混じった。
「僕が何の用意もしない訳ないだろう?ホラ。分かるだろ?既に準備万端だ」
そう言って指で中を広げて?き混ぜた。
「ぅ…っ、…!」
身体が勝手に震えるのは生理現象だ。
意地でも声を立てないハルトを見つめるカナメの顔は獰猛な捕食者そのものだった。余裕の溢れる薄ら笑いでハルトの懸命な抵抗を笑う。
「ずっとこの時を待っていたんだ。生憎初めては横から掻っ攫らわれたみたいだが、生は初めてだろう?しっかり準備したからね。大丈夫だよ」
「ふ、ざけんじゃ…ねぇッ!!」
「いいよ。いくらでも拒絶すればいい。心はシュウくんのモノでも構わないさ」
するりと目を覆っていた布が解かれて、一気に視界が眩しくなった。

思わず目をすがめてやり過ごす。
ようやく明るさに慣れてきた瞳が白い光の中で映すのは、今まで見てきた中でも一番の美男だと断言できる男の顔だった。
水に濡れた髪が顔に掛かり、色っぽさを増す。グレーの瞳が眩しい光の中、柔らかな笑みを浮かべていた。
「ッ…!」
どきりと心臓が跳ねる。
頭が混乱して相手の言葉を跳ねのけるように首を左右に振った。

「ずっと、待ってたんだよ。ハルト」
耳元で甘い声が囁く。
「18歳の記念に身体を貰ってもいいだろ?」
カナメの勝手な言い分に、
「いい、加減にッ…しろっ!」
ハルトが拒絶の言葉を吐くも。
「うぁ、ッ…ァ…!」
ずるりと、硬く熱いモノが唐突に中へと入っていった。抵抗もなく、ずるずると押し開いて入っていく。シュウのモノとはまるで違う質量に身体が勝手に震え、小さな呻き声が自然に零れ落ちた。
見開いた目が驚愕を宿すのも僅かな時間で、緩く前立腺を擦られると直ぐに甘く蕩けた。先ほどまでの決意はどこへいったのかと思うほど容易に堕ちていく。

「よ、…ッせ…」
拒絶の言葉は形ばかりになる。
「子どもじみたじゃれ合いではなく。本物の性行為を教えてあげるよ」
目を細めてそう言ったカナメの顔は、日頃の柔和な笑みを浮かべる顔とは違い獰猛な男の顔だ。
ハルトの腰に手を添え、ずっと奥へと侵入する。
深く深く入ってくるモノにハルトの唇が小刻みに震え、息を呑む。
声を出さないように懸命に堪えるハルトの唇に柔らかなモノが当たった。
「ふ…、っ…ン…」
慣れ親しんだ口づけは簡単にハルトの強張りを奪い取っていく。
舌が絡まれば絡まる程、力が抜けていき容易にカナメを受け入れていく始末だった。

「…、僕は結構いろんな子と寝たけど、ハルトはホントにこっちの才能があるね」
腰を突き上げる度に上がるのは甘い喘ぎで、日頃はきつく釣りあがる眦も今は蕩けて濡れる。緩く開いた唇が淫らな吐息を漏らしてカナメを更に煽っていく。
「ゆ、るさね…ぇ、…ッぁ」
身体とは正反対の言葉で批難するも、カナメには素通りだ。
潤んだ瞳が精いっぱいの虚勢を張る。
「いいよ。僕を一生許さなければいい。
体は貰うと言っただろ?僕との行為を一生忘れられないようになればいいさ」
悲しみを宿した瞳が熱を宿す。汗が光り頬を伝った。
「ぅ…、ンぁ…!カナ…メさ、ッ…」
ハルトの濡れた瞳にキスを落とす。ふるふると震え、いきそうになるハルトを堰き止めた。
「ッ…!」
「駄目だろ。まだこれからだよ」
中にあったモノを一気に引き抜かれ、全身に痺れが走る。
目を瞑ってその刺激に耐えるハルトを愛おしそうに見つめて、再びキスを落とす。
「…っ、うッ…ン!」
顔を背けて逃れようとする顎を押さえつけ、逃げる舌を絡め取る。
堰き止めていた手が緩くハルトのモノを扱き、呆気なく達してしまう。
「ふッ、ぅ……っ!!」
あろうことかキスをしたままカナメの手でイってしまった事に衝撃を受けて、見えない刃が心に深く突き刺さった。それでも。

「んぁ…、ァ…」
キスは続く。呆然とした心に付け入るように快楽が流れ込み、どんどんとその波が大きくなって溢れていく。苦しい息の中、自分の唾液なのか相手のモノなのかも分からなくなり、そこにあるのはただひたすら気持ちがいいという快感だけだ。

再び挿入されるモノに抵抗する暇もなく、
「ぃ…ッぁ…」
前立腺を擦りながら奥へ奥へと入ってくるモノに体は喜びに震えた。

「誰かとキスする度に、僕との行為を思い出すだろ?」
挿入を繰り返す合間にも唇を塞がれる。なし崩しに行為がどんどんと深くなっていった。

相手はセックスのプロだ。ましてや男同士の行為に経験のないハルトが簡単に翻弄されるのも仕方がない。
「ハルトから強請れるようになるまで僕は止めるつもりは無いよ。これが僕の長年の想いだ。途中でへばるなよ?」
朦朧とした頭の中に、カナメの心地よい声が浸透していく。

拒絶しなければいけない。それだけは分かっているのに、体が言う事をきかない。
呂律の回らない舌が甘く痺れ、拒絶の言葉を紡げなくなっていく。


大きな波に呑まれ、溺れていくのを感じるハルトだった。


comment 2018.01.10
ぎゃー!ラブラブだぁ〜!
総受けですからね、私のサイトは総受けですからね!?!(*´∀`)?

という事で。もうカナメに関しては登場した瞬間から、このシーンはセットです(笑)。
絶対にいれようと思って。美味しい部分はカナメが掻っ攫っていく(笑)。

ちなみにハルトはシュウとはまだ1回しか経験ない…Σ(゜ロ゜;)!!
んで、次がこれだからちょっと身体的には色々やばいっす(笑)。
カナメに結構影響されちゃうのだ…(*゚Q゚*)ぐふふ


34




目覚めたのは自分の部屋だった。開けっ放しのカーテンから日差しが差し込んでくる。
夕飯を食べた記憶もないが、陽の入り具合から恐らく午前中だろう事が分かる。

あまりに静かで平穏な風景に、昨日の出来事は夢だったのかと安堵して、
「っ…」
全身を襲う倦怠感から、その幻想はあっさりと打ち砕かれた。
布団を捲れば上半身裸の下着姿だ。

全身に赤い鬱血の跡が残り、誰がどう見ても情事の後だろう。
思わず頭を抱えたくなるハルトだ。

あの後、何がどうなったのか記憶が曖昧だ。
ただ酷く淫らな事を口にしたような気がして、青くなる。シュウに一体どう説明すればいいのかと思って憂鬱な溜息を付いた。

とりあえず何か口に入れて頭をすっきりさせよう。

そう思って半身を起こすと、思わぬ事に部屋のドアが開いた。
ギクリとして動きを止める。
心臓が猛烈な早さで鼓動し、緊張でじわりと汗を掻いた。
ゆっくりと開くドアがハルトを恐怖に陥れる。
ドアの隙間から見知った色の髪が見え、次いで馴染み深い顔が見えた時、更に絶望の底に叩き落された。

「あぁ、起きた?」
そこにいたのはいつもと変わらないシュウだった。

カナメじゃない事に安堵するよりも、カナメであって欲しかったくらいだ。

いつ?
どこまで?
カナメが呼んだのか?

