2020新年祝





休む暇なく働きづめのハルトの母親も、さすがに年末は自宅に帰ってくる。この日も大晦日の前日に仕事終わりのその足でハルトのいるマンションに戻り、疲れなど微塵も感じさせない力強さで息子を抱き締めた。

「ごめんね。今年も無事にあんたの顔が見れてよかった」
男っぽいショートカットにお洒落な恰好は洗練された印象を与える。見た目のサバサバした印象のまま、性格も細かい事には無頓着で、重たい手土産一式を床へと放り投げた。
「ミエにはちゃんとお礼してるの?あとでお伺いするけど、あんたいい子にしてんでしょうね?」
まだ幼い子どもにするように、おでこにキスを落として古くから交流のある友人の名前を口にした。
「してんに決まってんだろ。シュウとも上手くやってるよ」
素っ気なく返せば、ふーん、と含み笑いを浮かべる。
「まぁいいわ。あんたもいい年だし、構ってあげられない私にも原因はあるもの。今更とやかく言わないわよ。とにかく元気そうで良かった」
短い髪の毛を掻き混ぜて、一度放り投げた手土産を拾い上げる。
「おやつにしましょ」
男みたいにハルトの肩を強引に組んで、リビングに連れて行った。

あまり会う機会は無い母親だ。
それでも親子の絆とは不思議なもので、ふっと心が暖かくなり、離れていた距離がぐっと近づく。やはりこの人は自分の母親だと改めて感じるハルトだ。知らず内に微笑みが浮かぶ。

確信にも近い想いを抱く。

仮に、シュウと恋人同士だと打ち明けたとしても、この母親なら一切否定しないだろう。むしろ、笑って一緒に喜んでくれる気がした。その信頼感に思わず笑ってしまう。


久しぶりに家族水入らずで息子らしい時間を過ごすハルトだった。


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大晦日はいつもとあまり変わらない。
シュウは勉強しているのかと思考を巡らせて、邪魔してはいけないと思って何気なくテレビを見て、気が付いたら年を越していた。
例年は一緒に年越しをしていただけに一抹の寂しさを覚える。
携帯を見て連絡が来ていないのを確認し、明日、どうせ母親と一緒に会いに行くからいいかと思って早々にベッドに入った。


何度か鳴る振動に気が付いたのは深夜だ。
夢現の頭に携帯のバイブ音が響く。それが着信音だと気が付いたのは何コールか鳴った後だった。

画面に表示される名前に、頭が一気に覚醒し、
「ッ…シュウ?」
慌てて通話ボタンを押した。

「悪い…おめでと」
気まずそうな声に、
「お、おぉ。おめでとう…」
返す言葉も小声になる。こんな夜中になんだと思ってると、
「初詣、行こうぜ…。今なら人も居なくて空いてるだろうし」
そんな誘い文句をいう。

何時だと思ってんだという言葉が脳裏に浮かぶが、会いたいという気持ちが遥かに勝った。
「…行く。お前の家行けばいい?」
「…今、お前んちの前。近くの小さい神社、人がいつもいないじゃん?」
既に下にいると聞いて、慌てるハルトだ。まじかと心の中で反芻して飛び上がりそうな気持ちになる。
「今すぐ行く。待ってろ」
言うが同時に電話を切る。
シュウに一刻も早く会いたくて、慌てて上着を羽織ってマフラーを巻いた。

下に付けば寒そうに頬を赤くしたシュウがいた。いつからいたのだろう?
そんな疑問が浮かび、途端に申し訳なくなる。
「新年、おめでとう」
その気持ちを誤魔化すように伝えれば、シュウが嬉しそうに笑った。
「お前の顔、一番に見れて良かった。今年もよろしくな」
あまりに嬉しくて、つられたようにハルトも笑う。
「寒ぃし早く行こうぜ」
顎をしゃくって、先を促す。コートのポケットに手を突っ込んで足早に目的地を目指す。

シュウの推測通り、さすがにこの時間では誰もいない。
小さな神社の賽銭箱にコインを投げ入れて、隣を見れば熱心に願い事をしているシュウの姿があった。

そういえば子どもの頃も一緒にここに初詣に来たなと思い出す。
そんな事を考えていると、目を開いたシュウがハルトをじっと見つめて、
「っ…」
素早い動作で軽いキスを落とした。

「ハルがいつまでも隣にいますように」
恥ずかしい台詞をさらりと言った。
「ほら、行こうぜ」
あまりに突然の事に呆けるハルトの手を強引に引く。後ろ姿だけでもシュウが相当照れている事が分かる。
「誰かに見られたら、どうすんだ…」
そう文句を零すハルトの耳も赤く染まっていた。

「俺も…、同じ願いに決まってんだろ」
小さく言葉を返せば、シュウが握り返す手に力が入る。


顔を見なくても、お互いに思っている事は十分に通じた。
「来年も、来ようぜ」
その言葉に、
「あぁ」
小さく返してシュウの隣に並ぶ。
今なら人の目も無い。寒さをしのぐように、手を繋いだままシュウの肩に寄り添った。


お互い、大学に入ったら会える時間も減るだろう。
これから離れることもあるかもしれない。それでも、シュウへの想いは一生だと言える。
親子の絆と同じように、シュウとの絆も信じていた。



comment 2020.01.01
ふぉー(*´∀`)ラブラブやぁ。
出来てからの二人です笑
ラブラブっす(笑)

今年も更新謎ですが(笑)、よろしくお願いします!