様々な疑問が頭の中をぐるぐると渦巻く。だが、何の回答も出ず上掛けを握リ絞めたままやってくるシュウの顔を見つめるしか出来なかった。
「…」
無言のハルトに、シュウがやや困った笑みを浮かべた。
「カナメさんなら帰ったよ。昨日、覚えてない?」
そう訊ねられて一気に血の気が引いていった。
視界がぐらりと揺らいで息苦しくなる。

やはりシュウは既に昨日の事を知っているのだ。
それもカナメとも会っていて、この言いぶりだと話もしたという事だろう。
「シュ…ウ、…」
掠れた声が小さく名前を呼ぶ。目を合わせているのが苦しくなって視線を逸らした。
好きだと言っておきながら、他の男と寝る恋人なんて最低だろう。

何故シュウがいつもと変わらない態度なのかも分からない。物凄く怒っているのか、それともそれすら通り越してどうでもよくなってしまったのか。
唐突に底知れぬ恐ろしさを感じた。

シュウが別れを切り出しても仕方がない事だ。
それでも、それが辛くて聞きたくなかった。

上掛けを握り締める手に血管が浮き上がる。拳が小さく震え懸命に平常心を保っていた。

そんなハルトの姿を見つめていたシュウが、
「ごめんな」
唐突に申し訳なさそうに謝罪した。

ぱっと顔をあげるハルトに笑い掛けて、
「やっぱ俺、お前と誕生日過ごしてれば良かったと思う。そうすればこんな事になんなかったしさ」
ベッドに腰掛けてあろうことかそう言った。
「カナメさん、前から怪しいと思ってたんだよ。お前を見る目とかさ。やっぱ二人っきりにさせなきゃ良かったって後悔してんだよ。
まぁ、その代わりに3発殴っといたけどな!男前が台無しでざまーみろだろ?」
明るくそう言うシュウに笑い返そうとして、上手く返せずに終わる。
「…、」
言葉が詰まり、上手く出てこなかった。

慰めようとするシュウの優しさが胸に詰まって苦しくなる。
「…っ」
言葉の代わりにシュウに抱き付く。

小さく耳元で謝罪を繰り返すハルトをそっと抱き止めて、また小さく笑った。
「最初に言っただろ?お前、危なっかしいって。お前の初めてじゃなくて、本当に良かった…」
しみじみと、呟くように言う。シュウの口調は日頃の喜怒哀楽の激しさからは考えつかないほど穏やかだ。それが不思議で、すっと柔らかな声が胸の奥へと染み込んでいく。
「…でも、お前、…俺と生でしたことねーだろ…。カナメさんが…、」
「馬鹿だなぁ。初めて体を繋げるのとそれじゃ次元が違うじゃん。それに俺とまたいくらでも初めてをやればいいじゃん。俺は自信があるよ。カナメさんより遥かにお前を知ってるって。お前と初めての事なんて他にもいくらでもあるじゃん」
「…」
沈黙するハルトを更に強く抱きしめて、
「大体、お前の初恋って俺だろ?お前の初めての恋人は俺だろ?初めてのエッチも俺だろ?」
笑いを含んだ声が甘くそう囁いた。じんわりと心の奥が暖まっていくのを感じるハルトだ。
「…悪かったな…。どうせ俺は女とも経験ねーよ…」
むくれた声で返すハルトから漸く小さな笑いが零れる。
きゅっとシュウの服を握り絞めて、
「シュウ。お前が誰よりも好きだ。これだけは絶対に違えたりはしない」
湿った声で小さく囁く。
がっしりと抱き絞め返したシュウが、
「知ってる」
そう返す。

その言葉にホッとするハルトだ。
良かったと心の底から安堵して鼻を啜る。
馬鹿みたいに恥ずかしい姿を見られたと今更ながらに思って、顔が熱くなっていった。

「じゃ、湿っぽいのは終わりにして飯にしよーぜっ!」
唐突に言って体を離すシュウも同じ気持ちなのかもしれない。
ハルトが目を擦って濡れた跡を隠す。
笑ってその言葉に賛同した。

シュウがベッドから降り際に、
「お前が合意じゃないのも分かってるし、大丈夫だよ。
カナメさんも、お前に薬盛っちゃったって謝罪してたしな。勿論許す気ねーけど…。でもハルの大事な家族だから、カナメさんに二度と会うなとかは言わない。まぁその時は俺も常に一緒にいるけどな」
ニッと余裕の笑みで言ってハルトの頭を子どもにするように乱暴に撫でた。
この時ばかりはシュウがやけに大きく見えた。
自分よりも遥かに前を行っている気がして、憧れにも似た気持ちが湧きあがる。

「お前、本当にパーフェクトな男だな…。尊敬する…」
ぽつりと零す言葉は本音だ。
茶化すでもなくじーっと見つめるハルトに、
「だろ?」
笑みを深めたシュウは本当に立派な男だった。

感謝してもしきれないだろう。
もう一度、頬を擦って気持ちを入れ替えた。

「飯にしようぜ。リビングで待ってるから早く着替えて来いよ」
いつもと同じ調子で誘う。
「すぐ、行く」
シュウの気遣いが本当に暖かくて、尚更シュウへの想いを強くするのだった。


comment 2018.04.15
4月に突入です…(゚ω゚;A) 。なんか時間泥棒がいるみたい…。
一応、予定では1月に2,3話UPする予定だったんですよ〜…。だったんですよ〜

言い訳はこの辺にして(笑)、とりあえずとくにいざこざにはせず円満に。
だってねぇ。ハルトが引き寄せ体質だからいけない(笑)。正直ハルトのせいでもないし、引き寄せちゃうんだからいけないのだ〜(*´∀`)笑!!

拍手・訪問本当にありがとうございます…。
全然更新できずすみませんです…(≡ε≡;A)...あうー。



35


その日は、二人で他愛のない会話をし漫画を読んだり、馬鹿な事をしたりとのんびりと過ごした。ただの友人同士の一日と変わらない。だがそれが逆にハルトには有り難かった。
叔父にそういう対象で見られていたという事実は思う以上に精神的に堪えていた。どこかでそんな誤解されるような態度をしたのかと自分を責めたくもなる。
男が好きな訳じゃない。シュウだから特別なのであって、シュウだからこそ身体を繋げたいと思う。その気持ちは確かなのに、心と身体は裏腹で馬鹿みたいに快楽に翻弄される。そんな自分が酷く嫌になった。

それでもシュウは変わらない。恋人になる前となった後と。こんな事があった後でも、昔と同じように接してくれる。
それが凄く暖かくて救われた。
シュウを想う気持ちだけは絶対に裏切ったりはしない。
そう心に固く決める。

翌日には、すっかりいつも通りだった。身体の疲れは残っておらず、精神的にも安定を取り戻していた。これなら部活に支障も出ないだろう。鏡に映る自分がいつもと変わらない顔で密かに安堵するハルトだ。
あんな事があった後だ。何かが変わってしまいそうな恐怖を少なからず抱いていた。だが、シュウの存在がいつでも自分を正してくれる。そう思うと心の底からほっとして、ようやくあの夜から抜け出せた気がした。

シュウと一緒に学校に向かいながらいつもと同じように軽口を言い合う。
教室の前で別れる直前に、
「じゃ、後で」
シュウの肩を軽く叩いて押し出す。シュウが苦笑いを浮かべた。
「後でな」
言いながら同じようにハルトの肩を押し出す。

それだけでお互いに言いたい事が伝わった。
築いてきた絆が壊れた訳じゃない。シュウには今までと同じように、こんな動作一つで伝わるという事がハルトを更に安心させた。


*****************************************


「先輩…。イメチェンでもしたんすか?」
部活の合間に後輩のトーヤが唐突にそう言ってきて、目を丸くする。何かと首を軽くひねって髪の毛を掻いた。
「いや、…俺の気のせいっす。寝ぐせのせいっすね」
しどろもどろにそう言ってジッと見上げた。目に掛からない短い髪が乱雑に跳ねる。いつもの髪型に比べると多少乱れた髪型ではあるが、それがお洒落といわれればそう見えなくもないレベルだ。
それから、
「今日、掃除せず帰った方がいいっすよ。俺やりますんで」
ふと思い出したように助言した。
「なんで」
当然、ハルトがムッとして問い返す。一瞬、言葉に詰まったトーヤが声を落として、
「最近、セト先輩とも空気険悪だし、喧嘩になったら負けそうっス…」
そう忠告するのを呆れた顔で突っ撥ねる。
「おめー、ふざけんな。俺がセトに負けるかっつーの。そもそも喧嘩なんかしねーし」
そう答えながらも多少の自覚はあるハルトだ。セトには何かと力では敵わない部分を思い知らされている。実際のところ殴り合いの喧嘩になったら勝てる気がしない。
とはいえ、いくらセトが腹を立てる何かがあってもそんな事はしないだろうという確信があった。
「…とにかく!キャプテンは今日は部活終わったら早く帰った方がいいっすよ」
有無を言わせぬ強い口調でトーヤが話を切るように言った。
何を心配しているのか知らないが、
「今日は監督に呼び出されてて、どっちにしろ帰れねーんだよ。ま、心配だけ受け取っとくよ」
一応の感謝を伝えれば、どこか納得のいかないトーヤが釈然としない顔で小さく頷いた。
「しかたねーっす」
用は終わったとばかりに背を向けて去っていく。
何なんだと僅かに首を傾げるも特に気にも留めなかった。トーヤはたまにこういう時がある。いつもの気まぐれかと片付ける。
ふと視線を感じて振り返れば、セトがコートの向こうからこちらを見ていた。ハルトの視線に気が付いて何も無かったように目を逸らす。
「…」
僅かに狂った歯車が簡単に軋んで歪んでいく。

セトとは元から不仲な訳ではない。むしろバスケ部の中では仲がいい方だ。それでも些細な出来事一つで嫌な思いを抱いてしまう。
それもこれも、シュウを誰にも渡したくないという想いが強すぎるせいだ。原因も明確に分かっていた。

だが、それが何だというのか。
シュウが何よりも大事なのだから当然だろう。

昨日の出来事もあり、ハルトの中では尚更その想いが強まっていた。
セトがどんなにシュウを想っていようと、絶対に渡すつもりは無かった。そのためにも、不毛なちょっかいは止めて欲しいというのが強い意思だ。
これが男女の恋愛ならこんなに拗れはしないだろう。大っぴらに付き合ってる事を表明出来るし、相手も恋人同士の仲に平気で割って入るような事はしない。

日頃は気にもしない性別の壁が邪魔をする。
男同士である事にもどかしさを抱いて、ひっそりと溜息を付くのだった。


comment 2018.06.10
新年明けて、はや半年経つという事実に戦いてます(笑)。そろそろ拍手文も色々更新したいなーとは思いつつ…。「月日経つのハヤーイ!(^^)!」って感じ…(笑)。

さてさて。次回も空かずに更新できるよう頑張りまーす☆


36




監督に呼び出されたハルトが部室に戻ってきた頃には、ほとんどの部活動がとっくに終了し閑散としていた。残っているのは大会間際の僅かな部のみだ。まだ体育館に明かりが付いているのを確認したハルトが何気なく部室のドアを開けると、開けっ放しのロッカーが目に付く。まだ残ってる人物がセトだとすぐに分かった。

二人っきりの機会は早々やってこない。
シャワー室にいるであろうセトの元へと向かった。


更衣室に姿が無いことを確認しシャワー室へと入る。簡易的な扉で仕切られた個室がいくつか並ぶ中、1か所だけシャワーの音が零れていた。無神経過ぎるかと一瞬、躊躇ったあと迷わずドアをノックした。


「シャワー中に悪い。ちょっと話があって…」
行動の割には申し訳なさそうなハルトの声に内開きのドアが勢いよく開く。
不機嫌面のセトが瞳を眇めてハルトを見下ろした。
「あんたさー、少しは状況を考えたらどう?そんなに大事な用?」
珍しくあんた呼ばわりして、シャワーを背中に浴びたまま問う。言い淀んだハルトが、セトの目を真っすぐに見つめたまま、
「シュウの事で」
そう口を開く。

途端、セトの眉間に皺が入り苛立ちを露わにした。言葉を続けようとするハルトの腕を掴み、強引に中へと引き入れる。
「っ…、セトッ!」
逃れようとするハルトの背後で扉が激しい音を立てて閉まり、セトがハルトの顔の横に両拳を叩きつけた。
「ッ…!」
ドアを打ち付ける音にビクッと肩を震わすハルトだ。

何事かとセトを見上げるハルトに、
「ハル。ほんっと鈍いね?」
怒りを宿す声音とは正反対の口調で笑い掛けた。

「な、に…。俺はお前が…」
「ね、本当に分からないんだ?無防備過ぎて苛々する」
流れ続けるシャワーがセトに降り注ぎ、零れる水滴がハルトを濡らしていった。首筋を、ねっとりと撫でていく手に危機感を抱いて後ずさる。
背中に扉が当たり逃げ場がない事を知るハルトだ。
「よせっ!お前が、好きなのはッ…、!!」
「ハルだよ。ずっと…。シュウが好きっていえばあんたの関心引けるかなと思ったけど…。
ここまで食いつくとは予想外だよ」
一気に距離が近くなって、目前に迫るセトの真剣な目から顔を背ける。胸板を押し返して何とか距離を保った。
「冗、…談はよせっ!マジで怒るぞ!」
ハルトの懸命な脅しも、ふっと鼻で笑われて、
「怒ってみなよ。全然怖くないね」
押し返す腕ごと抑え込まれ、濡れた身体がどっしりとハルトに伸し掛かった。

「無防備なハルが悪い」
ため息まじりの吐息が首筋に掛かる。

内開きのドアが自身の体重のせいで上手く開ける事が出来ず、セトの手から逃れようと身体を捩らせるしかない。それもセトの力の前では虚しい努力で終わった。

シャツを捲られ、背中の窪みをさわりと撫でられる。
「セト!こんな事したらッ、俺らの関係が、壊れるっ!」
言葉で何とか相手の行動を押し留めようとするも、
「もう壊れてるじゃん?」
どこか諦めの入った空虚な台詞が耳元でぽつりと返った。

その言葉に目を見開くハルトが何か言おうと口を開くが、
「っ…、」
顎を掴んだセトが強引に唇を塞ぎ、その言葉を奪い取った。

熱い舌が言葉以上のモノを伝えてくる。
拒絶しようともがく身体を強引に押さえつけて、ハルトの弱い場所を的確に刺激しながら服を剥いでいく。
シャワーの音に濡れた音が掻き消され、水の跳ねる音が閑散としたシャワー室に響き、唇を離す頃には、すっかりと息を荒げている有様だった。

「ふざ、…けんな」
ハルトの虚勢も、
「こんなにエロい身体しておいて何言ってんだか」
するりと立ち上がったモノを撫でられ、散っていく。抵抗も虚しく身体は快楽に素直だ。触られるだけで期待して勝手に昂ぶっていく。
「シュウがこんなに身体にしちまったって思うと腹立つけど、男もイケる身体なのは嬉しい誤算だよ」
しれっとそんな言葉を放って、ハルトを青ざめさせた。

正確には、シュウではないだろう。
セトはそれを知らない。

身体に未だに残る痕跡に、隅々に宿るカナメの気配に。

剥き出しのセトのモノがそそり立っているのを見て、背筋がぞくぞくと粟立った。膝裏を抱えられ背中を撫でられれば、無意識に胸を突き出す格好になる。背中の手を払おうとして、その隙にするりと臀部の狭間に指が入っていった。


その感触はよく覚えている。
つい先日。散々そこを使われたばかりだ。
それも意識を失うほど激しいモノで、今でも夢の出来事ではないかと思うほど現実味の無い出来事だった。カナメの姿がよみがえり、同時にその快楽まで思い起こしてしまう。

「ぁ…ッ、よ、…っせ!」
ドクドクと鼓動が激しくなり、身体が勝手に反応を返していた。

簡単にツボを探し当てたセトが口角をあげて、
「身体はもっとして欲しいってさ」
舌で胸の突起を転がしながら上目遣いに囁いた。秘部を強引に押し開いていく。中をかきまぜられ、頭の芯が痺れていくのを感じるハルトだ。
手を突っぱねて逃れようと抗うも、身体は貪欲に快楽を貪っていく。

膝裏を抱えられ臀部にそそり立った大きなモノを当てられれば、呼吸が止まった。
「っ…!や、…めろ!」
「期待してる癖に」
ぐりっと滴を零す先端を抉られて小さく声が洩れる。
「ぅ…、くっ…、そッ、…」
声を噛み締めて、何とか抵抗を試みるハルトだ。セトの厚い胸板を押し返そうとして、
「ッ…!!」
キィーと扉の開く音にハッとした。


誰かがシャワー室に入ってきたのだ。


息を詰めるハルトの耳元で、
「シー」
ひっそりと笑いを含んだ声が囁く。

ヒタヒタと足音が近づいてきて、2個隣のシャワー室へと入っていく音がした。




息を呑む、その瞬間。
「ぅッ…、ッぁ、…ァッ…!」
ずるっと奥深くへ硬い凶器が突き立てられた。
貫かれた身体が小さく震え、先端から白濁としたモノが溢れ出す。トロトロと零れるソレが糸を引いて滴り落ちていった。
「ッ…、ぁ…!」
「入れただけでイッちゃったんだ?」
降り注ぐシャワーの音が小さな声を掻き消していく。

セトが興奮したように唇を舐めて、浅く深く静かに抽出を繰り返した。突っぱねる手がだらりと落ち、されるがままになる。濡れた瞳が蕩け、ぼんやりとセトを映す。近づく唇に、かろうじて残る理性が何とか堪えようと、小さく首を振った。
「よ、…っ、せ」
声を漏らすまいと歯を食いしばって、両腕で顔を隠す。
それが余計にセトを煽る結果になっているとは思いもしないハルトだ。

音を立てる事も出来ず耐えるしかない状況が余計に、僅かな刺激に意識を集中させてしまう。
早く、終われ、と心の中で何度も念じるしかなかった。


comment 2018.07.29
最近また二次のとあるキャラに嵌ってて、ウハウハです(笑)。やっぱ二次最高…。もう私は一生BLから抜け出す事が出来ないなと諦めモード…(*´∀`)。BLじゃないと萌えないんだもん…。必需品だよ〜(笑)。

そんなで。セトと寸止めにしようかと思ったけど、がっつりヤっちゃったぁ☆
こういうシチュエーション最高だよね(*´∀`)ぶっちゃけ大好物〜☆
総受け嫌いな人、ごめんなさい…(*´∀`)テヘ


37




「ッ…!」
入ってきた誰かが出て行く気配が無い。それ程経っていない筈なのに、物凄く長い時間に感じて頭がおかしくなりそうだった。
気を張らなければ漏れそうになる声に、我慢の限界が近づく。
「…ァ、セ、…トッ…!早…く…ッ…」
甘く溺れていく中、限界を訴え救いを求める瞳が腕の間から淫らにセトを映す。
それでもセトは腰の動きを止める事はない。濡れた音がシャワーの音と混じり合い消えていく。

荒い吐息で耐えるハルトの耳に、漸くシャワーの音が止みドアが開く軋んだ音が響いた。
「…ッ!」
それと共にセトが深く深く中へと入っていく。
ゾクゾクと身体が震え抑えが利かなくなった声は、唇を塞いだセトの口内へと消えていった。
「っ…」
きゅっと締まった後ろに、耐えるかのようにセトの眉間に皺が寄った。

シャワー室から誰かが出て行くのと同時に、
「ンッ…、ぅ…ッ!」
激しく突き動かされて、自制が出来なくなった身体が強引に絶頂させられる。拒絶する間もなく、
「ふッ、…ァぁ…ァ」
熱いモノが中へと大量に放出された。
ドクドクと脈打つモノが中から抜かれると同時に、全身の力が抜けていく。

ぐったりとした身体が崩れ落ちる前に、抱き止めるセトだ。
「ッ…、ぁ」
臀部の狭間から白濁とした液体がドロリと零れ落ちる。
放心したハルトがぼんやりとセトを映したまま、小さな呼吸を繰り返した。

「なんつーエロい顔…」
セトの言葉に、意識を震い立てるように首を左右に振って、
「ふざ、けんな…。おめーッ、…二度とねーからッ…!」
眦に力を込めて睨み上げた。上気した頬に荒い呼吸を繰り返す赤く腫れた唇、欲情した瞳が上目遣いでそんな脅し言葉を吐いても逆効果でしかない。

それでも、
「分かってる。もう二度と無いのは…」
そう返すセトだ。やった行為は酷いがハルトへの想いは本気なのだろう。
「ごめん…」
肉食獣さながらに襲っておいて、今更そう呟いた。
そんな言葉で到底許す気もないハルトだが、
「次に同じ事をしたら恥も外聞もなく被害届出すからな。覚えとけ」
そう釘を刺して、伸し掛かるセトを押し返す。
「俺はこの件、シュウに言う。俺はシュウに隠し事はしない。何があってもシュウには全部言うって決めたんだ。殴られる覚悟はしとけ」
「分かってる。ごめん」
きゅっとシャワーのノズルを止める。

ポタポタと水滴が垂れる音が静寂の中、響き渡った。

「バスケは今まで通りこなすから安心しなよ。ハルトにもうちょっかいも出さないよ」
にっこりと寂しい笑みを浮かべて内開きの扉を開く。
「ヤっちまって思ったけど、ハルトの心を手に入れるのは無理そうだなって実感した。身体からの関係っていうけど、ハルの場合、誰でもそうなっちゃうんだろ?心は純潔なのに、ね」
「セ、ト…ッ!」
出て行こうとするセトの背中を蹴りつけて、ふざけた言葉をのうのうと吐く口を止めさせる。

小さく笑ったセトが、
「ほんとごめん」
謝ってもどうにもならない事を、もう一度謝った。
「知るか。さっさと出てけ」
その背中をもう一度蹴るハルトだ。

襲われたのは癪だが、二度とないと宣言したセトの言葉は真摯だった。
謝罪の言葉も、それも本心なのだろうと思う。

太ももを流れる液体をシャワーで洗い流しながら、シュウに何て説明すればいいのかと頭を悩ませた。先日の今日ではさすがに自分に非がある気がしてくるハルトだ。
「くっそ…ッ!」
中に出されたモノを恐る恐る指で掻き出して全身をくまなく濯ぐ。
そもそも自分に非があるとしても、何故こんな目に合わなければいけないのかと先程までには無かった苛立ちが沸きあがった。やはり自分で殴っておけば良かったかと思うも、すぐにバスケ部の面々を思い浮かべて、それは違うと首を振った。

殴って解決する話でもない。弱い自分が不甲斐ないのであって、セトの気持ちに気付きもしない自分が悪いのではないかと責める。
実際のところ危機感が足りなかったのは事実だ。一度襲われた経験があるのに、また同じ事をしている。人気のいない場所で二人っきりになった時点で問題だったんだろう。シュウの事で頭が一杯になりそれどころでは無かった。

男だから大丈夫という安心がいけないのかもしれない。
ぐるぐると思考して、浅い溜息を突いた。考えたところで答えなど出はしない。

そろそろセトが居なくなった頃合いだろう。水浸しになったシャツを絞って、濡れたままの下だけ履いた。シャワー室を後にして更衣室へと行けば、予想外の人物がそこにいた。

「…っ」
先程、シャワー室に入ってきた人物だろう。
バトミントン部の誰かだとは思っていたが、彼だとは思いもしなかった。

いや。
時間的に考えればキャプテンの彼が居残っていても何ら不思議ではない。

またしてもハルトの中で、ぐるぐると思考が回る。先程の出来事をバレているのではないかと。

不安になって、
「っ…居たのか?」
問いかける声が僅かに震えた。

「よ。大丈夫?心配だったから…」
その一言で。
全てを悟る。

「…」
無言になるハルトに、
「ミニタオルならあるから貸すよ。そのビショビショの恰好で部室に戻る訳にもいかないだろ?」
親切心でそう言った。
思わず距離を保つハルトに、
「俺はお前の身体に全く興味が無いからそんなに警戒しなくても大丈夫だよ」
あっけらかんとそう言う男は随分図太い神経で、
「ははっ…」
思わず笑いが零れる。
「だよな…。そうだよな!」
唐突に肩の荷が下りた気分だった。コウを相手に警戒してた自分が馬鹿らしくなって、隣に立つ。誰もが皆、男に興味がある訳じゃない。

受け取ったタオルで濡れた髪を拭いていると、
「セトとは同意じゃないんだろ?助けようかと思ったけど、大事になったら困るかと思って…」
既に着替え終わっているコウがそう訊ねてくる。

どこまで知っているのか。

入ってきた時点で気が付いたのか、声を聞かれたのか、どちらにしろ知られている事実を突き付けられて、頬が熱くなる。
「…同意な訳ねーだろ」
羞恥心をごまかすように顔をタオルで拭いて隠す。
「そか。俺はシュウ一筋のお前を応援してるからさ…。なんつーか浮気なら許さねーって思ったけど、ならいい。セトにも言ったんだけど、堪えてたみたいだから大丈夫そうだな」
「…なんだ、それ。変な奴」
コウの言い分に笑ってしまう。
「お前って、雰囲気がちょっと他の男と違うからさ。シュウの友としてはあいつの恋路を心配してるわけ」
笑いながら言うコウの言葉にぎょっとして、思わず動きを止める。そのハルトの挙動にコウがまずい事でも言ったかと視線を向けた。
「…やっぱ俺のせいか?」
ぽつりと呟くハルトに疑問を抱いていると、
「お前も俺といるとその気になる訳か?」
すっとハルトの手がコウのモノを握る。緩く摩るハルトの表情は先程までの熱を宿し酷く艶めかしい。瞳を眇めて怒りを宿す顔すら猥らで、濡れた髪が余計に劣情を刺激した。

それでも、コウのモノは一切反応しない。
真顔で見つめてくる瞳が、小さく笑いを浮かべた。
「ハルトって意外に自虐趣味だよなぁ。襲われた後によくそんな挑発出来るよ。俺は男に興味ねーから大丈夫だって」
ハルトの手を払って、更衣室のロッカーに肘を突いた。髪を掻き上げる姿はシャワーを浴びた後の爽やかさ満載で、ハルトの中に宿るジメジメとした空気を払い除ける。
「ははっ…!お前、最高」
口元を押さえてハルトが笑った。
「だよな。最近、俺の周りにいるのが偶々そうなだけで、普通はそうだよな。良かった」
身体を拭きながら、脳裏にカナメの姿が蘇る。

「…実はシュウとは一回しかしてねー。別の奴に無理やりヤられて、すっげぇ良くて…何かそれ以降、俺の身体が別物になっちまった気がする…」
カナメの事を思い出すとずきりと胸が痛くなって、つい弱音を吐いた。同性に嫌悪感もなく自分に興味も無いコウなら大丈夫だという安心感が無意識に言葉に出る。
相手から一瞬の驚きの後、
「それは災難だったな。まぁハルトがシュウを好きな気持ちに変わりがないならいいんじゃないの?」
軽い返答が戻ってきた。
「元々男のシュウが好きなんだから、男も別に平気なんだろ?それなら男が相手でも抵抗感なく受け入れちまうんじゃない?まして男なんて下の衝動で生きてるようなもんだし」
「…お前って、…すっげぇ軽いのな」
思わずコウを見つめて呟きを返す。冗談でもなく真剣な色を浮かべる目が本音である事を伝えてきた。
「戸惑ってないでシュウとやりゃいいじゃん。シュウからしてみりゃ、エロい身体は最高だと思うよ。仮に別の奴がお前をそうしたにしろ、心も体も結果はシュウのモノなんだから悩む必要なんて無いだろ?お前ら両想いなんだから」
正論なのかわからない持論を述べて、ハルトの悩みを一蹴した。
目を丸くするハルトを見て、コウがクスクスと笑いを零す。
「いやぁ。いつも飄々としてるハルトでもそんな悩みを抱いてるとは意外だなぁ」
「うるっせーな!俺はシュウの事はいつでも本気なんだよッ!」
白いシャツを着て一人爽やかな男の肩を強く突く。

「そんなに皆が夢中になる魅惑ボディなら俺も一度はお願いしたい所だけど、生憎男じゃ立たないからさ。ごめんね」
イラっとさせる言葉を吐いて、ハルトを茶化した。
「むっかつく奴だな!こっちから願い下げに決まってんだろ!」
乱暴に全身を拭いてミニタオルを突っ返す。

「まぁ…、助かった…。何かスッキリした」
ぽつりと零して礼を言った。
「知られたのがコウで良かったよ」
珍しく殊勝なハルトの台詞にコウが小さく笑みを浮かべて、
「何かあったら相談に乗ってやるよ。人には中々言えないだろーし」
帰り支度を始めた。


『心配だったから』という言葉通り、本当に待っていたらしい。
親友でもない筈なのに、コウのその気遣いに申し訳なくなった。


コウが言うようにシュウを好きだという気持ちに何の揺らぎも無い。
先程まであった暗い気持ちが晴れて目の前が明るくなった。

シュウに猛烈に会いたくなって、帰り支度を急ぐのだった。


comment 2018.07.29
ラブラブ…(*´∀`)ムフッ!
実はコウも→ハルトだったら中々やばい展開だよね(*´∀`)ハァハァ・・・!!
コウはノーマルで理性的な男だから、そのくらいでは靡かん〜〜みたいな…?(笑)
ちょ、何言ってるか分からなくなってきたので、終了(笑)



38




シュウに会いたくて急いで帰ったハルトだったが、いざシュウの家の前に辿り着くと知らず足が止まった。
門に手をかけてその金属質の冷たさに指を引っ込める。

シュウに何と言ったらいいのか。
隠し事なく全てをシュウとは分かち合いたい。その想いは変わらずにあるのに万が一、拒絶されたらと思うと怯えが宿る。

小さく息を吸い込んで、勢いよく門を開けた。いつもと変わらない風を装って勝手知ったる玄関のドアを開く。
「おじゃまします」
少し声を張り上げて挨拶をすれば、ミエが壁の隙間から顔を出して小さく微笑んだ。
「おかえりなさい。シュウなら今お風呂に入ったから、ハルト君も一緒に入っちゃえばどう?それともご飯も一応用意してあるけど、先に食べちゃう?」
思えば、いつもよりも随分と遅い時間だ。シュウはとっくに食べ終わったのだろう。
「ご飯を頂いてもいいですか?」
今、シュウと一緒に風呂に入る勇気はなかった。つい数時間前の出来事を思い出しそうになって視線を逸らす。
「用意するから着替えてらっしゃい」
「ありがとうございます」
ミエの明るい声に背中を押されるかのように2階へとあがっていった。

ワイシャツを脱いで自分の体に変な痕跡が無いか確認する。
クローゼットから長袖のシャツを引っ張り出して、首元まで隠す。念のためを考えてしまう自分が僅かに嫌になったが、シュウの母親の手前もある、と言い訳して極力素肌の出ない服装を選んだ。

胸の内にもやもやしたものが残る。ざらついた気持ちのままリビングへと戻れば、美味しそうな匂いが鼻をくすぐった。テーブルにはハルトのために用意された食事が置かれている。
唐突に申し訳ない気持ちが一杯になって、胸が苦しくなった。
「、…ありがとうございます」
ミエが僅かに首をかしげる。
「気にしなくていいのよ。ハルトくんも私の子どもみたいなものだから」
ハルトの様子に疑問を抱きつつも、何も問う事なく台所へと戻って行った。

気まずい思いで用意された食事に手を付けていると、これまたタイミングが悪い事に風呂上がりのシュウがやってくる。思ったよりも早い事に驚いていると、
「今日、遅かったじゃん。…何動揺してんの?」
僅かな変化に気が付いたシュウが髪の毛をタオルで乾かしながら隣にやってきて、顔を覗き込むようにして訊ねた。

「っ…、いきなりドア開けるからビックリしたんだよ」
妙な言い訳を返して合わさった視線を逸らす。食事に必死な振りをして、野菜炒めを口いっぱいに頬張った。
「…ふーん。今日は何?監督とミーティング?」
首を振ってその言葉に肯定すれば、また意味深な相槌が戻ってきた。
「もうじき期末試験なのな。こないだ試験やったばっかだっつーの。試験多すぎだよな」
突然、話題を変えてきたシュウに適当に返事をすれば、
「夏休み、どうする?どっか遊びに行こうぜ?」
満面の笑みでそう聞いてきた。思わずむせそうになって、シュウの肩をたたく。
「おま、…馬鹿じゃねーの!気が早すぎ!」
「俺、受験だしさ。お前と遊べる機会なくなるじゃん」
ハルトの様子を笑いながら、さらりと言った台詞にどきっとする。
「…っ」
俺がいたら迷惑なのか。
そう訊きそうになって、その言葉をご飯と共に無理やり飲み込んだ。

勉強の邪魔をしたくはない。
ただ一緒にいたい。

それも傲慢な気がしてしまうハルトだ。
今日、あんな事があったというのに。
それを無かった事にしてシュウに甘えるなんて許されないだろう。

「シュウ」

言いたくない言葉を吐き出さなければいけない。
それをしなければ進めないのだと悟った。

何も気が付いていないシュウが不思議そうな顔で見つめてきた。それを振り切るように、
「大事な話がある。後でいいか?」
言葉を絞り出せば、柔らかな瞳が一気に険しいものへとなって、笑みを象っていた唇を真一文字に結んだ。
「…分かった。部屋で待ってる」
先ほどまでのテンションはどこにいったのかというくらい下がり、呟くような低い声が告げる。そのままハルトの顔を見る事なく席を立ってリビングを去って行った。

「っ、…余計言いにくくなるじゃねーか…」
シュウの態度に小さく文句を零す。
ただその権利も自分にはないのだ。シュウを傷つける事実には変わりない。

「ハルトくん。ゼリー食べる?」
流しの洗い物を終えたミエがパネルドアを開いて、台所から顔を覗かせる。
ミエの気遣いがありがたくて、落ち込む気持ちを何とか盛り上げるのだった。


comment 2018.12.02
ちょっと更新遅くて本当に申し訳ない…。何というかスーパー言い訳タイムですが、私生活でちと環境変化があって、色々ばたばたしておりました…。
というか現在進行形…?
色々考えると憂鬱になりますが、BL熱だけは変わっておりません(笑)
BL、神!
私はもう多分、もうBL無しでは生きられない…(笑)。切実…(笑)。

39






必要以上に時間をかけている自覚はない。ただいつもよりも無駄に時間が掛かってしまっているのは事実だ。
食事の後、ミエと一緒に他愛ない話をしながら自分が食べた食器の片付けをする。その後、風呂に入って湯船に浸かりながら、シュウにどう伝えるべきか考え始めたのがいけなかった。
思考は一向にまとまらず、どんな言葉を言ってもただの言い訳にしかならない気がして余計に憂鬱になる。

そもそも一体、何を伝えたいのだろう。
身体の関係はあったけど、浮気じゃないと言えばシュウは許してくれるのか。
そういう問題じゃないという事は重々承知していた。なら、一体何をシュウに求めているのか。

セトに啖呵を切っておきながら、いざその場面になると怖気づく。こんな事ならシュウに隠し通した方がましだったのではないかとすら思い始めていた。

ただ想いは一つだった。それは何があろうと変わらない。
シュウを誰よりも大事に想ってる。
それが全てだった。

ブクブクと湯船に顔を埋めて考え込んでいたハルトが意を決したように立ち上がった。両手で頬を叩いて気合を入れる。
どちらにしろ伝えなければ。
そう思って気持ちがまた弱気になる前に、いそいそと着替え始め、風呂場を後にするのだった。


「で?話って?」
ドアを開けると同時に苛々した声で詰問される。机に向かって勉強していたシュウが頭だけ振り返って冷めた目を向けてきた。それに胸を突き刺された気がして、ハルトの中の決意があっという間に崩れ去った。
「っ…」
言葉を紡ごうとして、声にならずに終わる。

シュウが何故怒っているのかは分からない。何かしただろうかと自問して、すぐに色々心当たりがあり過ぎてどれが原因か分からなくなる。そもそも今日の出来事を既に知っているのではないか。そんな考えまで頭をもたげて、シュウの苛立ちが深まれば深まるほど、心が臆病になっていく。

もし。
シュウから最悪の言葉が出たら…。
それを思うだけで胸が苦しくなり、すぐにでも逃げ出したくなった。


シュウが苛立ちを強めたようにペン先で机を何度か叩く。
立ったままシュウと見つめあっていたハルトが、その様子を見て益々縮こまっていった。

しばらく沈黙が続いた後、
「…はぁ…」
シュウが深々と溜息を零す。シュウの挙動を見守っていたハルトの肩が小さく震え、動揺の大きさを物語る。
のっそりと椅子から立ち上がり、ハルトの元へと歩み寄ってくるのを恐々と見つめるハルトだ。今日ほどシュウがでかく感じた事はない。

別れ話は嫌だ。
そんな想いでいると、
「何?別れ話でもしてぇの?」
シュウが弱った怒り顔でそう訊ねてきた。
面食らうのはハルトだ。

何故そうなるのか。

ハルトの驚きを誤解したシュウが弱ったように髪を乱雑にかきあげ、視線を逸らす。
僅かな沈黙の後、
「そりゃ…、そうだよな…。
俺より…。カナメさんのが格好いいし…」
横顔が痛みを耐えるように厳しい表情を浮かべ、感情を押し殺した声でぼそりと呟く。
「お前面食いだもんな」
勝手に話を進めるのを呆然と見つめるハルトだ。大体、何故カナメが出てくるのかもわからない。
「何、言っ…」
「カナメさんの気持ち知って、ぶっちゃけ揺れ動いただろ。カナメさんの方が好きになっちゃった?抱かれてる時も、俺とするより全然気持ち良…ッ!!」
それ以上、聞きたくもないし最後まで言わせるつもりもなかった。

何を勝手な事を言っているのかと瞬間的に頭に血が上って、気が付いた時にはシュウを張り倒していた。まだ握り拳じゃなかっただけ理性が残っていたと言える。
頬を押さえ仰天とするシュウに、今度は足蹴りを入れた。

「ッ…ふざけた事、言ってんじゃねーぞ!!俺が好きなのはてめーだっつってんだろッ!!
何度でも言ってやるよっ!てめーが納得するまでッ!」
ミエに聞こえようが最早どうでもいい。誰に知られようが構いやしない。
そんな事よりも、何度も何度も伝えてる言葉が相手には届いていなくて、それが無性に腹立たしかった。
「俺の言葉が…っ、そんなに…」
信じられないのか。

そう思うと、シュウとの関係がその程度のモノだったという気がして、怒りやら悲しみやら色々な感情が入り混じって訳が分からなくなる。
先ほどまで悩んでいた自分が馬鹿じゃないかと思うくらい、激しい虚しさが襲った。

「なんで、っシュウは、…、何回言ったって通じねーんだ…。
何度も言ってんじゃねーか!」
終いには猛烈に悲しくになって弱音が口をつく。シュウの両肩を掴んだまま俯くハルトに、シュウが戸惑いの表情を浮かべたのは一瞬で、すぐにハルトを身体ごと引き寄せて抱き締めた。
「ごめん…。俺が悪かった。勝手だった…本当にごめん…」
思いがけないハルトの言葉に申し訳なさそうに謝罪を繰り返す。
「俺、笑っちまうくらい余裕ないよな…。ハルの事、誰より信じてるのに、お前を繋ぎとめる自信が無くて…。お前、どっか行っちまうんじゃねぇかって…。俺より良い奴なんていくらでもいるじゃん?」
耳元にシュウの熱い声が掛かり、思いもしない言葉を聞かされる。
包容力があって自分より遥かに大人に思えたシュウの本音に、ぐらりと心が揺れ動いた。
「馬鹿いうな。俺にとってはシュウが誰よりも一番大事だって何度も言ってんだろ…。俺にはお前以上の奴なんて存在しない」
はっきりと言い切るハルトの言葉を受けて、シュウの腕に力が入る。更に強く抱きしめられて、息が苦しくなった。


そんな想いをさせてしまった自分に不甲斐なさを感じるハルトだ。
それでなくとも、あんな目に合ってまたシュウを傷つけてしまう。

それでも伝えなければいけない事だろう。それは自分のためでもあった。
「話っていうのは…。別れ話とかじゃなくて…。いや、シュウに別れ話を切り出されるんじゃないかってハラハラしたっつーのはあんだけど…、…」
気持ちは落ち着いてきても、やはり言い淀んでしまう。
シュウに軽蔑されたくない。嫌われたくもない。
その心情を察したように、
「ハルの言葉を信じる。お前が俺を好きだって言うなら、俺はその言葉を信じる」
熱い声がそっと耳元で呟いた。
背中を押されるように、シュウの肩に顔を埋める。


ポツポツと今日の出来事を話した。
特に感情を荒げる事なく、シュウが静かに相槌を打つ。
酷くみじめな話だ。男に襲われる話なんて誰が好き好んで人に話したりするだろうか。シュウじゃなければとても人に話せる内容じゃない。

全て話し終わった後、シュウの腕に力が入るのを感じた。
「ハルさ…、自分が悪いみたいに言ってんけどさ。全然、ハルは悪くねーじゃん」
「ッ…、他の男と、…したのにか?」
予想外の言葉に、シュウを引き剥がして顔を見る。
相手の苛立った目を見て一瞬たじろぐが、すぐにそれは自分ではなくここにいない誰かに向けた怒りだと知る。
「お前、完全に被害者じゃん。カナメさんの事もそうだけどさ…。ハルは何一つ悪くねーのに、なんでそんな自分責めてんの…?」
問われて、答えに詰まる。
シュウが好きなのに、他の男と寝たからか。
「お前に…、悪い…から…」
「俺の事より自分の事を考えろよ!俺は、お前を誰にも奪われたくねぇ!けど!
お前が自分を責めるのは筋違いでもっとムカつくんだよ!!」
ハルトの回答にシュウが怒りの感情を剥き出しにした。それでもそれをハルトに向けるのは矛先が違う。怒りを噛み締めるように歯を食いしばった。

その想いは素直にうれしい。
それだけにシュウに申し訳ない気持ちがどうしても生まれてしまう。

「そうは言うけどよ。…おめーさ、気持ち悪くねーの?」
何気なく放ったハルトの言葉を聞いて、何言ってんだコイツという露骨な表情を浮かべる。
「なんでお前が気持ち悪いんだ?」
逆に問い返され、ハルトが何か言うよりも先に、
「お前が気持ち悪い訳ないだろッ!いい加減にしろよッ!」
声を張り上げて怒鳴った。
「痛っ…」
力強く掴まれた両肩がミシミシと音を立てて、痛みを伴う。
「ふざけた事を言うな…!」
シュウの怒りと悲しみの入り混じった表情を見て、自分の愚かさを知るハルトだ。
ここは素直に謝るべきなのだろう。

「悪い…。俺はお前の事が好き過ぎて正常な判断が出来ねー。お前がそう思ってるなら、良かった…」
きゅっと唇に力を入れて小さく笑みを浮かべた。
「…っ、ハル…、…」
シュウの瞳が一瞬、眇められ、それからハルトの首筋に顔を埋める。


「二度と自分を責めんなよ…。
正常な判断が出来ねぇのは、お前だけじゃねぇ」

ぽつりと。
小さな声で呟く。

耳を澄ましていなければ聞き逃すような小さな声が、ハルトの胸の奥深くまで染みこんでいった。かぁっと頬が熱くなるのを感じるハルトだ。
シュウの大きな想いを感じて、胸が熱くなる。
僅かに触れる部分が熱を持って、細胞の隅々までシュウの想いが行き渡るような気がした。


小さく、相槌を返す。
ようやく今までの蟠りが溶けた気がして、心の底から安心するハルトだった。


comment 2019.1.28
眠いです…(笑)
BL熱は多分前以上に熱いんですが、中々更新できずすみません…(-_-;)。まぁそういう時期もあるよね、うん…(笑)。
さてさて。すっごくラブラブに…?(笑)
私ちょっと恋愛小説苦手かも??そんな事ないですかね??(笑) 
←BLサイトで何を言ってんだ…(笑)

40






実際のところ、何も感じないかと言ったらそんな事はあり得ない。

隣で寝るハルトの顔をこっそりと窺い見る。ここ最近、寝付きが悪いのも一重にこないだの件のせいだ。
ハルトの誕生日に、マンションに行った事に後悔はない。だが、そこで見たモノには今でも鳥肌が立つほど胸糞悪いものだった。カナメの秀麗な顔を思い出すだけで吐き気と共に殺意が沸きあがる程だ。自分に見せつけのように行為を続けたカナメを今でも鮮明に思い出せる。意識が空ろなハルトが何も覚えてないのはむしろ幸いだった。
3発殴っただけで我慢しただけでも自分を褒めたたえたい。ハルトの血縁者でなければ、我慢が利かなかっただろう。

今回の事は、あの時の出来事に比べたらまだ心は平常を保てていた。直接、その場を見ていない事もあるが、何よりハルトにちゃんと意識があり、その行為を隠すことなくちゃんと伝えてきてくれたという事実がある。もし、これがカナメ相手だったら、恐らくハルトは隠し通すだろう。それだけ、カナメとの行為中のハルトは別人だった。二度と自分の方に引き戻せなくなる、そんな予感をさせるほど、濃密な雰囲気があった。ハルトの潜在意識にあるカナメへの親愛もあるだろう。甘く二人だけの世界に飛び込んだようで、酷く胸がざわついた。

それを考えると、まだ良かったと心のどこかで思ってしまう。ハルトにあんな事をしたセトは勿論許せないが、それでもハルトが自分の元に戻ってきた事に安堵していた。

全てを包み隠さずに話してくれる事が何よりも救いだ。
布団を掛け直して天井を見つめる。

隣に今、いる。

その事実だけで十分だ。
気付かない内に、これだけハルトの存在が大きなものになっていた事に今更、気が付く。
いつからか、どこが好きなのか、そんな事さえどうでもいいくらいに、ハルトが大切だった。何より大事で何よりも信頼していた。


そして。
ハルトの言葉を二度と疑ったりはしないと決意する。
何度も聞いた、好きだという気持ちを。

ハルトが自分に対し全て正直に話してくれる内は、その言葉を疑うのは愚かな事だ。それがハルトの気持ちに答えるという事だろう。

目を閉じて、冴えた頭を無理やり切り替える。
明日になればいつも通りだ。隣から聞こえる息遣いと共に穏やかな鼓動まで聞こえそうな気がして、安心する。身体がずっしりと重く感じ、疲れているのを感じた。その沈み込むような怠さに誘われるように、眠りに落ちていった。




*****************************************


「オラッ!さっさと起きろ!遅刻すんぞ!!」
眠ったと思ったら激しい衝撃でたたき起こされた。
あっという間に朝になっていて、寝ぼけ眼の視界にいつもと変わらないハルトが太々しい顔で立っていた。
「…元気そうで安心だよ…」
「俺がそんなへこたれるタマだと思ってんのか」
「ふっ。お前らしいや」
起き上がってハルトを引き寄せる。昨日の夜にしたように、ぎゅっと強く抱き締めた。しばらくの間、されるがままだったハルトが小さく鼻で笑う。
「朝からそういうの止めろ。シュウのことを益々好きになんだろ」
シュウの髪をかき混ぜて、頬に唇を寄せる。
完全にいつも通りのハルトに戻っていてホッとした。強気なハルトの首元にキスを落とす。

「大丈夫か?部活…一緒に行くか?」
「気にすんな」
するっとハルトが密着を解いた。素早く服を着替えてシュウを急かす。
「お前も早く着替えろよ。マジで遅刻するぞ」
「はいはい。また学校まで競争しようぜ!負けたらデザート驕りね」
ズボンを脱いでいると、ふっとハルトが振り返る。
「デザートね…」
含み笑いでハルトがそれに答える。
「ハルー。期待させんなよ。負ける気がしない」
笑いで返せば、満更でも無さそうに笑みを深めた。

「お前が一番、俺と寝てくれなきゃ困るだろ。バーカ」
あっけらかんとそう言うハルトに思わず笑いが零れた。起こった事は変えようがない。だが、これからいくらでも取り戻すことは出来る。ハルトの恋人は自分だ。それは何があっても他の人に奪われることのないものだ。
「当然だろ。負けねーからな」
自信はある。対するハルトも自信に溢れた顔だ。

わざと負ける気などサラサラない笑みだった。だが、それでこそハルトだ。そんなハルトだから信頼しているし、ずっと一緒に生きていきたいと思う。
「先、行ってるからな」
「あぁ」
短く返事をしながら手早く着替える。すぐにハルトの後を付いていった。


comment 2020.3.1
>
あれ??まさか対等の最後の更新から1年も経ってます??
いやいや、まさかぁ…(;'∀')???

久しぶりですー(笑)。40話以内でまとめたかったんですが(笑)、ついに41話突入…(笑)。

ラブラブに終わりたいです〜(笑)
まぁ今でも十分、ラブラブです( *´艸`)❤

次回はセインの方を更新予定です(^_-)-☆拍手をありがとう!
41





昼食はいつものメンバーだった。最初にコウと顔を突き合わせた時には若干の気まずさがあったが、それも一瞬のことで、すぐに通常運転になった。

他愛の無い事でシュウと言い争っていると、
「やっぱお前ら、お似合いだよ」
コウが突然、笑い出す。
「そんな下らない事で言い争ってるんだもんな」
「下らねぇことってなんだよ!」
瞬時にシュウが言い返す。雑誌のページを指差して、
「ケーキって言ったらイチゴに決まってんだろーが!」
席を立つ勢いで身を乗り出した。
「阿保らし。ケーキつったらガトーショコラに決まってんだろ」
隣で悠然と食事をしながらハルトが否定をした。
「お前…。いつも誕生日に俺が買ったケーキ、美味いって食ってんじゃねぇかよ!どういう事だよ」
「前から俺はチョコレート派だって言ってんだろ。おめーが毎年忘れてショートケーキを買ってきてんだよ!買ってきてくれてんのにわざわざチョコがいいなんて言う訳ねーだろ」
二人の声を張り上げたやり取りに一瞬、教室がざわめいたのはいうまでもない。二人の余りの仲の良さに色めき立った。

「…あらあら。お熱いことで。毎年ケーキ買ってんだ」
横からコウが挟むのを、聞き流さない二人だ。
「茶化すな」
「コウはどっち派なんだよ?」
ハルトの苦情に被るように、シュウの質問が飛んだ。

キャラ弁の一部であるチーズを引きちぎりながら、コウがきょとんとする。それから、僅かに悩んだ後、にこりと満面の笑顔を浮かべた。
「俺はモンブラン。一番美味いよなー。イチゴもチョコも無難過ぎて飽きるよな」
しれっと二人への貶し言葉も織り交ぜ、自分は大人だと主張した。
「ふっざけんな」
シュウがすかさず否定する。
「モンブランも十分、無難だろーが」
ハルトが鼻で笑って答えた。

先ほどまで、ハルトとシュウが争っていたというのに、今や2対1になっている。息を揃えて文句を言ってくる二人が微笑ましくて、思わず顔がにやけるコウだ。

可愛いひな鳥二匹を見ている気分になって、二人の文句が小鳥のさえずりにしかきこえなくなる。
「何笑ってんだよ」
シュウの文句を右から左に聞き流せば、
「たかがモンブランで大人ぶりやがって」
ハルトが何故か悔しそうに呟いた。

「とりあえず今日のデザートはお前の奢りだからな。俺はガトーショコラな」
いつもの早食いで食べ終わったハルトが席を立ちながら宣言する。
「ショートケーキにしろよ…」
シュウが小声で返すのを聞こえない振りして、教室を出て行った。

「何、今日のデザートの話をしてたの?」
「何も聞いてないのな、お前」
コウの今さらの質問に呆れた顔をし、それから、気まずそうに鼻を掻いた。
「…昨日…、ハルから聞いたけど、お前に色々と知られたってさ…。何か巻き込んで悪かったな」
声のトーンを落として謝罪した。
何のことか分からず一瞬、目を見開いたコウだったが、シュウの気まずそうな顔で合点がいく。
「あー…、あれか…。つーかハルトってマジでお前に何でも話してんだな」
「まぁな」
「あいつは平気だったの?」
「ちょっと凹んでたけど、もう元気っぽい」
短く相槌を打った後、珍しく真剣な表情でコウが黙り込む。

「ハル、かなり沈んでたから慰めてやれよ。お前だけがあいつの頼りなんだから」
「分かってる」
コウの言葉に、シュウが茶化すことなく頷いた。
「俺はお前らのその信頼関係、凄く貴重だし羨ましいと思うよ」
「…なんだ、突然」
コウの珍しい言葉に戸惑いを覚えて訊き返す。
「俺は彼女の事が好きだけどさ。
お前らはいつまでもお互いが対等関係で信頼し合っていけるし、良い事だと思うよ」
「男女だって別に対等だろ?」
「どうかな。そこはやっぱ性別の違いがあるだろ?どうしたってな…体力も違うし」
シュウは今まで彼女と付き合っている中で、そういう事を考えたことは無かった。
だが、コウに言われてみて初めて、自覚した。確かに、ハルトと付き合っている時は、彼女にするような遠慮や気遣いは無い。自分がしたい事はハッキリと口に出来るし、相手もハッキリと伝えてくる。ハルトと生涯ずっと肩を並べて生きていけるようにと思う事も多い。
「…まぁ、あいつに見合う俺でいられるように努力してるけど」
ハルトが出て行った扉に目をやる。

「あいつにとって自慢できる存在でいたいじゃん?あいつも多分、同じ気持ちなだけなんじゃね?」
爽やかな笑みを浮かべて惚気るのを、足蹴りしたくなったコウだ。

「はいはい。聞いた俺が馬鹿だった」
やはり羨ましい二人だ。
「大事にしろよ」
思わずそんな台詞が漏れる。

きょとんとしたシュウが、ふっと口角を僅かに上げて笑った。
それはあまりお目に掛からない笑い方だった。
「当たり前じゃん」
日頃は否定するのがシュウの筈だが、今日ばかりは素直だ。
ここにはいないハルトを思い描いているのだろうということはすぐに分かる笑みを見て、
くっそ。
二度目の惚気かと心の中で罵声を呟くと同時に、昨日のハルトの様子を思い出して、本当に良かったと安堵するのだった。


*****************************************


二人のそんなやり取りも知らず、ハルトは日課の昼練に向っていた。
体育館に着くと、既にバスケ部の面々が揃っていてその中にセトの姿もあった。
向こうもすぐにハルトに気が付き、気まずそうに視線を逸らす。
対するハルトは、相手の一挙一動から目を逸らすことなく、ずかずかとセトの目の前まで歩み寄っていった。

「セト」
呼びかければ、動揺したのが丸わかりの動作で顔を上げ、今更気が付いたように言葉を返してくる。
その動揺を素知らぬ振りして、その場から連れ出し体育館の隅まで連れて行った。
「お前のした事は二度と許さねー。けどな、俺らの関係性が悪いせいで試合に負ける、って事は絶対にしねえからお前もそれだけは守れ」
そう宣言した。
ハルトの突然の宣言にセトが目を丸くする。
それから、俯いた。
「本当にごめん…」
小さく申し訳なさそうに呟くのを、思ったよりも冷静に聞いていた。
それはシュウのお蔭だろう。
「分かればいい。俺は試合が大事だ。おめーもそうだろ」
ハルトの冷静な言葉に、セトが小さく安堵の笑いを洩らした。
「朝一で、シュウが来たよ。本当に言ったんだな。殴られはしなかったけど、マジで怖かったわ」
「言うにきまってんだろ。俺はシュウには何でも言う」
セトの笑いが僅かに深まった。
「やっぱ…、敵わないな…。ずりぃよ…幼馴染は…」
ふと顔をあげて冗談を言った。

揺れた声で小さく鼻を啜る、その目には涙が溜まっていた。
セトのその表情は今まで一度も見せた事がないもので、衝撃を受ける。
「…」

「試合、勝とうぜ。皆のために」
慰めの言葉も浮かばず、セトの言った言葉に小さく頷くしかない。
いや、慰めた所で意味は無いのだろう。
「…先、戻る」

あんな事があったというのに、セトに申し訳ない気持ちが芽生える。
だが、気付かなかった振りをして、セトに背を向けた。
セトの想いがどの程度のものだとしても、シュウ以外は論外だ。答える気もないのだから、期待させるだけ酷だ。

数分後に練習の場に戻ってきた時には、すっかりいつも通りのセトだった。



*****************************************


「部活、大丈夫だったかよ?ずっと体育館見てたかったけど、俺も練習があっからさ」
夜、ハルトの家にやってきたシュウがマッサージチェアで寝転がりながら、さり気なくそう聞いた。
放課後、シュウが体育館にいた時間は短時間だったが、その時のシュウの様子はあまりに殺気立っていて、他の部員がチラチラと様子を窺うほどだった。あからさまに誰かを睨むという行動こそしていなかったが、シュウがその場から出て行った時には、体育館全体が謎の開放感に包まれたくらいだ。

その時を思い出し、ふと笑いが零れる。
「あの後、お前の意外な姿を見たって皆が大騒ぎだった。フォローが大変だったんだぞ」
ハルトの軽い返答が気に入らなかったようで、
「当たり前だろ。顔を見るだけでも腹が立つのを懸命に抑えてたんだから」
思い出したように言葉に棘が入りトーンが下がる。
目に見えて不機嫌な表情を浮かべるシュウが愛おしくなって、開いていた雑誌を傍らに置いた。
マッサージチェアで寝転がるシュウに覆いかぶさって、
「不機嫌なお前も…好き」
唇にキスを落とした。
対して驚いた風でもなく、むしろ頭を押さえられ口づけが深まる。
今までなら躊躇いのあったシュウからのキスが、あまりにすんなりで意外に感じた。

起こった事にはハルト自身も苛立ちを感じていたが、それでも悪い部分だけではない。

唇を離すと、
「ハルが思う以上に俺の執着心は強いからな、覚悟しておけよ」
やけに真剣な眼差しでシュウが宣言した。

そんな言葉を聞いて、怖気づく訳もない。
負けん気がむくむくと湧き上がって、
「ふっ…、俺とどっちが強いか勝負だな。負ける気はしねー」
返す言葉もそれで、シュウが笑った。


「ハル。お前にこれから先、どんな痕跡が残ろうと全部俺が洗い流す。お前の思考も何もかも。全部俺に染める。だから…」
ハルトの手を取って、ぎゅっと両手で握る。
「何があっても全部、正直に話してくれればいい。それだけで俺は全部、丸ごとお前を受け入れられるから。お前の言葉を全部、信じる」
握られた手が痛いくらい、真剣な想いだった。

シュウからそんな言葉を聞くとは夢にも思わない。
気持ちの真剣さで言ったら決して負ける気はしなかった。それでも、シュウの想いの深さに、胸を打たれ感情が急激に昂ぶった。
「…不意打ちはやめろ…」
握られた手を強く強く握り返す。


ずっと、シュウの気持ちが欲しかった。
ずっと、ずっとだ。


手の甲にキスを何度も落とし、
「俺はお前を裏切ったりはしない。絶対に…。約束する」
断言した。
当然だとでも言わんばかりにシュウの笑みが深まる。
その唇にそっとキスを落とした。

他の人とはまるで違い、シュウとのキスはこんなにも様々な気持ちが呼び起される。
その中でも一際強い、シュウへの信頼が何よりも確かなモノに感じた。
コウが言うように、無理やり身体を繋げたところで気持ちが向いてなければ意味がないのだと知る。


「シュウ。一生、逃がさないからな。
俺とお前の執着心、どっちが強いか見ものだな」
「馬鹿らしい」
笑ったシュウが、更に深くキスを返す。
強引なそれすら、シュウが相手であれば安心感で満たされた。

シュウが恋人で良かったと心の底から胸を撫でおろした。
その気持ちは相手も同じだろう。
確かな絆を感じて、シュウの胸に顔を預けたまま笑いが零れた。
釣られたかのようにシュウからも笑いが溢れ、意味もなく二人で笑いあう。

クラシックの緩やかなメロディーが流れる中、明るい笑い声が室内に響く。
これから先、何があるかは誰にも分からない。
だが何があっても乗り越えていける、そう確信する二人なのだった。


完。


comment 2020.8.10
>
これにて完結です!(^^*)!ラブラブ♥
大変長らくお待たせしてしまいました💦。何年越しやっていう…(笑)。
リクエストからスタートしたこの話も気が付いたら40話突破でびっくり!(笑)当初から読んでくださっている方、いたら大変ありがとうございます(^^*)。待って下さった方もここまで読んでくれてありがとうございます!!もっとさくっと書く予定だったんですが、張り切り過ぎちゃいましたね(笑)。
やっぱ男前受け最高です♥(笑)

うちのサイトにしては珍しくイチャイチャ終わりで良かったです(笑)♥
欲を言えばもう少しトーヤと絡めたかったかな(笑)。

次回はセインを更新していく予定です!まぁ浮気して、また新しい男前受けを書くかもですな(笑)。
まぁ書くとしたら全く新しい魔法系の男前受けか、拍手の方でちまちま書いてるナジャですな。ナジャは私のサイトの中でもトップ1レベルの男前受けなんだけど、彼氏が既にいる前提スタートの浮気は通常運転になるので、好みは分かれそう(-∀-`; )ハハハ!(笑)

拍手、訪問ありがとうございます!!励みになります!(^^)!